碧也ぴんく『星のとりで 箱館新戦記』第4巻 「新選組」の名を背負う者たちの眼差し
幾多の犠牲を払ってたどり着いた箱館に共和国を樹立した、土方歳三をはじめとする旧幕府軍の男たち。しかし彼らが新たな国で希望に胸膨らませる一方で、新たな戦いはすぐそこまで迫っています。この第4巻で描かれるのはその戦いの始まりと、今なお「新選組」の名を背負う男たちの姿であります。
これまで土方の下、「新選組」に参加した少年たち――市村鉄之助と田村銀之助を中心とした彼らの視点から描かれてきた本作。しかしこの第4巻においては――もちろん彼らにも重要なドラマが用意されているのですが――また異なる視点から、物語が描かれることとなります。
その視点の持ち主こそが、最後の「新選組」ともいうべき男たち――相馬主計、野村利三郎、安富才助という新選組ファンであれば、名前を見ただけで泣けてくる顔ぶれであります。
彼らはいずれも新選組が京で最盛期を迎えた頃に入隊し、そしてその後の戊辰戦争の苦闘の中でも、紆余曲折を経て土方に従い、「新選組」を名乗ってきた男たち。それを思えば、本作の語り手たちとして、これほど相応しい存在もないように感じられます。
近藤(大久保大和)の助命嘆願書を携えて板橋を訪れたものの、却って共に囚われ、近藤の嘆願で命を救われた相馬主計。近藤の出頭に同行し、共に捕らえられてやはり近藤に救われた野村利三郎。会計方そして馬術師範という一風変わった役割を務めてきた安富才助。
いずれも新選組創設期のメンバーに比べれば、正直に申し上げて武勇伝には欠ける面々ではありますが、しかしいずれも会津戦争などの戊辰戦争の激戦をくぐり抜けてきた男たちであり――そしてなおも戦い続けている男たちなのであります。
この巻ではそんな男たちの姿を、史実を踏まえつつ、そしてその隙間を物語として埋めつつ、丹念に描き出します。そしてそんな男たちの目にとって、土方はどう映るのか――鉄之助や銀之助たちのような子供たちの見上げる視線とはまた異なる眼差しは、この戦いに、土方という人物に、新たな光を当てるのです。
(さらにまた、彼らのドラマを通じて、既に故人である近藤らの姿が描かれるのがまた嬉しいところでしょう)
そしてこの巻の終盤では、そんな「新選組」にとって、ある意味最後の激闘が描かれることとなります。それは宮古湾海戦――新政府軍の新たな戦力である軍艦・甲鉄を奪取するため、共和国の決死隊がアボルダージュ(接舷攻撃)を仕掛けた一戦であります。
歴史に「たられば」は禁物ではありますが、しかしもしここで奪取が成功していれば――と強く思わされるのがこの戦い。本作ではその戦いに至るまでを、土方の姿をはじめとして高いテンションで描くのですが、そこに上に挙げた「新選組」たちの姿を重ね合わせることで、さらに「たられば」を欲する気持ちが高まるのであります。
(もっともその一方で、やっぱりこれは失敗するよなあ――と思わされるのですが)
なるほど、ここでこれを描くために、この巻の前半の隊士たちの姿があったのか! と、今更ながらに構成の巧みさに感じ入った次第です。
さて、共和国を樹立した旧幕府軍の一時の平和は――彼らの抱いた百年先の希望を打ち砕くように――終わりを告げました。この先に待つのは、彼らと新政府軍の決戦であります。
正直なところ、この先を目にするのは辛いのですが、しかし彼らの戦いの中で――そしてその先で、本作が何を描くのか。そしてそこに何を残してくれるのか? それを最後まで見届けたいと、そしてそこに小さくてもいい、希望の姿があって欲しいと――今は願うのみなのであります。
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