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2020.03.01

『無限の住人-IMMORTAL-』 二十幕「霏々 ひひ」

 天津を追って急ぐ途中、尸良の襲撃を受け、凜を攫われた万次。万次の前に現れた尸良は、万次の左腕を移植し、不死の肉体を得ていた。尸良との対決よりも、真冬の沼に漬けられた凜を救うことを選ぶ万次だが、却って二人とも窮地に陥ってしまう。一方、万次を追う尸良は、凶と遭遇するが……

 逸刀流、六鬼団、万次と凜等々のトーナメントバトルの皮切りとなったのは、意外な伏兵――というべきか、尸良と万次の因縁の対決であります。

 まだ万次と逸刀流が手を組んでいた頃にやり過ぎて万次に右腕を落とされ、加賀に向かう天津を追っての旅の途中、万次と凶(主に後者)との激闘の末に左腕を落とされ――それでもしぶとく生き延びて、江戸城地下に幽閉されていたものが、万次が脱出する際に何を思ったか、切り落とされた万次の左腕を奪って去っていった、というのがこれまでの尸良の来歴。
 どうやら吐鉤群の腹心から知恵をつけられたようではありますが、ここで尸良が万次の前に現れたのは、ほとんど暴走――というか、完全に私怨、いや執念。凜を乗せていた駕籠舁きを惨殺し、さらに(画面ではわかりにくかったですが)懸巣の女たちを殺し――それも全てが万次をおびき出すためなのですから恐れ入ります。

 これがこれまでであれば、いかに尸良が野獣のような相手とはいえ、一対一の対決で万次が遅れをとるとは思えないのですが――しかしあろうことか、尸良は万次の左腕を自分に移植。そう、血仙蟲を自分のものとし、不死身となったのであります。
 前回、歩蘭人は万次の不死に意味というか意志を感じると語っていましたが、だとすれば最悪中の最悪というべき尸良の不死には、どのような意味があるというのか? 何はともあれ、本作二度目の不死者同士の戦いが始まることになるのですが……


 というわけで尸良との決着回となった今回。ここまで引っ張っておいて、たった一話で決着、しかも物語の本筋とは関係ないところで暴れ回った末に退場――というのは、ある意味障害物扱いされてしまっていると言えなくもありませんが、しかしかなりの作画リソースを割いて(一週間が空いた甲斐はあったか?)の死闘は迫力十分、万次と尸良だけでなく、凶や目黒(尸良に敗れてあわや落花狼藉――というところでの大騒ぎで、尸良を呆れさせるのはある意味偉業)、さらには馬まで加わっての派手な剣戟は、まさに本作の醍醐味があったと言うべきでしょう。

 しかし、今回印象に残るのは、こうした肉体同士のぶつかり合い以上に、万次と尸良の精神のぶつかり合い――というより尸良の精神の在り方であったと感じます。
 凜を攫って身を切るような水の中に縛り付け、万次を誘き出す尸良。それはもちろん万次と戦い、そして優位に立つためのものではありますが――しかし、そこには万次の精神性の在り方を確かめたいという想いもあるように感じられます。目の前の自分の敵よりも、命を危うくしている一人の女を選ぶことができるのか。自らの(不死の)体を、自分自身の目的のためでなく他者のために擲てるのか。それは尸良とは正反対の精神の在り方であり――言い換えればその一線を乗り越えて「こちら側」に来た時、万次は尸良と等しい存在になったと言えるでしょう。今回の尸良の行動は、それを望む気持ちが多分にあったのではないでしょうか。

 思えば皮肉混じりとはいえ、ここに至るまで基本的に万次「さん」と、他の者とは異なる呼び方をしてきた尸良。そこには百人斬りという「偉業」を成し遂げた万次に対する敬意と、ある種の共感があったのではないか――というのは穿ちすぎでしょうか。
 しかし今回のサブタイトルのとおり、霏々と降りしきる雪の中での死闘の背後には、万次を倒したい、万次を殺したいというだけでなく、万次を自分の側に引き入れたい、万次と同じ存在になりたい(万次の左腕を移植したのは、そのものズバリの行動と言うほかないでしょう)という尸良の想いが幾度も窺えたように思います。

 もちろんその想いは満たされることなく(というか気付かれることもなく)、またもや万次と凶のコンビネーションの末に尸良は敗れ、野獣のような男に相応しい、悲惨と言うも愚かな最期を遂げることになるのですが――しかしそれはそれで、尸良という男の生き様を貫いたといえるでしょう。
 練造に――今回尸良と万次の死闘の傍らで、人を殺すことも救うこともできず、何ら行動を起こさずに傍観することしかできなかった練造に対して、皮肉極まりない助言を残したことも含めて……


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 無限の住人

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