横島一『宇宙戦争』第2巻・第3巻 侵略SFの元祖、現代へのアップデート完了
侵略SFの元祖であるH・G・ウェルズの古典の漫画版、全3巻の第2巻・第3巻であります。火星人の侵略が始まる場に居合わせることとなった写真家の「私」が目撃した地獄の数々とは、彼の、そして人類の運命は――誰もが知るあの物語が、新しい形で描かれることになります。
二十世紀初頭のある日、突如火星から飛来した巨大な金属の円筒から発せられた光線が周囲を薙ぎ払う様を目撃した写真家の「私」。驚異的な威力と射程を持つ光線から逃れるためにロンドンへの疎開を決意した彼は、妻のみを行かせ、自らは落としたカメラを取りに戻ることになります。
この混乱の中生き残った牧師、砲兵と出会った主人公は、三人で行動を共にして……
という第1巻に続くこの第2巻以降では、妻を追ってロンドンに向かう主人公たちが目撃する、火星人のさらなる脅威の数々が描かれることになります。
第1巻の後半に登場した巨大な三本足の怪物・トライポッドはその数を増し、光線のみならず黒い毒ガスを放って次々と人々を殺戮。そのガスが放たれた跡には、不気味な赤い植物が繁茂し、地を覆っていくことになります。さらにトライポッドたちは、触手で人間たちを拐ってはその生き血を吸い取り、食料にしていくではありませんか。
途中、生き残りの部隊に加わりトライポッドを迎撃することとなった砲兵と別れた主人公と牧師は、この火星人の人間狩りの現場から逃れ、地下室に隠れるも、数々の惨状を目撃したことから牧師の精神は異常を来し……
冒頭に述べたように、侵略SFの元祖である原作を、可能な限りそのムードを活かしつつ、漫画として再生してみせた本作。
二十世紀初頭という時代背景を踏まえた美術・風俗の中に、クリーチャー的なデザインにアレンジした火星人やトライポッドを配置することにより、本作は古典中の古典である原作を、強烈なリアリティと緊迫感を持って描き出していると感じます。
特に第一次大戦以前のテクノロジーレベルしかないイギリス軍と火星人の、彼我の戦力差の容赦ない描写は絶望的というほかなく、一方的に人類側が蹂躙される様には、ある種の感動すら覚えるほどです。もっとも、それだからこそ人類の数少ない反撃場面である、サンダーチャイルド号の突撃が、一際インパクトがあるのですが……
(個人的な話ですが、子供の頃初めて読んだ『宇宙戦争』の口絵にこの場面が実に格好良く描かれていたのを見たときの興奮が思い出されました)
さて、このように原作の描写と流れを丹念に踏まえている本作ですが、独自のアレンジももちろん存在します。そしてそれは特に、主人公と、彼と同行する二人の人物の描写に顕著に現れているのです。
その一人――本来であれば最も理性的であるはずが、火星人の恐怖に惑乱し、暴走していく牧師は、原作でもあったこの要素をさらに強烈にした形で描かれることとなります。
人間たちが無力に、無残に死んでいく姿を目の当たりにし、神の力に絶望した彼は、あろうことか火星人を崇め始め――というくだりは、パニックものではお馴染みの展開ではありますが、何とも厭な味わいを残します。
一方、登場時は所属部隊が彼一人を残して全滅し、パニックに陥っていた砲兵は、歴戦の中で成長し、人類の反攻を構想するまでになる、ある種英雄的な人物として描かれることになります。
原作では彼の構想――これがある意味実にウェルズ的な人間文明論として語られるのですが――は実は一種の空虚な妄想であり、彼自身もそれに酔うだけの人物として描かれています。それが本作においてはその役割を別の人間たちに与えることによって、真に――として描かれるのが、ユニークな点でしょう(この辺りは作品自体の結末の味わいにも繋がってくるのですが)
そして第1巻の紹介でも触れたとおり、写真家という設定になった主人公は、引き続き積極的に、この未曾有の事態の只中に突き進み、一部始終を見届けることになります。
この設定が彼を単なる傍観者ではなく、一つの意志を持った存在に変えているのであり――だからこそ彼が絶望的な事態に突き当たり、打ちひしがれる後半の展開は、一層重く感じられると言うべきでしょうか(もっとも、ギリギリのところで助かりすぎるのは、やりすぎの感もあるのですが)
このように実はかなりのアレンジもありつつも、しかし全体としてのイメージは原作のそれを丹念に押さえることで、違和感を感じさせない本作。古典的名作を、巧みに現代にアップデートしてみせた作品であります。
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