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2020.04.10

栗橋伸祐『Nocturne 夜想曲』 放浪者としての吸血鬼、戦国を行く

 戦国時代、魔を滅する大剣を背に、異国からやってきた吸血鬼の美女・メリッサを守護して旅する青年・迦具土。放浪の末、彼らが出会ったのは、周囲の諸国に侵攻する不死の軍だった。その背後に、一族の裏切り者であり仇である男がいることを知ったメリッサは、戦いを挑むことを決意するが……

 約20年ほど前に、『コミック電撃大王』誌に連載されていた戦国吸血鬼漫画であります。
 細谷正充氏による『不死鬼 源平妖乱』(武内涼 祥伝社文庫)の解説で挙げられていた吸血鬼時代劇の中で唯一読んでいなかった――という極私的理由で、恥ずかしながら今ごろ取り上げる次第です。

 物語の舞台となるのは天文年間――すなわち戦国時代真っ只中。主人公の青年・迦具土は、戦場往来を続ける中、とある峠で出会った異国の鎧武者の襲撃を受けた彼は、死闘の末に鎧武者からその剣と、銀髪の美女を託されるのでした。
 実はその美女・メリッサこそは、異国からこの国にやって来た吸血鬼――人間の迫害と同族間の争いから逃れてきた彼女の守りを、体に限界が来ていた鎧武者に代わって務めることとなった迦具土は、あてどない旅に出るのですが……

 という本作では、前半がメリッサの一族の仇であり、日本の戦国乱世に隠れて勢力を伸ばさんとする魔人ア・ゾールとの戦いが――そして中盤以降は、ある理由からメリッサの力を求める戦国大名・早川家に身を寄せた二人が、彼女を狙って西洋からやって来た教会の狩人たちと死闘を繰り広げることになります。
 剣士と吸血鬼という主人公カップルに加え、忍者・鬼・怪僧といった日本の怪人たち、あるいは西洋からやってきた妖人・魔人など――そんな面々が入り乱れた乱戦模様が、本作の魅力であり特徴と言えるでしょうか。


 と、ここで先に厳しいことを言ってしまえば、本作にはあまり時代ものとしての面白さは薄いというのが正直なところではあります。
 そもそもメリッサはともかく、迦具土の武器は西洋(?)の大剣であり、着ているのは西洋のシャツめいた衣装――とビジュアル的な点もさることながら、戦国という時代が背景としてしか機能していない印象があります。

 また、前半の敵は異国の吸血鬼、後半の敵は異国の吸血鬼狩人と、どちらもこの国の産ではないため、どうしても(メリッサの)内輪の戦いに見えてしまい、和と洋の激突という美味しいテーマが十分に生かせていないのは勿体無いところであります。
 さらに言えば、メリッサの一族が吸血鬼というより魔法使い(謎の光線や、治癒術を操ったりする)めいていて、西洋というよりファンタジー世界から来たようにすら見える――ア・ゾールという名前もそれっぽい――点もまた、時代ものとしてはどうかと感じます。

 いっそのこと、ファンタジー世界vs戦国日本に割り切ってもよかったかもしれませんが……


 などと厳しいことばかり申し上げてしまいましたが、実は本作には、吸血鬼時代劇としては比較的珍しい点があります。
 それは本作における吸血鬼が、人類の敵にして異邦からの侵略者である以上に、長い時を孤独に生きる放浪者としての側面を多く持って描かれることであります。

 そもそも吸血鬼時代劇においては、ほとんどの場合、吸血鬼たちが異国の者であるが故に、彼らは必然的に侵略者としての側面がクローズアップされることになります。(もちろん本作のア・ゾールはまさにそうした存在ではあります)
 それに対して本作のメリッサは、吸血鬼としての様々な宿命を背負いながらも、しかしその力を他者に対して振るうことなく、長きに渡る生を人間の間で送ろうとする人物として描かれます。

 もともと吸血鬼という存在が物語で描かれる時、この侵略者と放浪者それぞれの部分が、ある程度のバランスで描かれるものですが――先に述べたような性格を持つ吸血鬼時代劇において、本作のように後者の性格がより重んじて描かれるのは、大きくユニークな点であると感じます。

 そしてそれだからこそ、名のある者も名のない者も、日本の人々が総出でメリッサを守るために命を擲って戦うという本作の終盤の展開が、大きなに意味を持って感じられるのは間違いないでしょう。
 その点において、本作の吸血鬼時代劇としての大きな価値がある――そう評しては大袈裟に過ぎるでしょうか。


『Nocturne 夜想曲』(栗橋伸祐 メディアワークスDengeki comics EX 全3巻) 第1巻 Amazon/ 第2巻 Amazon/ 第3巻 Amazon

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