士貴智志『どろろと百鬼丸伝』第3巻 百鬼丸、己の半身との対決
これまでも様々な形で語り直されてきた『どろろ』の物語を、また新たな形で再構築してみせる『どろろと百鬼丸伝』、第3巻で描かれるのは、ばんもんを背景とした百鬼丸と多宝丸の対決であります。そしてその先に百鬼丸が得るものは……
ばんもんなる壁の名残を境に、朝倉と対峙する醍醐領にやってきたどろろと百鬼丸。そこではぐれてしまう二人ですが、どろろを拾ったのは醍醐家の当主・景光の子である多宝丸でありました。
どろろを気に入り、我が物にせんとする多宝丸と、どろろを追いかけて多宝丸の館まで押し掛けた百鬼丸。百鬼丸がどろろを見つけられずに一旦退いた頃、どろろはそうとも知らずに、館で出会ったある男とともに脱出を試みるのですが……
琵琶法師の意外すぎる正体や、妖刀似蛭の登場タイミングなど、随所にアレンジの見られる本作。そんな中でも現時点で最大のアレンジは、多宝丸の存在であることは間違いありません。
ばんもん近くで軍を率いる景光の息子であり、百鬼丸の弟という設定は変わらぬものの、本作の多宝丸は、時に人間離れした奇怪な表情を見せ、そして何よりも、半身を絡繰り仕掛けに変えた青年――そしてその絡繰りを作った者こそ、百鬼丸とも縁の深いあの人物なのですから。
原作では、百鬼丸の弟であり、醍醐景光の後継者というおいしい立ち位置でありながら、今一つ盛り上がらぬままに退場した多宝丸。
しかし本作においては、その生まれのみならず、魔物との関わりや肉体に至るまで、百鬼丸とある意味対等の存在として描かれることになります。つまり多宝丸の対決は、百鬼丸にとってはまさに自分の半身との対決と変わらぬものであり――その点において、このエピソードは原作を超える重さを持つものと言えるでしょう。
だからこそ、戦いの後、自分たちをあざ笑うばんもんの魔物・九尾の狐に対する百鬼丸のあまりに柄の悪い怒り爆発ぶりに一種のカタルシスがあるのであり――そして魔物との戦いの末に百鬼丸が取り戻した「もの」の重さに唸らされるのであります。
(こんなものまで奪われていたのか、という驚きとともに……)
また、百鬼丸の柄の悪い熱血漢ぶりは原作でも彼の魅力であっただけに、その姿を本作では存分に見ることができるのも、個人的には嬉しいところであります。
しかし一つの戦いが終わったとしても、百鬼丸には安らぎは待っていません。
彼の実の親でありながら、ある意味これまでのさまざまな『どろろ』の中で最も人間離れして感じられる景光は得体の知れぬ存在感を発揮し、そして久方ぶりに再会した育ての親とは時ならぬ災害に引き裂かれ――百鬼丸に残されたのは、唯一どろろの存在のみであります。
そしてそんな二人が出会った(見つけられた)のは何と! と言いたくなるようなキャラクターですし、さらに退場したと思われた人物まで、意外な人物に拾われて――と、この巻では、原作以上に個々のエピソードの繋がりを濃厚に描こうという、本作の方向性がうかがわれます。
どろろと百鬼丸「伝」という本作のタイトル。それは『どろろ』という物語を踏まえ、その要素を生かした上でさらに新しい物語を生み出してみせるという「伝奇」の「伝」ではないか――というのはもちろんこちらの勝手な見方なのですが、原作を知っていればいるほど楽しめる本作を読んでいると、そんな印象も受けてしまうのであります。
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