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2019.10.07

稲葉一広『戯作屋伴内捕物ばなし』 おかしな名探偵、妖怪事件に挑む!?


 9月からスタートした新レーベル・ハヤカワ時代ミステリ文庫。その第一弾の一つが本作であります。酒と女に目がないおかしな戯作屋が、江戸を騒がす妖怪の仕業とも見紛う怪事件の数々に仲間たちとともに挑むユニークな連作であります。

 江戸で、戯作者とは言い条、その実は瓦版に文章を売ってその日を暮らす男・広塚伴内。酒と女にだらしがなく、そして金にも縁がない男ですが、しかしその口八丁手八丁ぶりと、化け物に関する知識、何よりも謎解きになると発揮される頭の冴えには端倪すべからざるものがある人物であります。
 そんな伴内にとって、馴染みの瓦版屋・早耳の万吉が聞きつけてくる巷の怪事件は飯の種。事件を解決して瓦版の記事にするため、今日も伴内は事件解決に乗り出すのであります。

 そんな彼と行動を共にするのは、腕利きの岡っ引きで実は大の化け物嫌いの稲荷町の源七、美男子で飛礫投げを得意とする芝居小屋の木戸番・飛礫の仙太、伴内とは腐れ縁の毒舌美人女絵師のお駒といった面々。
 かくて今日も伴内は、妖怪の仕業としか思えないような奇怪な事件の陰に潜む謎と秘密に、仲間たちとともに挑むことに……


 そんな基本設定の本作は、全6話で構成された短編集であります。
 美貌で有名な大店の娘が、人っ子一人いない夜道で怪音とともに喉元を切られて死に、更に犠牲者が続き――という「鎌鼬の涙」
 伴内が参加した句会から姿を消した琴の師匠が離れた場所で死体となって見つかり、同時期に空飛ぶ幽霊の噂が流れる「猫又の邪眼」
 大店の娘を乗せた駕籠が夜道で産女に出くわし、駕籠かきが追って戻ってみれば娘が消えていた、という連続行方不明事件を追う「産女の落とし文」
 女房が次々となくなり、三人目は不可解な状況で首を括って亡くなった大店で、伴内がおぞましい人の心の闇と対峙する「縊れ鬼の館」
 町奉行所同心が後ろから首を絞められた上で胸を一突きされるという殺人事件の謎と、仙太の悲しい過去が交錯する「土蜘蛛の呪い」
 珍しく戯作の依頼が来た伴内が版元の接待に酔い潰れてみれば、版元が殺されて伴内の手に凶器が――という思わぬ事件の中で、ついに伴内の過去が明かされる「葛ノ葉狐の文箱」

 いずれもおどろおどろしいサブタイトルのエピソードが並び、そして起きる事件もなかなかに陰惨な内容が多いのですが――しかしそれでも不快感なく読めるのは、もちろん伴内のキャラクターによるところが大であります。
 作中ではたぬきとも地蔵とも例えられるようなビジュアル、おまけに助平で意地汚い伴内ですが、その言動には陰湿さはなく、陽気の固まりのような男。探偵役がこの調子なのですから、自然と物語のムードも和らぎます。

 そしてそれぞれにキャラが立った仲間たちとのやり取りも半ばお約束ながら楽しく、特に伴内とは正反対の女性にモテモテの美男子ながら、彼とはつき合いの長い仙太の飄々としたキャラクター(そしてその仰天の素顔)は特に印象に残るところであります。
 作者は元々はテレビドラマ等の脚本家の出身、小説はこれがデビュー作とのこと。手がけた作品の中には、私も楽しく観ていた要潤版の『人形佐七捕物帳』もあるとのことですが、何となく頷けるところであります。


 が――まことに申し訳ないのですが、ミステリとしては、本作はあまりにもプリミティブと言わざるを得ません。

 つまり本作の作品は、事件の内容に比して、そのトリックや犯人像が非常に分かりやすく、ミステリ慣れしている読者であれば、人目でわかってしまうようなものが大半なのであります。特に「産女の落とし文」の暗号のあまりの直球ぶりにはさすがにちょっと逆の意味で仰天させられました。

 先に述べたように時代ものとしては楽しいのですが、ことミステリと冠されたレーベルの作品としてはどうなのかなあ――と言わざるを得ないのです(その一方で、本作の最大の特徴である「妖怪」の存在も、物語に絡ませる必然性が少ないエピソードも多いのが、妖怪好きとしても残念なところで――何とも勿体なく感じた次第であります)。


『戯作屋伴内捕物ばなし』(稲葉一広 ハヤカワ時代ミステリ文庫) Amazon
戯作屋伴内捕物ばなし (ハヤカワ時代ミステリ文庫)

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