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2020.12.11

平野稜二&吾峠呼世晴『鬼滅の刃 外伝』 水と炎の語られざる物語

 ついに単行本でも完結することとなった『鬼滅の刃』、その最終巻と同時に発売されたスピンオフ外伝漫画であります。主役を務めるのは、水柱・冨岡義勇と、炎柱――になる前の煉獄杏寿郎、水と炎の語られざる物語が、ここに描かれることとなります。

 『鬼滅の刃』本編で、主人公である炭治郎に勝るとも劣らぬほどの強い印象を残し、強い人気を誇る「柱」たち。一人ひとりが、それぞれ物語の主人公を張れるほどの強烈なキャラクターの持ち主である彼らですが――本書は、その柱のうちでもさらに屈指の人気キャラである二人を描く中編二編(+四コマ漫画)で構成されています。

 そのうち、前半の冨岡義勇外伝で描かれるのは、おそらくは本編冒頭で義勇が炭治郎たちと出会ってから、那田蜘蛛山で炭治郎と再会する間の時系列の物語であります。

 猟師たちを何人も食らった鬼を討つため、北の雪山に向かった義勇と胡蝶しのぶが出会ったのは、人食い熊にマタギの父と仲間を殺されたという少女・八重。犬のみを供に、たった一人で仇を討とうとする彼女が隠す真実を察した義勇は……
 という本作、正直なところ物語の構造がかなりシンプルで、八重の真実もすぐに察しがつくものではあるのですが――山で暮らし、家族を奪われた子供という点で、八重の境遇に炭治郎が重ね合わされているのは明らかで、あり得たかもしれない『鬼滅の刃』となっているのが、興味深いところでしょう。

 興味深いといえば、しのぶ初登場の那田蜘蛛山でのやり取りのインパクトから、よく一緒にいるようにな気がするけれども実際にはそうでもなかった義勇としのぶのコンビが主役を務めていることですが――例によって異常なまでのマイペースの義勇のフォローに回る羽目になるしのぶというのは、実にありそうなシチュエーションで、本編よりギャグ多め(ただし本人は全く自覚なし)の義勇ともども、印象に残るところです。

 ちなみに本作、自分たちは「柱」だと義勇が口にするのが、本編の描写と矛盾すると雑誌掲載時にちょっと話題になった(私も大いに気になっていた)のですが――おまけページにその理由が記されています。
 それがまた、知れば納得だけれども不器用にもほどがありすぎて全然伝わらないという、実に義勇らしい理由だったのが楽しいところで、ナイスフォローだと思います。


 一方、煉獄杏寿郎外伝は、彼が柱になる前――というより、彼が柱になった時の物語が描かれることとなります。

 まだ炎柱が彼の父・槇寿郎であった頃――既にやる気を失い、名目のみであった父の代わりに柱合会議に臨席した杏寿郎。自分が炎柱になると宣言した彼は、その場で東京に出現した十二鬼月の討伐を命じられることになります。
 継子であり、最終選抜を通過したばかりの甘露寺蜜璃らとともに東京に向かった杏寿郎。そこで街に仕掛けた無数の爆弾を爆破させんとする下弦の弐・佩狼と対峙する杏寿郎ですが、実は佩狼と炎柱にはある因縁が……

 原作に――つまりあの劇場版のくだりに――登場した際、あまりに強烈な個性と既に完成された人格で、実質「柱」一番手としての存在感を遺憾なく発揮した杏寿郎。それ故、何だか柱古参のように思っていたのですが――実は柱としては中堅どころ(原作で不死川が柱になってお館様に絡んだ時いなかった)であります。
 本作はそんな彼が柱になるために、下弦の弐と繰り広げた死闘が描かれるのですが――上に述べたとおり「すごく強い柱」という頭があるため、十二鬼月とはいえ苦戦する姿には、ちょっと不思議な印象があります。(しかし柱でもないのに継子がいるのは、やはりらしいというか何というか)

 むしろ本作では、敵方の佩狼が印象に残るようにも感じられます。鬼には珍しく銃火器を操り、人を食うのではなく街を破壊することを目的とする佩狼――影の中から現れる狼を操り、体や影の中から無数の銃火器を出現させる鬼というのは、どこかで見たような気がしないのでもないのですが、劇中で仄めかされるその正体は実に伝奇的なのが嬉しい。
(気づいてからデザインを見ればまた……)

 頭に血が昇ると自分自身の頭を撃ち抜く奇行、そこから一転してクライマックスでは杏寿郎と刀で正々堂々の一騎打ちを演じる様は、下弦ながら十二鬼月に相応しい猛者であったと感じます。


 正直なところ、原作が無二の画風だけに、絵だけを見れば違和感がないとはいえないところではありますが、物語としては十分楽しめたこの外伝。もし残る七人が描かれるのであれば、やはり見てみたい――そう感じるところであります。


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