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2021.06.24

青崎有吾『アンデッドガール・マーダーファルス 1』 二重の怪物探偵が挑むクロスオーバーミステリ

 吸血鬼や人造人間といった怪物たち、そして怪人に名探偵が「実在」する十九世紀末のヨーロッパを舞台に、「怪物専門の探偵」コンビが事件に挑む、何ともユニークなミステリであります。怪物たちにまつわる事件の真相は、そして探偵たちの真の目的とは……

 人間により怪物たちの駆逐が進む1898年、フランス東部の地方都市の郊外にひっそりと住む「親和派」吸血鬼・ゴダール卿の城である晩突如起きた惨劇。城の自室で、卿の最愛の妻ハンナが胸を穿たれて惨殺されたのであります。
 卿がその数日前、銀の杭を手にしたハンターを返り討ちにしており、ハンナの亡骸には聖水を蒔かれていたことから、ハンターたちの復讐と思われたのですが――警察の対応に不満を抱いた卿は、怪物専門の探偵に事件捜査を依頼することになります。

 それに応えて城に訪れたのは探偵・輪堂鴉夜と助手の真打津軽――冷徹な黒髪の美女と、レースの覆いに隠された鳥籠を持つにやけた男の取り合わせに戸惑う城の人々ですが、真に人々を驚かせたのは「鴉夜」の姿だったのであります。
 そして警察や卿の見立てとは異なり、犯人は城の内部にいることを極めて論理的に指摘する鴉夜。それでも犯人と犯行手段に謎が残る中、捜査を進める鴉夜がたどり着いた真相とは。そして、津軽の真の力と、二人が旅を続ける理由とは……


 フィクションの世界の登場人物・怪物たちが皆「実在」の存在として一つの世界に登場する――そんなクロスオーバーはやはり誰にとっても魅力的なのか、『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』や『ドラキュラ紀元』など、様々な作品が存在します。
 本作もその系譜に連なるものですが――しかしそこに濃厚な本格ミステリ風味が施されているのが大きな特長でしょう。

 第1話は、上で紹介したように、吸血鬼が被害者の殺人(いや殺鬼?)事件という極めてユニークな題材。吸血鬼が自分の居城で、胸に杭を打たれて殺される――ある意味吸血鬼もの(のラスト)では定番の展開ですが、冷静に考えれば、これはなかなか困難な行為ではあります。
 作中でも語られるように、様々な弱点を持つものの、治癒力をはじめ、人間を遥かに超える肉体を持つ吸血鬼。それが自分の居城で殺されるという、冷静に考えれば不可能事件を、本作は論理的に――しかも吸血鬼という怪物の特徴を踏まえた上で――本格ミステリとして成立させてみせるのには痺れます。

 そういう意味で、本作は一種の特殊探偵ものと言えるかもしれませんが――むしろ別の意味で、本作は極めて特殊な探偵ものと呼ぶべき作品であります。何しろこうした怪物絡み事件専門の探偵である鴉夜と、助手である津軽――この二人もまた、それぞれに紛うかたなき怪物なのですから。
 未読の方のためにこの二人の「正体」については伏せますが、人知を超えた怪物たちが跳梁跋扈する世界においても、このコンビは最強の矛と盾であり、伝奇的にも実に魅力的な存在。ライトノベル的ケレン味も含めて、なるほど本作の主人公に相応しいというほかありません。


 そして第2話においては、ベルギーを舞台に、人造人間創造に取り憑かれた科学者が、数々の死体をつなぎ合わせた人造人間を見事に誕生させるも、その直後に密室で頭部のない死体となって発見された――という、これまた怪物絡みの不可能犯罪を描いたエピソードであります。
 ここでもまた、人造人間という存在の特徴を踏まえつつも、極めてロジカルな推理が行われるのですが、注目すべきは、ここにもう一人の探偵が登場することでしょう。

 この人物、ベルギー警察の敏腕警部であり、見事な口髭がトレードマークの、ちょっとチャーミングな小太りの中年男性。その口癖から周囲には「グリ(灰色)」と呼ばれている――と来れば、そう来たか! とニンマリするほかありません。
 このエピソードはある意味、二人の探偵の推理合戦の趣もあるのですが――その内容もまた本作に相応しく、クロスオーバーものとしてもミステリとしても、何とも贅沢な一編であります。


 そしてラストには、鴉夜と津軽、二人の本当の敵が登場するのですが、その敵の陣容がまた、垂涎としかいいようのない顔ぶれ。
 果たして二重の意味での怪物探偵が、如何にしてこの怪物たちに挑むのか――そしてそれまでにどのような事件が描かれることになるのか。

 本作の発表は六年前と、今頃のご紹介で大変恐縮ですが、今年第三弾が発表されたこともあり、急ぎ追いかけたいと思います。


『アンデッドガール・マーダーファルス 1』(青崎有吾 講談社タイガ) Amazon

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