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2020年5月

2020.05.31

宮本昌孝『武商諜人』(その三) まぼろしの作品に見る作者の歩み

 宮本昌孝の単行本未収録作品集の全作品紹介のラストは、江戸・明治・現代(!?)を舞台とした、いずれも趣向豊かな三つの作品を紹介いたします。

『金色の涙』
 ようやく子供が出来た知り合いと呑んだ帰りに、何者かに襲われた吉原者の銀次。その相手は、銀次が岡場所の取り締まりの際に捕らえ、余罪から流刑になったはずの女郎・千金と仲間たちでありました。
 何故千金が自分を狙ってきたのか調べ始めた銀次は、意外な事実を知ることに……

 ドラマ化もされた作者の長編『夏雲あがれ』のスピンオフである本作は、同作で青年武士たちを助けて活躍した吉原の好漢・銀次を主人公とした人情ものであります。
 吉原や岡場所といった世界を背景に展開していく物語が進んでいくにつれて明らかになっていくヒロインの真実。その辛くやるせない姿には胸が塞がる思いですが、無情に見えた物語が、結末において見せる一片の救いには、大きなカタルシスがあります。

 本作は色をモチーフとしたアンソロジー『COLORS』に収録された作品ですが、そのタイトル通りの涙が、結末においてある変化を見せる、「泣かせる」物語です。


『明治烈婦剣』
 戊辰戦争で剣豪だった父を失い、辛酸を舐めて育ったけい。華族を次々と失い最後に残った兄を三島通庸のボディーガード・ジェイク沢木に殺された彼女は、仇討ちのために撃剣興行の一座に転がり込み、剣の修行に励むことになります。
 修行を終え、師から与えられた名刀・軒柱を手に東京に出たけいは、師の師である榊原鍵吉のもとに身を寄せつつ、三島の身辺を探るのですが……

 名刀とも妖刀ともいうべき刀・軒柱が、鎌倉から昭和にかけて様々な人々の手を転々とする様を七人の作家が描いた『運命の剣 のきばしら』の明治編に当たる本作は、作者らしい凜然とした女性剣士の仇討ちを描く一編であります。
 戊辰戦争後の会津藩の人々を襲った苦難を背景とする本作は、仇討ちものであるだけに物語には重く辛い展開も少なくないのですが――捨てる神あれば拾う神あり、彼女に味方する人々の善意の存在が、それを上回る爽快な味わいを生み出しています。

 また、短編ながら歴史上の人物を数多く配置してみせる巧みさや、仇が労咳病みの無頼のガンマンという良い意味の過剰さも良いのですが、何よりも主人公の初恋の相手である「四郎」の使い方が見事。
 彼の正体は登場した場面で明白なのですが、その存在に頼ることなく、実に粋な形で(そして史実通りに!)物語をまとめてみせるのには脱帽です。エンターテイメントとしての完成度では、間違いなく本書一でしょう。


『まんぼの遺産』
 祖母の葬儀のために祖母の家に向かった作家の「僕」が、昔からあった黒い長櫃の中から見つけた古文書「御湯放記」。これを書いたのが公人朝夕人の土田氏でないかと推理した「僕」は、霊感のある大学の後輩とともに、文書の解読を始めるのですが……

 巻末に収録されているのは、本書の中でも最も古い1992年の作品――しかも舞台は基本的に現代、今でいうライトノベル誌である「グリフォン」に掲載されたという異色ずくめの作品です。
 祖先の家から見つけた古文書に驚くべき内容が――という導入部はある意味定番ではありますが、本作で描かれるのは、江戸時代のあまりに有名な事件のある真相。それがまた実に脱力ものなのですが――この辺りは作中でも言及される作者の『旗本花咲男』の流れでしょうか。

 実は本作の主人公「僕」は作者自身で、作中で自作や周囲の人間に言及されるというユニークな本作。作中で言及される「室町末期を舞台にした大長編」は、発表時期から見て間違いなく『剣豪将軍義輝』のことでしょう。
 作者が歴史時代小説家としての作者の出世作にして代表作の執筆と並行して、このようなユニークな事件に巻き込まれていた――あ、いや、ユニークな作品を発表していたというのは実に興味深いところであります。

 作者の歴史時代小説家としての歩みを一望の下にした本書の掉尾を飾るのに、相応しい作品であると感じます。


『武商諜人』(宮本昌孝 中公文庫) Amazon

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2020.05.30

宮本昌孝『武商諜人』(その二) 戦国から江戸へ――バラエティー豊かな作品集

 宮本昌孝の単行本未収録作品を中心とした作品集の紹介、その二であります。今回も戦国時代の作品が中心ですが、江戸時代を舞台とした作品も登場することになります。

『恩讐の一弾』
 波多野氏を攻める明智光秀の暗殺に失敗して捕らえられながら、光秀に許された雑賀五郎兵衛。その際に行動を共にしながら一人逃げた竜野善太郎と、本能寺の変の直前に再会した五郎兵衛がとった行動とは……

 今なお様々に評価が分かれる明智光秀の姿を、一人の銃の名手の視点を通じて物語が本作であります。その光秀像は、ある意味定番と言うべき、戦国武将らしからぬ苦悩を抱えたものでありますが――五郎兵衛というフィルターを通すことにより、その光秀の姿に説得力を持たせることに成功していると感じます。

 狙撃手と忍者を中心とした物語だけに伝奇性も高い物語ですが、結末の寂寥感も印象に残ります。


『武商諜人』
 本能寺の変を舞台に、武・商・諜の三つで家康を支えた茶屋四郎次郎の姿を描くと同時に、『剣豪将軍義輝』外伝の趣もある表題作は、収録された『戦国秘史 歴史小説アンソロジー』を取り上げた際に紹介しておりますので、『戦国秘史 歴史小説アンソロジー』(その一) 戦国に生きる者たちを動かしたもの" target="_blank">そちらをご覧いただければと思います。


『龍吟の剣』
 本多忠勝の娘であり、家康から実の娘のように愛された稲姫。家康の養女として真田信幸に嫁いだ稲姫は、得意の笛に似せた懐剣を、輿入れの時に家康から渡されていたのですが……

 真田もののアンソロジーに収録された本作は、真田信之の正室であり、一部では鬼嫁などとも言われる稲姫を主人公とした作品。もちろん本作の稲姫は、いかにも作者らしい、人としての優しさと武門としての気丈さを兼ね備えた人物として描かれることは言うまでもありません。
 本作では関ヶ原前夜の犬伏の別れの後に、孫に会いに来た昌幸を追い払ったという有名なエピソードがクライマックスとなりますが、ここでの姿は、その本作ならではの稲姫像を最も良く表していると言えるでしょう。

 ちなみに貧相な風貌と評されたり疑い深かったり、幸村が一人で損な役回りなのですが、そういえば本書とほぼ同時期に文庫化された『武者始め』収録の『ぶさいく弁丸』でも幸村は醜男扱いでありました。


『秋篠新次郎』
 紀州藩で何者かに殺され、お家断絶となった下級藩士。しかしその友人である藩主の小姓・清水新次郎は、仇討ちを願い出ると、下手人と目される中間の軍蔵を探す旅に出るのでした。
 その旅の途中、軍蔵を追う謎の男たちの存在を知る新次郎。しかし軍蔵は見つからぬまま、江戸に腰を落ち着けた新次郎は、やがて吉原の遊女・秋篠との愛に溺れるようになるのですが……

 ここからは戦国時代以外を舞台とした作品となります。本作は一見単なる中間の主殺しに思えた事件が、徐々に不可解な側面を見せ、結末に至り巨大な真実へと繋がっていくという、ミステリタッチの物語であります。

 この物語を特にユニークなものとしているのは、冒頭で描かれる、主を守って追っ手から逃れる武士たちの姿。
 一見、本編とは全く関わりのないように見えるこの場面が、果たしてどのように物語に繋がるのか――という謎がクライマックスで明かされたかと思えば、さらにそこから意外な結末の一ひねりに繋がっていくのにも驚かされます。

 わかる人であればタイトルでわかるかもしれませんが、直木三十五の作品の題材ともなったある「史実」に繋がる趣向も見事です。


 次回でラストです。


『武商諜人』(宮本昌孝 中公文庫) Amazon

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2020.05.29

宮本昌孝『武商諜人』(その一) 颯爽たる作者の単行本未収録短編集

 『剣豪将軍義輝』発表からほぼ四半世紀、希有壮大かつ爽快な歴史時代小説を次々発表してきた作者の、単行本未収録の短編9編と描き下ろし1編で構成された作品集であります。戦国時代を中心に、江戸、明治とバラエティに富んだ作品が収録された本書の収録作品を一作ずつ紹介していきましょう。

『幽鬼御所』
 北畠具教・具房親子に可愛がられながらも、織田信長に見初められ、三男信孝を生んだ佳乃。時は流れ、信長が北畠家を攻撃した際に、何とか北畠家を救うために佳乃は奔走するのですが――そして時は流れ、関ヶ原合戦の後に……

 巻頭に収められた作品は、本書のために書き下ろされた作品――賤ヶ岳の戦の後に非命に倒れた信孝の母・佳乃を中心に展開する物語であります。
 といっても、信孝の母は記録上は坂氏としか知られていない女性。それを本作は、若き日に北畠具教に恋し、自らも武芸を修めた(そしてそれがきっかけで信長と出会った)女性という、実に作者らしい造形で描きます。

 しかし本作は彼女を中心としつつも、一人の力では抗えない歴史の動きを描くことになります。そして果たして物語がどこに向かうのか、予想がつかぬままに読み進めてみれば、結末に描かれるのはなんと……
 正直なところ、あらすじを紹介するのが難しい物語ではあり、結末も感動と驚き(呆気にとられたと言うべきか)が入り交じった奇妙な後味なのですが――これはそういう意味であったか、と唸らされることは間違いありません。

 そして同時に、懸命に、誠実に生きた者が、どこかで必ず報われる(たとえそれが墓に手向けられた一輪の花であっても)という、実に作者らしい作品であると感じ入った次第です。


『戦国有情』
 桶狭間の戦で信長とともに先駆けし、武名を挙げた四人の赤母衣衆。しかしうち三人は古参の臣に讒言を受けて相手を討って逐電、徳川家に身を寄せるのですが……

 「歴史街道」掲載作のためか、分量的には掌編に近い本作。大きな武勲を残しながらも、運命の悪意に翻弄された若者たちの熱い友情を描く一編であります。
 しかし短くとも、史実にごく僅か残された記録から、そこに生きた者たちの姿を活写するという、見事に歴史小説としての魅力を持った物語です。

(それにしても前作も含め、作者の信長像は『ドナ・ビボラの爪』で描かれたそれが基調に感じられるところであります)


『不嫁菩薩』
 政略で婚約しながらも、幼い頃から強く惹かれ合ってきた信長の嫡男・信忠と信玄の娘・於松。戦国の流れに引き裂かれながらも、なおも純愛を貫いてきた二人ですが、ついに信忠は天目山で武田家を滅ぼすことに……

 戦国最大の悲恋といえば、まず筆頭に挙げられるであろう信忠と於松――戦国のロミオとジュリエットと言うべき二人を、於松の視点から描いたのが本作であります。

 幼い頃のたった一度の出会い(この一種伝奇的な出会いにおける因縁が、後々に影響するのがまた実に作者の作品らしい)を胸に、相手の愛を信じて生きながらも、時にそれを手放してまでも人としての信義を貫こうとする於松。
 その愚直なまでの姿は、もの悲しくはあるものの、同時に強く心を打つものであり――一歩間違えれば強烈な皮肉となりかねない結末の展開も、純愛と至誠を貫いた者の勝利として素直に感じられます。

 ちなみに本作、鬼武蔵として悪名を轟かす森長可が、それとは裏腹(?)の実に格好良い役どころを演じているのも印象に残ります。
(この森長可も含め、過去のある時点で出会った者たちの運命が、後に味方として、あるいは敵として絡み合うという作劇もまた、実に作者らしいと再確認しました)


 次回に続きます(全三回)。


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2020.05.28

大西実生子『フェンリル』第2巻 新たなる仲間とテムジンの求める世界を結ぶもの

 かのテムジン=チンギス・カンが、宇宙からやって来た美女の助けを借りて世界統一に乗り出すという、奇想天外なSF歴史漫画の第2巻であります。

 偶然落ちた湖の底で、青く輝く狼と、美しい裸女に出会った青年テムジン。自らを「地を揺らすもの(フェンリル)」の化身と語る彼女こそは、かつて宇宙からこの星に墜落した金属生命体であり、地球の引力圏から脱するために、テムジンに近づいたのであります。
 テムジンがフェンリルを水中から引き上げようとする最中、集落を襲うタイチュウト族。皆を逃がすために戦った末に力尽きたテムジンに、フェンリルは自らの命を分け与えるのでした。

 復活したテムジンは、タイチュウト族の将を討つと、かつて自分の父の盟友であったケレイト族の長老トオリル・カンの力を借り、タイチュウトと戦うことを決意するのですが……


 かくて、フェンリルの導きによって、世界の王となるべく第一歩を踏み出したテムジン。この巻の冒頭で語られるのは、その彼にトオリル・カンから与えられた兵――三人の蛮戸兵との出会いであります。
 一人が二十騎に匹敵する力を持ちながらも、そのあまりの異文化ぶり、そして何よりも剽悍さでケレイトでも持て余し、獣のような扱いをされていた蛮戸兵。ファーストコンタクトからその力に圧倒されるテムジンですが、しかしその後の彼の反応こそは、ある意味この巻の白眉と言うべきでしょう。

 フェンリルの導きもさることながら、それ以前から、単なる草原の一部族の若者に収まらない、独特の視点を持っていたテムジン。いやその彼の視点は、フェンリルとの出会いによって、遙か世界の彼方まで広がる視野となったと言うべきでしょうか。
 いずれにせよ、彼にとっては生まれも育ちも文化も信仰も異なる、女戦士すら存在する蛮戸兵の存在は、彼が求める多様性の象徴、彼の求める世界の縮図なのであります。

 ほとんど裸一貫から身を起こした若者が、異能の仲間たちの力を借りて戦場に風雲を起こす――というのは、これは古今東西を問わず、国盗りもの、戦国ものの定番であります。
 しかしその定番の中でテムジンの非凡さを浮き彫りにしてみせるのは、これは本作ならではの独自性と言うべきでしょう。

 世界帝国を築いた英雄であると同時に、情け容赦のない征服者としてのイメージも強いチンギス・カンですが――その若き日の姿を描くに、このようなアプローチで描くというのは(その実像がどうであれ)面白い試みであると思います。


 もっともそのテムジンの先進性と器の大きさが、あまりにも優等生に見えてしまうのもまた事実。
 特にここでの敵であるタイチュウト族長のタルグタイが、ビジュアルといい言動といい、あまりにもわかりやすい悪役として描かれているだけに、主人公の優遇ぶりが際立って感じられてしまうのは、残念に感じられるのですが……

 何はともあれ、いよいよ次の巻で描かれるであろうテムジンとタルグタイの激突の中で何が描かれるのか――注目であります。


 ちなみに基本的に歴史上の人物がほとんどの本作の中で(蛮戸兵はともかく)タイチュウト側の弓使い・ラキザミは聞いたことがない名前だと思ったら……


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2020.05.27

武内涼『源平妖乱 信州吸血城』 霊宝を巡る絶望の死闘

 京の殺生鬼を壊滅させたものの、自分たちも大打撃を受けた義経ら畿内の影御先。濃尾の影御先に身を寄せた義経と巴は、邪鬼と結ぶ立川流の寺院を急襲するが、そこに待ち受けていたのは不死鬼・黒滝の尼の罠だった。木曾義仲らに辛うじて救われた義経たちだが、影御先の霊宝を狙う敵の魔手が迫る……

