鮫島圓『狐の掟 中国幻想選』 帰ってきた人間と人間以外の愛の物語
先日『中国幻想選 竜王の娘』が話題になった作者による、やはり中国の志怪小説や随筆、説話集を漫画化した短編集であります。過去に『蓬莱トリビュート』のタイトルで刊行されたものの収録作品の一部+未収録作&描き下ろしが収録されています。
『太平広記』や『閲微草堂筆記』といった志怪小説をベースにしつつも、現代日本の読者にも受け入れやすい絵柄と絶妙なアレンジで支持を受けた作品集『竜王の娘』。
作者の同様の作品としては、以前に『蓬莱トリビュート』が刊行されていましたが、現在では絶版になっています。その内容の一部と、続編の『蓬莱エクステンド』としてWeb連載されていたもの、さらに描き下ろしで、本書は構成されています。
妻を喪った男が、亡魂を呼び出すことができるという術士・趙十四を頼り、妻と束の間の再会を遂げる「趙十四」(『太平広記』)
山中で出会った一家の娘の美貌と教養に一目惚れし、妻として連れ帰った男が、年を経て妻の正体を知る「異類の娘【虎】」(『太平広記』)
山中で侍女に傅かれて暮らす美女と出会った狩人が互いに惚れあって結ばれたものの、些細な行き違いが取り返しのつかない結末を招く「異類の娘【狼】」(『夜譚随録』)
山中で遭難して人熊(ヒグマ)に助けられた男が辿る意外な運命「熊に助けられた男」(『子不語』)
犬に襲われていた狐を助けた男のもとに、狐が変じたという美女が夜毎訪れるも、意外な結末が待ち受ける「狐の掟」(『閲微草堂筆記』)
ある晩、墓地で目撃された、仲睦まじく語らう美少年と老婆の真実「月下の恋人」(『閲微草堂筆記』)
盗賊に襲われながらも操を守り通して死んだ妻の亡魂が夫のもとを訪れる「冥府に行った嫁」(『閲微草堂筆記』)
一族を根絶やしにされ、自身も腕と足を失いながら不思議な狼に救われた少年を通じて突厥の出自を描く「アシナ」(『隋書』)
そして狩人が怪しげな行動を取る狐の帳簿を覗いてみれば――という初回限定特典「秘密の帳簿」(『捜神後記』)
このうち、「異類の娘【虎】」「異類の娘【狼】」「狐の掟」「冥府に行った嫁」が『蓬莱トリビュート』収録作、「趙十四」「熊に助けられた男」「月下の恋人」が単行本初収録作、「アシナ」が描き下ろしという形となります。
残念ながら『蓬莱トリビュート』に収録された作品が全て本書に収録されているわけではないのですが、一定の選定がなされた意図は明確でしょう。それは、本書に収録されているのが、いずれも人間とそれ以外――あるいは亡霊、あるいは獣との間の愛を描く物語であることです。
夫が幽明境を異にすることとなった妻の姿を求める、男が動物が変じた美女と出会い愛を交わす――ある意味典型的なシチュエーションですが、むしろその典型の源流が、本書のベースとなっていると言ってもいいでしょう。しかし本書は、原典にプラスアルファの要素を加え、あるいは画の力でもって、そこから一歩踏み込んだ味わいを生み出しています。
例えば表題作の「狐の掟」。美しい異類婚姻譚に見えたものが、終盤に至りガラッと趣を変え、皮肉で残酷な結末を迎えるという物語自体はほとんど原典そのままなのですが――本作においては(原典では明示されなかった)男のもとを訪れていた娘の意図が明確に描かれる点が異なります。
それでありながら、結末における男の行動は変わらない――原典では男の行動を愚かなものとして描いているのですが、本作においてはそれが一周回って、不思議な純愛の姿を生み出しているとすら感じられます。
一方、「月下の恋人」は、原典自体もごく短いこともあり、ほぼそのままの内容なのですが、ラストページの画は、二人の愛の無上の美しさを見事に描き出しているといえるでしょう。
また「アシナ」は、原典が歴史書であり、内容も民族創生神話というべきものですが、時にドキッとするほど生々しい描写を交えて描くことで、美しい愛と祈りの物語として、原典を再生させていると感じます(またラスト2ページが泣けるのです……)
そんな本書の中では、恐ろしいことにほとんど原典に忠実な「熊に助けられた男」はむしろ変わり種かもしれませんが……
何はともあれ、原典の内容の豊かさはそのままに、漫画としての巧みなアレンジを加えることで、さらなる面白さを生み出している点では、これまでの作者の作品と同様の本書。中国の志怪小説やファンタジーを愛する方であれば必読です。
(そして今回収録されなかった『蓬莱トリビュート』の作品もどこかで読めることを祈っております)
『狐の掟 中国幻想選』(鮫島圓 双葉社webアクションコミックス) Amazon
関連記事
鮫島圓『竜王の娘 中国幻想選』 唐代から現代に繋がるボーイミーツガール
鮫島円人『蓬莱トリビュート 中国怪奇幻想選』 人間と人間以外が織りなす「人間」ドラマ
|
|
Tweet |
|
| 固定リンク
