宮本昌孝『天離り果つる国』上巻 快男児、天空の城を守れるか!?
戦国時代末期、飛騨白川郷に存在した伝説の城・帰雲城――天空の城と、そこに暮らす人々を守るため、竹中半兵衛の愛弟子である快男児・津田七龍太が活躍する伝奇ロマンの上巻であります。本願寺と信長の間に挟まれた「天離る地」を救う七龍太の策とは、そして彼を待つ数奇な運命とは……
戦国時代の奇譚好きの方であれば一度は耳にしたことがあるであろう帰雲城――何やらネーミングの時点で伝奇めいた帰雲城は、ある理由(物語の興趣を削がないため、ここでは伏せます)から幻の城として知られ、埋蔵金伝説なども残る地であります。
当然というべきか、フィクションの題材にも幾度かなっている帰雲城ですが――その幻の城を、戦国伝奇ロマンの名手である作者が描くというのですから、期待しないわけにはいきません。はたして本作は、実に作者らしい、史実と虚構の間を巧みに縫った時代エンターテイメントの快作であります。
物語は、廻国修行中の竹中半兵衛と従者の喜多村十助が、白川郷を訪れる場面から始まります。道に迷った主従が山中でたどり着いた屋敷で見たものは、何者かに殺された女たちと、ただ一人隠し間に隠されて難を逃れた赤子の姿。赤子を連れ帰った主従は、その子を七龍太と名付け、十助の子として育てるのでした。
長じて後、半兵衛の弟子となり、知勇優れた美丈夫として成長した七龍太。小谷城の戦いでのある功績で、織田一門の津田姓と永楽通宝の意匠の鍔を許された七龍太は、信長の使者として、帰雲城の内ケ嶋氏理のもとに現れることになります。
北国の一向宗の名刹から正室・茶之を迎え、かねてから一向宗と縁の深い内ケ嶋家と白川郷の人々。これまで戦国乱世とはほとんど無縁の白川郷でしたが、しかし本願寺と勢力伸長著しい信長の間で合戦が起こり、極めて難しい立場に立たされることになります。
そんな状況にある白川郷に訪れた七龍太は、氏理の人物と白川郷の素朴な人々、そして美しい山河に魅せられ、この地を守るために知恵を絞ることになります。
事あるごとに一向宗に加担する茶之、飛騨守護を簒奪した奸佞な三木自綱、本願寺の邪剣使い・下間頼蛇、比叡山を焼き討ちされ信長に復讐を誓う血裹頭衆、さらに北から白川郷を狙う上杉家――様々な勢力を向こうに回し、時には織田家中の目を盗んで、帰雲城の白川郷を守るために奔走する七龍太。
そんな彼の明るく飄々とした人柄に、氏理をはじめ白川郷の人々は強く惹かれていくことになります。そして氏理の娘でとてつもないじゃじゃ馬の紗雪もまた、初めは反発していた七龍太にやがて恋心を抱くようになるのでした。
紗雪が、そして氏理ら白川郷の人々は、二人が結ばれることを願うのですが――しかしそんな二人に、そして白川郷に、思わぬ波乱の運命が襲いかかることに……
内ケ嶋家と白川郷を次々と襲う難事――侵略や陰謀、あるいは困難な外交交渉といった、戦国時代の小国故の危難に立ち向かい、鮮やかに解決していく七龍太の姿が描かれるこの上巻。
飛騨山中深くに位置しながらも、ある二つの理由から、戦国時代において重要な位置を占める「天離る地」という白川郷の舞台設定と、そこから生まれるドラマがまず実に面白いのですが――同時に極めて魅力的なのは七龍太のキャラクターです。
作者の小説の主人公は、ほとんどの場合、「颯爽」という語が極めて似つかわしいヒーローなのですが、七龍太もその宮本ヒーローの系譜に確かに位置する快男児であります。
剣の腕は言うまでもなく、知略は竹中半兵衛譲り、それでいて徒に戦いを好まず、むしろ平穏な暮らしを愛する七龍太。土地の人々に積極的に交わって暮らし、その一方で武人としても折り目正しい姿を見せる――ほとんど非の打ち所のないスーパーマンですが、決して嫌味を感じさせない飄々としたキャラクター描写は、これはもう作者ならではの業の冴えというものでしょう。
(その一方で紗雪の無茶苦茶なヒロイン像も、これはこれで実に作者らしいと感じます)
そんな誰もが応援したくなるヒーロー、それが七龍太なのですが――しかしこの上巻のラストで七龍太は、彼でもどうにもできないような苦境に追い込まれることになります。
はたしてこの先、彼が、さらに紗雪や氏理、白川郷の人々がいかなる運命を辿るのか。そして冒頭に述べたある史実に如何に繋がっていくのか――さらなる波乱が待ち受ける下巻も、近日中にご紹介いたします。
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