 平安時代を舞台に血吸い鬼たちとの死闘を描く『源平妖乱』待望の続巻であります。
 古代に海を渡り日本に渡来した血を吸う鬼たち――人を殺さず人と共存する不殺生鬼と、人を吸い殺し仲間を増やさんとする殺生鬼、そして一度死んだ殺生鬼が復活し邪悪な力を得た不死鬼。このうち、殺生鬼と不死鬼(合わせて邪鬼と呼称)を敵とし、人知れず死闘を繰り広げてきた者たちが「影御先」であります。(東欧世界でクルースニックと呼ばれる者、と明言されているのが熱い)

 本作の主人公・源義経は、恋人を殺した殺生鬼・熊坂長範を追って鞍馬山を下り、影御先に参加した若者。長範の娘であり、長範を母の仇と狙う静らとともに京の邪鬼を倒し、仇を討った――のが前作の物語でありました。
 しかしその代償に畿内の影御先も壊滅、義経は静らと別れて濃尾の影御先に加わり、それから一年後の物語が本作となります。

 邪教として名高い真言立川流が、邪鬼と結び、勢力を拡大していることを知った濃尾の影御先たち。彼らは立川流の、邪鬼たちの根城と目される熊井長者の屋敷に急襲をかけるのですが――地下の破戒壇に突入した義経たちは、邪鬼たちを取りまとめる謎の魔人・黒滝の尼の罠と仲間の裏切りにより、一転窮地に立たされます。

 一方、屋敷の外を固める巴たちの前には、半ば不死鬼、半ば餓鬼(死人の血を吸い、異形と化した邪鬼)という怪物・屍鬼王が出現。血吸い鬼としての弱点を持たない屍鬼王に、影御先は次々と屠られていくことになります。
 義経と弓使いの娘・氷月は仲間たちの犠牲により辛うじて地底の地獄を脱出、巴も異変に駆けつけた木曾義仲・今井兼平ら、木曾の荒武者たちによって救出されたものの、濃尾の影御先はほぼ壊滅状態となるのでした。

 しかしそれでも彼らは戦いを止めるわけにはいきません。影御先の秘宝である四種の霊宝のうち、戸隠山に隠された豊明の鏡、そして東の影御先が守る小角聖香を狙い、黒滝の尼が動き出したのですから。
 かくて身を休める間もなく、義経・氷月・巴らは、絶望的な戦いに挑むことに……


 というわけで、冒頭から結末まで、ほとんど全編に渡り、影御先と血吸い鬼の死闘が描かれる本作。基本的な設定は既に前作に語られている分、本作では思い切りバトルに振った印象で、一時たりとも息は抜けません。
 特に本作の前半部分、熊井長者屋敷地下は、何が飛び出すかわからない、まさしく地底魔城というべき地獄。罠の詰まったまさに敵の根城で、しかも味方と様々な形で分断されての戦いは、主人公側が苦闘を強いられることが非常に多い作者の作品の中でも、屈指の絶望度と言うべきでしょう。

 一方、そんな中で数少ない救いとなっているのが、木曾義仲と今井兼平の存在です。
 言うまでもなく、木曾義仲は河内源氏の出身で、義経とは従兄弟同士――後に義経同様平家に対して挙兵し、朝日将軍とも呼ばれた人物。そして今井兼平は義仲の乳兄弟であり、四天王とも呼ばれた勇将であります。
 そんな彼らの後の姿はここでは置いておくとして――本作の義仲は、不器用でぶっきら棒な荒武者ながら、心は熱く温かいものを持った好漢。そして兼平は冷静沈着ながら民を愛し慈しむ心を持つ人物として描かれます。

 そんな二人の姿は、邪悪な人外の魔物や、人間でも醜い権力や金の亡者たちが蠢く物語の中で、数少ない「生きた人間」として描かれ、こちらの胸を熱くさせてくれるのです。


 その他、徐々に明らかになる黒滝の尼の伝奇的な正体や、いわば本作版のゾンビというべき餓鬼や様々な動物の血吸い鬼の登場、そして最終兵器ともいうべき四種の霊宝の存在と――ぎっしりと詰め込まれたアイディアと起伏に富んだ展開で、最後まで一気に読まされてしまう本作。

 まさにこれぞ時代伝奇と言うべき内容なのですが、黒滝の尼という、明確に「悪」との戦いに終始した印象が強く、前作にあった、血吸い鬼という存在を通した人間性への問いかけとも言うべき要素が薄く感じられた――そしてそのために義経の戦いがさらに苦く感じられた感は否めません。

 まだまだ邪鬼たちとの戦いが続く中、義経が武士として、人として辿り着く道はどこにあるのか――この先の物語で、険しくとも希望の光が描かれることを期待したいと思います。


『源平妖乱 信州吸血城』(武内涼 祥伝社文庫) Amazon

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2020.05.26

原哲夫『いくさの子 織田三郎信長伝』第14巻 小さな戦の二つの大きな出来事

 いよいようつけの仮面をかなぐり捨て、戦国の世に立つこととなった信長。その視線の先にあるのは、当然ながら今川義元であります。尾張に侵攻する今川方が築いた砦に挑む信長は、本領発揮の戦を繰り広げるのですが……

 相変わらず尾張の内憂外患が続く中、萱津の戦で勝利を収め、真の姿の一端を示した信長。それを警戒する美濃の斎藤道三との対面を、平手政秀の切腹という大きな犠牲によって実現した信長は、その桁外れの器の大きさを見せ、道三を味方につけることに成功するのでした。
 さて、美濃の憂いがなくなったところで、挑む相手は今川義元と、今川方に靡く尾張の諸将たち――というわけでこの巻で描かれるのは村木城の戦であります。……と言われても「?」となる方も多いと思いますが、この戦国史から見れば小さな戦では、二つの大きな出来事が起きており、そしてそれは本作においても存分に活かされているのです。


 尾張と駿河の境に位置し、今は織田方に属する水野信元の緒川城を攻めるため、今川方が築いた村木砦。砦といっても鉄桶の構え、さらにはその砦に続く陸路は、今川方に寝返った諸将によって寸断された状態にあります。
 この状況で敵の油断を突くため、信長は荒れ狂う海に乗り出すという源義経のような手段に打って出ると、信元そして叔父の織田信光(本作ではかなりいい人)と共に、三方から砦を攻めるのですが――たどり着いたはいいものの、砦は難攻不落。これを落とすための信長の切り札――それこそが鉄砲であります。かつて織田家当主となって初の戦いである赤塚の戦いでは封印していた鉄砲を、ここに至りついに信長はフル活用するのです。

 相手の矢の届かないところに陣取り、相手が顔を見せたところに斉射を食らわせる――いかにも信長らしい合理的かつ慎重な戦法ですが、食らう方はたまったものではありません。実にこの戦は信長が実戦で鉄砲を使った初めての戦と言われており、後の信長の戦で鉄砲が果たした役割を思えば、この出来事が大きな成功体験であったと言えるのではないでしょうか。


 しかし、それだけでは戦には勝てません。鉄砲で相手を怯ませ、その隙に壁を乗り越えて中に突入し、門をこじ開ける――城攻めの定石ですが、それがどれだけ危険であるかは言うまでもないでしょう。もちろんそれを恐れるような信長の母羅衆ではありませんが、しかしそこでついに、大きな犠牲が支払われることとなります。

 ここで描かれるのは、以前から信長に従ってきた二人の男の死――うち一人は、正直なところこれまであまり目立った活躍はなかったのですが(信長のリアクションも小さくて切ない)、もう一人は、物語のかなり初期から信長とともに冒険を繰り広げてきたレギュラーであり、ここで命を落とすとは、かなり意外な展開でありました。

 戦には勝ったものの、彼らを初めとする多くの犠牲に、さすがに衝撃を隠せない信長。その彼の目には熱い涙が……
 実はこの戦の結末は、太田牛一の「信長公記」でも珍しい、信長が「泣いた」と記録されている特徴的な出来事。意地の悪い見方をすれば、そこから逆算しての――という気がしないでもありませんが、これまで快進撃を続けてきた信長が、涙を見せるに相応しい場面であることは間違いありません。


 そして去る者がいれば、来る者――来るサルあり。そう、ここでついにあの男が――信長に猿と呼ばれ、愛された人物が登場することになります。
 正直なところ、ここでの登場はいささか唐突感は否めないのですが――あるいは彼が後のこの人物では? というキャラが二人ほどいただけに――まずは本作らしいデザインで(それでいていきなり結構エグい策を実行したりして)、先が楽しみなキャラクターであることは間違いありません。

 そして信長が戦と成長を続ける中、相変わらず悪役一直線の信行とその周辺ですが、ただ一人、柴田勝家のみは信長の勝利に感じ入ったことがある様子。
 これがこの先どのような展開に繋がるか――その辺りは次巻のお楽しみであります。


『いくさの子 織田三郎信長伝』第14巻 (原哲夫&熊谷雄太&北原星望 徳間書店ゼノンコミックス) Amazon

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2020.05.25

瀬川貴次『ばけもの好む中将 九 真夏の夜の夢まぼろし』 大混戦、池のほとりの惨劇!?

 最近は一年に一度の再会なのが少々寂しいところではありますが、『ばけもの好む中将』の最新巻の登場であります。最近は色々不穏な空気が漂っておりましたが、この巻では原点に返って(?)ばけもの好む中将・宣能と、彼に振り回されまくる宗孝の姿がたっぷりと描かれることになります。

 本シリーズは、右大臣の嫡男にして容姿端麗という恵まれまくった人間であるにも関わらず、寝ても覚めても考えるのは怪異のことばかりという宣能と、タイプの異なる十二人の姉がいるほかはごく平凡な中流貴族の宗孝――このコンビが(というか宣能に宗孝が一方的に引っ張られて)京を騒がす怪異を求めて騒動を繰り広げる連作であります。

 最近は冷酷で陰謀家の父の跡を、その後ろ暗い部分まで含めて継がされることとなった宣能が暗黒面に引きずられかけていたりと、重めの展開もあったのですが(そしてその要素は今回も健在なのですが)、今回のメインは二人の怪異巡りとなります。
 もちろん、収録されている二つのエピソードはどちらも実に個性的。毎度毎度の怪異騒動でありつつも、趣向を凝らしたシチュエーションが今回も展開されます。


 というわけで本作の前半に収録されているエピソード「夏衣つれづれ織り」で描かれるのは、宣能の友人であり、同じく中将である宰相の中将・雅平の物語であります。
 当代きっての色好みとして知られる雅平が暑気あたりで倒れた時に介抱されたのは、とある庵の美しい尼御前。たちまち好き心を発揮した雅平は、満更ではない相手の様子に有頂天となるのですが――豈図らんや、その庵こそは、誰も住まう者がいないのに夜明かりが灯り怪しい人影がよぎるという噂で、宣能が訪れようとしていた魔所だったのです。

 さては雅平が恋したあの女性こそは、かつてこの庵に住みながら病で身罷った尼御前の幽魂であったのか――というのが真実であるかどうか、本シリーズの読者であれば百も承知でしょう。
 しかしそこから転じて、雅平を懲らしめるために宣能たちが一計を案じたことで、さらに騒動が拡大して――というのは、実に「らしい」展開。○○に目覚めた宣能や、さらりと投入されたネタ攻撃、そしてラストでさらにややこしい火種が撒かれたりと、相変わらずの賑やかさであります。


 一方、後半の表題作「真夏の夜の夢まぼろし」は、スケールもややこしさも、そして怪異の愉快さ(?)もさらにパワーアップした、実に楽しいエピソードです。

 皇太后の父が立てた別邸「夏の離宮」――小島が浮かぶ広大な池で知られる、この邸宅で開かれる宴に招かれた宣能や宗孝。しかしそこで耳ざとく宣能は、怪異の噂を聞きつけてきたのであります。
 夜な夜な邸内に現れる怪しい人影やうなり声、不気味な物音に、突然姿を消してしまう女房。実はこの離宮が建てられた土地では、かつてとある殿上人が故なき嫉妬から妻を殺害し、さらに自分の子である二人の姉妹を斧で惨殺、自分も自殺したという陰惨極まりない事件があったというではありませんか!

 広い池のほとりで若い男女が恋愛沙汰を繰り広げているところに、斧を手にした殺人鬼(たぶん何かの面を被ってる)が出現する――かはわかりませんが、とにかくこの手の話を宣能が見逃すはずもありません(そして宗孝が引っ張られないはずもありません)。
 そんな中、この宴を訪れていた春若こと東宮は、宗孝の十二の姉である真白と出会い、逢い引きの約束をして有頂天。周囲の監視の目をかいくぐって真白に接近大作戦を企てることになります。さらに禁断の恋(?)に悩む雅平まで加わり、夏の離宮はいよいよ混戦模様に……

 というわけで閉鎖空間での大騒動という、面白くなること間違いなしのシチュエーションで展開するこのエピソード。まさか如何にこの作者とて平安時代に『○○○の○○○』ネタを投入してくるとは思いもよりませんでしたが、終盤の意外な展開の連続で、大いに楽しませていただきました。
 その一方で、黒宣能ともいうべき彼の顔がチラリと描かれたり、シリーズ最大の鬼札というべき十の姉の謎が少しずつ(本当に少しずつ)明かされていったりと、シリーズを通しての物語も、面白さ・楽しさの背後で着実に動いている印象もあります。

 いやそれだけでなく、宣能と宗孝の周囲の人々の人間関係が着実に動いている様からは、時と物語の流れというものを感じさせられます(個人的には「癒やしの君」こと有光中将のエピソードにそれを強く感じました)。
 果たしてその流れがどこに向かうのか――そんなことも大いに気になる作品であります。


『ばけもの好む中将 九 真夏の夜の夢まぼろし』(瀬川貴次 集英社文庫) Amazon

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 瀬川貴次『ばけもの好む中将 四 踊る大菩薩寺院』(その一) 大驀進する平安コメディ
 瀬川貴次『ばけもの好む中将 四 踊る大菩薩寺院』(その二) 「怪異」の陰に潜む「現実」
 『ばけもの好む中将 伍 冬の牡丹燈籠』 中将の前の闇と怪異という希望
 瀬川貴次『ばけもの好む中将 六 美しき獣たち』 浮かび上がる平安の女性たちの姿
 瀬川貴次『ばけもの好む中将 七 花鎮めの舞』 桜の下で中将を待つ現実
 瀬川貴次『ばけもの好む中将 八 恋する舞台』 宗孝、まさかのモテ期到来!? そして暗躍する宣能

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2020.05.24

横山光輝『伊賀の影丸 邪鬼秘帖の巻』 影丸と邪鬼 宿敵同士がお家騒動に挑む異色編

 秋月藩で横行する辻斬り――その正体は、お家乗っ取りを企む次席家老・黒木弾正に雇われた阿魔野邪鬼ら四人の武芸者だった。ついに主席家老まで暗殺された中、江戸から派遣された影丸は、武芸者たちと対決する。さらに、口封じを企む黒木弾正が雇った忍者集団・土蜘蛛党が両者を狙うことに……

 『伊賀の影丸』全エピソード紹介の第七弾は、ある意味異色作の『邪鬼秘帖の巻』。タイトルから察せられるとおり、あの不死身の甲賀忍者・阿魔野邪鬼が三度登場するのですが――準主役として、これまでとは少々変わった役回りを果たすことになります。

 舞台となるのは城主が原因不明の病気に見舞われ、床から離れられない状態にある秋月藩。さらに主席家老が辻斬りに殺され、幼い藩主の嫡男までもが何者かに命を狙われる――という、まず典型的なお家騒動になりそうな状況にある藩です。
 ……そう、このエピソードはまさしくお家騒動もの。藩内の不穏な動きを察知した服部半蔵から派遣された影丸は、お家乗っ取りを企む次席家老の黒木弾正の陰謀に立ち向かうのであります。

 それでは邪鬼はといえば、黒木弾正が雇った四人の凄腕武芸者の一人として登場することになります。
 自分を含めた甲賀七人衆が影丸に敗れて若葉藩は改易、その後由比正雪と影丸の戦いに割って入るもこの時も一歩及ばず――と、その後どうやら自分の腕を頼りに諸国を放浪していたと思しき邪鬼。ここであからさまに悪人の弾正に雇われ、人斬りをしているというのも、邪鬼らしいと言えば言えます。

