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2020.04.25

森谷明子・安萬純一・二階堂黎人『御城の事件 〈西日本篇〉』(その二)

 「城」を舞台とした時代ミステリアンソロジー『御城の事件』の第2弾のご紹介の後半戦であります。失われた城、今に残る城、幻の城――西日本の城を舞台にした作品の数々を、一作品毎に紹介いたします。

『ささやく水』(森谷明子):船上城
 三方を海や川に守られた船上城を、短期間で堅牢な城として作り上げた高山右近。その陰には、海賊によって故郷の島を奪われて右近に拾われた、石積みを得意とする斎の民の尽力がありました。
 そんな中、イエズス会の使者として城を訪れていた日本人武士が、城の中で溺れ死んだ姿で発見されることとなります。しかも周囲には全く水が存在しない場所で……

 デビュー作の『千年の黙 異本源氏物語』以来、幾つもの優れた歴史ミステリを発表している作者ですが、本作はかなり珍しく感じられる戦国もの。今では破却された明石の船上城を舞台に、その生みの親であり名築城家でもあった高山右近を探偵役に描かれます。

 水城であったと言われる船上城を、いわば巨大な密室として起きた不可解な殺人事件。犯人は何となく想像がつくものの、どのようにして、そして何故犯行が行われたのか――この時代ならではのその答えに加え、さらに遙かな歴史の流れを感じさせる真相が作者らしいと感じます。


『影に葵あり』(安萬純一):小浜城
 草の家の人間でありながらも、若くして小浜城の警護の長に任じられた韮山兼明。諸藩の間で使われる暗号を記した巻物の警護に当たる兼明ですが、その前に、江戸の隠密であった彼の実の父を知るという忍び・雷蔵が現れます。
 西国からの忍びが巻物を狙っているという雷蔵。果たして、城の堀に両腕を失った死体が浮かび、さらにその死体がいつの間にか消え失せるという怪事件が起きるのですが……

 『忍者大戦 黒ノ巻』に収録された『死に場所と見つけたり』の続編に当たる本作。内容的に難しそうな作品の続編がとこうして登場したのは少々驚きであります。
 前作で描かれた実の父との別れを経ながらもなおも草としての自分の生き方に悩む兼明が、以前自分が奪おうとした巻物を今度は守ることになるとは皮肉ですが――そんな彼が、腕のない死体、どころかその死体までもが消えるという怪事件、さらに敵忍者の操る忍法の謎解きと、相変わらずミステリと忍者ものとしての絡め方が巧みであります。

 キーとなる人物の正体がわかりやすいのと、兼明が結局あまり成長していないように見えるのが少々気になりますが……


『帰雲城の仙人 伊賀の忍び 風鬼雷神』(二階堂黎人):帰雲城
 かつて天正地震により城下町もろとも消え去ったという帰雲城に隠されているとう金鉱の在処の探索を命じられた凄腕忍びの風鬼と雷神。
 しかし帰雲城では、謎の忍び・暗黒斎率いる暗闇党が暗躍し、風鬼と雷神は暗闇党と死闘を繰り広げることとなります。邪馬台国の時代から生きていると言われる暗黒斎こと秦の方士の正体と目的とは……

 本書の編者によるこちらの作品も、『忍者大戦 黒ノ巻』に収録の『幻獣 伊賀の忍び 風鬼雷神』の続編――というか主人公を同じくする作品。公儀隠密にその人ありと知られる二人組・風鬼と雷神を主人公とするアクション篇です。
 題材となっている帰雲城は、地震の多い我が国でも珍しい、地震によって消滅した城。すなわち物語の時点ですでに存在しない城であります。このいささか変化球な舞台に隠された秘密を巡り、風鬼と雷神が、謎の忍者集団と激突する様が描かれることとなります。

 前作もそうでしたが、色々な意味で漫画チックな忍者バトルが描かれる本作。冒頭からクライマックスに至るまで、様々なシチュエーションで描かれるバトルは楽しいのですが――ミステリとしては、途中で描かれる暗黒斎が帰雲城を消してみせる術の謎解き程度とかなり弱めなのが苦しい。
 もう一つ、クライマックスで語られる邪馬台国の謎解きもあるのですが、これも唐突感が否めないところであります。


 というわけで、東日本篇同様、こちらも城をテーマとして自由に描かれた、バラエティ豊かな作品が収録された本書。東日本篇は、モデルはあるとはいえ架空の城を舞台とした作品も多かったのですが、西日本篇は全て実在の城というのは好感が持てます。

 また、『忍者大戦』収録作の続編が多いのも特徴ですが――あちらも読んでいる私は嬉しい仕掛けでしたが、未読の方には戸惑う部分があるような気がしますし、この辺りはなかなか難しいところかもしれません。


『御城の事件 〈西日本篇〉』(二階堂黎人編 光文社文庫) Amazon

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