坂ノ睦『明治ココノコ』第1巻 明治の物の怪と対峙するもの、その名は……
明治初期の日本を舞台に、この世に取り残された物の怪の成れの果てと対決する特別警察隊を描く、ユニークな妖怪漫画の第1巻であります。何がユニークかといえばこの特別警察隊、主要メンバーとなるのが、誰もが名を知るあの大妖怪なのですから……
平安時代にこの世を荒らし回った末、天狐に敗れて妖力と八本の尾を奪われ、地獄の奥深くに封印されていた(元)九尾狐。それから900年後、天狐から封印を解かれ、地上に送り出された彼が見たのは、文明開化の帝都・東京――鉄道が走り、瓦斯灯が夜を照らす、彼の知るのとは全く異なる世界でした。
しかし最大の違いは、この都には物の怪の姿が影も形もないこと。既にその存在を信じる人間がほとんどいなくなったことにより、物の怪たちが消え去り、九尾狐自身普通の人間たちに触ることも、存在を感じられることもなくなってしまったのです。
そんな中、自分のことを視ることができるという風変わりな男から、このところ瓦斯灯を相次いで破壊され、ついには瓦斯灯を点検する点消方まで焼き殺されるという事件が起きていると告げられる九尾狐。
そんな二人の前に現れたのは、その犯人にして、物の怪の成れの果てだという不気味な怪物「ニゴリモノ」。その無様な姿に怒った九尾狐はニゴリモノを粉砕するのですが――そこに現れた天狐から、意外なことを告げられることになります。
実は謎の男こそは、警視庁の川路大警視(!)。そして川路と協力関係にある天狐は、九尾狐を警視庁ニゴリモノ対策課の邏卒隊に任命するというのですが……
というエピソードから始まる本作。文明開化により妖怪たちが既に過去のものとなってしまった世界を舞台にした物語というのは、これは決して珍しくはありませんが――そこで物の怪の成れの果てを狩る役目を、あの九尾狐が担うというのは、これは空前絶後と言うべきでしょう。
しかしユニークなのはそれだけではありません。邏卒「隊」というからには、(元)九尾狐――今は尻尾を取り戻すまで白(ビャク)と名乗ることとした彼の他にも、メンバーがいるのです。それもどこか白に似た、そしてかつて彼の持っていた力を操る妖狐たちが。
それが何を意味するのか――それはここで述べるまでもないかと思いますが、なるほど、そのためのこの主人公、この設定か、と感心させられた次第です。
ただ、この隊のメンバーたち、それぞれにキャラクターも、そして何よりも得意とする能力も異なるのですが、やはり設定上どうしても似通った存在に見えてしまうのは、いささか勿体ないところではあります。
しかし――それ以上に気になるのは、ニゴリモノたちの存在です。
本作のニゴリモノは、上で述べたように、忘れ去られ、零落したかつての物の怪たち。白たちがこのニゴリモノの能力を暴き、倒すためには、その正体を知ることが必要であり――そしてそれが忘れ去られた彼らの救済に繋がる、という設定自体は、本作ならではのもので面白いと思います。
が、そのニゴリモノたちの所業が結構洒落にならない(普通に死人の山を気付いたりする)ため、彼らにはあまり感情移入できないというのが正直なところであります。
もちろん、物の怪に人間が感情移入できないのは当然かもしれません。しかし犠牲になる人間側としては、彼らの境遇に同情も、そこからの解放を祝福も、どちらも難しい――というのが、素直な気持ちなのです。
この辺りのギャップをどのように埋めるのか(あるいは埋めないで貫き通すのか)、気になるところではあります。
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