 もっとも200年生きているという彼にとっては、この稼業にも特に拘りがないらしく、同僚の他の三人が金だ酒だと言っているのにも一歩引いた形でクールさを崩さないのもまた「らしい」ところ。
 そんなある意味自由な立場の彼の存在が、物語をかき回していくことになるのです。


 さて、物語は影丸と邪鬼たちの戦いで展開していく――と思いきや、面白いのはここで両者共通の敵として、土蜘蛛党なる忍者集団が登場することでしょう。
 藩を探りに来た影丸と、自分を強請にかかるようになってきた雇われ武芸者たち――その双方を除くため弾正に雇われた土蜘蛛党。かくて展開する、影丸と邪鬼、そして土蜘蛛党の三つ巴の戦いが、お家騒動という定番の物語を複雑に、そしてより面白くしているのです。

 そして何よりも盛り上がるのは、こうした戦いの中で、影丸と邪鬼の共闘――とまではいかないものの、お互いが相手を好敵手として意識し、それぞれの危機にフォローに入るくだりでしょう。
 特に邪鬼はラストに至り、別にお前が好きだから助けたわけじゃないからね! と見事なツンデレぶりを発揮。お約束の倒されて復活――という展開もあるため、影丸に比べると少々割りを食った印象もありますが、終始このエピソードでは邪鬼が楽しそうにしているのが、何だかこちらも嬉しくなってくるのであります。


 その一方で、忍者アクションとしては、土蜘蛛党が集団戦主体であること、名のある敵が頭領の幻斎坊と小頭の勘助しかいない(しかも勘助は途中でフェードアウト)こともあり今ひとつに感じられるのですが――その代わり、邪鬼以外の三人の武芸者が、槍・鎖鎌・刀とそれぞれの得物で、並みの忍者では歯が立たない強豪ぶりを見せてくれるのが楽しい。
 忍者ものである、武士の活躍がほとんど見られない本作ですが、そんなこともあってここで描かれる手練れの武士のアクションは実に新鮮で、この点も、定番のようでいてユニークなこのエピソードを盛り上げる一因となっているといえるでしょう。

 一方、忍者アクションの方は、後日譚である『土蜘蛛五人衆の巻』で描かれることとなりますが――こういう物語の引きも含め、やはり本作の中では異色のエピソードであります。


『原作愛蔵版 伊賀の影丸』第7巻(横山光輝 講談社KCデラックス) Amazon

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2020.05.23

栗原ちひろ『有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿』 生者と幽霊の交わるところに幽霊男爵が見るもの

 社交界で浮名を流す青年貴族エリオット――彼には「幽霊男爵」なる奇妙な通り名があった。美貌の忠僕コニーを供に、心霊絡みの噂があるところに現れては、心霊事件の陰のトリックを暴いていくエリオット。この世ならざるものを見る彼の瞳に映るものは……

 19世紀末英国――ヴィクトリア朝時代の英国というのはやはり魅力的に映るものか、我が国においてもこの時代を舞台とした物語は数多く発表されています。そこに新たに加わった何ともユニークな物語が本作です。

 博物学と美しい女性を愛し、悠々自適の生活を送る美貌の男爵エリオット。その彼がもう一つ愛するのは心霊的な事件――ロンドン中の心霊がらみの会には必ず顔を出すことから、ついた通り名が「幽霊男爵」であります。
 そんな彼がある日聞きつけたのは、あまりの恐ろしさの故に、終わった後に誰もその降霊会であったことを語らないという「沈黙の交霊会」。早速その交霊会に参加すべく手立てを探すエリオットですが――丁度そこに訪ねてきたのは、その交霊会でなくした、あるものを探して欲しいという若い女性でした。

 主催者も、出席者も、その場で何があったかも、なくしたものが何かも語れないが、場所は案内できるという彼女に導かれ、交霊会に向かったエリオットを待つものは……


 そんな第1話「交霊会と消えた婚約指輪の謎」に始まる、短編連作スタイルの本作。幽霊を生者のようにはっきりと見る力を持つエリオットが、サーカス出身の美少年ボーイ・コニー(エリオットほどではないにせよ見える少年)をお供に、様々な怪奇事件に挑む姿が、全5話で描かれることになります。

 関係者が次々と死を遂げ、周囲で怪現象が頻発するというミイラの解包ショーの謎に挑む「ミイラの呪いと骨の伝言」
 自分同様に見る力を持つ少女との出会いをきっかけに、無数の子供たちの幽霊が集まる修道院跡に潜む陰惨な過去を探る「修道院の謎と愛の誓い」
 親友の誘いがきっかけで訪れた、女性のヒステリー治療法を開発したという精神病院で思わぬ危機に遭遇する「病める人々と癒やしの手」
 休暇をもらったコニーが、幽霊が子供を攫うという劇場を訪れたことで巻き込まれた事件と、彼の過去を描く「天井桟敷の天使たち」

 これらのエピソードに共通するのは、生者と幽霊、それぞれの存在と思惑が絡み合い、複雑な事件を生み出していることでしょう。
 幽霊をダシにインチキを仕掛ける者たちを許さないエリオットですが、その背後には本物の幽霊が関わっていたり、あるいは幽霊たちが関わる事件に生者の存在が絡んでいたり――そんな事件の数々を、エリオットがその目と頭脳で挑む姿は、ホラーとして、そしてミステリとして、独特の魅力を持ちます。

 そんなわけでホラーミステリ(ミステリホラー?)が大好物の私には堪らない作品なのですが――その中でも特に強烈な印象を残したのは(上記のスタイルとは微妙に外れる部分もあるのですが)第3話です。
 子供の幽霊(ゲストの見える少女・リリアンがこれを「天使」と無邪気に評するのも印象深い)が無数に集まる地というだけでもユニークなのに、その理由がまた強烈。そしてさらにそこで起きる別の怪奇現象に、複雑怪奇な因縁が潜んで――と実に盛りだくさんなホラー+ミステリの逸品なのです。
(クライマックスで明かされる、本作ならではの「トリック」もお見事!)


 そんな本作は、きっちりとホラーの味わいを出しつつも、それでいてエリオットのキャラクターの面白さもあり、どこか軽妙で長閑さすら感じさせるムードもあるのが、また巧みと感じるのですが――しかしそれだけで終わらないのが、本作の最大の魅力であります。

 上で述べたとおり、本作で描かれるのは、幽霊が絡みつつもあくまでも現実の事件――そこで描かれるのは、実に「生々しい」人間の欲望や情念、そしてその犠牲になった人々、翻弄された人々の姿であります。
 そう、本作はライトミステリ的な要素を持ちつつ、そこで描かれるものは極めて重く、苦いものであります。そしてそれは、例えば第4話のように、この時代ならではの――しかし現代にもそれは形を変えて残っているようなものであることが、また印象的なのです。

 それはまた、エリオットやコニーの壮絶な過去にもまた関わるものでもあります。しかしだからこそ、それを背負い、そしてそこから自分の「生」の意味を見出すために、数々の「死」にまつわる事件に挑むエリオットの姿が眩しく、そして優しく感じられるのもまた事実であります。
 生者と幽霊の、生と死の交わるところに何が生まれるのか――幽霊男爵にはまだまだその大いなる謎に挑んでいただきたいものです。


『有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿』(栗原ちひろ 集英社オレンジ文庫) Amazon

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2020.05.22

高橋留美子『MAO』第4巻 現代-大正-平安 1000年を結ぶ謎と呪い

 『犬夜叉』続編アニメ化が話題となりましたが、同じ作者の大正伝奇アクションも好調に巻を重ねて第4巻。関東大震災の業火の中で明らかになった因縁、そして平安時代の摩緒の兄弟子の出現と次々と新たな事実が判明する中、摩緒と菜花の戦いは続きます。

 関東大震災の混乱の最中、封印から解かれた猫鬼の呪いを受けながらも、その器として生かされたことが明らかになった菜花。
 その一方、摩緒の前には数百年前――彼が呪禁道を継ぐ御降家で修行中だった頃の兄弟子・百火が現れ、摩緒が師匠の娘・紗那を殺したと詰るのでした。

 御降家の弟子の中でも末席でありながら、紗那の婿に選ばれ、破軍星の太刀を与えられた摩緒。しかしその実、彼は御降家に伝わる呪禁の秘宝の後継者選びの生贄として――百火をはじめとする五人の弟子のターゲットとされていたのであります。
 お人好しの百火とは和解(?)した摩緒ですが、しかし残るのは幾つもの謎。紗那を殺したのは本当に摩緒なのか、百火が不死身――いや死んでも生き返ってしまう理由は何なのか。そしてその他の兄弟子たちはどこにいるのか……


 と、現代と大正の約90年どころか、大正と平安の約900年にもわたるスケールの伝奇ものとしての色彩を強めてきた本作。
 最大の敵と思われた猫鬼もある意味何者かに利用された存在であり――その意味では、摩緒だけでなく菜花も利用されていることになります。それが何者かはまだわかりませんが――この巻で描かれるのは、新たな兄弟子(と思われる者)との戦いの始まりであります。

 前巻ラストで登場した、慇懃無礼な美青年・朽縄。植物を自在に操る彼の正体は、やはり摩緒の兄弟子、木属性の陰陽師である華紋でありました。
 今はその術を用いて殺し屋紛いのことまでして暮らす華紋と、摩緒たちとの戦いが始まるか――と思いきや万事拘りの薄そうな華紋はあっさりと摩緒を見逃し、その場は収まったのですが、しかしすぐに襲いかかる新たな敵。何者かが式神を使役して人々を次々と蛙人間に変え、摩緒と百火を襲撃してきたのであります。

 これを退けて新たな攻撃を迎え撃つ摩緒の前に現れたのは、悍ましい姿をした巨大な魔物。そしてその正体は――兄弟子ではない!?
 という捻りも面白いのですが、ここで語られるのは、平安時代の御降家にまつわる更なる謎。果たして御降家を――摩緒を真に狙い、害しようとしているのは何者なのか? 状況は、いよいよますます混沌としてきました。

 そんな中で、菜花はともかく摩緒が受け身の状態になっているのが気になるところですが――強気ヘタレとも言うべき百火のような面白いキャラクターも登場したことでもあり、ここからの更なる盛り上がりに期待したいと思います。


『MAO』第4巻(高橋留美子 小学館少年サンデーコミックス) Amazon

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2020.05.21

和月伸宏『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚・北海道編』第4巻 尋問試合!? 次なる実検戦闘は何処

 この夏に実写映画完結編を控えた『るろうに剣心』の続編たる『北海道編』も気が付いてみればもう第4巻。正体は判明したものの、いまだその全貌を見せない劍客兵器に対し、剣心たちも助っ人を召集。いよいよ全面対決か――という前に、捕らえた劍客兵器への尋問が始まるのですが……

 元寇の際に戦った鎌倉武士を源流とし、歴史の陰でその力を蓄えてきたという武装集団・劍客兵器。「実検戦闘」の第一弾として箱館山を襲った一団の将たる凍座白也は捕らえたものの、斎藤一は凍座との戦いで傷を負い、剣心は歴戦の影響で体力が著しく落ちた状況であります。

 そんな中で、想像以上の規模を持つ劍客兵器に立ち向かうため召集されたのは、過去の恩讐を超えたドリームチーム――すなわち杉村義衛こと永倉新八、もと十本刀の悠久山安慈と瀬田宗次郎、さらに沢下条張・本条鎌足・刈羽蝙也の面々。
 役者は揃った! と言いたいところですが、しかし劍客兵器は神出鬼没。その全貌は、次の実検戦闘の舞台は――それを知らずしてはいかに戦力が整っても戦いはできません。

 そこで凍座を尋問することとなった剣心たちですが――しかしそこで凍座が指定した条件というのが奇っ怪至極。何しろ、自分と剣心が手合わせしている最中に限り、尋問を許すというのですから。
 かくて始まるのは、剣心と凍座の奇妙な戦い。完全に倒してしまっては話は聞き出せず、かといって斎藤一を苦しめた相手を、手を抜きながら戦えるとも思えない。一方の凍座の方も、一応は囚われの身でどこまで力を発揮できるものか……

 お互いハンデを背負ったこの状態、一歩間違えればとんでもない塩試合になりかねませんが、これが妙な(?)形で噛み合い、戦いは白熱することになります。
 相手の闘いに於ける本質が動物や神魔の姿で視えるという「闘姿」なる能力(?)を持ち、未だ正体のわからぬ異常なまでの頑丈さと膂力を発揮する凍座。そんな相手に如何に剣心とて手を抜くわけにはいかず、ちょっと大人げない大技ラッシュ!

 いやいやこれは尋問ではないのですか、とつっこむ間もなく繰り広げられる技の応酬の末、剣心たちが掴んだ次なる実検戦闘の場とは、なんと二箇所……


 というわけでチームを二つ、いや待機組も含めて三つに分けることとなった剣心。その中で剣心・左之助・アの三馬鹿こと明日郎・阿爛・旭の三人が向かう先は小樽であります。

 そしてニシン漁で沸き立つ彼の地で彼らを待っていたのは、思いもよらぬ事態で――と、これが実検戦闘に関わるかはまだわからないものの(関わらないとは思えませんが)、これまでとは全く異なる、搦め手とも何とも言いがたい展開には少々驚きました。
 剣心vs凍座の尋問試合の剛速球ぶり(もちろんこちらもシチュエーションはかなり変則なのですが)に比べて、この辺りのきっちりギャグも交えて変化球を投じてくる硬軟の使い分けには、やはり巧いなあ――と感心させられるばかりであります。

 もっとも、これは些か気になってしまうのは、物語展開――というより発表ペースの遅れ(それと関連しますが、単行本ではさすがに修正されていたものの、連載時にはちょっと悪い意味で驚かされる仕上がりの回もあり)なのですが、こちらは腰を落ち着けて待つしかないのでしょう。
 少なくとも、待っただけのものは確実に見ることができる作品なのは間違いないのですから……


『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚・北海道編』第4巻(和月伸宏&黒碕薫 集英社ジャンプコミックス) Amazon

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 「るろうに剣心」完全版刊行開始によせて
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2020.05.20

川原正敏『龍帥の翼 史記・留侯世家異伝』第15巻 新たなる力と、史上に残る大敗北と

 劉邦の軍師・張良の戦いを描く『龍帥の翼 史記・留侯世家異伝』も、いよいよ劉邦と項羽の戦いが本格的に始まることとなります。次々と馳せ参じる群雄とともに快進撃を続け、ついに西楚の都・彭城に迫る劉邦ですが、しかしそこにはとんでもない陥穽が……

 韓信を得て漢中から脱出し、進撃を開始した劉邦。それを助けた張良は、一度劉邦の下を離れ、、韓王成から奪い取られた韓の地を見事に奪還。亡き成に勝利を捧げることになります。
 そしてそんな快進撃を続ける劉邦軍に、この巻の冒頭で新たな将が加わることになります。その名は陳平――本作では鴻門の会の際に、張良の言を受け容れて項羽の陣から脱しようとする劉邦を見逃し、恩を売った髭ダンディであります。

 項羽に対して各地で起きる反乱の一つを鎮圧した陳平ですが、降伏した相手が劉邦に寝返ってしまったことから、項羽の処罰を恐れ、身一つで逃亡。以前の縁(恩)を頼って劉邦の下に走ったのであります。
 この辺りの身の処し方を機敏と見るか、調子が良いと見るかはそれぞれですが、しかし謀士としての才は本物なのでしょう。韓信に続き、ここに劉邦は、また一人巨大な力を手にしたといえます。

 ……が、この陳平、どうにも緊張感がないというか、すっとぼけているというか、これまでにいなかったタイプのキャラクター。
 この巻の冒頭で登場した時の「あ~それは困った事になりましたねぇ」という口半開きにした表情の面白さ――そして何よりも、渡し舟で懐のものを狙われ、自分の無一物っぷりを示すために全裸で高笑いしながら(何故)船を漕ぐ姿のインパクトは、彼が色々な意味で只者ではないことをはっきりと示していると言えるでしょう。
(記録に残る史上初の全裸中年男性として――と言いたいところですが、陳平は生年不明なのが残念)


