鈴木ジュリエッタ『トリピタカ・トリニーク』第1巻 少女西遊記!? 三蔵の向かう先は
ある意味中華ファンタジーの原点の一つともいうべき「西遊記」をベースにしつつ、見事に独自の世界観を生み出した少女漫画である本作――まずは全4巻のうち、第1巻のご紹介です。バイタリティ溢れる少女・花果と訳ありの法師・三蔵、長安に向かう二人を待つものとは……
とある田舎の村の寺で、敬愛する玄奘法師と暮らしている少女・花果。とにかく虚弱体質の玄奘を、彼にかつて命を救われた花果はお師匠様と慕い、二人は平和に暮らしていたのですが――ある日、黒く染まった川が、花果の運命を変えることになります。
川を黒く染める毒――都から垂れ流される汚水を止めるため、皇帝に嘆願に向かうこととなった玄奘。村に残された花果ですが、その晩、村を奇怪な妖魔が襲い、村人たちは皆猿に変えられてしまうことになります。
一人難を逃れ、玄奘に急を知らせるべく後を追う花果。しかしその玄奘のもとに、天から一筋の光が落ちたと思いきや、玄奘の体は「三蔵法師」を名乗る何者かに乗っ取られてしまったのであります。
やはり都に向かうという三蔵の、師匠を取り戻したければ俺を都に連れていけという言葉にやむなく従うこととなった花果。強力な法力を持ちながらもオレ様な三蔵と、純粋で人間離れした力を持つ花果の奇妙な旅が、ここに始まるのですが……
と、「西遊記」をモチーフ――というよりもパロディにしたような人物配置で展開していく本作。
この先、花果と三蔵の前には北斉出身の剣士・高河伯とその兄の高冰夷が現れ、行動を共にすることになるのですが、河伯が水の妖魔の名であることを思えば、彼が誰に当たるかは明白でしょう(ちなみに冰夷は、神話に現れる河伯の人間時代の名)。
とはいえ、先にパロディと評したとおり、花果たちのキャラクターは「西遊記」とは大きく異なります。三蔵――の肉体である玄奘を一心に慕う怪力幼女の花果、傍若無人で正体不明の三蔵、傲岸不遜な腕自慢ながら極度のブラコンの河伯と、いずれも一癖も二癖もある面子。
そんな賑やかなキャラクターたちが繰り広げる賑やかでコミカルな珍道中が描かれるのですが――しかし第1巻の後半で、恐るべき真実が語られることになります。
玄奘の体を強引に乗っ取った謎の男・三蔵。一行に襲いかかってきた妖魔の口から語られた、三蔵の正体とは――まさか! としか言いようのない人物だったのであります。
今回はその人物の名は伏せておきますが、なるほど、「彼」自身「西遊記」の登場人物であり、そちらでも玄奘三蔵とは深い因縁を持つ人物――三蔵の冒険行のきっかけとなった人物ではあります。
なるほど彼が都に向かうのは、ある意味当然ではありますし、そのオレ様っぷりも納得するしかないのですが――しかし、まさか彼が玄奘の体の中に入り込んでしまうとは、これを予想できた読者はいないのでは、とすら感じさせられるほどであります。
しかしそうなれば当然疑問になるのは、何故「彼」が魂だけの存在となってしまったのか、そしていま「彼」を名乗っているのは何者か、なのですが――この第1巻の時点ではまだそれが全く見えないのが、何とも気を持たせてくれるのです。
そんなわけで、一見コミカルで脳天気なパロディに見えつつも、その実、骨太のストーリーを窺わせる本作。さらに花果と、彼女の慕う玄奘とはほとんど正反対の性格であるはずの三蔵の間に生まれる心の交流など、グッとくるような人物描写の巧みさにも、感心させられます。
そしてこの先、長安に到着した一行が見るものは――その伝奇としてのスケールの大きさ、そして喩えようのない重さと残酷さについては、続く第2巻の紹介でお話したいと思います。
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