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2021.05.16

川原正敏『陸奥圓明流外伝 修羅の刻』第2-3巻 風雲幕末編! シリーズのスタイルここに完成

 『陸奥圓明流外伝 修羅の刻』の第2巻・第3巻は、風雲幕末編――そのサブタイトルの通り、当代の陸奥圓明流継承者・陸奥出海の視点から、幕末に生きた男たちの姿が描かれることになります。実に30年前に発表されたものの、今なお面白さは色褪せない本作をご紹介いたします。

 土佐藩邸で行われた剣術試合の決勝、北辰一刀流代表の坂本龍馬と、神道無念流流代表の桂小五郎の試合の勝敗を一目で見抜いた若者――陸奥出海と名乗る彼は、一人飄然と龍馬が塾頭を務める千葉道場に乗り込み、龍馬との立合いを望むのでした。
 ところが初対面の出海と年来の友のように意気投合し、日々を遊び暮らす龍馬。しかしある出来事をきっかけに、龍馬の剣士の魂が目覚め、二人の真剣勝負が始まることに……

 そんな「龍馬と出海という名の男」から始まるこの「風雲幕末編」は全2巻全4話構成のエピソードであります。
 いわば坂本龍馬編ともいうべき第2巻収録の2話では、こうして出海と出会った龍馬が、幕末の風雲児として起ち、斃れるまでの物語。第2巻の後半では、この真剣勝負の果てに剣で生きる道を捨てた龍馬が、海の向こうに行くという夢に邁進し、ついに維新目前まで辿り着くも――という悲劇が、龍馬の親友というべき出海の目から描かれることになります。

 一方、第3巻収録の2話は、新選組編というべき物語――その前半では、龍馬の死により抜け殻のようになった出海が、かつて沖田総司と交わした立合いの約束を思い出し、末期の床にあった沖田と決闘を繰り広げる姿が描かれます。
 一方後半では、沖田の最後の願いを聞いた陸奥が、土方と対面するために北へ北へ向かい、五稜郭陥落直前、単身官軍に斬り込みをかけた土方と対決、そしてその死を看取ることとなります。


 さて、以前ご紹介した第1巻・宮本武蔵編は、あくまでも「時代劇」的な内容――史実とはほとんどリンクせず、あくまでも陸奥と武蔵の決闘を中心に描かれた物語でした。
 それに対しこの風雲幕末編においては、物語における「歴史」の割合が圧倒的に高い――言い換えれば、陸奥の戦いが、歴史を描くための手段として描かれる(ことが多い)点において大きく性質が異なります。

 『修羅の刻』という作品は、こうした「時代劇」的性質の強いものと「歴史物語」的性質の強いもの、双方が存在するのですが、どちらかといえば主流に近い(巻数が多い)後者のスタイルは、この風雲幕末編が初出といってよいでしょう。
 『修羅の刻』のあとがき定番の「この物語は史実である。あなたにとっても史実であったなら、嬉しいなぁ。」というフレーズがここで初出なのも、象徴的と感じます。

 もちろん、『修羅の刻』の基本コンセプトというべき、歴史上の実在の強者と陸奥が激突するという点は本作においても変わらず、第2巻では陸奥vs龍馬、中村半次郎、伊東甲子太郎が、第3巻では陸奥vs沖田、土方という対決が描かれることになります。
 この辺りの決闘描写は、これはもう自家薬籠中の物というべきで、それぞれにスタイルの異なる剣士と徒手の陸奥との戦いは、まさに本作ならではの醍醐味でしょう。

 特に今回読み返してみて気づきましたが、沖田と土方のスタイルの違いを、陸奥圓明流の代表的な蹴り技である「孤月」を巡る攻防を通じて描き出してみせるくだりなど、見事というほかありません。
 一方、伊東甲子太郎との戦い(本作では龍馬暗殺犯は伊東という設定)は、全編通じてかなり珍しい、感情のままに相手を殺すために拳を振るう陸奥の姿が描かれ、これはこれで外伝らしいというべきでしょうか。

 その一方で、歴史ものとして見ると(特に第2巻は)まだ生硬な部分が目立つのですが――しかし、陸奥との戦いを通じて歴史上の人物の人となりを浮き彫りにするという本作のスタイルは、この時点で完成されたという印象があります。


 何はともあれ、初読から30年経った今でも、沖田の最期は雪が降る中での喀血(単行本のカラーページというのは何度読んでもやり過ぎ感はあるものの、しかしこれはこれでいい!)ですし、土方は最後に新選組の装束で官軍の陣地に突撃した――という印象が鮮烈に残っていて、まさに「自分にとっての史実」になりかけている本作。
(まあ、伊東への悪印象も植え付けられましたが……)

 個人的に『修羅の刻』でベストは寛永御前試合編なのですが、風雲幕末編(特に後半)はそれに次ぐかもしれない――と再確認した次第です。


『陸奥圓明流外伝 修羅の刻』(川原正敏 月刊少年マガジンコミックス) 第2巻 Amazon/ 第3巻 Amazon

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