青木朋『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』第4巻 三人の皇子 泰平の陰の争い
北宋の徽宗皇帝の時代、親善大使として宋を訪れた金の皇女アイラを主人公とした歴史漫画も第4巻。相変わらず騒動に巻き込まれるアイラですが、その中で彼女は、宋の皇子たちを巡る複雑な事情の数々を知ることになります。そして描かれる、あの人物の意外な内面とは……
遼による金国使節暗殺計画に巻き込まれながらも、白凛之の活躍もあって事なきを得たアイラ。その後も宋との親善のため、金に帰る兄たちに別れを告げ、彼女は宋に残ることになります。
宋の宮中で暮らすことになったアイラは、徽宗皇帝やその第三皇子・鄆王と交流し、宋の文化の華やかさに触れることになりますが、彼女の(一応)婚約者の康王との仲は相変わらず。
それでも、円珠のために協力する二人ですが――その最中に謎の人物に遭遇、揉み合いとなった際に相手が落とした謎の冊子を手に入れることになります。しかしその翌日、相手を誘き出すために逢引を装っていた二人の前に再び現れたのは、何と白凛之。しかも、冊子を突きつけられた彼は、何と煙玉を投げ、冊子を奪ってその場から逃走して……
と、いきなり思いも寄らぬ行動に走った白凛之。確かにその直前、身分ありげな人物を前にして意味ありげな会話を交わしていましたし、そもそものきっかけを作った謎の人物自体、彼を思わせるシルエットだったのですが――にしても行動が豪快すぎる。
そんな状況にアイラと康王が戸惑っているところに現れたのは第三皇子の鄆王。実は皇帝の命で火薬を用いた新兵器の開発をしていたという彼は、その秘密が記された冊子――火焔日録を、白凛之に奪われたというではありませんか。そして白凛之自身、意外な正体があるというのですが……
と、突然思いも寄らぬ展開となったこの第4巻ですが、まあこれまでの物語を読んできた読者であれば真実は一目瞭然でしょう(と言いつつ、私は思い切り引っかかりましたが……)。
とはいえそこには部分的に真実があります。真に新兵器の開発を命じられていた者――それは皇太子であり、今回の件は、全て彼を陥れるための妨害工作だったのであります。
思わぬことから、宋王室の跡目争いに巻き込まれることとなったアイラですが、もちろん自分たちを騙し、白凛之らを危ない目に遭わせた相手を許すはずがありません。真実を明るみに出すため、アイラは皇帝に直訴すると息巻くのですが、しかしそこに思わぬ妨害が入ることに……
このように、この巻でも相変わらず元気なアイラですが、しかし物語の中心となるのは、上に述べたように、宋王室内の跡目争いであります。遼との戦争はともかく、表向きは天下泰平の極みにあるこの時代の宋。その真実がどうであったかは、この時代に興味がある方であればよくご存知かと思いますが、その一端が、ここで描かれることになります。
そしてその中で、思わぬタイミングでキャラクターの掘り下げが為されるのが康王です。
物語の冒頭から登場しながらも、これまで裏表のある、猫かぶりな人物としての側面が強調されてきた康王。もちろん不幸な境遇の妹・円珠を愛おしむ姿に、それだけの人物ではないことは表れていますが、しかし前巻で描かれた代筆疑惑なども相まって、アイラの、そして読者の印象は芳しいものではありません。
しかし――ここで描かれるのは、何故康王がそのような行動を取っているかという、その理由。そしてそれを知った時、彼を見る目は、全く変わることになります。
そしてそれを知ったアイラが、この先何を思うのか、二人の関係性がどのように変化していくのか――跡目争いの行方以上に、気になってしまうのであります。
それにしても――皇太子、鄆王、康王の三人が並ぶと、その後の歴史を知る者にとっては、何とも言えぬ感慨が浮かびます。ある意味、史実を知っているといま最も胸が痛む歴史漫画かもしれません……
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