廣嶋玲子『失せ物屋お百』 青い左目が導く物語の苦い味
奇妙な住人だらけの化け物長屋に住むお百。生まれつき青い左目を持つ彼女は、この世のものならぬものを見るその目で、いわく付きの捜し物をする「失せ物屋」を営んでいた。そんなある日、彼女のもとに転がり込んできた化け狸の焦茶丸は、人界にばら撒かれた山神の鱗が彼女の目に宿っていると語るが……
ホームグラウンドである児童文学で数々の人気シリーズを抱え、一般向けでもユニークな時代ファンタジー『妖怪の子預かります』が好調の作者による、新たな一般向け時代小説『失せ物屋お百』――本作もまた、実に作者らしい不思議で、毒に満ちた物語であります。
齢二十八にして侘しい長屋で一人暮らし、きつい目つきと伝法な物言い、男物の半纏を羽織って昼間から酒をあおる――と、なかなか個性的な本作の主人公・お百。しかし彼女を真に個性的たらしめているのは、左目の黒い眼帯――の下の青い目です。
生まれつき青いこの左目のおかげで親や周囲から疎まれ、辛酸を舐め尽くしたお百――――しかし今はその目に宿る不思議な力を活かした失せ物捜しで暮らしているのであります。
そんなお百が主人公を務める物語が始まるきっかけとなったのは、彼女が気まぐれから死にかけていた狸を救い、焦茶丸と名前をつけたこと。
ところが焦茶丸は実は化け狸、山から江戸に出てきて、馴れぬ暮らしにすっかり衰弱していた彼は、お百に助けられたおかげで回復したのですが――実は焦茶丸が山を降りた理由は、お百と密接な関係があったのです。
三十年近く前、浮気がばれて女神に手ひどくとっちめられた際に引っ剥がされ、人界に数十枚ばら撒かれたという山神の鱗。その鱗を捜しに来た焦茶丸ですが、うち一枚が、お百の左目に宿っているというではありませんか。
喜び勇んで彼女から鱗を受け取ろうとする焦茶丸ですが、そのおかげで悲惨な暮らしを強いられてきたお百は怒り心頭。この目の力で千両稼ぐまでは鱗は返さないと宣言、やむなく焦茶丸と彼女をともにする羽目に……
そんなわけで思わぬ凸凹コンビを結成することとなったお百と焦茶丸の失せ物屋稼業を描く本作。しかし、もちろんお百の左目の力を考えれば、持ち込まれる依頼も普通のものではありません。
死にかけた老人が隠した財産の在り処や、水死人の娘が持ち込んできた自分のかんざし捜し、前妻たちが次々と不審な最期を遂げる男の新しい嫁捜し、蔵の中で姿を消した子供の行方――と、どれも奇妙なものばかり。
そして事件に絡む人々(?)も、悪人や死霊、狂人に物の怪と、まともな連中ばかりではありません。
いや、まともでないのはお百の周囲も同じで、彼女の住む化け物長屋は、大家である異常に迫力のある老婆をはじめ、年齢も性別すらも不詳な役者崩れ、自作の人形に女の怨霊を取り憑かせて愛でる変態拝み屋と、強烈な連中ばかり。その中では唯一常識狸の焦茶丸が、おかしな連中に振り回される姿も、本作の魅力の一つと言えるでしょう。
しかし何よりも本作で印象に残るのは、その作中に散りばめた「毒」ではないでしょうか。
本作でお百に持ち込まれる依頼は奇妙なものばかり。それだけに、その依頼の背後の真相やその結末も、人情噺的な側面もあることはあるものの、決してイイ話では終わらない、苦いというか辛いというか――むしろそんな味わいが残るエピソードが続きます。
もちろん、そうした容赦なさが作者の作品の魅力の一つ。その点はむしろ望むところなのですが――しかし個人的には、ラストのエピソードで描かれる、お百自身の抱えたものについては、ちょっと首を傾げざるを得なかった、というのが正直な気分であります。
その内容はここでは詳しくは触れませんが、それまでのお百のキャラクターとはうって変わった姿に大きな衝撃を読者は受けることになります。
それはいいのですが、しかしそこから彼女の逆襲に至る展開が弱い――というより、もっと彼女に主体的にそれを乗り越えて欲しかった、という気持ちが強くあります。
もちろん、それは一人では成せるものではない、というのが本作の語りたいことではあるのだと思いますが、一歩間違えると単に悪趣味なだけに終わりかねない展開だったと思います。彼女が青い左目を持った理由が、どこか呑気な、民話的なものであるだけに――
(そのギャップもまあ、人と妖の世界の違いと言ってしまえばそれまでなのですが)
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