 さて、そんなわけでいよいよ戦力を増していくのに加え、張良の策によって(史記の記載の矛盾を拾って巧みにアレンジしてみせるのが見事)楚の諸将の動きを封じ、項羽が出陣した不在の彭城を奪取した劉邦。
 しかし、この巻に入ってから心配になるくらい死相が出ていた張良は入城直後にダウン――これが大変な事態を引き起こすのは、歴史が示すとおりであります。

 あまりの大勝に気が緩み、略奪と酒池肉林に明け暮れる漢軍。そんな中でも韓信のみは万一のためにそんな乱痴気騒ぎから距離を置いていたのはさすがですが――しかし焼け石に水としか言いようがありません。
 ようやく復活し、韓信の戦力は温存しつつ、戦う前から敗北が決定した戦いを生き延びる策を練る張良。しかし「その日」は予想よりも遙かに早く訪れて……

 というわけで、ここから始まる項羽の大逆襲。彭城に集結した漢軍五十六万に対し、項羽がかき集めた楚軍は僅か三万。しかし戦いを決めるのは数だけではないことを、ここから項羽は証明することになります。
 これまでもその恐るべき狂気と兇気によって周囲を巻き込み、考えられないような戦果を挙げてきた覇王・項羽。その怒りが頂点に達した状態の項羽が、油断しきっていた漢軍に突入してくればどうなるか――火を見るより明らかでしょう。

 「死にたい奴はかかって来い」「ま・・死にたくなくとも殺すがな!!」と強烈な言葉とともに襲いかかる項羽を、果たして万全の状態でも阻むことは出来たかどうか――十万の戦死者が決してオーバーに思えない項羽の説得力は、まさしく本作の収穫の一つでしょう。


 かくして史上に残る大敗北を喫した漢軍。辛うじて項羽の追撃を逃れたものの、果たして最後まで逃げ切ることができるのか、そしてその先に逆襲の目はあるのか――まだまだ張良は楽になれそうもありません。


『龍帥の翼 史記・留侯世家異伝』第15巻(川原正敏 講談社月刊少年マガジンコミックス) Amazon

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2020.05.19

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第20巻 人間と鬼と――肉体と精神の二つの地獄絵図

 ついに連載の方は大団円を迎えた『鬼滅の刃』ですが、単行本はいよいよ無限城決戦もクライマックスに突入――上弦の壱・黒死牟との戦いが一巻丸ごと使って描かれることとなります。挑むは四人の鬼殺隊士――それもそのうち三人は柱。しかし最強の敵との戦いは終わらぬ地獄絵図の様相を呈することに……

 猗窩座と童磨を倒し、鬼舞辻無惨まで残るは実質黒死牟のみ、という状況まで追い込んだ鬼殺隊ですが――しかしついに出陣した黒死牟の実力は、まさしく次元が違うとしかいいようがありません。
 柱の中でも屈指の実力者である霞柱・時透無一郎の片腕を一瞬のうちに奪い、駆けつけた不死川玄弥を両断。さらに怒れる風柱・不死川実弥、鬼殺隊最強の岩柱・悲鳴嶼行冥という二人を相手にしながらも完全に優位に戦いを進めるのですから、その力を何と評すべきか……

 それもそのはず――と言うべきか、人間であった頃の黒死牟は月の呼吸の剣士にして痣を持つ者。炭治郎が死闘の中で会得した「透明な世界」にも目覚めており、さらに血鬼術で自らの刀の伸ばした上に幾本もの刃を生やし、そしてその上――と、書いているこちらの方が厭になるような異常な力の持ち主であります。
 そんな相手が刀から無数の三日月状の刃を飛ばしてくる様は、剣戟というよりももはや弾幕シューティングゲーム。回避するのもやっとの状態で、弱点を斬るどころか、どうすれば相手に攻撃できるのかすらわからない――そんな悪夢のような状況なのです。


 そしてこの死闘の最中に徐々に明らかになっていくのは、黒死牟の過去――そして日の呼吸の剣士の過去。黒死牟の人間であった頃の名は継国巌勝、そして日の呼吸の剣士の名は継国縁壱――そう、二人は双子の兄弟だったのであります。
 名のある武士の家に生まれながらも、嫡男として何不自由なく暮らす巌勝と、忌むべき子として寺で生涯を終える運命が待つ縁壱。しかし巌勝がある日知ることになったのは、下に見ていた弟が、剣技をはじめ、全てにおいて自分よりも遙かに勝る存在であったことで……

 ある意味、本作を本作たらしめているとも言うべき、「鬼」の設定――すなわち「鬼」がかつては「人間」であったという事実。
 それは、鬼が単なる倒すべき人外の異物などではなく、かつては我々と同じ人間、鬼に変わらずにはいられなかった人間であることを示すものであり――そして戦いの最中に、あるいは結末で語られるその事実は、物語に大きなドラマ性を与えているといえるでしょう。

 そしてここで語られる黒死牟の、巌勝の過去は――形の上では、自分よりも遙かに勝る弟に嫉妬した末、自らの敵である無惨の軍門に降り、かつての同胞を次々と手にかけた、まさしく人でなしのそれといえるかもしれません。
 しかし、その弟が、生まれながらにして異常な力を持つ天才――いや、人間の枠を大きくはみ出た超人の如き存在であったとしたら。にもかかわらずそれを鼻にかけることなく、それどころか兄である自分を一心に敬愛していたとしたら……

 そんな弟を前に自分が自分であるためには、「鬼」に――弟がその側に立つ「人間」とは違う存在にならなければならない。そう考えてしまった巌勝は、もちろんどこかで決定的に間違えてはいるのでしょう。
 しかしそれでは彼はどうするべきであったのか。肉親の情愛と、それとは裏返しの嫉妬――極めて人間的な感情が、最強の鬼を生み出してしまったという事実は、何とも苦いものを感じさせるのです。


 多くの血が流れ、幾人もの命が喪われたという肉体的なものだけでなく、人間であることの苦しみと哀しみという精神的なもの――二つの地獄絵図が描かれたこの巻。
 ある意味、これまでで最も読むのが辛い巻であった――つくづくそう感じます。


『鬼滅の刃』第20巻(吾峠呼世晴 集英社ジャンプコミックス) Amazon

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 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第16巻 哀しき巨人・岩柱の過去 そして最終決戦の幕上がる!
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第17巻 決戦無限城、続く因縁の対決
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第18巻 鬼の過去と、人の因縁と
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第19巻 人と人の絆の勝利 そして地獄の始まり

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2020.05.18

「コミック乱ツインズ」2020年6月号(その二)

 「コミック乱ツインズ」6月号の紹介の後編であります。

『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
 東北の動乱、そして伊達家のお家騒動を収め、ついに秀吉と対面を果たすこととなった政宗。しかし相手は天下人、選択を一歩誤れば、政宗はおろか、伊達家そのものが――という状況であります。
 さて現れた秀吉の言葉は――というわけでついに秀吉が本格的に登場したわけですが、その対面の模様は、ほぼ「史実」どおりに描かれることになります。

 その意味ではあまり意外性はありませんが、しかしあの有名な政宗の白装束をネタにとんでもないギャグを入れてきたり、秀吉の仕打ちに対して人間的な成長を見せる政宗(とどさくさに紛れてアピールかます景綱)など、アレンジの加え方はいつものことながら巧みであります。
 また、いかにも傲慢な天下人然とした態度を見せる秀吉が、年を取って偉くなってもやっぱり「あの」秀吉なのだなあ――と思わされるくだりは、あちらの作品のファンとしては大いにホッとさせられました。

 そして、その秀吉に対して政宗が語る東北の姿とは――次回最終回となっても驚かない盛り上がりぶりであります。


『いちげき』(松本次郎&永井義男)
 単行本第6巻発売&最終章突入ということでセンターカラーの今回。相楽総三暗殺の最終作戦に失敗して一撃必殺隊の大部分は壊滅、隊の抹殺を狙う勝が送り込んだ隠密によって指揮官を失い、友も失った丑五郎。もはや帰る家もない彼は、唯一残ったソノに会うため女郎屋に向かうも、そこには宿敵の薩摩藩士・伊牟田が……
 と、牛五郎の最後の戦いが描かれるであろうこの最終章。導入となる今回は、その大部分を費やして、女郎屋に立て籠もった伊牟田が生み出した惨状が描かれることになります。

 自らも戦いの中で数多くのものを失い、そして深手を負って命も遠からず尽きる伊牟田。その彼が女郎屋で追っ手の薩摩藩士を相手に繰り広げた大立ち回りの凄まじさは、まさしく死屍累々という言葉が似合うほどであります。その惨状が、丑五郎が一歩一歩確認しながら奥に進むに連れて描かれていく様はただ圧巻と言うべきでしょう。
(ただ一人生かされてその惨劇を目の当たりにしたソノが、尋常なようで訳のわからないことを口走る辺りの厭なリアリティ……)

 しかし今回何よりも印象に残るのは、丑五郎と伊牟田の顔に浮かんだ「死相」の凄まじさでしょう。女郎屋の外で丑五郎を呼び止めた益満の「人は心労がたたり精も根も尽きると特徴的な人相になる」という言葉をこの上もなく再現してみせた二人の表情には言葉を失います(と、当の益満も周囲からそう思われているのが笑える)。
 果たして死相を浮かべた二人の対決の行方は――どちらに転んでもただで済むはずがありません。


『カムヤライド』(久正人)
 ヤマトに侵入したアマツ・ノリットとアマツ・ミラールの二人に対し、それぞれ戦いを挑むカムヤライドとオトタチバナ・メタルの二大戦士。しかし幹部格の敵を相手にしては彼らも分が悪く、一度は相手の力を封じたかに見えたものの、反撃によって二人は深手を負うことになります。果たして二人の、ヤマトの運命は……
 と、猛烈に盛り上がってきたヤマト編。これはもうパワーアップでもしなくて無理なのではないか、という状況ですが、しかしそんな安直な展開ではなく、人間の底力を――それも二人ではなく、周囲の人々が見せる流れとなるのがたまりません。

 アマツ・ノリットの見えない攻撃の正体はわかったものの、それを打ち破る手段を見いだせず大苦戦を強いられるモンコ(そもそもあれが応急処置になるのかしら)。そんな彼を救ったものは――ここでこう来たか、という展開ですが、これが実に熱い。いつの世もヒーローが孤独に戦う姿は良いものですが、それが人々に受け入れられた姿というのは、さらに良いものであります。

 一方、アマツ・ミラール戦では、深手を負ったオトタチバナに代わり、ヤマトタケルが黒盾隊を率いて大反撃。技のカムヤライド、力のオトタチバナに対して、知のヤマトタケルという印象ですが、これまでの死闘を糧にした彼の成長が窺える姿は、オトタチバナも惚れること間違いなしでしょう。
 そしてそんなヤマトタケルがミラールに見事な一撃を放つものの、しかし――と、まだまだ波乱含みの展開は続きます。


 次号は表紙は『鬼役』、巻頭カラーは『勘定吟味役異聞』、隔月連載の『はんなり半次郎』が登場とのこと。


「コミック乱ツインズ」2020年6月号(リイド社) Amazon


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2020.05.17

「コミック乱ツインズ」2020年6月号(その一)

 号数の上では今年ももう半分過ぎたことになる「コミック乱ツインズ」誌、表紙&巻頭カラーは単行本第7巻が発売された『仕掛人 藤枝梅安』、センターカラーは同じく第6巻が発売された『いちげき』であります。掲載作品はレギュラー陣のみですが、今号はかなりの充実ぶりという印象であります。

『仕掛人 藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 梅安vs白子屋の激突を描く「梅安乱れ雲」編もこれで第3話、冒頭でようやく彦さんが登場して安心しましたが、メインとなるのはようやく出会った梅安と小杉さんであります。

 出会うなり痛烈な顔面パンチを食らわせる梅安ですが、これも友を思うが故。暴走する小杉さんを引き留めて、のんびり二人で温泉に浸かりながら江戸に帰ることにした梅安ですが――そこに忍び寄るのは山城屋の配下五人であります。
 呑気に温泉に浸かっていて丸腰どころか丸裸の状態では、さしもの手練れ二人も大ピンチ――というところで次回に続きます。

 ところで二人で温泉といえば思い出すのは(思い出すな)、一部で話題の白子屋の刺客カップル・北山&田島ですが、故あって今月は別行動。これが後々思わぬ事態を招くのです――それはまた今後のお楽しみであります。


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 本人の任とはほとんど無関係なところで、将軍位を巡って紀伊と尾張で繰り広げられる暗闘に巻き込まれることになった聡四郎。しかし今回正式に白石からの命で尾張吉通を暗殺した側女と側用人を追うことになるのですが――やはりどう考えても勘定吟味役の任ではないものの、何はともあれ(紀文たちが密かについてきたとも知らず)京都出張へ……

 と、聡四郎の出立とほぼ時同じくして江戸で荒れ狂うのは鬼伝斎の邪剣。次々と道場破り――というより道場潰しを繰り返す鬼伝斎に、ついに無手斎は果たし状を叩きつけ、最後の戦いに臨むことになります。
 ここで印象に残るのは、決闘の前に相模屋を訪れた無手斎を前にした紅さんの応対。死闘を目前に控えた相手への細やかな気遣いはさすがというべきで、師も弟子の嫁と太鼓判を押すのももっともだと思います。
(しかしこの会話が、ある意味今後の伏線ではあるのですが……)


『軍鶏侍』(山本康人&野口卓)
 軍鶏侍最初の活躍の相手であった親友・秋山精十郎の忘れ形見・園に仇として刃を向けられた源大夫――という場面から始まった今回ですが、源大夫がこれくらいで動じるはずもなく、むしろ園の方が躊躇い、刃を引くことに。
 そしてその園の前に現れたのは、(おそらく前回「凄腕の刺客」とだけ呼ばれていた)秋山家からの刺客。ポッと出のわりには異常に強く、丁寧な口調でキャラ立ちしたこの刺客は、園を子供扱いすると源大夫に挑戦を……

 というわけで源大夫が女性に刃を向けるはずもなく、源大夫が秘剣「蹴殺し」を披露するのは刺客相手となった今回。弟子二人に秘剣の正体を教えつつ、真剣勝負に臨むという余裕っぷりですが、ここで描かれる秘剣の姿にはなるほど、と思わされます。
 が、むしろ源大夫の教えはここから。一般に剣豪ものであれば何よりも尊ばれる「秘剣」を、彼は何と評したか……その内容には大いに唸らされましたし、今回の結末の爽やかさも、そんな源大夫の精神性ゆえと言ってよいのでしょう。


 次回に続きます。


「コミック乱ツインズ」2020年6月号(リイド社) Amazon


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2020.05.16

6月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 人類史上初めて――というのも大袈裟ではないくらい(大袈裟)外出しなかったゴールデンウィークも終わりました。日常と非日常が渾然とした毎日が続きますが、それだからこそ純然たる非日常の世界に遊びたい――というわけで、6月の時代伝奇アイテム発売スケジュールです。

 しかしこのご時世、出版関係は色々と大変なのでは――と心配してしまうのですが、6月はそれなりに新刊も多く一安心。

 文庫小説では、まず廣嶋玲子の人気シリーズもついに二桁の大台に突入の『妖怪の子預かります 10 千弥の秋、弥助の冬』が楽しみなところ。
 また、ハヤカワ時代ミステリ文庫の倉本由布『寄り添い花火 薫と芽衣の事件帖』、冬月剣太郎『陰仕え 石川紋四郎 2 掟破り』と刊行が続きます。

 その他、内容は不明ですが作者的に期待の三好昌子『むじな屋語蔵 世迷い蝶次』、文豪ブームもここまで来た!?の田中啓文『文豪宮本武蔵』も要チェックです。

 一方、文庫化・再刊では何と言っても今村翔吾『童の神』。平安伝奇の力作が早くも文庫化です。
 ほかにも、宮部みゆき『あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続』、柴田錬三郎『眠狂四郎虚無日誌』上下巻と新旧の名作が並びますが――驚かされるのは横田順彌『幻綺行 完全版』。単行本未収録作品も加えた完全版とのことです。

 また、日本文藝家協会『時代小説 ザ・ベスト2020(仮)』も要チェックでしょう。
 もう一つ、これは個人的な趣味の範疇ですが、私が最も愛する古典ホラー作家、M・R・ジェイムズの作品集が南條竹則訳で登場する『消えた心臓/マグヌス伯爵 好古家の怪談集』は非常に楽しみです。


 そして漫画の方では、野田サトル『ゴールデンカムイ』第22巻と山口貴由『衛府の七忍』第9巻が大いに楽しみなところ。
 そのほかにも賀来ゆうじ『地獄楽』第10巻、さいとうちほ『輝夜伝』第5巻、皆川亮二『海王ダンテ』第10巻と、数は多くないものの、注目作品の最新巻が並びます。

 また、完結作品では吉川景都『鬼を飼う』第7巻と、(5月発売予定だった)伊藤正臣『恋とマコトと浅葱色』第3巻が刊行。寂しいですが結末を見守りたいと思います。


 というわけで、来月も虚構を武器に現実に立ち向かいたいと思います。



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2020.05.15

久正人『ジャバウォッキー』第3-4巻 アダムの肋骨、切り裂きジャック――恐竜伝奇絶好調!

