桐丸ゆい『仙猫トラキチ』 女子高生、猫の導きで仙女になる!?
江戸ものを得意とする作者が「お江戸ねこぱんち」誌に連載した、ちょっとユニークな猫漫画であります。謎の猫によって江戸時代にタイムスリップしてしまった女子高生・美々。そこで彼女が経験した出会いとは……
思い切って告白した先輩に振られ、落ち込んでいた女子高生の美々。どこか遠く誰も知らないところへ行ってしまいたいなどと野良猫相手に話しかけた美々ですが、何と猫はそれを聞いて巨大化――人語でトラキチと名乗ると、彼女を一呑みにしてしまうのでした。
と、次の瞬間、元の大きさに戻ったトラキチとともに、時代劇のセットのような場所に落ちてしまった美々。しかしそれはセットなどではなく正真正銘の江戸時代――長屋に暮らす青年・辰平の部屋の屋根をぶち抜いて文字通り転がり込んでしまった美々は、仙界からやってきた仙女だと誤解され、そのまま長屋に暮らすことになります。
しかし元の時代に帰りたいと思っても、トラキチはどこかに逃げ出してしまい、行方不明。辰平の手を借りて、江戸中を探し歩く美々ですが……
というわけで、女子高生タイムスリップもの(?)の一つである本作ですが、江戸文化に詳しい作者らしく、美々の目に映る様々な江戸の風物・文化が描かれていくのが本作の特徴の一つであります。
江戸時代の屋台の寿司の大きさなど細かい描写や、迷子探しの石標といった江戸時代ならではの道具立てなど、デフォルメされた絵柄の中で丁寧に描かれる江戸ものの数々は、いかにも作者らしいといつもながら感心させられます。
しかし本作で最大のサプライズは、第3話から登場するトラキチの飼い主の正体です。その飼い主の名は平田篤胤――そう、国学者であり、そして神隠しから帰ってきた少年・寅吉に取材した奇書「仙境異聞」を著したあの篤胤であります。
……アッ、だからトラキチで仙界だったんだ!? と雑誌連載時に読んだ時にひっくり返った記憶がありますが、いやはや、これはやはり非常にユニークなアイディアであり、個人的には本作最大の魅力と感じます。
もっとも、この設定だと「仙境異聞」がかなりの部分でフィクションということになってしまったり、またもう一つ本作のオリジナル設定である篤胤が実は○○という部分が、物語の中であまり機能していなかったりという点はあるのですが……
もっとも後者については、本作が全4話と、比較的短い――本作全体で見たとしても分量的には中編クラス――ことも作用しているかも知れません。
もう少し長期連載であれば、美々と辰平と篤胤(書きそびれましたが、本作の篤胤は美々たちとほぼ同年代に見える若者という設定)という三人の友情が、もっと描かれていたかもしれませんが――これはもちろん勝手な想像ではあります。
そんなわけでいささかあっさりめの味付けではありますが、少女が過去で暮らしたことで自分の現在を考え、未来を目指す姿を描いた本作、後味のよいファンタジーとして楽しめる作品であることは間違いありません。
そして電子書籍オンリーとはいえ、本作が単行本として一冊にまとまったのも、ありがたい話であります。
(もっとも、電子書籍オンリーの場合のねこぱんちコミックスらしく、本書も省エネな作りなのが残念なのですが――もちろんそれは作品のせいではないことは言うまでもありません)
『仙猫トラキチ』(桐丸ゆい 少年画報社ねこぱんちコミックス) Amazon
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