石ノ森章太郎『闇の風』 若君忍者の戦い、衝撃の結末!
白滝城主の若殿・鷹丸が暗殺された現場に偶然居合わせた青年忍者・鷲丸。瓜二つの容貌であったことから鷹丸に扮することとなる鷲丸こそは、鷹丸の双子の弟だった。大殿も何者かに暗殺され、城主の座を継ぐために江戸に向かうこととなった鷲丸の前に、次々と敵の忍者が襲いかかる……
石ノ森章太郎が1969年に「週刊少年サンデー」に連載した忍者アクション漫画――つい最近も、再録中心の時代劇画誌「漫画 時代劇」誌の創刊号から昨年9月刊行の第19号まで掲載されていた作品であります。
舞台は江戸時代のどこか、飛騨の白滝城――その若殿・鷹丸が守り役のじいとともに遠乗りに出かけた先で、9頁目にして何者かに脳天を射られて死ぬという衝撃的な場面から幕を開ける本作。
そこに現れ、暗殺者たちをあっという間に葬ったのが主人公・鷲丸であります。その鷹丸に酷似した相貌から、じいの策で鷹丸の身代わりを務めることとなった鷲丸ですが――似ているのも道理、彼こそは忌むべき双子として生まれてすぐに捨てられた城主の子であったのです。
始末を命じられた城の忍びが殺すに殺せず、自分の子として育てた鷲丸。かくて鷲丸はこの年まで自分の出生を知ることなく、「姉」の霞や大岩と小岩の忍びコンビらとともに忍者として育ったのであります。
自分を捨てた城のために戦うつもりはないと突っぱねる鷲丸ですが、成り行きからそのまま鷹丸役を務めることになり、城主継承の儀のために江戸に向かうことになるのですが――そこでも襲いかかる暗殺者の影。
鷲丸と仲間たちは、密かに江戸に向かう行列を離れ、怪人・死面妖鬼が送り込む忍者たちと死闘を繰り広げるのですが……
そんな本作は、一言で評すればかなりオーソドックスな時代活劇。御家騒動に巻き込まれた出生の秘密を持つ若者(若君の双子の弟というのも定番であります)が、陰謀の渦中に巻き込まれる――というパターンですが、その主人公が凄腕の忍びというのが本作独自の趣向でしょう。
本作が連載された1969年は、作者が質量ともに驚異的な数の作品を送り出していた、脂の乗り切った時期の真っただ中。それだけに物語的にはさほど新味はなくとも、画的・アクション描写的には充実の一言で、特に静と動を巧みに使い分けた描写には、いつもながら惚れ惚れとさせられます。
しかし本作で強烈な印象を残すのはそのラスト――鷲丸たちを執拗につけ回し、数々の刺客を送り込む謎の忍び・死面の正体であります。
死面自らが率いる土蜘蛛七人衆を(かなりあっさりと)倒し、ついに死面と一騎打ちを繰り広げる鷲丸。忍術の腕は互角、かくなる上は剣の腕で決するほかなし、と向き合う二人が一瞬交錯し、次の瞬間明かされる死面の正体とは!?
……いや、確かにどう考えても絶対裏があるキャラクターだとは思いましたが、それが正体というのは色々と無理があるだろう――というほかないこの結末、面白いは面白いのですが、あまり良くない意味でインパクトがあった、というのが正直なところです。
ちなみに私が読んだ(いま最も簡単に入手できる)石ノ森章太郎デジタル大全版は全2巻――その第2巻には、『忍法十番勝負』で作者が担当した第九番勝負、そのほか『唐獅子をわたすな』と『剣豪少年』が併録されています。
『忍法十番勝負』は以前このブログでも紹介しましたが、大坂城抜け道の巻物の争奪戦に巻き込まれた三人組の忍者の、ほとんど超能力レベルの壮絶な忍法が印象に残る一編であります。
また、『唐獅子をわたすな』は唐獅子の焼き物ばかりが盗まれる謎を少年岡っ引きが追う、ごく初期の掌編。『剣豪少年』はほぼ同時期の作品ながら、宮本武蔵にも匹敵すると言われた天才少年剣士の皮肉な運命を描く、こちらはなかなか良くできた作品であります。
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