「女たちの江戸くらし 波乱万女之巻」 名品揃いの「江戸ぱんち」傑作集
5年ほど前、「お江戸ねこぱんち」の姉妹誌的に3号刊行された「江戸ぱんち」誌。その掲載作品(一作品のみ「お江戸ねこぱんち」から収録)のうち、5人の作家の14作品を掲載した傑作集です。
「江戸ぱんち」誌については、全3号を紹介しましたが、対象範囲が偏ったブログゆえ、人情ものなどについては、紹介できなかった作品、スルーしてしまった作品が大半でした。しかし本書に収録されたのはまさにそうした作品ばかりであり――そしてそれがまた実に面白いのであります。
自分の不明を恥じつつ、基本、作家毎にご紹介したいと思います。
さて、巻頭を飾る栗城祥子の『八朔の朝顔』は(以前も紹介していますが)、タイトルどおり朝顔を題材とした爽やかな作品。朝顔職人を目指していたはずの幼馴染みが、吉原の太夫を身請けするために朝顔で大金を稼いでいることを知った少女の葛藤を描く物語であります。
きちんと時代背景に即した題材を用いた物語を描く作者らしく、本作もまた、変化朝顔の品評会というこの時代ならではの題材を通じ、揺れ動く少女の心を巧みに描いた本作。
結末は予想通りではあるのですが、しかしタイトルの「八朔」を飾る白無垢が――という展開にはにっこりさせられます。
『鳥影待ち人』、『お玉さんの味噌汁』、『辰次のお蕎麦』の3作品が掲載されている糸由はんみは、可愛らしい絵柄ながら、時折混じる苦い味と、それを乗り越える人の情が持ち味でしょうか。
特に文鳥を飼いながら恋人を待つ女性に想いを寄せる大工の物語である『鳥影待ち人』にこの味わいが強いのですが、(男性目線としては)この主人公像は特に印象に残るものがありました。
また須田翔子『髪結いのりよ』全3話は、守銭奴を自称しながら、ついお人好しの顔が出てしまう女髪結い・りよが主人公の連作。
貧しい武士の母子、宿で駆け落ち相手を待つ娘、頑なに縁談を拒む商家の番頭――そんな人々を相手に、りよが一肌脱いで悩みを解決していく物語は、比較的珍しい題材なだけにどのエピソードも印象に残ります。
特にシリーズのレギュラーになる少年武士の虎之介を描く第1話は、ラストのりよの「仕事ぶり」が何とも泣かせる展開で、実に「粋」であります。天保年間という時代を物語に織り込んだりよの背景設定も巧みと言うべきでしょう。
一方、『あさがお日和』、『赤い珊瑚玉』、『おたなごころ』の3作品が収録されている柴秋尾は、細面の繊細さが感じられるキャラクター像が印象に残ります。
特に田舎村から突然大店に引き取られた少女と村娘の友情を描く『赤い珊瑚玉』は、ヒロインが美人というより佳人という表現がぴったりくる姿なのですが、そんな彼女の背負った重い境遇が、少女たちの純粋な友情を際立たせる作品です。
桐村海丸は、『桶と田楽』と『のら赤』2話の『のら赤』シリーズ3作を収録。
こちらはいずれも以前紹介させていただきましたが、飲んだくれでどうしようもない遊び人の赤助が主人公というか狂言回しというか――何とも言えない立ち位置で物語を引っかき回すこの連作は、作者のラフなようで巧みな画力に裏打ちされた作品揃いであります。
赤助のキャラのように、軽いようで味わい深く、そしてサラリとした物語が楽しめます。
そして巻末を飾るのは、再び栗城祥子の『元禄元年おんな仇討ち』。父を切腹に追い込んだ奸臣を討つために江戸にやってきた男装の少女・お凜と、行き倒れになった彼女を救った女医者で身の丈五尺六寸のお不二を主人公とした物語です。
実は剣の達人でありながら、孤児たちを引き取り、貧乏医者として暮らすお不二のキャラクターがもちろん面白いのですが――そんな彼女のある意味合わせ鏡であるお凜を通じてクライマックスに浮き彫りになる不二の過去と信念が、何とも圧巻かつ爽快。
掉尾を飾るに相応しい、そしてできればシリーズで見たかった作品であります。
と、繰り返しになりますが、これだけの作品群を取り上げてこなかったことを思わず恥じ入ってしまった本書。
そんな自分を棚に上げて言うのもなんですが、このメンバーの作品が現在の「お江戸ねこぱんち」誌に掲載されていないことに、ちょっと複雑な気分になってしまった――というのも正直なところであります。
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