 人間の美女と恐竜のナイスガイのコンビが、歴史の背後に蠢く恐竜たちの陰謀に挑む『ジャバウォッキー』も、この第3巻・第4巻まで来ると完全にエンジン全開――歴史上の人物・事件を絡めた奇怪かつ意外な「真実」と、スタイリッシュなアクションの連発に酔いしれるほかありません。

 ある任務の最中、恐竜たちが絶滅することなく、二足歩行に進化して人類史の裏側で暗躍していたことを知った英国情報部員のリリー。人類と恐竜の架け橋として活動する「イフの城」のエージェントにして恐竜のガンマン・サバタに命を救われたリリーは、サバタとともに様々な事件に挑むことに……
 という基本設定で展開する本作、第3巻では、生まれたばかりの毛沢東暗殺を狙う清朝の暗殺者・ミクロラプトルの女王と対決する「RED STAR」の事件を冒頭で解決し、メインとなるのは「ADAMS RIB」――すなわちアダムの肋骨にまつわる事件です。

 トロイの遺跡を発掘したことがきっかけで、ピンカートン探偵社に命を狙われるハインリヒ・シュリーマン。
 アメリカ政府の要請でトロイ遺跡を発掘したシュリーマンですが、発掘の最中に最初の恐竜エオラ(人間語でアダム)の肋骨――すなわち旧約聖書が恐竜たちの伝説の焼き直しである証拠――発見してしまった彼は、イフの城に保護を求めてきたのであります。

 ピンカートン探偵社のメンバー(複数いるのに全員同じ名前で呼び合うのが楽しい)を蹴散らし、シュリーマンを保護したリリーとサバタ。しかしアロサウルスのガンマン・ジャンゴの狙撃によってシュリーマンは死亡、アダムの肋骨も奪われることになります。
 実はジャンゴこそはかつてサバタの妹を殺し、彼の右手を奪った(そしてお返しにサバタに左目を奪われた)男――そしてイフの城の宿敵である恐竜たちの狂信者集団・有翼の蛇教団のメンバー。宿敵を倒し、アダムの肋骨を奪い返すため、リリーとサバタは傷を負った身を押して、敵地に乗り込むことに……

 と、二重の意味で宿敵が登場し、作品全体としても大きな意味を持つこのエピソードですが、しかし物語としても負けていない伝奇強度(?)を持っているのが楽しいところでしょう。
 何しろゲストがあのシュリーマン(それも本作ならではのとびきりエキセントリックなキャラ)であるだけでも嬉しいのに、メインとなるのがアダムの肋骨というとんでもない大ネタ。もちろん本作に登場してただで済まされるはずもなく、どちらも大変な扱いになるのですが――神も悪魔もあるものか、なリリーとサバタの活躍は痛快の一言であります。


 そして第4巻では、ロンドンを舞台にこれまた有名人の切り裂きジャック、そしてナイチンゲールという意外な顔合わせが実現する「ONE FOR THE ROAD」が収録されています。
 イフの城の連絡員であるプロトケラトプスのアボラ・サンダ(……)の、切り裂きジャックの正体はヴェロキラプトルのバニラス・ガイラ(……)という報により、ロンドンにやってきたリリーとサバタ。

 ロンドン地下恐竜街の住人であったガイラを追う二人ですが、死を装って英国情報部を抜けてきたリリーにとって、いまやロンドンは敵地同然。しかも切り裂きジャックを追って動き出した情報部が送り込んできたのは、実はスパイであったフローレンス・ナイチンゲールその人だったのであります。
 しかもリリーにとってナイチンゲールは様々な形で因縁深い人物。思わぬ強敵に動揺を隠せないリリーですが……

 と、前回のサバタの側の因縁に対して、リリーの側の因縁が描かれる今回。舞台となる1890年のナイチンゲールは既に老人ですが、ここに登場するのはやはり本作らしく凶悪にパワーアップされた怪人であります。
 なるほど、因縁抜きにしてもリリーが手こずるわけだ――と思いきや、思いもよらぬ泣かせが用意されているのも、クールなようで熱い展開の多い本作らしいと感じます。
(にしても今回、ジャックの声明文のミスや5番目の殺人の時差まで題材になっているのには、改めて感心させられます)

 しかし個人的にそれに負けぬほど印象的だったのは、人間に圧倒されたロンドンの恐竜たちが潜む地下恐竜街の姿であります。
 元々切り裂きジャックが跳梁したイーストエンドは、ロンドンでも貧民街として知られる地域ですが――ここで描かれる地下恐竜街は、それをさらにカリカチュアしたような、まさしく最暗黒の倫敦。

 かつての地球の覇者であり、人間同様の知性を持つ恐竜たちが泥にまみれてのたうつ姿には、何とも暗澹たる想いを抱かされるものがあり――リリーとサバタの前に立ちはだかる恐竜たちの背負うものの大きさというものを、すなわち本作が内包するものを、改めて感じさせられるところであります。


『ジャバウォッキー』(久正人 泰文堂アース・スターコミックス) 第3巻 Amazon / 第4巻 Amazon

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2020.05.14

清原なつの『飛鳥昔語り』 有間皇子と我々の青春の痛み、そして悲劇の先の小さな救い

 日本の古代史上でも悲劇として知られる有間皇子の最期。その有間皇子の生涯を題材とした、大ベテラン漫画家の初期の名作歴史――SF漫画であります。

 孝徳天皇の皇子として生まれた有間皇子。しかし父帝は甥の中大兄皇子(後の天智天皇)と対立、帝が遷都した難波宮から中大兄皇子や廷臣たちさらには皇后までもが去り、失意の中で亡くなることとなります。
 残された有間皇子は、政争に巻き込まれることを恐れて心の病を装っていたものの、中大兄皇子の意を受けて近づいてきた蘇我赤兄にのせられて挙兵、しかし計画は事前に露見し、19歳にして絞首刑に処された……

 本作は、そんな有間皇子の生涯を、一点を除いてほぼ忠実に描く物語ではありますが――そのタッチはあくまでもギャグ交じりで軽妙。現代語もひょいひょいと混じり、悲壮感をさして感じさせずに物語は展開していくことになります。
 しかしそれはあくまでも表向きのこと。本作はまた異なる形で、有間皇子の悲しみを描くのです。


 心の病を装っている最中、可憐な渡来人の少女・沙羅と出会った皇子。
 自分の身を守るためとはいえ、狂気の陰に本来の自分を隠してきた皇子にとって、大和の権力争いとは無関係であり、純粋無垢な沙羅の存在は、大きな救いとして感じられるようになるのでした。

 しかしそんな彼女すら、時に疑いの目で見ていることに耐えきれなくなっていく皇子。いつ終わるとも知れぬ疑いの日々に終止符を打つため、皇子は正気に戻ることを決意するのですが……

 先に述べた通り、心の病を装って周囲から自分の身を守ってきたものを、途中でかなぐり捨てて蜂起し、失敗した皇子。それは蘇我赤兄にのせられたとはいえ、勝算を持って――そして野心を持って――行ったものであろうと想像できます。
 しかし本作の皇子は、勝算などないことは理解の上で、狂気の仮面を捨てることを選ぶのです。周囲を疑い続けることを止めるために――そして何よりも、本当の自分であるために。


 私の手元にあるのは、ハヤカワコミック文庫版の単行本ですが、同書に収録されている本作以外の作品はほとんどが現代ものですが、これらの作品に共通するのは、いずれも青春の喜びと悲しみ、輝きと痛み――自分が自分らしく、自分の心のままに生きようとした時に出会うそれらの感情であると感じます。

 そして現代から遠く離れた古代を描いた本作においても、それは変わらないといえるでしょう。自分が自分らしく生きたい、自分が愛する者と正面から向き合いたい――そんないかにも若者らしい想いに突き動かされる皇子の姿は、本書の他の作品の若者たちの姿と、更に言えばそれに共感を抱く我々読者の姿と、何ら変わることがないと感じます。

 そしてそれは、本作が名作として多くの人々に愛されている所以(の一つ)なのではないでしょうか


 しかし、皇子のその選択の結果は、青春の痛み、などという詩的な言葉では済まされないものがあることは言うまでもありません。何しろその代償は、彼自身の命なのですから。
 そして本作はその結末をどのように描いてみせるのか――と思いきや、そこに待っているのは全く思いもよらぬ飛躍。なるほど、冒頭の引用にはそんな意味が――と、驚いたり呆れたり、そして何よりも嬉しくなったり……

 青春の悲劇の先の小さな(?)救いが、何とも心地よい後味をもたらしてくれる名品であります。


『飛鳥昔語り』(清原なつの ハヤカワコミック文庫) Amazon

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2020.05.13

久正人『カムヤライド』第3巻 激突二大ヒーロー! そして敵幹部襲来!!

 日本最古の変身ヒーローアクション漫画も第3巻――表紙の方はフェティッシュにもほどがありますが、物語の方はいよいよ佳境、驚くべき事実が次々と明かされるヤマト編に突入であります。紆余曲折を経てヤマトに到着したモンコを待ち受けるものとは、そして迫り来るものとは……

 出雲に次いでモンコたちが訪れた難波の湊に出現した国津神を粉砕した第二のヒーロー、ヤマトの精鋭・黒盾隊の隊長・オトタチバナが変身する黒金の戦士オトタチバナ・メタル。
 モンコとは全く異なる戦闘スタイルのオトタチバナですが、その矛先はモンコとヤマトタケルにまで向かい、KOされた二人は緊縛スタイルでヤマトに連行されることに……

 というわけで辱め担当のヤマトタケルだけでなく、モンコまで縛りを入れられてのヤマト入りとなりましたが、もちろん皇子がいつまでも縛られているはずもなく、早々に解き放たれた二人。
 そして大王への献上品を作るために、モンコはハジ一族の工房に向かうのですが――そこに現れたのは何処かで見たような名前と顔の男・トレホ! 

 というのはさておき、モンコの顔を見たトレホは驚愕の表情を浮かべます。そしてその驚きは、オシロワケ大王も同様に、そしてより強い形で示すことになります。「ノミの宿禰」という名前とともに!


 と、この巻の最大のサプライズが、ついに明かされた(?)モンコの正体。モンコが何故カムヤライドに変身できるのか、そもそも彼は何者なのか――それはこれまで伏せられてきましたが、その後者の謎の一端が、ここで明かされたことになります。

 しかし言われてみれば埴輪の生みの親であり、そして蹴りを主体としたファイトスタイルとすれば、なるほど土師氏の祖にして埴輪の生みの親――そして当麻蹴速と蹴り合いの末に踏み殺した野見宿禰以外にはいないでしょう。
 連載時にこのくだりを目にした時、何故気付けなかったか――と口惜しく感じた気持ちが甦ります(もっとも、ヤマトタケルと野見宿禰は、記紀の上ではかなり時代的に離れているのですが……)

 何はともあれ、ここから展開するのは、再びノミの宿禰の、すなわちモンコの命を奪おうという大王の命を受けたオトタチバナとモンコの――オトタチバナ・メタルとカムヤライドの二大ヒーローの激突。
 技のカムヤライドと力のオトタチバナ・メタル――史上最古のヒーロー同士のバトルの行方も気になりますが、それだけでは終わりません。

 そこに襲来したのはさらに恐るべき敵、あのウズメの同胞であるイシコリドメとコヤネ――ウズメと同様の強大な力を持つと思われる幹部クラスの魔人が、それも二人もヤマトに現れたのであります。


 実にこの第3巻の冒頭で描かれるのは、本拠地と思われる地に潜む彼ら――ウズメ、イシコリドメ、コヤネ、そしてタマノヤとフトタマの姿。
 それぞれに人間の姿を取りながらも、人間と異なるメンタリティを持つ彼らは、二百年前――天孫降臨の際に高千穂に落下し、人間たちに奪われたと思われる存在・ニ=ギの体を求めて暗躍していることが、ここで語られることになります。

 なるほど、彼らの名の元となった天鈿女命・石凝姥命・天児屋命・玉祖命・太玉命は、瓊瓊杵尊の天孫降臨に従った五伴緒と呼ばれる神々。先に述べた野見宿禰と同様、このような形で神話と平仄を合わせてくるとは――と驚かされるばかりです。

 しかし如何に神々(と同じ名の存在)が出現したとはいえ、「今」は神々の時代ではなく、人の時代。そしてヤマトはその人々が生きる地であり――カムヤライドがその境界を守る地であります。
 果たしてその地で、真の敵というべき相手と二大ヒーローがいかに戦うのか――これからの盛り上がりを期待するなという方が無理というものでしょう。


『カムヤライド』第3巻(久正人 リイド社乱コミックス) Amazon

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2020.05.12

須田狗一『慶喜公への斬奸状』 敗者が残したものが生む悲劇と皮肉

 明治43年、小石川で余生を過ごす徳川慶喜が散歩中に暴漢に襲われ、警備員がこれを射殺する事件が発生した。犯人の身元と動機を調べる小石川警察署の小川巡査部長は、男の懐にあった「遥光の斬奸状は天下の愚書である」を手掛かりに捜査を進めるが、次々と意外な事実が判明。さらに第2の殺人が……

 「島田荘司選 第9回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」受賞作でデビューした作者の第2作目は、明治末の徳川慶喜を題材とした歴史ミステリであります。
 徳川慶喜といえば、言うまでもなく徳川幕府第15代、最後の将軍。そしてその慶喜の後世の評価をある意味決定づけているのは、鳥羽伏見の戦の最中に兵を置いて大坂城を脱出、江戸に退却した一件であることは、多くの方が認めるところではないでしょうか。

 本作はその慶喜の大坂脱出を序章として始まり――そしてそれから40年以上の月日が過ぎ、維新の殊勲者たちの多くが亡くなった時代が本編の舞台となります。

 「第一条、皇室を敬戴すべし」と叫ぶ暴漢に慶喜が襲撃され、犯人はその場で慶喜邸の警備員に射殺された事件。しかしこの男が何者なのか、何故慶喜をそれも今襲ったのか、そして男の懐の半紙に書かれていた「遥光の斬奸状は天下の愚書である」とは何を意味するのか――慶喜邸近くの小石川警察署の巡査部長・小川は、多くの謎が存在するこの事件を担当することになります。

 そして男が以前起こした事件から、その名前が広津光二であること、彼が四谷に住んでいたこと突き止めた小川は、広津の家に向かうのですが――そこで小川が見たのは、先に何者かが家に忍び込んだ跡と、広津が残した「遺書」、二十年近く前の新聞の束、さらには一人分の白骨ともう一つの頭蓋骨という、謎めいた品物の数々だったのです。

