石川優吾『BABEL』第10巻 八犬士の正体、そして…… ネオ八犬伝完結
原典から大きく飛び出し、意外また意外な物語を描いてみせたネオ八犬伝も、この第10巻でついに完結。安土に出現したバベルの塔に籠もる最強の魔王・織田信長に対して、諸国の大名連合軍が挑む中、塔に突入せんとする八犬士。その最中に明らかになる、犬士たちの秘密とは……いよいよ決戦です。
生ける屍を操り、桶狭間で勝利した信長――その強大な魔の力に抗するため、諏訪で時を超えてきた少年・孫兵衛と対馬のコンビと出会った信乃たち。お市こと玉梓操る生ける屍の群れと死闘を繰り広げつつ、辛うじて玉梓を倒した信乃たちは、比叡山に孫兵衛たちを迎えます。
しかしそこで孫兵衛と対馬が見たものは、比叡山に迫る――二人にとってはあまりに馴染み深い――黒い水と、これまでの歴史の繰り返しに存在したことのない、安土にそそり立つ巨大な塔の姿。
塔――バベルの塔に籠もる信長を倒すため、犬士たちと孫兵衛・対馬は決戦を決意するのですが……
というわけで、これまで色々と驚かされてきた中でも最大級の驚きが待ち受けていた本作。その締めくくりにふさわしく、信長を討つべく結集したのは、武田、上杉、浅井、朝倉――という戦国武将連合軍。これだけの面々が集結する名目が、今川義元の弔い合戦というのがなかなか面白いところですが、しかし、これはある意味壮大な陽動に過ぎません。
何故ならば、魔を真に討つことができるのは、この国の神仏の力を背負った八犬士のみ。しかしその八犬士は、信乃・現八・小文吾、そして孫兵衛改め○○○――と、まだ四人しかいないではありませんか!
ここに冒頭以来信乃の前から姿を消していたあの男が帰ってきたのを加えても五人。残る三人は――これが意外な形で登場し、ついに八犬士が集結することになります。
とはいえ、八犬士が揃ったとしても、それでもなお信長の軍勢は強力無比。何しろその主力はあの生ける屍、倒しても倒しても甦るどころか、その犠牲になった者もまた、その一員に加わってしまうのですから。
その行いの邪悪さを非難した孫兵衛ですが、しかし信長はそれに思わぬ言葉を返します。それは自分だけの行いではないと。
その言葉の意味とはつまり……
かくて最終決戦において明かされる、思いもよらぬ真実。それはあまりにも――「八犬伝」という物語の枠組みを考えれば特に――意外に感じられます。
しかし本作において西洋の魔が、それぞれ戦国武将らの肉体を奪って利用していることを思えば――それに対する存在である八犬士もまた尋常の存在ではないということも、理解できる話ではあります。
そしてこれまでの物語を見れば、少なくとも信乃・現八・小文吾については、それも納得できる展開といえるでしょう。
が――これはあまり書きたくはなかったのですが、最後に加わった三人(と言っていいものか?)のうち、一人はまあいいとして、それ以外の二名はそもそも違和感がある顔ぶれであるのは否めないところではあります。
(この辺りは色々と想像できるところですが、しかし描かれたものが全てでしょう)
このどうしても駆け込み感のあるメンバーだけに、クライマックスの展開も、インパクトが薄れがちだった――というのは残念ながら正直な印象ではあります。
孫兵衛に関する意外などんでん返しや対馬の辿る運命など、いずれもひねりが加わっていて実によかったのですが……
他のどこにもない、ここでしか読めない物語を見せ続けてくれた本作。それだけに、もう少し先まで読んでみたかったという想いは強くありますが――まずは大団円というべきでしょう。
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