吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第23巻 大団円 そして少年は日常に還る
まさに今年を代表する作品となった『鬼滅の刃』の最終巻が、今年を締めくくるようにこの12月に発売されました。総力を挙げて鬼舞辻無惨に挑む鬼殺隊の、そして炭治郎の戦いの行方は、そしてその果てに待つものは――長かった戦いも、まさに大団円であります。
無限城の決戦でようやく追い詰めたかと思いきや、想像を絶する力で逆に鬼殺隊を圧倒する無惨。早々に炭治郎が倒れ、義勇が、悲鳴嶼が、不死川が、蜜璃が、伊黒が、善逸が、伊之助が、カナヲが――残る力を全て結集して挑むも、無惨の無限とも思える戦闘力と体力の前には、一矢を報いることすらできない状況であります。
しかし全ての希望が失われたかに見えた時、縁壱の記憶を受け継ぎ、再び立ち上がった炭治郎。彼がついに辿り着いた日の呼吸・十三個目の型と、そして珠世が遺した最後の罠というべき薬――無惨にとっては猛毒の数々がその力を徐々に奪い、ついに無惨をあと一歩まで追い詰めるのですが……
いよいよ長かった戦いも終盤になりながらも、それでもなお新たな能力を発揮し、炭治郎たちを苦しめる無惨。この巻では鬼殺隊vs無惨の死闘が、冒頭からトップギアの状態で、これでもかと言わんばかりに叩きつけられることになります。
連載当時、この辺りは珠世の薬の効果(戦果)が日の呼吸以上に大きく感じられたことや、また(新たな能力を見せるとはいえ)無惨の攻撃が比較的パターンが少ないこともあって、正直なところあまりピンとこなかったのですが――しかし単行本でまとめて読んでみれば、そこまで追い込んでもまだ倒せない無惨の力と、全員が完全に限界を超えてもなお戦い続けようとする鬼殺隊の力のぶつかり合い、いやむしろ削り合いが強烈に印象に残ります。
そして前々巻から続くこのマラソンバトルの中で改めて浮き彫りになるのは、絶大な力を持ちながらもあくまでもたった一人の存在でしかない無惨と、一人ひとりの力は小さくとも、全員が――既に命を落とした者たちまでもが力を合わせて戦う鬼殺隊との違いでしょう。
総力を結集する主人公たちvsラスボスというのは、バトルものの最終決戦では当然のシチュエーションではありますが、そこにそれ以上の意味を感じさせるのは、ここに示されているのが、これまで物語で繰り返し描かれてきた、無惨と「人間」の違い――「生きることだけに固執している生命体」と、限りある生を受け入れ、その中で己の為すべきことを果たし、そして次の者に受け継いでいく人間の違いの、一つの集大成であるからにほかなりません。
そんな我々人間にとっては当たり前の行動を取る鬼殺隊の姿に対し、異常性を感じてしまう無惨の姿は、その皮肉な象徴とも言うべきかと思いますし――戦力だけでみれば完全に作中で最強だった縁壱が無惨を滅ぼせなかったのは、彼もまた孤独な存在であった(超人という意味では、彼は無惨と対になる存在であります)だったからなのだろう、と今更ながら考えさせられます。
そして、長きに渡る戦いが終わったその先に炭治郎に訪れた、あまりにも残酷で「無惨」な運命とその克服――それは、この「鬼」と「人間」の違いのダメ押しとも言えるのと同時に、彼の日常への帰還を意味するものと言えます。
本作は炭治郎の戦いの物語ではありますが、決して彼は無敵のヒーローでも生まれついての超人でもなく、こんな運命に巻き込まれなければごく普通の生を生きたはずの少年でした。その彼が、ようやく鬼との戦いから解放され、日常に還る――その通過儀礼(というには本当にハラハラさせられましたが!)がこの結末なのだと、そう感じます。
そして本作が本当に驚くほど広汎な支持を得た理由の一つは、炭治郎という等身大の少年が、理不尽な残酷な運命に翻弄されながらも、人間であることを全うして、平凡で、しかしそれだからこそ尊い日常に帰ってくる物語であったことではないか――というのはさすがに牽強付会かもしれませんが、振り返ってみての正直な印象でもあります。
いま、想像もしていなかったような理不尽に晒され、日常というものを見失いつつある我々にとって、本作で描かれた炭治郎の――人間たちの姿は、一つの希望なのですから。
何はともあれ、笑顔しかない――そして受け継がれ続けた「人間」の生の姿を描く――エピローグから美しいカーテンコールまで、最後の最後まで描くべきものを描いたと感じられる本作。
連載開始から完結まで、いまこの時にリアルタイムで追うことができてよかった――心からそう思うのです。
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