 しかしそこで何者かに後頭部を殴られた上、遺書を奪われてしまった小川。支援に回されてきた警視庁高等課検閲係の竹内とともにさらに広津の家を調査した小川は、そこで英文の斬奸状、さらには爆薬の材料を発見することになります。
 かつて無政府主義者たちが米国で発行した「ザ・テロリズム」なる明治天皇への斬奸状とよく似た内容の英文の斬奸状。そして小川と竹内が調査を続ける矢先、広津と関わりのあった男が謎めいた死を遂げることに……


 比較的シンプルなホワイダニットから始まりながら、捜査が進むにつれて次々と事件を複雑化させていくような要素が登場し、思いもよらぬ方向へと繋がっていく本作。
 物語の中心となるトリックは、なるほど種が明かされれば比較的シンプルではあるものの、その意外性と使い方の巧みさで、物語を良い具合にかき乱していると感じます。

 しかし何よりも本作を面白く、そして複雑にしているのが、物語の中心となる徳川慶喜公の存在であることは間違いないでしょう。
 幕末あるいは明治の裏面史、表沙汰に出来ない陰の部分を描く――というのは明治ミステリでは定番ではあります。しかしその陰が、明治の始まりの時点で退場した――むしろその退場によって明治が始まった――慶喜にまつわるものというのは、これはかつてなかった趣向ではないでしょうか。

 確かに、冒頭に述べた経緯から、旧幕臣には人気がない、いや恨まれていても不思議ではないのですが、しかし後世の人間からしてみれば既に明治初期の時点で「終わった」人間という印象がある慶喜。
 その慶喜が明治の末年にもなって狙われた謎を解き明かすことが、同時に幕末史の謎の一つを解き明かすことに繋がっていく展開には、歴史ミステリの醍醐味が溢れていると言えるでしょう。
(ここで慶喜の行動があまりにも――という印象もあるのですが、同時にそれこそが本作を成立させているのも巧みなところです)

 そしてまた、その慶喜と並び、本作のタイトルを構成する「斬奸状」という言葉もまた、実に示唆に富んだものと言えます。
 斬奸状とは「悪者を斬り殺すについて、その理由を書いた文書」ですが――しかし悪を除くのにそのような私刑めいた手段を取る時点で、これを持ち出すのは権力を持った側ではない、つまり勝者ではないことは明らかであります。

 その敗者の記した文書が幾つもの悲劇を生み出し、そしてさらに大きな犠牲を生む――そのあまりにも大きな皮肉の存在が、時代と時代の谷間に落ち込んだ多くの人々の姿と重なり、強く印象に残るのです。


 歴史ミステリとしての面白さはもちろんのこと、歴史そのものを見つめる視点のユニークさ、確かさも魅力的な作品であります。


『慶喜公への斬奸状』(須田狗一 光文社) Amazon

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2020.05.11

細川雅巳『逃亡者エリオ』第3巻 そして物語は逃亡者の過去へ!

 監獄帰りの好漢エリオ・サンチェスが、無実の罪を着せられた少女を助けて逃避行を繰り広げる本作も急展開。カスティージャの王位を巡る争いに巻き込まれたエリオと仲間たちの運命は、そしてついに語られるエリオの過去とは……

 地獄の監獄から自由の身になった直後、殺人者の汚名を着せられた貴族の少女・ララを助け、二人で逃避行することとなったエリオ。その戦いは、やがてララの父の友人の騎士・ゴルディ、ララを追ってきた警吏長バルド、暗殺者デボラをも仲間に加え、ララの異母兄である時のカスティージャ王・ペドロ1世を敵に回したものとなっていくことになります。

 そして同じくララの異母兄であり、ペドロ1世と対立するトラスタマラ伯エンリケに手を貸し、処刑寸前のエンリケの母を救出に向かったエリオ一行ですが、目的は果たせず逃亡することに。
 しかしその前に、ゴルディと因縁を持つペドロの腹心・アルブルケルケが、そしてデボラの暗殺術の師である「先生(マエストロ)」が立ち塞がることに……


 そんなわけで逃亡の意味がこれまでとは大きく変わることとなった本作ですが、新たな仲間たちも早速因縁の対決を迎え、主人公であるエリオの出番が減ってしまったように感じられます(デボラと先生戦できっちり存在感を見せるのですが)。
 しかしこの後、物語は第2章とも言うべき展開に突入することになります。何とかペドロ1世の追っ手を振り払い、エンリケのもとに身を寄せたエリオが、求めに応じて語り始めた過去――いわば彼が逃亡者になる前の物語が、ここから始まるのです。

 「現在」から5年前、父・ビクトルの下で弟のパブロとともに、王族の護衛たる武術のプロ「王衣」になるべく修行を続けていたエリオ。父に似て人助け好きのエリオと、自分以外のために力を振るうことに否定的なパブロ――対照的な二人は、ともに王衣選抜の闘技会に参加することになります。
 そこで待ち受けるのは、名門の武人や歴戦の傭兵をはじめ、いずれも一癖も二癖もある腕利きたち。そして候補者たちによるトーナメント開催――と思いきや、そこに自由を餌にされた武装囚人たちが乱入、一転バトルロイヤルに……


 と、本作らしくあれよあれよという間に物語は進み、気が付けばこれまた本作らしく、人の命が何よりも軽いバトル展開に突入していくのにはさすがに驚かされましたが、なるほどこう来たか、と感心させられたのも事実です。

 段々「逃亡者」のタイトルが重くなってきた感もありますが、この舞台でどこまで少年漫画的なバトルものを描けるか――これはこれで楽しみなところではあります。


『逃亡者エリオ』第3巻(細川雅巳 秋田書店少年チャンピオン・コミックス) Amazon

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2020.05.10

長岡マキ子『降霊会の夜に謎解きを 執事と令嬢の帝都怪奇録』 少女が挑む謎と怪奇と自由への道

 半年前、何者かに父と使用人13人を惨殺された嵯杏院伯爵家令嬢・薔子。事件の真相を求め、自分と共に生き残った執事の統真と探偵業を始めた薔子は、ある日東雲子爵の未亡人・優子からの失せ物探しの依頼を受ける。しかし事件は思わぬ方向に展開し、やがて薔子と統真の追うものにも関わることに……

 ちょっとお転婆な令嬢と、イケメンで毒舌な執事が探偵役となるライトミステリ――と思えば、意外なまでにオカルト展開に驚かされる特異な明治ものであります。

 邸宅に執事の藤代統真とただ二人住み、探偵業を営む嵯杏院薔子――彼女が伯爵令嬢とも思えぬ境遇に身を置いているのは、半年前に嵯杏院家を襲った惨劇のため。
 クリスマス・イブの晩に日本刀を持った何者かが屋敷を襲い、「東洋のメフィストフェレス」と異名を取った嵯杏院伯爵と使用人たち、合わせて十三人を惨殺。生き残ったのは薔子と重傷を負った統真のみだったのです。

 奇妙にもその時の詳細を思い出せない薔子と統真ですが、何としても真相を掴みたい――と始めたのが探偵業。そして今回、薔子の元婚約者が持ち込んだのは、とかくの噂がある東雲公爵家にまつわる事件であります。
 二日前に三人の貴族が毒殺された東雲公爵家。今回の依頼はその調査、ではなく公爵の未亡人・優子のもとから紛失した黄金のイエス像探し――にかこつけた夫人の信仰調査だったのです。

 上流階級の間で流行する「ピラミッド・ルール」なる怪しげな新興宗教。夫人がこの宗教の信徒・ピラミディアンであることの証拠を掴んで欲しい――その依頼を受けて、公爵家に向かった二人ですが、夫人から向けられたのは意外なまでの敵意でありました。
 それにも負けず、何やら妙なムードの漂う公爵家の調査を進め、首尾良くイエス像を見つけ出した薔子。が、それは始まりに過ぎなかったのであります。

 夫人が密かに開いていた「サロン」とは。行く先々に現れる白い仮面に金髪の男の正体は。吉原にいた夫人の隠された過去とは。嵯杏院邸の地下室に隠されていたものとは。そして薔子たちが招かれた九里公爵家の仮面舞踏会で待つものは……


 冒頭に述べたように、令嬢と執事の探偵ものという読む前の印象が、一読すれば大きく変わってくる本作。もちろんミステリとしての要素はしっかり存在するものの、副題の「怪奇」――すなわちオカルト的な要素が、物語の中では大きな要素を占めているのです。

 その象徴が、物語の各章の間に挟まれる「魂の章」と冠された部分でしょう。章題にある人物の一人称で語られるこのパート――実はその人物というのは全て故人、すなわち死者の語りなのですから。
 その意味では一見アンフェアに見えるかもしれませんが、しかし本作においてはその怪奇の事件の背後に存在する人間心理や人間関係を、論理的に解き明かすという意味で、ミステリとして成立していることは間違いありません。

 そしてまた、この点以上に物語のイメージを大きく変えるのは、作中で描かれるその人間心理や人間関係の生々しさでしょうか。
 これは物語の核心に触れる部分も少なくないために詳細は伏せますが、作中で描かれるこれら――時に悪徳と呼ぶべきそれ――は、決して露骨に描かれているわけではないものの、大袈裟に言えばライト文芸という域を超えたものと感じます。


 しかし、こうした要素にもかかわらず、本作から受ける印象が決してネガティブなものに終わらないのは、これは作中で描かれる薔子の成長によることが大きいでしょう。
 それまで華族の令嬢として何不自由なく暮らし、それに疑問を抱いてこなかった薔子。しかしあの惨劇によって実質的に家を喪った彼女の目に映るものは、「華族の令嬢」という立場から見えてこなかったもの――ある種の自由であり、自主性とでも言うべきものであります。

 もちろん、それまでの彼女の身分を「籠の中の鳥」と嘆くのは、これは持てる者の傲慢さと言えるかもしれません。しかし女性が女性として――人が人として生きることを望むことは誰に否定されるものでもなく、そしてそれを選ぶことが難しかった時代に、薔子が選んだ道は大いに共感できるものでしょう。

 そしてそんな薔子の姿は、先に述べた一種独特の要素――非現実的な怪異の世界、あるいは生々しい人間の欲望の世界があるからこそ、より際だって美しく気高く感じられるものでもあります。
 怪奇ミステリでありつつも、同時に一人の少女の成長譚でもある(さらにいえば、この時代が舞台となる必然性もある)、隠れた佳品と言うべき作品です。


『降霊会の夜に謎解きを 執事と令嬢の帝都怪奇録』(長岡マキ子 富士見L文庫) Amazon

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2020.05.09

赤神諒『北前船用心棒 赤穂ノ湊 犬侍見参』 出し惜しみ一切なしの忠臣蔵異聞開幕!

 生類憐みの令に人々が苦しむ元禄時代、犬を自在に操り最強の侍として知られる犬侍の一人・千日前伊十郎は、北前船・蓬莱丸の用心棒に雇われる。乗り組み早々、炊(炊事役)の権左とともに、改易直後の赤穂に買い付けした塩の受け取りに向かった伊十郎だが、次々と厄介事に巻き込まれることに……

 「大友サーガ」を初めとしてフレッシュな歴史小説を次々と発表している作者初の文庫書き下ろし時代小説は、忠臣蔵異聞とも言うべき極めてユニークな作品です。
 何しろ本作の中心になるのが、タイトルにもある「犬侍」なる存在。本作の舞台となるのは犬公方と呼ばれた綱吉の生類憐れみの令が猛威を振るい、犬がお犬様と呼ばれた元禄時代――その犬を従えた武士が、犬侍なのであります。

 なるほど、お犬様を手にかければ首が飛ぶというこの時代、犬を盾にされれば攻撃しようがない――というだけでなく、犬にそれぞれの技を仕込み、攻防自在の存在として操るのが、百八の流派に分かれて全国に存在するいう犬侍。
 そしてその中でも最強の天下六犬士の一人が、主人公たる千日前伊十郎――と、基本設定の時点でKOされそうなパワフルさではありませんか。

 しかし「犬侍」といえば、普通はネガティブな意味で使われる言葉。そして本作における意味でも、彼らはどこか得体の知れぬ存在として周囲からは畏怖と敬遠が入り交じった目で見られることとなります。
 ところがこの伊十郎は、酒と煙草と羊羹をこよなく愛し、誰に対しても偉ぶることのない飄々とした好漢。それでいてとてつもなく重く哀しい過去(この辺りは文庫書き下ろし時代小説的)を持つという、実に魅力的なキャラクターなのであります。


 さて、その伊十郎が本作で挑む事件も一筋縄ではいきません。用心棒として彼が乗り込むこととなった北前船・蓬莱丸は、一流の腕利きのみを集めながら、どのようなバックがあるか得体の知れない船。そんな蓬莱丸で新米に属する炊(炊事役)の少年・権左とともに、伊十郎は赤穂に向かうことになります。

 昨年、赤穂で塩を買い付けた蓬莱丸。しかしつい先日、藩は松の廊下の刃傷で改易が決定し、今まさに藩内が恭順開城派・籠城玉砕派・殉死嘆願派・復仇派の四つに分かれて大混乱の状況にあります。
 そんな中で塩を無事に受け取り、持ち帰ることができるか――しかもその交渉相手は吝嗇かつ貪欲で知られる次席家老の大野九郎兵衛。はたして権左と伊十郎は、九郎兵衛に散々振り回された上に、藩内のもめ事に次々と巻き込まれることになります。

 さらに九郎兵衛が秘匿するという塩の製法の秘伝を記したという巻物を狙い、甲斐犬を従えた犬侍・黒虎毛が出現。同じ犬侍を相手に、さしもの伊十郎も苦戦を強いられることに……


 というわけで、本作の題材となっているのは、忠臣蔵の物語においても、まだまだ浪士たちの討ち入りまでは間がある赤穂城明け渡しのくだり。しかし、派手さはないものの、城明け渡しがどれだけの難事であるかは、事務仕事に従事している現代人の方がむしろ理解し易いかもしれません。

 そしてそんな物語世界のいわば史実サイドの中心となるのは、この城明け渡しの中心となった大石内蔵助と大野九郎兵衛の家老コンビ。本作では昼行灯に夏火鉢と、あまりありがたくない渾名で呼ばれる二人ですが、しかし――という、典型的な描写に終わらない人物造形の面白さ、着眼点の巧みさは、歴史小説家としての作者の手腕でしょう。

 そしてそれに留まらず、前述の塩の秘伝書争奪戦という趣向や、そもそもの松の廊下の刃傷の真相、さらには生類憐みの令の背後の存在、次代将軍を巡る紀文・鴻池・柳沢の密謀と伝奇的な方向にも物語はどんどんエスカレート。
 それに加えて伊十郎の運命を変えた事件や行方不明の権左の父の行方、次なる目的地・下津井に眠る謎の存在と、今後の伏線もガンガン張られ、とにかく全てにおいて出し惜しみなし、というほかありません。


 はじめはその勢いに戸惑うかもしれませんが、一度乗ってしまえば止まらないこと間違いなしの本作。ぜひともこの世界の赤穂浪士たちの辿り着くところを、そしてその背後での犬侍・千日前伊十郎の活躍を見てみたい――そう思わずにはいられない快作であります。


『北前船用心棒 赤穂ノ湊 犬侍見参』(赤神諒 小学館文庫) Amazon

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2020.05.08

石ノ森章太郎『闇の風』 若君忍者の戦い、衝撃の結末!

