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2020.03.18

小松エメル『綺羅星 銀座ともしび探偵社』 不思議の形、人の想いの形


 大正11年の銀座を舞台に、様々な形で残る「不思議」を拾い集める探偵社の人々を主人公に描く連作シリーズの第2弾であります。それぞれに過去を背負い、不思議に対して様々な想いを抱く所員たちですが、今回思わぬ事態に遭遇することに……

 謎めいた初老の紳士・三咲正之助を所長に、銀座に事務所を構える「ともしび探偵社」。三咲にスカウトされたメンバーたち――町川秋人、木下研吾、能瀬亜子、小山田道郎は、いずれも程度の差こそあれ、不思議の存在を感じ取る力を持つ人々であります。
 そんな彼らは、依頼を受けて出会った、あるいは街で遭遇した不思議を、腰につけた回収用のランプにともしびに変えて収め、そして事務所に安置されたランプにそれを移す――そんな形で、不思議を集めて回っているのです。

 そんな彼ら自身が不思議な存在のような探偵社ですが、その中でも物語の中心人物となるのは小山田――まだ20代ながら、死んだ魚のような目を持ち、何ごとに対しても不遜とすらいえる無関心ぶりを示しながら、不思議には妙にある青年であります。
 本書の第1話「蓑介の仇討ち」は、その小山田が、ある晩築地川のほとりで呼び止められ、妙に古くさい格好の水夫の舟に乗ったことから始まる奇妙な物語です。

 舟を下り、霧に包まれた街を抜けて辿り着いた無人の活動写真館。そこに入り込んだ小山田は、上映されていた「蓑介の仇討ち」なる時代劇を見せられることになります。
 先ほどの水夫によく似た男が母を盗人に殺され、その盗人たちだけでなく、犯行を看過していた長屋の人々までも次々と惨殺していく――そんな異常な内容に驚く小山田ですが、しかし作品はそれで終わらず、スクリーンの中からその殺人鬼が抜け出して……

 夜の無人の映画館という、殺人鬼に追いかけられたくない場所の一つで展開される、なかなかに恐ろしい本作。しかし物語は、後半にさらに意外な展開を見せることになります。
 映画の題材となった、過去の事件の真実とは。殺人鬼と水夫の関係とは。そしてこの物語における不思議の正体は――そこにあるのは、作者の作品に通底する構図である、人が人に向ける想いの、哀しいすれ違いの姿であります。

 そしてこれ以降のエピソードにおいても、その想いのすれ違いの姿は描かれることになります。
 絶世の美青年でありながら、異常に女性を恐れる木下が、女学生の依頼で学校の開かずの間を調査に向かった先で、自分の最も恐れていたものと出会う「開かずの間」
 浅草十二階下の私娼窟の恋人に会いに行った小山田が、ふとしたきっかけから知り合い、親しくなった少年の思わぬ真実を知ることとなる「十二階下の少年」

 特に「開かずの間」は、これまで他の所員に比べあまり掘り下げがなされていなかった木下の主役回というのも嬉しいのですが、それに留まらないこれまた恐ろしい内容。
 彼の出会う不思議、そして彼の抱えたトラウマから浮かび上がる、ある意味究極の、そして最も身近な想いのすれ違いは、何とも言えぬ苦味を残す物語であります(特に最後の最後に至って明らかになる真相――不思議の正体の後味の悪さたるや!)


 そんな形で、不思議を描く物語であると同時に、人の想いの形を描く物語である本作ですが、ラストの表題作「綺羅星」は、また一風異なる物語が展開することになります。

 不思議を集めて回っていた所員たちを最近徐々に蝕む違和感。それは、最近不思議が減っているのではないか――という疑念でした。あるいは同業者が現れたのではないか、という所員たちの疑問を三咲は一言のもとに否定するのですが、それもかえって所員たちに不審を抱かせる理由にしかなりません。
 そして不思議を求めて奔走する四人の所員は、ついに不思議の影で糸を引く者の存在を知ることになるのですが……

 不思議を集める本シリーズにおいて最大の不思議ともいうべき、探偵社の――三咲の目的。実は三咲自身が不思議に極めて近い存在であることは、前作で描かれているのですが、その先にあるものの一端が、ここでは描かれることになります。
 といってもまだその全貌にはほど遠く、物語もまだ続くのですが――しかし時代設定を考えれば、この先に待つものは、そしてそれまであまり時間がないことも容易に想像がつきます。

 それまでに何が起こるのか、そこで不思議がどのような役割を果たすことになるのか。そして何よりも、そこで所員たちは何を見て、何ができるのか。物語はいよいよ佳境に入った――そう感じます。


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