鈴木ジュリエッタ『トリピタカ・トリニーク』第2巻 「長安最後の夜」の地獄絵図
あの「西遊記」を大胆に翻案(?)した少女漫画、全4巻の第2巻であります。敬愛する師匠の体を取り戻すため、都の異変の謎を探るため、長安に向かう花果・三蔵・河伯・冰夷の一行。ついに都に辿り着いた一行が見た意外な光景とは、そしてあまりに残酷な真実とは……
敬愛する玄奘法師との平和な暮らしをある日突然壊された少女・花果。村は妖魔に襲われ、玄奘は「三蔵法師」を名乗る男に体を乗っ取られ――事態を解決するため、花果は三蔵にやむなく従い、長安に向かうことになります。
実は「三蔵」の正体こそは、何者かによって体から魂を引き抜かれてしまった唐の二代皇帝・李世民(!)。自分の体と玉座を奪い、民を苦しめる偽の皇帝を倒すため、三蔵は都に向かおうとしていたのであります。
途中、突厥出身の高冰夷・河伯の兄弟を仲間に加え、長安に向かう一行。無惨に荒れ果てたとも、向かって帰ってきた者はいないとも言われる長安ですが、しかし城門をくぐった一行が目撃した都は――なんと、何事もなかったかのような平穏な、そして活気に満ちあふれた姿であります。
都の無事を喜ぶ三蔵と花果ですが、しかしその晩……
というわけで、物語の目的地である長安に(途中妖魔に襲われたりもしつつ)ついにたどり着いた一行。しかし外の世界はこのように妖魔が徘徊しているにもかかわらず、都の城壁の中で待っていたのは平和そのものの光景という、いささか意外な展開だったのですが――しかしそこから先に、あまりに無残な光景が展開することになります。
都の中で迷子になって、王宮に紛れ込んでしまった花果が見たもの――それは、宮中を我が物顔にうろつきまわる妖魔たち。それこそは、偽皇帝によって妖魔に変えられた元・人間たちだったのです。
もはや宮中に残るまともな人間はごくわずか、妖魔に変えられなかった人々は、いつ自分が妖魔の餌食になるかを怯えながら暮らしていたのですが――しかしそれでもなお、彼らはまだ幸いだったといえます。
偶然偽皇帝と出会ってしまい、彼に気に入られた末に、半ば強引に「長安最後の夜」を見せられることになった花果。そこで始まるのは、あれだけ平和だった長安の都に突如として無数の妖魔が現れ、美しかった街が瞬く間に破壊され、そこで暮らす人々の命が次々と奪われていく地獄絵図だったのです。
それまで――妖魔の襲撃などシリアスな場面はもちろんあったものの――基本的にはコミカルで、そしてほのぼのとしたムードすら漂っていた本作。しかし中盤のクライマックスというべき、この「長安最後の夜」のくだりにおいて突如として描かれたのは、あまりに残酷な光景でありました。
しかし本当に残酷かつ戦慄すべきはその先――そこで何が行われるのか、何が起きるのかはここでは伏せますが、しかし無惨や邪悪といった言葉が色を失うほどのその真実には、ただただ唖然とするほかありません。
そしてそれが行われる目的がまた、他所ではちょっとお目にかかったことがないような独創的なものであるだけに、より一層その衝撃は大きいのです。
さて、そんな惨劇が繰り広げられる一方で、新たな人物がこの物語に登場することになります。彼の名は王仕亥――李世民の妹・玉英公主に仕える校尉であり、公主ともども、宮中ではもはや数少なくなってしまったまともな人間の一人であります。
偽皇帝の非道極まりない所業に苦しむ人々を、何よりも公主を救うため、偽皇帝を討つことを決意した彼を待ち受ける運命もまた、あまりにも残酷なものなのですが――彼が「最後の一人」であろうことは、本作のモチーフを考えれば察しがつきます。
そして悲劇の連鎖を断つために立ち上がる三蔵と花果たち。その一方で高冰夷が抱えた深い屈託も描かれ、彼らの物語はどこに向かうのか大いに気になる中、物語は折り返し地点を迎えることになります。
『トリピタカ・トリニーク』第2巻(鈴木ジュリエッタ 白泉社花とゆめコミックス) Amazon
関連記事
鈴木ジュリエッタ『トリピタカ・トリニーク』第1巻 少女西遊記!? 三蔵の向かう先は
|
|
Tweet |
|
| 固定リンク