 白滝城主の若殿・鷹丸が暗殺された現場に偶然居合わせた青年忍者・鷲丸。瓜二つの容貌であったことから鷹丸に扮することとなる鷲丸こそは、鷹丸の双子の弟だった。大殿も何者かに暗殺され、城主の座を継ぐために江戸に向かうこととなった鷲丸の前に、次々と敵の忍者が襲いかかる……

 石ノ森章太郎が1969年に「週刊少年サンデー」に連載した忍者アクション漫画――つい最近も、再録中心の時代劇画誌「漫画 時代劇」誌の創刊号から昨年9月刊行の第19号まで掲載されていた作品であります。

 舞台は江戸時代のどこか、飛騨の白滝城――その若殿・鷹丸が守り役のじいとともに遠乗りに出かけた先で、9頁目にして何者かに脳天を射られて死ぬという衝撃的な場面から幕を開ける本作。
 そこに現れ、暗殺者たちをあっという間に葬ったのが主人公・鷲丸であります。その鷹丸に酷似した相貌から、じいの策で鷹丸の身代わりを務めることとなった鷲丸ですが――似ているのも道理、彼こそは忌むべき双子として生まれてすぐに捨てられた城主の子であったのです。

 始末を命じられた城の忍びが殺すに殺せず、自分の子として育てた鷲丸。かくて鷲丸はこの年まで自分の出生を知ることなく、「姉」の霞や大岩と小岩の忍びコンビらとともに忍者として育ったのであります。
 自分を捨てた城のために戦うつもりはないと突っぱねる鷲丸ですが、成り行きからそのまま鷹丸役を務めることになり、城主継承の儀のために江戸に向かうことになるのですが――そこでも襲いかかる暗殺者の影。

 鷲丸と仲間たちは、密かに江戸に向かう行列を離れ、怪人・死面妖鬼が送り込む忍者たちと死闘を繰り広げるのですが……


 そんな本作は、一言で評すればかなりオーソドックスな時代活劇。御家騒動に巻き込まれた出生の秘密を持つ若者(若君の双子の弟というのも定番であります)が、陰謀の渦中に巻き込まれる――というパターンですが、その主人公が凄腕の忍びというのが本作独自の趣向でしょう。

 本作が連載された1969年は、作者が質量ともに驚異的な数の作品を送り出していた、脂の乗り切った時期の真っただ中。それだけに物語的にはさほど新味はなくとも、画的・アクション描写的には充実の一言で、特に静と動を巧みに使い分けた描写には、いつもながら惚れ惚れとさせられます。

 しかし本作で強烈な印象を残すのはそのラスト――鷲丸たちを執拗につけ回し、数々の刺客を送り込む謎の忍び・死面の正体であります。
 死面自らが率いる土蜘蛛七人衆を(かなりあっさりと)倒し、ついに死面と一騎打ちを繰り広げる鷲丸。忍術の腕は互角、かくなる上は剣の腕で決するほかなし、と向き合う二人が一瞬交錯し、次の瞬間明かされる死面の正体とは!?

 ……いや、確かにどう考えても絶対裏があるキャラクターだとは思いましたが、それが正体というのは色々と無理があるだろう――というほかないこの結末、面白いは面白いのですが、あまり良くない意味でインパクトがあった、というのが正直なところです。


 ちなみに私が読んだ(いま最も簡単に入手できる)石ノ森章太郎デジタル大全版は全2巻――その第2巻には、『忍法十番勝負』で作者が担当した第九番勝負、そのほか『唐獅子をわたすな』と『剣豪少年』が併録されています。

 『忍法十番勝負』は以前このブログでも紹介しましたが、大坂城抜け道の巻物の争奪戦に巻き込まれた三人組の忍者の、ほとんど超能力レベルの壮絶な忍法が印象に残る一編であります。
 また、『唐獅子をわたすな』は唐獅子の焼き物ばかりが盗まれる謎を少年岡っ引きが追う、ごく初期の掌編。『剣豪少年』はほぼ同時期の作品ながら、宮本武蔵にも匹敵すると言われた天才少年剣士の皮肉な運命を描く、こちらはなかなか良くできた作品であります。


『闇の風』(石ノ森章太郎 石ノ森章太郎デジタル大全 全2巻) 第1巻 Amazon / 第2巻 Amazon

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2020.05.07

横山光輝『伊賀の影丸 地獄谷金山の巻』 女性忍者と拷問と火術使いと

 ある晩、忍者に襲われた男が死の間際に残した「隠し金山」の言葉を聞いた服部半蔵。男の死体の特徴から甲府に目をつけた半蔵は、影丸らを派遣する。しかし甲府到着早々に仲間の一人が討たれ、以後も謎の忍びの襲撃が相次ぐ。そして探索の最中、影丸は捕らえられて激しい拷問を受けることに……

 『伊賀の影丸』各エピソード紹介も後半戦。今回はある意味原点回帰というべき「地獄谷金山の巻」であります。

 服部半蔵が偶然出会った瀕死の男から「隠し金山」の言葉を聞かされたことから始まるこのエピソード。初めは全く正体不明だったものの(それでも松平伊豆守から探索を無茶振りされてウェッとなる半蔵が味がある)、甲府が怪しいと目星をつけた半蔵によって影丸と仲間たちが派遣されることとなります。

 しかし影丸と派遣された4人の隠密のうち、兵衛は謎の敵にあっさり殺され、残るは土蜘蛛、早耳頑十郎、嵐月之助のみ。その後も続く敵の攻撃をかいくぐる中、敵の正体が飛騨忍群であること、そして地獄谷に金山が隠されていることを知る影丸たちですが……


 というわけで、久々の印象もある、非常にオーソドックスな探索ものである今回。影丸たち味方サイドはともかく、敵側の忍者はあまり個性的ではなく、トーナメントバトルというより、「味方と(障害となる)敵の戦い」という印象があります。
 そんなこともあって、本作においては正直なところ地味さで一、二を争うエピソードなのですが、特色ももちろん存在します。

 その一つ目は、女性忍者・桔梗の存在。普通の忍者ものであれば、くノ一が様々な形で作品の華として活躍するものですが、実に本作においてはこの桔梗は全編通じてほぼ唯一の女性忍者。ある意味「らしい」というか、驚きというか――であります。
 ちなみにその桔梗、ビジュアル的にはキツめの美少女でなかなか良いのですが、忍者としての実力はいまいち――といったところで、敵の中でも戦闘要員としては数えられていないように見えるのが、また本作らしいと感じさせられます。

 そして二つ目は、影丸が珍しく捕らえられ、拷問を受ける場面がある点であります。これまでの戦いで、影丸が重傷を負って戦線離脱することはあったものの、捕らえられるという、ある意味死ぬよりも不覚を取ったのは、かなり意外に感じます。
 しかも、捕虜を取れば大体催眠術で情報を聞き出す(このエピソードでもそうした場面はあるのですが)本作で、拷問で情報を吐くよう迫られるというのも意外かつ痛ましく、妙に印象に残った次第です。

 そして印象に残ったといえば、このエピソードのゲスト忍者の一人・嵐月之助であります。
 火術の月之助の異名を取る彼は、それに恥じぬ多彩な術の使い手。基本は爆破なのですが、そこまでに持っていくバリエーションが豊富なのに加えて、防御技(相手が絡めてきた縄を焼き切る場面が格好良い)や催眠術まで使う、かなり万能な術者であります。

 今回の敵である飛騨忍群は、質よりも量で押してくるタイプ(上述の影丸の不覚もそれによる印象もあります)なのですが、そういう相手には、広範囲をまとめて爆破する月之助の術は最適。
 ことに、奧の手である「火走り」の術は、名前から察せられるとおり四方八方に炎が走るド派手な術で、その繰り出されるシチュエーションも相まって(特に二度目は名場面!)、強烈に印象に残り、ほとんどこのエピソードの準主役と言ってもよいかと思います。


 と、この「地獄谷金山の巻」、物語は地味なわりには、個々の要素が妙に印象に残るという、何だか不思議なエピソードでありました。


『原作愛蔵版 伊賀の影丸』第6巻(横山光輝 講談社KCデラックス) Amazon

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2020.05.06

野村胡堂『江戸の紅葵』 二つの顔の快剣士、安政の大獄に挑む

 井伊直弼による安政の大獄の真っ只中、各地で捕らえられ、江戸に送られる尊攘の志士を救い出す謎の剣士がいた。去った後に残す朱色の三つ葉葵から、人呼んで「紅葵」――間部下総守配下の剣豪・大場剣十郎の姿を借り、美少女・照江を助手に、江戸の紅葵の活躍は続く。

 時々驚かされるのですが、最近は電子書籍で思わぬ作品が刊行されることがあります。本作もそんな作品の一つ――戦前に野村胡堂が雑誌「新少年」に連載した幕末ものの活劇であります。

 各地で尊皇攘夷の動きが活発となり、これに対して大老井伊直弼が強権を以て当たっていた頃――どこからともなく現れ、水際だった腕前で幕府に囚われた志士たちを救って去って行く快剣士・紅葵の活躍を描く本作。
 敵に回すのが革命派か守旧派かという違いこそあれ、権力から人々を救うヒーロー、「紅」という色と植物がシンボルという点を見ると、やはりバロネス・オルツィの『紅はこべ』を参考にしているのだろうな――と感じざるを得ないのですが、当然ながら、本作独自の趣向が凝らされています。

 本作の第1話の冒頭で描かれるのは、尊攘派の学者である桜井月山を連行する大場剣十郎――井伊直弼の下で大獄の直接指揮に当たった間部詮勝配下で一の剣豪――が、月山の弟子のだまし討ちによって討たれる場面。
 しかし直後にその死体は忽然と姿を消し、そしてその後も平然と剣十郎は姿を表すのですが――彼の行く先々には紅葵が現れ、月山ら志士を陰ながら救ってみせるのです。

 果たしてこの謎は――と、これはこの第1話のうちで判明することなので書いてしまいますが、実は紅葵の正体こそは、剣十郎双子の弟・剣作。赤子のうちに引き離され、水戸の侍に預けられた剣作は、兄と同じ剣豪に育ちながらも、思想は正反対(水戸だから)となり、紅葵として密かに活躍していたのです。

 かくて、亡き兄の姿を借りて大場剣十郎と名乗ることとなった剣作は、剣十郎と紅葵の二つの顔を使い分けつつ、月山の娘の照江の手を借り、悪辣な幕吏の陰謀を次々と粉砕していくことに……


 というのが基本設定なのですが、戦前の、それも児童文学らしく――というのは失礼な表現ではありますが、本作では尊攘派=善、幕府=悪の図式が固定化した形で描かれることになります。
 さらに、紅葵と照江のほか、剣十郎の娘である弥生も二人に洗n――感化されて味方となる辺りもどうなのかなあと思いながら読み進めてみれば、しかしこれが各話趣向を凝らしていて、実に面白いのであります。

 序盤こそ頓馬な幕吏の裏をかいて紅葵が志士を救出――とストレートな展開の連続だったのですが、中盤以降にさすがに剣十郎こそが紅葵の正体では? という疑いを周囲から持たれるようになることになり、紅葵もたやすく目的を果たすことはできなくなります(そこでまた、剣十郎と剣作の設定が生きるわけですが……)。
 そこから、敵に捕らえられた照江を身分を隠しながら奪還する、あるいは照江が紅葵となって剣十郎(剣作)と対決するなど、物語にバリエーションが膨らんでいくことになるのが本作の面白いところ。

 この後も、
・負傷した紅葵が、自分の代わりに照江と弥生、さらに中盤からレギュラー入りの少年志士・五郎丸を動かして志士を救出
・京からやってきた尊攘派の女性使者を江戸に入れるため、三つの渡し場で待つ幕吏の罠をくぐり抜ける
 などといったユニークな展開が続き、さらに後半には井伊直弼の右腕・宇津木六之丞(実在の人物)と、彼に雇われた無頼浪人・波戸久楽之助が敵方のレギュラーとして登場することになります。

 これに伴い、偽紅葵を仕立て上げたり(これに対する紅葵の策も痛快)、子供たちばかり五人人質にとったりと敵の作戦も巧妙化、ついには「剣十郎」の正体も暴かれて――と、物語は盛り上がっていくことになります。


 もちろん繰り返しになりますが、あくまでも児童文学としての一定の枠はあり、あまり期待しすぎるとなーんだ、ということにはなりかねません。
― しかし、やはりこうしてこのように趣向が凝らされ、アタックアンドカウンターアタックの物語が楽しめる内容となっているのは、さすがは野村胡堂――と今更ながらに感心してしまった次第です。


『江戸の紅葵』(野村胡堂 くぇい兄弟社) Amazon

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2020.05.05

久正人『ジャバウォッキー』第1-2巻 恐竜+伝奇+……唯一無二の大活劇!

 英国工作員のリリーは、任務中、二足歩行する恐竜たちと遭遇し、窮地に陥ったところを、同じく恐竜のガンマン・サバタに救われる。恐竜たちが絶滅せず進化し、歴史の背後で暗躍していることを知ったリリーは、サバタが所属する結社「イフの城」に加わり、彼とともに恐竜たちの様々な陰謀に挑む……!

 今頃の紹介で本当に恐縮ですが、こんなご時世には痛快な伝奇活劇を――というわけで、19世紀末を舞台に人間と恐竜が繰り広げる一大伝奇スパイアクションのご紹介であります。

 ロシア皇帝のもとから何者かに奪われた王権の証・宝珠を何故か追うことになった英国情報部の工作員リリー・アプリコット。首尾よく宝珠を発見し、立ち塞がる相手の脳天を短剣で一撃! と思いきや粉々に砕ける短剣。
 何とリリーが襲った相手の顔は、等身大の爬虫類――いや恐竜のそれ。二足歩行し、人間の服に身を包んだ恐竜たちに包囲されたリリーは、その場に突入してきた謎のガンマンの援護で辛うじて脱出に成功するのですが――その相手の正体もまた恐竜だったのであります。

 白亜期末期の大絶滅で地上から姿を消したと思われていた恐竜たち。しかし彼らの生き残りは直立二足歩行に進化し、歴史の影で人間と地上の覇権を巡り、激しく争っていたというではありませんか。
 そして実は宝珠の正体は、ロシア帝国内の恐竜王国の王子の玉子。それを掌中に収めた者は、ロシアに定住した恐竜たち「最後の兵力」の指揮権を得るという王子を奪還すべく行動するガンマン――オヴィラプトルのサバタ・ヴァンクリフ(!)と協力して、リリーは恐竜たちに挑むことに……


 という最初の「HIDDEN DRAGON」は、冒頭からガジェット載(いきなり『ドリアン・グレイの肖像』のホールワードが登場するのに吃驚)とアクション満載で息をつく暇もないという、実に本作を象徴するようなエピソード。
 恐竜人類(レプティリアンも含めて)は、フィクションではそこまで珍しい存在ではないかもしれませんが、しかしそこにロシア皇帝の紋章の「双頭の鷲」を絡め、ロシアが秘匿してきた「最後の兵力」という魅力的なガジェットを投入してくるのは、本作ならではの伝奇センスと言うほかありません。

 そしてそこに、腕利きの工作員(暗殺者)でありつつも酒瓶を手放さないリリーと、ロングコートにコルトネイビーを持つ恐竜人間のサバタの、それぞれに個性的なアクションが、作者一流の陰影を強調した強烈にスタイリッシュな画で描かれるのですから鬼に金棒。
 それだけでなく、裏切り者の子として蔑まれ暗殺者として利用されてきたリリー、卵泥棒(オヴィラプトル)として同じ恐竜たちから激しい差別に晒されてきたサバタと、それぞれに強く生きながらも屈託を抱えた二人の陰影をも描くドラマも相まって、軽快でありつつもハードボイルドな物語も大きな魅力なのです。


 さて、物語の方は、サバタにスカウトされ、モンテ・クリスト三世率いる結社・イフの城――すなわちシャトー・ディフ!――に加わることとなったリリーと、その相棒となったサバタが、19世紀末の人類史の背後で引き起こされる怪事件に挑む、連作スタイルで展開していくこととなります。

 今回取り上げる第2巻までに収録されているのは、イフの城の連絡員が自然発火で死ぬという奇怪な冒頭から、ニコラ・テスラの発明とガリレオ・ガリレイを奉じる恐竜の科学者集団・見えない学園の陰謀が展開する「TIME OF DESCENT」と、清朝を揺るがす予言の成就を妨げるため、西太后の命を受けた清朝の暗殺者集団・応龍楼が暗躍する「RED STAR」(の第2話まで)。

