武内涼『源平妖乱 鬼夜行』 最終決戦! 義経・静vs黒滝の尼!
平安時代末期、歴史の陰で暗躍する邪悪な血吸い鬼・不死鬼と殺生鬼に命がけで挑む、源義経ら影御先の死闘を描くシリーズ第3弾であります。多大な打撃を受けながらも邪鬼たちの陰謀を阻んできた影御先が、邪鬼の首領・黒滝の尼と京を舞台に繰り広げる最後の死闘の行方は……
歴史の陰で生き続けてきた血吸い鬼の中でも、邪鬼と呼ばれる殺生鬼(人を吸い殺し仲間を増やさんとする血吸い鬼)と不死鬼(一度死んだ殺生鬼が復活し邪悪な力を得たもの)を相手に、命がけの戦いを繰り広げてきた戦士たち「影御先」。
師と恋人を殺生鬼に殺されて影御先に加わった源義経は、これまで京と信州で二度に渡って邪鬼たちの邪悪な企てを阻んできました。しかしその代償は大きく、畿内と濃尾、そして赤城の影御先は数人を残して壊滅。義経も邪鬼たちの首領にして不死鬼・黒滝の尼に大打撃を与えたものの、新たな恋人・氷月は殺生鬼に変えられることになります。
満身創痍で影御先の神宝を守り抜いたものの、黒滝の尼が報復で母・常盤御前を襲うと知り、京に向かう義経。その頃京では、かつて畿内の影御先として義経とともに戦った磯禅師と静が邪鬼たちと戦い、偶然常磐を救うことになります。
そして伊吹山で、邪鬼を祓う秘宝の一つ・神変鬼毒酒を作る条件となる龍気が吹き出していることを知った磯禅師。しかし伊吹山では、黒滝の尼がこの龍気によって傷を癒やすために潜伏、戦力を集めていたのです。
京で静たちと再会し、再び邪鬼たちとの戦いを続ける義経。しかし義経の前には氷月が、そして静の前にはかつて友人だった少女・庭梅が殺生鬼となって現れ、二人を悩ませることとなります。
さらに邪鬼たちのみならず、力に憧れる人々をも戦力に加え、猛攻を仕掛ける黒滝の尼。一方、京より西を守る山海の影御先のお頭(その意外な正体に仰天!)は決戦を決意、かつて義経と共に戦った木曾義仲と巴、さらに義経といえば――のあの人物も参戦、総力を結集して伊吹山に向かうのですが……
と、これまでの二作で描かれてきた物語の総決算として、最大最後の決戦が繰り広げられることとなる本作。とにかく冒頭から結末まで、ほとんど全編に渡ってバトルバトルバトル――人間vs不死鬼、人間vs殺生鬼、人間vs餓鬼(ゾンビ)、さらには人間vs人間と、それぞれに趣向を凝らした死闘が描かれることになります。
シリーズ第1巻『不死鬼』の解説にあるように、吸血鬼時代劇は結構な数があるのですが、ここまで戦いそのものをクローズアップした作品はこれまでなかったと言えます。
しかし本作での影御先と邪鬼の戦いが、これまで描かれてきたものと大きく異なるのは、邪鬼の側に味方する人間たちの姿があることでしょう。もちろん、これまでも不死鬼の術に操られ、影御先に敵対する者たちはいました。ところが本作に登場するのは、ある意味自主的に邪鬼に味方し、その眷属になることを望む者たちなのです。
何故、わざわざ人間であることを捨て、邪鬼になろうとするのか――それはこの時代の有様に原因があります。
本作の舞台となるのは、まさに平家がその権勢の絶頂を極めていた頃――庶民の多くが餓えや病に苦しんでいる中で平家一門が権力を独占、さらに禿たちを町に放って不満を持つ者たちを弾圧していた時代であります。
平家にあらずんば人にあらずという時代、まさに「人」にあらずとされた者たちが救いを求めて、人を超えた力を持ち、人の則を外れた存在になることを望む想いは、なるほど理解できないでもありません。
しかし作中で義経が喝破するように、それはさらなる地獄の始まり――救われるために力に頼り、則を踏み外した者に待つのは、結局は救いなどではなく、永遠に力と欲望に溺れ続ける餓鬼道のみなのであります。
それでも、他の人間を文字通り食い物にしてでも、人間であることを捨ててでも生きようとするものがいる――それはひどく苦い「現実」ではあります。しかしだからこそ、そんな世界を変えようと戦い続ける義経が、そして己の中に流れる血吸い鬼の血と対峙し続ける静が、本シリーズの主人公として輝くのでしょう。
そしてそれは、あたかもこの「現実」と鏡合わせのように感じられる今という「現実」を生きる我々にとって、一つの希望として感じられるのです。
さて、本作において一つの戦いは終わり、義経も新たな道へと歩みだすことになりますが――これで邪鬼との戦いが終わったわけではありません。いまだ妖しい動きを見せる敵、そしていまだ解決していない因縁――この先の物語にも期待してしまうのであります。
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