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2020.12.28

トマトスープ『ダンピアのおいしい冒険』第2巻 ダンピアの過去と負のグルメ

 実在の人物である博物学者にして海賊、ウィリアム・ダンピアの『最新世界周航記』題材とした海洋冒険グルメ漫画、待望の第2巻であります。船長が亡くなり船内に不協和音が響く中、ダンピアの航海の行方は、そして彼の過去とは……

 イギリスとスペインが激しく火花を散らしていた17世紀、イギリスの尖兵として海を荒らし回った私掠船――すなわち海賊たち。その一つに航海士として乗り込む青年・ダンピアが本作の主人公であります。
 しかし海賊というイメージとは裏腹に、好奇心旺盛で博物学者気質の彼は、「知るってことは生きる力だから」と、各地で見かける様々な動植物や現地の風物、そして何よりも様々な食に興味を持つ人物。本作は、彼の残したその記録を「原作」とした作品というべきものであります。

 そんなダンピアは、クック船長の私掠船でガラパゴス諸島からメキシコに向かうのですが、壊血病で船長が命を落とし、一行は意気消沈。さらにスペインの勢力範囲の中で、次々と困難な状況に遭遇することになります。そしてそんな中、何かと周囲に馴染めなかった同じ船の一等航海士・カウリーの行動が、周囲の不信を募らせて……

 という、可愛らしい絵柄とは裏腹に、この第2巻は重い展開から始まることになります。知識や学問に深い興味を示すという共通点を持つものの、あくまでも船乗りのダンピアと異なり、インテリ肌のカウリー。その彼が、スペインとの内通を疑われることになるのですが――しかし、彼の抱えた複雑な事情、そしてそれ以上に複雑な想いが、やがて明らかになっていくことになります。
 しかし船の乗組員たちを思いやりながらも、やはり根本的な部分で彼らとは異なる世界の住人というべきカウリー。彼の態度は新船長デーヴィスとの軋轢を生み、はては船には不穏な空気な漂うことになります。

 航海もの、探検もので、クルー間の不和と不信(そして和解あるいは決裂)というのは定番ですが、しかし本作で描かれるのは、決してヒロイックでもドラマチックでもない、あくまでも等身大の人々の姿であります。
 そしてそれが当時の、いわば公認海賊であり、しかし同時に不安定な存在である私掠船と結びついた時――そしてもう一つダンピアという海賊らしからぬ青年の目を通した時、そこに描かれる物語は、どこまでも人間臭いナマの海賊の姿であり、我々が海賊という存在に対して持つ印象を、大きく変えてくれるのです。


 そしてこの巻の後半では、時間を遡って、ダンピアの過去が描かれることになります。

 貧しい小作人の家に生まれ、親の死によって大好きな学問の道を断念することとなったダンピア。成り行きから船に乗り、そして流されるままに各地を転々とした彼は、その中で未知なるものへの憧れを強めていくのですが――しかし第三次英蘭戦争で志願兵として軍艦に乗った彼は、そこで食べることすらままならない極限状況に晒されることになります。

 そしてそこで九死に一生を得た末に、再び各地を転々とした彼はついに私掠船に乗り込むことになって――という、流れ流れて、という表現が相応しく感じるダンピアの半生。これが当時の船乗りの典型である――などと言い切る知識は全くないのですが、しかし彼の経歴は、決して当時の船乗りにとって珍しいものではなかったのではないか、という印象を受けます。

 しかしそんな中でも驚かされるのは、彼の海軍生活でしょう。海軍といわれれば、当然ながら砲弾が飛び交う派手な海戦の姿が思い浮かびますが――もちろんそれもあるものの、本作で描かれるのは、戦闘以外の時間においてもなお凄惨な船員たちの生活なのですから。

 ここまでの紹介で何となく察せられるかと思いますが、この巻では前巻ほどグルメ要素は少ない(あまり前面に出てこない)のですが――この海軍のくだりで描かれるものは、ある意味、負のグルメとでも呼びたくなるような凄絶極まりないものであります。
 食べることが生きることであるとすれば、この軍艦での暮らしは、その最低限の生すら奪われたものというべきでしょうか。絶対食べたくはありませんが、しかし本作でも屈指のインパクトを持つ「食」であります。


 さて、終盤では第1巻の時点で名前のみ登場し、ダンピアとの浅からぬ関係を窺わせた青年バジル・リングローズが登場。博物学に強い興味を持つ、ダンピアとは似たもの同士として意気投合するその姿は、そこまでの物語が重かっただけに実に微笑ましいのですが――しかし「現在」に彼が登場しないのはどういうことなのでしょうか。
 この先の展開も、やはり大いに気になってしまうのであります。


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