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2019.12.28

百地元『黒狼』第3巻 死闘、狼vs豹! そして左之助を待つ天命


 幕末に死んだはずが、40年後の中国大陸に忽然と現れた原田左之助。その左之助が、あの張作霖の下で馬賊に加わり大暴れする快作――『黒狼』第3巻であります。作霖の宿敵・金寿山を倒したものの、左之助に迫る強敵の魔手。そしていよいよ左之助がこの時代に現れた理由の一端が……

 作霖に拾われ、紆余曲折の末に作霖率いる馬賊に加わった左之助。しかし馬賊は(も)上下の別が厳しい世界、下っ端ではろくに戦いに出ることもできません。
 もっともそれで左之助が黙っているはずがありません。折しも始まった金寿山との決戦で決死隊――左之助曰く「死番」――に加わった彼は、金寿山の砦を破るのに大きな役割を果たしたのであります。

 そしてこの巻の前半で描かれるのは、その帰路で繰り広げられる戦い――敵の頭は叩き潰したものの、いまだ数多く残る金寿山一党の残党、そして何よりも、金寿山に先日まで雇われていた馬賊浪人・灰豹との激闘が、ここで繰り広げられることになります。

 馬賊浪人とは聞き慣れない響きですが、簡単に言えばフリーの馬賊、その時々の気分によって主を変える男ですが――そんなやり方が許されていることからわかるように、その腕前は凄まじいの一言。乗った馬で空を飛ぶと言われるほどの遣い手であります。
 そしてその灰豹の異名は「日本人狩り」――日清戦争で故郷の群を焼かれて以来、手にした巨大な鉈で日本人の首を狩ることに異常な執念を燃やすこの男にとって、左之助は自分の獲物。その獲物を狩るために、灰色の豹が動き出したのです。

 かくて激しい砂嵐の中で一騎打ちを繰り広げる左之助と灰豹。銃の腕前はいまいちであっても、接近戦であれば左之助は歴戦の勇士中の勇士、生半可な相手に引けを取るとは思えないのですが――視界を奪う砂嵐の中でも、的確に襲ってくる灰豹に、さしもの左之助も苦戦を強いられることになります。
 絶体絶命の状況の中、左之助が見出した「気付き」とは……


 登場した時から、いずれ必ず左之助と激突することは約束されていたというべき灰豹。そのビジュアルといい行動原理といい、何ともインパクトの強いキャラクターですが――しかしそれだけに、左之助もようやく全力を以て相手できる敵が登場したと言えます。
 もちろんこれまでも本作において数々の死地に踏み込んできた左之助ですが、しかし個人対個人の争闘において、彼がここまで追い込まれたのは初のはず。強敵を得て本領発揮した左之助の姿は、こちらもこれが見たかった! という輝きに満ちています。

 そして窮地からの逆転の鍵となったのが、「あいつ」との思い出というのがまた泣かされるのですが――しかしその後に明かされる灰豹の本名に、全てが持っていかれた感もあります。
 そう、灰豹とはあくまでも渾名、その本名は――えええええ、お前が!? とひっくり返るような人物。ある意味作凜以上の大物の登場はさすがに予想外で、完全にやられたと天を仰いだ次第です。


 そして戦い終わり、一時の平穏を得た左之助が作凜に誘われたのは、奉天の人々が崇める女神・娘々の寺院。そこではぐれた左之助の前に現れた謎めいた美女が見せたビジョン――それは彼の呑み込んだ龍の瞳の欠片に繋がるものであり、そしてその中で彼の姿は……

 と、本作の核心に迫る展開が描かれるのですが――ここまで来て、最終話を迎えるとは!
 本作の中心に位置する秘宝・龍の瞳と、本作最大の謎である左之助の転生(タイムスリップ?)の真実。その双方を結ぶものの一端が見えたここで物語が幕というのは、あまりに残念、いや無念としか言いようがありません。

 作凜の下でこの先左之助がいかなる活躍を見せるのか、龍の瞳の争奪戦の行方は(ラストに登場するライバルたちがまた個性的なだけに)、そしてビジョンが見せた天命は現実のものとなるのか――何よりも、左之助を描く作者の筆が、まだまだ左之助はこんなものではないと叫んでいるのが、その画から伝わってくるだけに、ここでの完結はあまりに口惜しいのであります。

 果たして我々が知る史実の陰で、左之助がいかなる活躍を見せていたのか――いつか、どのような形でも知りたいと、今はただ願うのみであります。


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