スエカネクミコ『ベルサイユオブザデッド』第3巻 ベルサイユ宮殿を死者が徘徊する日
不死者の群れによって不慮の死を遂げたマリー・アントワネットの身代わりとなった弟・アルベールを中心に、怪人妖人神魔入り乱れる奇怪な物語、待望の続刊であります。謎の「宝石」を巡って、登場人物たちの間で繰り広げられる暗闘。その展開は、ついにベルサイユ宮殿を惨劇の場に変えることに……
オーストラリアからベルサイユ宮殿に向かう途中、フランスで蔓延する蘇り病によって復活した不死者(モルビバン)の群れの襲撃を受け、思わぬ最期を遂げたマリー・アントワネット。そこで彼女と瓜二つの弟・アルベールは、フランス側の外交的配慮から、姉の替え玉として、オーギュストの妃となることになります。
その立場を利用して自らの権力を固め、何ごとかを画策するアルベール。一方、不死人が出現した現場で、「宝石」が奪われているという事実を知った近衛兵は捜査を始めるのですが――その犯人はあろうことかオーギュストその人だったのであります。
ベルサイユ宮殿の地下に秘匿されたジャンヌ・ダルクを復活させてこの国を救うという野望(?)に取り憑かれたオーギュスト。さらにその宝石を、ナポレオン(!)率いる不死人たちを操る一団を狙っていて……
18世紀後半のフランスにアンデッド、そしてマリー・アントワネットの替え玉(しかも男)という題材だけでお腹いっぱいのところに、さらにジャンヌ・ダルクの復活というとんでもないものが投入されてきた本作。
果たしてオーギュストが固く信じるように、彼女の復活が全てを好転させるのかという大きな疑問はありますが――しかし不死者が跋扈する本作では忘れがちになるものの、死からの復活というのはそもそも主の奇蹟であります。
なるほど、かの聖女が死から蘇ったとすれば、そのインパクトたるや絶大なものがあることは間違いないでしょう。
しかしそのための犠牲はいささか大きすぎたかもしれません。オーギュストが自分たちと同じく「宝石」を集める者として、不死者を操るカリオストロを、そしてその仲間であるナポレオンをベルサイユ宮殿に招き入れた結果、不死者たちまでもがベルサイユに入り込んでしまったのですから。
そう、実にこの巻において、本作はタイトルどおりの状況を迎えることになります。生ける死人たちの徘徊するベルサイユ宮殿に……
その大混乱の中、主要人物がついに一堂に会して――という展開は本来であれば大いに盛り上がるのですが、しかし個人的にはすっきりしないのは、全ての(ネガティブな)状況がオーギュストの愚かさによって引き起こされている点であります。
確かに、ゾンビものでは頭の固いお偉いさんや、やたらと足をひっぱる無能なキャラが、バリケードの中にゾンビを引き入れてしまう――などと事態を悪化させるのは定番ではあります。
しかし本作にその役割をオーギュストが一手に引き受けている――しかも立場故にほとんどのキャラクターは逆らえない――というのはどうにもフラストレーションが溜まるところであります。
(しかも彼の場合、ジャンヌ・ダルクの復活という物語の大きな要素を引っ張るキャラクターでもあるだけに……)
物語的には一つのクライマックスを迎えたところではありますが、この点がひっかかってしまったことで、存分には楽しめなかったというのが正直なところであります。
しかしこの巻のラストにおいては、本作の主人公が意外な行動に出て、それがさらなる奇怪な事態を引き起こすことに――と、先の読めない展開となってきた本作。
結末は遠くないような印象もありますが、この先の展開を見守りたいと思います。
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