岩崎陽子『浪漫狩り』第5巻 嵐の前の静けさ 絡み合う男たちの思惑
昭和初期、世界各地の超古代文明の遺跡を巡る伝奇活劇もいよいよクライマックス目前。陸軍特務機関が不気味に暗躍する中、猿渡への敵愾心に燃える犬神が、特務としての顔を露わにした那珂川が、高倉財閥総帥の座に就いた羽佐間が、それぞれの動きを見せることになります。
人間のものとは思えぬ超古代文明の遺跡を巡る暗闘に巻き込まれた考古学者にして埋蔵金盗掘指南の猿渡遼太郎。その遺跡にまつわる因縁は、猿渡の父である伝説のトレジャーハンター・結城晶造、そして師である楢崎教授にまで及ぶことが明らかになり、いよいよ複雑なものとなっていきます。
そこに加えて、猿渡の親友で冒険家の羽佐間が、実家のお家騒動に巻き込まれた末、高倉財閥の総帥に就任。一見遺跡とは関係なさそうなこの一件は、しかし財閥の所有する鉱山に超古代遺跡の一つがあったこと、そして財閥が出資する企業が遺跡研究を行う特務のダミー企業であったことから、やはり一連の事件と密接に関わることに……
と、思わぬ形で猿渡の周囲の人々の運命が超古代遺跡と繋がっていく中、この巻の冒頭で描かれるのは犬神の姿であります。
結城晶造の一番弟子であったものの、犬神はあくまでも「元」トレジャーハンター。この一連の事件に首を突っ込むことになったのは、軍のスカウト候補となったこともあるものの、最大の理由は、師匠の息子である猿渡への対抗心にほかなりません。
トレジャーハンターとしての経験はともかく、学問の知識やバックアップ体制は猿渡の方が上である中で、犬神のアドバンテージは――というところに出てくるのが、師匠から譲られた通称「結城ファイル」。
犬神が結城の墓に隠していたこのファイル――特務の面々も顔色を変える、チベット語で綴られたその内容とは……
そしてその犬神と思わぬ形で繋がることになるのが那珂川です。前巻では、彼の兄・隼人と、その親友であり今の上官である篠原少佐の過去が描かれましたが――篠原のみならず、彼もまた、兄の存在に囚われているといえます。
篠原が、親友の弟だけは自分たちのような裏の世界からは遠ざけようとする一方で、はたして兄の過去に何があったのか知ろうとする那珂川。隼人は「正義」であり過ぎたために死んだという篠原の言葉に、那珂川は「真実」を求めるために「正義」を捨てる決意をするのでした。
そして犬神と那珂川は、それぞれ後に退けない想いを抱いた者同士、互いを利用する形で手を組むことになります。
その一方で、篠原の上官である箆岐宮大佐もまた、京で神器を持つ者のみが許される禁断の儀式に挑み、あのメダリオンを神器の代わりにして儀式を成功させるなど、また独自の動きを見せることに……
さて、陸軍サイドが動き始めた一方で、少々おとなしめなのが主人公サイド。猿渡の手にもう一つのメダリオンが渡ったものの、大学の研究室でも高倉重工でも解析不能、下手にいじれば周囲に被害を及ぼしかねないオーパーツに、打つ手はなしと思われたのですが――そこに思わぬ形で状況が動くことになります。
ついに覚悟を固め、これまでの新聞記者としてのカムフラージュを捨て、軍人として羽佐間の前に現れた那珂川。一度は羽佐間に打ち切られたダミー会社への資金援助復活を要求する那珂川に対して、羽佐間の回答は……
なるほどその手があったかという、現代人の目から見ても絶妙な手段によって、特務に手綱をつけると共に、自分たちも同じ土俵に乗ることに成功した羽佐間。そして猿渡も高倉側の顧問としてそこに加わることになります。
かくて、陸軍特務と高倉財閥、陸軍のアドバイザーとなった犬神と、高倉の顧問となった猿渡――これまでの暗闘から一転、呉越同舟超古代文明遺跡に挑むことになった各勢力。はたしてそこに眠るものの正体は、そして陸軍の真の目的は?
冷静に考えるとこの巻は水面下の動きが大半で、嵐の前の静けさという印象なのですが――残すところあと2巻、疾風怒濤のクライマックスの始まりは、すぐそこであります。
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