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2020.05.30

宮本昌孝『武商諜人』(その二) 戦国から江戸へ――バラエティー豊かな作品集

 宮本昌孝の単行本未収録作品を中心とした作品集の紹介、その二であります。今回も戦国時代の作品が中心ですが、江戸時代を舞台とした作品も登場することになります。

『恩讐の一弾』
 波多野氏を攻める明智光秀の暗殺に失敗して捕らえられながら、光秀に許された雑賀五郎兵衛。その際に行動を共にしながら一人逃げた竜野善太郎と、本能寺の変の直前に再会した五郎兵衛がとった行動とは……

 今なお様々に評価が分かれる明智光秀の姿を、一人の銃の名手の視点を通じて物語が本作であります。その光秀像は、ある意味定番と言うべき、戦国武将らしからぬ苦悩を抱えたものでありますが――五郎兵衛というフィルターを通すことにより、その光秀の姿に説得力を持たせることに成功していると感じます。

 狙撃手と忍者を中心とした物語だけに伝奇性も高い物語ですが、結末の寂寥感も印象に残ります。


『武商諜人』
 本能寺の変を舞台に、武・商・諜の三つで家康を支えた茶屋四郎次郎の姿を描くと同時に、『剣豪将軍義輝』外伝の趣もある表題作は、収録された『戦国秘史 歴史小説アンソロジー』を取り上げた際に紹介しておりますので、『戦国秘史 歴史小説アンソロジー』(その一) 戦国に生きる者たちを動かしたもの" target="_blank">そちらをご覧いただければと思います。


『龍吟の剣』
 本多忠勝の娘であり、家康から実の娘のように愛された稲姫。家康の養女として真田信幸に嫁いだ稲姫は、得意の笛に似せた懐剣を、輿入れの時に家康から渡されていたのですが……

 真田もののアンソロジーに収録された本作は、真田信之の正室であり、一部では鬼嫁などとも言われる稲姫を主人公とした作品。もちろん本作の稲姫は、いかにも作者らしい、人としての優しさと武門としての気丈さを兼ね備えた人物として描かれることは言うまでもありません。
 本作では関ヶ原前夜の犬伏の別れの後に、孫に会いに来た昌幸を追い払ったという有名なエピソードがクライマックスとなりますが、ここでの姿は、その本作ならではの稲姫像を最も良く表していると言えるでしょう。

 ちなみに貧相な風貌と評されたり疑い深かったり、幸村が一人で損な役回りなのですが、そういえば本書とほぼ同時期に文庫化された『武者始め』収録の『ぶさいく弁丸』でも幸村は醜男扱いでありました。


『秋篠新次郎』
 紀州藩で何者かに殺され、お家断絶となった下級藩士。しかしその友人である藩主の小姓・清水新次郎は、仇討ちを願い出ると、下手人と目される中間の軍蔵を探す旅に出るのでした。
 その旅の途中、軍蔵を追う謎の男たちの存在を知る新次郎。しかし軍蔵は見つからぬまま、江戸に腰を落ち着けた新次郎は、やがて吉原の遊女・秋篠との愛に溺れるようになるのですが……

 ここからは戦国時代以外を舞台とした作品となります。本作は一見単なる中間の主殺しに思えた事件が、徐々に不可解な側面を見せ、結末に至り巨大な真実へと繋がっていくという、ミステリタッチの物語であります。

 この物語を特にユニークなものとしているのは、冒頭で描かれる、主を守って追っ手から逃れる武士たちの姿。
 一見、本編とは全く関わりのないように見えるこの場面が、果たしてどのように物語に繋がるのか――という謎がクライマックスで明かされたかと思えば、さらにそこから意外な結末の一ひねりに繋がっていくのにも驚かされます。

 わかる人であればタイトルでわかるかもしれませんが、直木三十五の作品の題材ともなったある「史実」に繋がる趣向も見事です。


 次回でラストです。


『武商諜人』(宮本昌孝 中公文庫) Amazon

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