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2021.11.14

戸南浩平『サムライ・シェリフ』 激突、刀vs拳銃 そして親と子の物語

 『木足の猿』『菩薩天翅』と、明治初期を舞台に、江戸を引きずった元武士を主人公とした、明治ハードボイルドというべき作品を発表してきた作者。本作はやはり明治初期を舞台に、元武士の刑事が米国から逃亡してきた凶悪なガンマンを追うサスペンスフルな物語であります。

 明治11年、元同心にして今は警視庁の刑事・三崎蓮十郎は、英語が喋れるという理由で、ある事件の担当を命じられることになります。それはアメリカ人ガンマン、ジャック・モーガンの追跡――強盗殺人を繰り返してきた極悪人であるモーガンは、カリフォルニアで上院議員の息子を殺害、ほとぼりを覚ますために、海を渡ってきたというのです。

 しかし殺害された夫の仇討のため、その妻・エレナと6歳の息子・チャーリーも来日。エレナはモーガンの首に一万ドルの賞金をかけた上、外交ルートを通じて、日本国に圧力をかけてきたのであります。
 日本の警察にとっては迷惑この上ないこの一件ですが、三崎にとっては、決しておろそかにはできない側面がありました。モーガンの日本入国を手引きした者――それは三崎の養父・源兵衛が生涯追いかけていた殺人鬼・羅刹鬼だというのです。

 江戸時代末期、次から次へと裕福な家の子供たちを拐って身代金を要求し、従わない場合は子供を残忍な方法で殺害してきた羅刹鬼。かつて源兵衛は、商家の子供を誘拐した羅刹鬼を独断で追跡、しかし逃げられた末に報復として、その子供を惨殺された過去があったのです。
 幕末以降、姿を消した羅刹鬼。その羅刹鬼とモーガンに繋がりがあるとすれば――今は亡き父の無念を晴らすため、三崎はモーガン追跡に燃えるのでした。

 しかし一度はモーガンと相まみえた三崎ですが、やはり刀と銃では相性が悪く、取り逃がす結果に。さらにモーガンはチャーリーにその魔手を伸ばして……


 冒頭で述べたように、これまで江戸から明治へと移り変わる中、過去を背負って生きる元武士の姿を描いてきた作者。本作の主人公・三崎は、これまでの主人公に比べればかなり陽性の人物であり、その意味では、本作はこれまでのものに比べて、少し軽めの印象を受けるかもしれません。
(もっとも、子供好きには胸が痛む/悪くなるような場面も幾つかあるのですが)

 しかしその一方で、三崎は、養父・源兵衛が取り逃した羅刹鬼の存在に縛られている人物でもあります。彼自身は羅刹鬼の事件に直接遭遇したことはないものの、羅刹鬼に子を殺された――しかも源兵衛の失策が原因で――親は、今も彼の身近で生き続けているのであります。
 そんな三崎がモーガン追跡において見せる様々な顔と想いは、本作の見どころの一つと言えるでしょう。

 そしてまた本作は、「親と子」の物語でもあります。赤子の頃に源兵衛に拾われて養育されたものの、実の親子以上に濃い絆で結ばれた三崎。東洋人と西洋人の間に生まれ、自分の父親の顔も知らなかったモーガン。父の仇を追う形で来日したチャーリー。そして親から最も残酷な形で子を奪う羅刹鬼……

 本作で描かれる様々な親子の姿――良いものであれ悪しきものであれ、そして血の繋がりがあろうとなかろうと、親と子の間で繋がり、受け継がれるもの。それは、江戸と明治、あるいは東洋と西洋といった異なる世界の繋がりと、重なり合わさる形で描かれていると感じます。


 こうしたドラマ面の面白さに加えて、本作でやはり気になるのは、刀と銃の激突の行方でしょう。
 もちろん三崎も人並み以上の剣の使い手ではありますが、モーガンもまた凄腕のガンマン。まともにぶつかっては絶対に勝てない相手に如何に挑むか――戦いの性質が性質だけに勝負は一瞬ですが、大いに胸踊りました。

 そしてもう一つ見逃せないのは、ミステリとしての側面です。本作で最大の謎となる羅刹鬼の存在――その正体は何者か、そして何故モーガンを庇うのかという点も含めて、三崎がその謎に迫っていくくだりは、ある意味刀と銃の決闘以上に盛り上がります。
 特に羅刹鬼の○○に秘められた意味は、そうであったか! と思わず膝を叩いた次第。ちょっと突飛に見えるようでいて、ある意味伏線も描かれているのに納得です。


 先に触れたとおり、これまでの作品に比べれば軽めの印象があり、その点で評価が別れるかもしれません。しかしラストで描かれる情景のしみじみした味わいなども実に良く、ユニークなタイトルではあるものの、その内容はなかなかに真っ当な佳品であります。


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