嶋星光壱『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』第2巻 いよいよ始まる怪奇の事件!
島田荘司の名作パスティーシュの漫画版第2巻の登場であります。同じ事件――というよりシャーロック・ホームズという人物を漱石視点とワトスン視点、全く別々の形で描く本作は、この巻でいよいよタイトルの「倫敦ミイラ殺人事件」が描かれることとなります。
ロンドン留学中、下宿の幽霊騒動でノイローゼ寸前となったところで、探偵として名高いシャーロック・ホームズのもとを訪れた夏目漱石。しかし彼の前に現れたのは、狂人一歩手前のエキセントリックな男でありました。
這々の態でホームズのもとを辞した漱石ですが、さてそれは本物のホームズなのか、漱石の目によって歪められたホームズ像なのか……
何はともあれ、ワトスンの視点から描かれるホームズは我々の良く知る、いやそれ以上にスタイリッシュでキメキメの人物。そしてそのホームズは、弟のキングスレイがミイラの呪いに苦しんでいるという女性・メアリーから相談を受けることになります。
その時はメアリーを一旦帰したホームズですが、しかし数日後、レストレイド警部からメアリーの屋敷で怪事件が起こったとの知らせが入ったのですが、それこそが本当の事件の始まりだったのであります。
というわけで冒頭に述べたとおり、いよいよタイトルに冠された事件が描かれることになるこの第2巻。
中国人にミイラの呪いをかけられたと別人のようになって自室に閉じこもっていたキングスレイが自ら釘付けにした部屋から出火――火はその部屋を焼いただけであったものの、そこには一晩でミイラと化したキングスレイの亡骸が!
という事件の様相を、この巻はほとんど一冊を費やして描いていくことになります。人間が一夜にしてミイラと化す――それも密室の中でという、実に本格チックなこの怪事件。どう考えてもあり得べからざる事件の姿を、本作は丹念に描くのです。
部屋中に散らばったアジアの美術品、その中でも一際目を引く呪い除けの仏像と日本の鎧兜。内側から釘付けにされた部屋。キングスレイの面影を残したミイラ。そしてその口中から見つかった謎の紙片……
原作読者としては、なるほどこれをこう描いたのか、とニヤニヤしたり感心したりなのですが――それはさておくとしても、そんな奇怪な材料だらけのところに、本作ならではの外連味たっぷりの姿でホームズがスタイリッシュに捜査に取りかかるのですから、心躍らないはずがないのであります。
(スタイリッシュといえば、本作のレストレイドは、これまでのレストレイド像とは全く異なる長髪イケメンなのも楽しい)
そんなわけでこの巻の大半では、ワトスンの視点から見た格好良い方のホームズが描かれるのですが、もちろん漱石視点のホームズは、この巻でもきっちり描かれることになります。それも、第1巻とは別のベクトルでマズすぎる形で。
その姿たるや、ホームズファンとしては直視しがたいものではあるのですが――しかしそれでも実のところ「これはこれでありそう」に思えてしまう妙な説得力があるのが、本作の恐ろしいところであり、魅力といえるでしょう。
そして漱石もまた、ミイラの口中から見つかった紙片に描かれていた謎の文字が日本語に似ているという理由で、この事件に引っ張り込まれることになります。再びあの呪われた事件現場を訪れた漱石が何を見ることになるのか――いよいよここから物語は本格的に動き出すことになります。
しかしこの巻、唯一の不満は第1巻と異なり、島田荘司先生が登場しないことであります。島田先生、格好良かったのに……
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