ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第6巻 続く厄介事と地方武士の「リアル」
京の伊勢家が大変なこととなっても領地の経営はしなくてはならぬ――と、まだまだ続く荏原編、後の伊勢新九郎は、領地を巡る紛争の解決に奔走することとなります。そちらが一息ついたと思えば別の問題が――まだまだ新九郎の苦闘は続きます。
父の名代として向かった東荏原で、領地経営に奮闘する新九郎。西荏原を治める伯父やその息子(つまり新九郎の従兄弟)の九郎との軋轢の末、あわや「落馬」させられそうになったりと、大変な毎日であります。
それでも何とか乗り切ってきたと思えば、今度は父が失脚、出家した父の代わりにあれよあれよという間に家督を継ぐ(ただし将軍に睨まれて官位は継げない)ことに……
などと、まだティーンエイジャーだというのに、当時の中流(?)武家の悲哀を早くも味わいまくっている新九郎。何はともあれ家督を継いだわけですが、しかし戻ってきた荏原では思わぬ争いが勃発し、今度はその調停に追われることになります。
その争いというのが、西荏原の九郎と、西荏原に古くから在る豪族・那須家の領域争い。土地の境界を明確にするためのシステム作りに新九郎が知恵を絞ったはずが、かえって些細なことから武力衝突寸前の状態となってしまったのであります。
自分がどちらかに肩入れするわけにもいかない状況の中、新九郎は戦を――人死にを避けるために、知恵を振り絞ることに……
そんなわけで、この巻のほぼ前半で描かれることになるのはこの領地争いの顛末。
京で応仁の乱が、そしてこのエピソードのラストで描かれるように東国で享徳の乱が起きている状況で、地方も地方での争い未満のお話ではあるのですが――しかしこれはこれで、この当時の地方武士の「リアル」というものなのは間違いありません。
この巻の冒頭、新九郎の理想論に苛立つ九郎の「小さな領地なればなおのこと! 我らも領民も猫の額ほどの田圃一枚おろそかにせず命がけで守っておるのだ!!」という言葉は、まさにそれを象徴するものでしょう。
もちろん、その「現実」に屈するばかりでは主人公ではない――というわけで、新九郎が知恵(というか緻密さ)と人脈で難局を打開する姿も、これまで苦労のしっぱなしだっただけにまた嬉しく、そしてそこに後世の姿の片鱗を見ることができるのですが……
しかし争いがようやく収まりかけたと思えば、またも彼を厄介事が襲うことになります。この争いの手打ちに、そして何よりも新九郎の家督相続の祝いに、宴を開くことになった東荏原。しかしそこに大変な問題が――先立つものがない、のであります。
京で父が色々政治に頑張っていたおかげで領地の蓄えを食い潰し、借金生活一歩手前という状況で、武士だけでなく領民まで招いた宴を開くことができるのか? 何とも情けなくも哀しい状況ですが、これもまた地方武士の「現実」だろうなあ――と納得したり同情したりしてしまいます。
そしてもちろんこの納得は、物語設定のうまさもさることながら、当事者――つまりは新九郎をはじめとするキャラクター描写の巧みさによるところも大きいことは言うまでもありません。
漫画的にデフォルメされ、基本コミカルに描かれながらも、時にドキリとするくらい生々しく、人間臭い顔を覗かせる――作者ならではの人物描写は本作でも健在、いやこの混沌の時代を舞台に、いよいよ冴えていると感じられます(特に九郎の、ある種の頼もしさと喰えなさを感じさせる造形が実にいい)。
と、大変な状況が続く一方で、混沌の時代でもティーンエイジャーはティーンエイジャー、女性のことでドキドキ、ボーッとしてしまう新九郎の姿が描かれるのですが――その相手が那須家のつる姫なのが、また悩ましい。
恋は思案の外とはいえ、色々な意味で厄介な相手に悶々とする新九郎と、それをどうにかしようとする家来連中(冷静に考えるとえらい生々しいのに可笑しいのもすごい)と、傍で見ている分には楽しいのですが……
それでも終盤でついに、と思いきや、ラスト一ページでとんでもない爆弾が落とされ、思わず読者まで新九郎と同じ表情となったところで、次巻に続くことになります。
さて、忘れるところでしたが、この巻では新九郎の物語に幾度か挿入される形で、東国の状況が語られることになります。そこに登場するのは、長尾景春に太田資長――今はまだ、全く無関係としか思えない二人が、この先で新九郎の運命に絡んでいく姿をどう描くのか、そちらも楽しみであります。
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