寺沢大介『ミスター味っ子 幕末編』第4巻 決戦、天皇料理祭! そして動乱の時代に料理が持つ意味
あのミスター味っ子・味吉陽一が幕末にタイムスリップし、料理で勝海舟を助ける――という奇想天外な『ミスター味っ子 幕末編』も、ついにこの第4巻で完結。陽一が挑む最後の相手、それはこともあろうに若き日の明治天皇――日本の運命を賭けた料理GPの幕が上がります。
勝海舟が腹を減らすたび、苦境に陥るたびに幕末にタイムスリップし、料理の力で勝を助けてきた陽一(と一馬)。倒幕派の諸藩との対立が決定的となった中、徳川慶喜を料理で説得して大政奉還を為さしめた勝と陽一たちですが、その前に思わぬ人物が立ちはだかることになります。
それは明治天皇――味皇様の先祖である御所内膳正・村田源壱郎をも上回る料理の腕と、何よりも幕府諸藩何するものぞという意気軒昂たる天皇は、自ら主催する天皇料理祭(すめらみことにたきのまつり)の開催を宣言。幕府や諸藩はおろか、諸外国も参加OKのこの場で、勝った者が日本の支配権を得る――そんなとんでもないことを言い出したのであります。
支配権云々はともかく、ようやく国内が落ち着きかけた今、薩摩や長州、ましてや外国に日本を好きにさせるわけにはいかない――そのために参加を決意する陽一と一馬ですが、この大会のテーマは牛肉料理。しかし肉食が一般的ではなかったこの時代、食用の牛肉というものは存在しません。
材料調達に悩む陽一に、ヒントを語ろうとする龍馬。しかしその直後、龍馬は何者かの手に掛かって……
と、クライマックスに至り、風雲急を告げるにもほどがある展開を迎えることとなった本作。確かに料理漫画において、料理勝負が物事を決するのは常識ではありますが、まさかそこに日本の支配権がかけられることになるとは!
それを提案する明治天皇も、言動・ビジュアルとも何とも強烈で、いやはやラストを飾るに相応しいキャラクターが登場したものであります(確かにに本作の孝明天皇も、使者に扮して江戸城に乗り込んでくるような破天荒な人物でしたが……)。
しかし、スケールが大きければ大きいほど、そしてキャラクターが極端であればあるほど盛り上がるのが料理漫画。それは本作も例外ではありません。
朝廷、幕府、薩摩、長州、英国(!)と、これまで本作に登場した、さらに味っ子本編で活躍したあのキャラの先祖やあのキャラ本人(いきなりタイムスリップ)まで加わって、ラストの料理GPは盛り上がりに盛り上がるのであります(ここでピンチの陽一を二度に渡って助けるのがあの人というのも最高!)。
が――陽一たちは、幕府の代表として参加するのではありません。彼が、そして勝が代表するのは庶民たち。そして陽一と一馬の料理も、庶民たちが食べている料理なのです。
そして、この点にこそ、本作の料理漫画としての、歴史漫画としての意味が込められていると感じます。
これまで、勝の願いに応えて料理を作り、結果として歴史を動かしてきた陽一。しかし彼自身は、何も勝の命を受けたわけでも、歴史を動かそうとしたわけでもありません。
彼は冒頭から一貫して、ただ料理人として、皆に美味しいものを食べてもらうため、そして安心して美味しいものを食べられる世の中のためにその腕を振るっていたのであります。
その想いと行動は、これまで本作の随所で――時に陽一以外の料理人の姿も通じて――描かれてきました。その破天荒な物語展開に目を眩まされがちでありましたが、本作で描かれたものは、動乱の時代の中で料理に――人間の当たり前の営みに何ができるかという問いかけでもあったといえるでしょう。
そしてその答えは、決して料理を権力や政治のための道具にするのではなく、陽一がもともとそうしてきたように、人間の、庶民の生きる力にすることにこそあると――そう本作は一貫して描いてみせたのであります。
さらに結末に至り、『ミスター味っ子』と『Ⅱ』の間の陽一の行動の理由が描かれたり、さらに陽一自身のルーツまでもが――と、『ミスター味っ子』シリーズとして、そのミッシングリンクを埋める作品としても見事に機能してみせた本作。
冒頭と結末を、味っ子といえばやはりこれ、という料理で締めくくってみせたのも嬉しいところでしょう。
その意外すぎる取り合わせという点において「母さん全然わかんないわよ!!」級でありながら、いざ蓋を開けてみれば料理漫画として、歴史漫画として、『ミスター味っ子』として、それぞれの要素が極めて高いレベルで絡み合い、絶妙の味わいを生み出してみせる――味皇様も納得の一作であります。
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