賀来ゆうじ『地獄楽』第9巻 天仙との死闘終結 そしてその先の更なる絶望
死罪人・浅ェ門たちと天仙の死闘もクライマックス――強力な気を持つ人間たちを贄とせんとする天仙たちの辟餌服生の斎における死闘三番勝負も、いよいよ決着の時を迎えることとなります。しかしその戦いが終わっても、先に待つものは希望ではなく……
島を支配する天仙たちの真意を知り、脱出のための最後の賭けにでた死罪人・浅ェ門たち。しかしそれは既に天仙たちの知るところであり、ここに画眉丸・杠組vs蘭、厳鉄斎・付知・弔兵衛・桐馬組vs菊花・桃花組、士遠・ヌルガイ組vs朱槿の三つの戦いが始まることになります。
最初の画眉丸・杠vs蘭戦は、鬼尸解した蘭を相手に杠が命を、そして画眉丸が人間を捨てた末に辛くも勝利。
続く戦いは、弔兵衛が敵側について三対三――いや予想通り弔兵衛が裏切って四対二となって始まり、ついに気に目覚めた厳鉄斎、人外の力を使いこなす弔兵衛が優位に戦いを進めることになります。
しかし鬼尸解にまで追い込んだものの、天仙との戦いはここからが本番であることは言うまでもありません。
意外な「人間」性を見せながらも、それを振り払うように「怪物」に――鬼尸解した桃花と菊花。常に一緒に行動していた二人らしく、二身合体した奇怪な姿の怪物と化した二人を相手に展開するのは、またもや時代ものの枠を遙かに乗り越えたような大バトルであります。
これまでもその奇怪な姿と、人間時の力を遙かに上回る能力を見せてきたし鬼尸解時の天仙ですが、今回は自在に宙を舞い、ダメージを受けても二人の陰陽を循環させて回復という、実に厭らしい能力の持ち主。
如何に四対一でも――と言いたいところですが、しかしここで戦うのは、人間たちの中でも特にしぶとい面々であります。
死罪人の中でも規格外のパワーを誇る弔兵衛と厳鉄斎、そして技の桐馬と分析力の付知。四人の勢いはついに天仙を上回るのですが――しかしある意味激しい戦い以上に、戦いの末に示される、それぞれの側の情の在り方が印象に残ります。
そしてラスト、三番目の戦いは、個人的には最も注目の一戦――士遠・ヌルガイと朱槿の対決であります。何故ならば、これまでの戦いが、脱出しようとすこれる者と防ごうとする者の対決であった一方で、この一戦は復讐・復仇のための戦いなのですから。
そう、朱槿こそは士遠の弟子でありヌルガイのパートナーであった典坐の仇。二人を逃がすためにただ一人残り、命という名の盾となった典坐の仇が、奇しくも再び彼らの前に立ち塞がったのであります。
これが盛り上がらないはずはない――のですが、しかしここで展開するのは予想と全く異なる戦いでもあります。
ここで繰り広げられるのは、士遠らしからぬ戦い――人間たちの中でも指令塔として皆をまとめてきた「先生」であり、両目に傷を負った恐ろしげな外観にも似ず、温厚で冷静な彼とも思えぬ、泥臭く、残酷で、そして己の命を投げ捨てたかのような戦いなのです。
そしてそれを支えているのは、そんな士遠がこれまで秘めてきた重い感情――穏やかで沈着な彼が密かに抱えてきたものが、弟子の仇を前に、いや弟子の死を機に一気に溢れ出る様は、鬼気迫るのと同時に、しかしひどくもの悲しく感じられます。
しかし、そんなある意味朱槿の存在すら置き去りのこの戦いの中で、取り残された形となったのがヌルガイであります。士遠自身の言葉もあり、一度はあまりに凄惨な戦いに背を向けた彼女ですが、その前に現れたのは……
ズルい。ここでこれはズルいとしか言いようのないのですが、しかしだからこそ見たかった展開が、ここでは描かれることになります。そしてこの一戦ではお荷物かと思われたヌルガイが、ある種の希望に繋がる存在となる展開には、ただ唸るしかありません(そしてここでまた泣かせにかかるアイツ)。
さて、こうして辟餌服生の斎は、人間たちにとっては、決して軽くはないものの意外に少ない犠牲で終わりを告げたのですが――本当の災厄はこの先にこそあります。
佐切の前に現れた最後の天仙・桂花が語る人間たちを待つ恐怖の未来。そして今回も巻末に登場ながら、もはやそれでは済まされない追加組の進撃……
おそらくは本当に最後の戦いの口火を切るのは、画眉丸ともう一人の「画眉丸」との対決となるものと思われますが――これまたただでは絶対済みそうにありません。
もはやこの先には絶望しか見えない中、それでも戦う画眉丸に何が待つのか? これまで同様、いやこれまで以上に目が離せません。
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