 このうち前者は、恐竜と最先端のテクノロジーという(読者としては)一見ミスマットに見える組み合わせの妙もさることながら、最初の冒険で意気投合したとはいえ、まだまだ自分のやり方から抜け出せないリリーとサバタの衝突と和解が描かれるのもグッとくるエピソード。
 一方後者は、暗殺のターゲットとなるのが、生まれたばかりの毛沢東というのに驚かされつつも、イフの城の――すなわちリリーとサバタの目的である「明日」「希望」を守ることの意味が問われるのが印象に残り――と、どちらも本作でなければ描けないようなエッジの効いた物語が展開することになります。


 恐竜・オカルト・伝奇・スパイ・ハードボイルド・ガンアクションその他諸々、面白くなるしかない要素をぎゅっと煮詰めた唯一無二の物語である――この先全巻(+続編の『ジャバウォッキー1914』)紹介させていただく予定です。


『ジャバウォッキー』(久正人 泰文堂アース・スターコミックス) 第1巻 Amazon/ 第2巻 Amazon

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2020.05.04

須垣りつ『吉原妖鬼談』 青年の成長と遊郭に潜む魔と――幻の快作登場

 生まれつき亡霊や魑魅魍魎が見えてしまう力のせいで、臆病で奥手の六助。ふとしたことから吉原で花魁の足抜けを生業とする男・遼天に見込まれた彼は、彼を手伝う中で、次第に自分の力と向き合っていく。そんな中、想いを寄せる花魁が化け物の巣食う楼に部屋替えになると知った六助だが……

 受賞者が発表されながら、レーベルがなくなった関係で作品が刊行されず、幻となった第2回招き猫文庫時代小説新人賞。その優秀賞受賞者である作者のことを、まことに勝手ながら私は最後の招き猫文庫作家と呼んでおりました。
 と、その受賞作『花街奇譚』が改題・加筆修正されて刊行されたと聞けば、黙ってはいられません。そして手に取った本作は、青年の成長ドラマ+伝奇活劇という、なかなかユニークな内容の佳品でありました。


 本作の主人公・六助は、先祖に「トワズ」――人外と交わり生まれたと言われる者――がいたことから、魑魅魍魎や亡霊が見えてしまう力の持ち主。そのため異常に臆病で、かつ他人(特に女性)とコミュニケーションするのが苦手な彼が、兄に引っ張られて吉原を訪れたことから物語は始まります。

 しかし吉原に来たものの、六助は大見世の花魁に声をかけられてもドギマギするだけで何もできず、さらには吉原の外れで亡霊の花魁道中に出会ってしまうなど散々な目に遭うばかり。
 そんな彼に声をかけてきたのは、人外を感じ取り、祓う力を持つ八卦見の壮漢・遼天。遼天に「トワズ」の力を認められた六助は、彼の裏の稼業である「稲荷隠し」すなわち足抜けの幇助に、躊躇いながらも力を貸すことに……


 そんな六助が、足抜け屋として悪戦苦闘を続ける中で遼天や仲間たちとの絆を深め、また生意気な小見世の女郎・茜と微笑ましい交流をしたりと、少しずつ成長していく様が、本作の前半では描かれることになります。
 先に述べた通り、六助はあまりヒーローらしくない――というより生真面目なのだけが取り柄の青年。そのくせ、女性と知り合うたびに彼女と付き合うことを夢想してしまう姿など、妙にリアルだったりしますが――しかしそれも微笑ましく、彼の真っ直ぐさの表れとして感じられるのは、本作の描き方の巧さでしょう。

 しかし物語は後半に至り、思わぬ方向に展開していくことになります。
 敵対した者が奇怪な死を遂げた、客の男たちが姿を消しているなど、不気味な噂ばかりが流れる見世・瑞雲楼。遼天の頼みでその様子を見に行った六助が見たものは――生ける屍としか見えない花魁たちと見世の中を這い回る透明な巨大な蟻、そして人間大の蟻のような姿をした女将と、鬼の本性を隠した楼主だったのであります。

 そして六助が吉原を初めて訪れた日に声をかけられて以来、恋い焦がれてきた花魁の銀華がその瑞雲楼に部屋替えすることとなり、その前に足抜けをという依頼が入ってくるのですが――六助にとって銀華が他所の男のものになることが面白いはずはありません。
 しかし彼女を救い出さなければ、化け物の餌食になることは必定。それがわかっていても一歩を踏み出せない六助の背中を押したのは……


 と、後半で伝奇ものとしての色彩が一気に強まる本作。
 あるいはこうした展開の物語では、いかにも伝奇時代劇のキャラクター然とした遼天が主人公となるのが相応しいのかもしれません(事実、クライマックスで最も活躍するのは遼天であります)

 しかしそんな中で、その「見てしまう」力以外は荒事に向いていない六助がいかにして戦いに挑むのか――いや、様々な意味でそこに背を向けていた彼が、いかにして立ち上がるのかが、大きな意味を持つことになります。
 その姿は、本作で描かれてきたものの総決算であり――すなわち、六助の成長の姿とその意味であり――そしてその姿は、彼の真っ直ぐな姿と相まって、大きな感動を生むのであります。

 青年の成長ドラマ――言い換えれば一種の人情ものと、吉原に潜む魔を描く(そしてこれがまたなかなかに独創的で、かつ相当にコワい)伝奇もの。
 この相反する要素を、本作は巧みなバランスで描いてみせたと感じます。

 このユニークで、そして内容豊かな快作が、埋もれたまま終わることがなくて本当に良かった――そう感じた次第です。


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2020.05.03

音中さわき『明治浪漫綺話』第1巻 要素山盛りの明治吸血鬼伝?

 岡山の田舎から東京の華族・日与守家に引き取られた十和。良家の子女が通う華族女学院に通うことになった十和は、そこで美貌の青年講師・ルイスと出会う。そんなある日、学校の帰りに謎の化け物に襲われた十和だが、そこに駆けつけたのはルイスだった。実はルイスの正体は異国の吸血鬼で……

 このブログでは事あるごとに吸血鬼時代劇を取り扱ってきましたが、ここに新たな作品が加わることとなりました。文明開化華やかなりし頃を舞台に、華族の(にわか)令嬢と異国からやって来た美貌の吸血鬼を巡る物語であります。

 本作の主人公は、子爵の父と芸妓の母の間に生まれ、その父が亡くなったことをきっかけに、東京の日与守家に引き取られた少女・十和。
 数日前までは岡山で暮らしていた彼女にとっては、東京の、しかも華族の暮らしは新鮮――というより疲れることだらけ。しかしそれどころではない事態に、十和は遭遇することになります。

 ふとしたことから帰りが遅くなってしまい、人目を避けて通った裏道で、何者かに襲われて倒れた女学生を見つけてしまった十和。驚く彼女の前に、口から牙を生やした怪人が襲いかかります。
 と、絶体絶命の彼女を救ったのは、彼女の通う女学院の講師である人間離れした美青年・ルイスと、彼に仕えるこれまた美青年の日本人・東。二人のおかげで助かった十和ですが、実はルイスと東もまた、怪人と同じ存在――ヴァンパイアだったのです。

 諸外国の文化に通じている(たぶん長生きなので)ことを買われ、明治政府から、ヴァンパイアと承知の上で招請されたというルイス。しかし彼を連れ戻すべく、海の向こうから来た同族が、密かに暗躍していたというのであります。
 そんな思いもよらぬ真実を聞かされても、恐れることなくルイスに憧れを抱く十和ですが、事態はいよいよ意外な方向に……


 というわけで、身も蓋もないことを言ってしまえば、吸血鬼もの(パラノーマル・ロマンス)と明治もの、さらには華族もの・女学校もののハイブリッドである本作。
 これだけの要素がきちんとまとまるのかな――と思わないでもありませんが、主人公を華族の世界に足を踏み入れたばかりの好奇心旺盛な少女とすることで、存外一つの世界としてまとまっているのがユニークなところであります。

 それにしても明治政府がヴァンパイアを迎え入れるのはさすがにどうかなと思うところですし、その張本人が伊藤博文(名前はもじってあるので、彼に当たる人物、ですが)なのにはひっくり返りましたが――そこに東の「生前」(ヒント:伊藤博文の師で29歳の時に処刑された人)が絡んできて、思わぬ伝奇テイストが生まれているのは嬉しい驚きでした。


 もっとも、文明開化の陰で、ヴァンパイア同士の戦いが――という路線でいくのかと思いきや、少なくともこの第1巻の後半では、ちょっと『エドの舞踏会』を思わせる鹿鳴館での夜会を巡る騒動や、十和の通う華族女学院(さすがにネーミングがストレート過ぎるのでは――ご思いましたが、これは実在の「華族女学校」のもじりですね)と女子高等師範学校の対立に話が向かうことに。

 この辺りは上で述べた要素の多さがちょっとマイナスに作用したように思えますが――さてこの先の展開にどのように繋がっていくのか。
 どうやら十和の日与守家自体にも何やら謎があるらしく、要素大盛りのままで突き進んでいってほしい――というのも正直な気持ちです。


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2020.05.02

横島一『宇宙戦争』第1巻 新たなる火星人襲来の物語

 1901年、イギリスはメイベリーに火星から飛来した巨大な金属の円筒が落下した。偶然そこを訪れた写真家の「私」は、そこから奇怪な火星人が現れ、そして円筒からの光線が群衆もろとも周囲を薙ぎ払う様を目撃する。さらに巨大な三本足の怪物が出現、軍隊も壊滅する事態に……

 あの『宇宙戦争』の漫画版であります。かのH・G・ウェルズによる古典中の古典――火星人はタコ型というイメージを固め、オーソン・ウェールズのラジオドラマがパニックを引き起こしたという伝説を持ち、最近ではスピルバーグによって映画化された作品、フィクションの世界でも様々なパスティーシュを生み出したあの作品です。

 その漫画版の主人公となるのは、写真家の「私」。その私が、依頼主を訪ねて訪れた採掘場で、空から落下した奇妙な円筒を目の当たりにする場面から物語は始まります。
 そこから現れた奇怪な生物と友好を深めるべく有志が近づいた時、円筒から放たれた光線。それが一瞬のうちに斜線上の人々を焼き尽くし――いや一瞬のうちに消し尽くし、周囲が阿鼻叫喚となる中から、辛うじて私は逃げ延びるのでした。

 しかしその円筒が観測された通りに火星からやってきたのだとすれば、三倍の重力で火星人は身動きが取れないはず――という妻の言葉に安心する私ですが、しかし円筒からの光線は驚異的な射程を持ち、翌日私が訪れた教会を一瞬のうちに貫くのでした。
 この惨状に妻を連れてロンドンへの疎開を決意した私。しかし大事なカメラを落としたことから、教会に戻るという牧師とともに、家に戻るのですが――その途中、二人は山のように巨大な三脚台(トライポッド)と遭遇、炎に包まれた街を目の当たりにすることになります。

 そしてそこで火星人迎撃に向かった軍隊の生き残りである砲兵と出会った私と牧師は、三人でロンドンを目指すことに……


 先に述べたようにあまりによく知られた原作ですが、その原作の登場人物や物語の流れを踏まえた上で、本作ならではのアレンジを加えた内容となっている漫画版。
(原作をご存知の方であれば、敢えて詳しめに書いた上記のあらすじの時点で、その違いに気付かれたことでしょう)

 その変更点の最たるものは、何といっても主人公の職業でしょう。
 原作では哲学関係の著述家であった主人公ですが、本作では写真家――それも写真を撮ることに、ちょっと度を越した情熱を持つ人物。それ故に彼は半分巻き込まれて、そしてもう半分は自分の写真家としての執念から、火星人の猛威を目の当たりにすることになるのです。

 そしてその猛威の描写も、漫画というメディアらしくと言うべきか、ビジュアルとして強烈なものがあります。
 何よりも、火星人の脅威の最たるものである熱線は、原作では人々を黒焦げに変えるものでしたが、本作においてはくり抜く――おそらくは高熱・高速による一瞬の融解なのでしょう――という凶悪なもの。「その部分」以外は無傷な人々の躯が転がる姿は、悪夢以外のものではありません。

 そして火星人やそのトライポッドが、より生物的――というか、クリーチャー的な外見となっているのは(そういえば作者コンビにはクトゥルー時代劇『伴天連XX』がありました)、これは賛否あるかもしれませんが、少なくとも主人公とトライポッドが遭遇する場面の想像を絶するスケール感は、この第1巻でも白眉でしょう。


 その他にも、主人公と砲兵、牧師が一堂に会する場面があるなど、物語展開にもこの先違いが生まれることも予想される本作。
 古典であっても今なお古びない物語を、どのように今描くのか、この先も期待してよさそうです。


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2020.05.01

壱村仁『ふることふひと』第1巻 古事記編纂に挑む不比等=?

 壬申の乱の後、一族が没落し、飛鳥浄御原宮で下級役人として働く中臣史。そんな彼に、大海人大王から和文(やまとことば)で史書編纂を行えとの密命が下った。己の名が表に出ることを好まない史は、偽名を名乗り、音仮名による記法を編み出した太安萬侶とともに編纂を始めるが……

 『けんえん』の作者コンビによる新作は、なんと「古事記」誕生秘話とも言うべき物語。それも若き日の藤原不比等が主人公という、なかなかユニークな作品であります。

 藤原不比等といえば、大化の改新の中臣鎌足の子というサラブレッドであり、藤原氏の祖となった超大物――という印象が強く、フィクションに登場する時もそうした立ち位置のことが多い人物であります。
 しかし史実の上で中臣氏は近江朝の有力者であったのが災いして壬申の乱で一時没落、若い頃の不比等は冷飯を食わされていた状態にありました。そして本作の不比等(史)は、そのような立場に置かれ、どこか達観した青年として描かれることになります。

 そんな史に大王直々に与えられた大仕事が、史書の編纂――実は壬申の乱の際の混乱で記録が失われ、それを師である田邊史大隅から口伝されていた史に白羽の矢が立ったのであります。
 しかし己の血に屈託を抱え、目立つのを好まない史は偽名を名乗ることになります。――語り部の家の名である稗田阿礼と。


 え? と思わず言いたくなるような設定ですが(もっとも、不比等=阿礼説は本作が初めてではないはずですが)、さらに大変なのはここから。暗誦はできるものの和文(今でいう万葉仮名)は書けない史は、同僚の太安萬侶は和文に通じていることを偶然知り、彼を仲間に引き入れることになります。
 が、偽名を名乗っている状況で自分のことを知っている安萬侶に素顔を晒すわけにもいかず、史は女装して安萬侶の前に現れる羽目になるのであります。しかも安萬侶は「稗田阿礼」に一目惚れ状態になって……

 という紹介をすると、かなり砕けた調子に見える本作ですが(そして実際そういう面も多々あるのですが)、しかし本作の中心となる要素の一つは、「阿礼」と安萬侶の問答を通じた「古事記」解釈、というか紹介。
 知っているようで意外と知られていない「古事記」の姿を、(もちろん漫画としてのディフォルメはあるものの)比較的ストレートに描くだけでなく、その記法の誕生秘話的なものまで描くとは、正直なところ少々意外でありました。

 そしてもう一つの要素は、史と安萬侶の青春群像ドラマであります。
 先に述べたように、己の血に屈託を抱き、「父の子」ではない「自分自身」になろうとする史。その結果が女装というのはどうかと思いますが、そのきっかけとなる若者の想い自体は、大いに共感できるところでしょう。

 そして一方の安萬侶の方も、壬申の乱では大海人皇子の下で戦った武人・多品治の子でありながらも体が小さく、武の道を諦めて父とは異なる文の道に行こうと決意した若者。
 その意味では史と同じ立場にあるのですが――しかし二人の親の世代は壬申の乱での敵同士。安萬侶の父が史の師の子を討ち取っていたりと、いささかややこしい関係にあります。

 しかもラストには、史の出自について意外すぎる(これもまあ、ある程度知られた説ではありますが)真実が語られ、この先の若者たちのドラマは、なかなか前途多難な様子です。


 作中の異説の扱いや、そもそも「古事記」自体扱い方が難しいものだけに、この先の展開がどうなるのか、色々な意味でドキドキするのですが――まずは他に類を見ない古代ものであることは間違いない作品です。


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