奈々巻かなこ『神域のシャラソウジュ 少年平家物語』第3巻 そして少年は当たり前の滅びに抗う
平家を守る神人として育てられた少年・千珠丸と、平清盛の娘であり安徳天皇の母となった徳子、そして源氏の神人・遮那王を軸に描く異形の平家物語もついに完結。千珠丸に見放された平家が滅びに向かう中、徳子の運命は、そして少年たちの想いの行方は……
いつからか平清盛の下にあって、平家に幸運と守護を与えてきた神人・千珠丸。いつまでも変わらぬ少年の姿を持つ千珠丸は、清盛の娘・徳子と心を通わせますが、彼女は清盛の命で高倉天皇に入内し、安徳天皇を授かることになります。
一方、源氏方の神人である遮那王と出会い、神人とは神への生贄だったと聞かされて清盛らへの不信感を募らせる千珠丸。それでも遮那王の攻撃から清盛を守った千珠丸は、平家の前から姿を消し……
という展開を受けたこの第3巻では、冒頭から清盛がこの世を去り、いよいよ平家は滅びに向かって突き進んでいくことになります。
今や源氏の守り神として連戦連勝を重ねる遮那王と、疫神を操り高倉院や清盛の命を奪った静――二人の神人の力により次々と人物を失い、戦いに敗れていく平家。
そして、まだ年端もいかぬ安徳天皇と共に彦島まで落ち延びてきた徳子の前に、数年ぶりに千珠丸が現れるのですが――彼が語るのは、失われていた記憶、すなわち自分と静が神人となった際の出来事だったのです。
厳島の神の怒りに触れた重盛の身代わりとして、自分たちが清盛によって生贄に捧げられ、その末に神人として生まれ変わったことを知った千珠丸。自分の家族のように思ってきた清盛たちに裏切られていたことを知った彼にとって、もはや平家に味方する理由はありません。
しかしそんな彼にとって唯一心残りとなる存在が徳子であります。千珠丸は、安徳帝も連れて逃げようと彼女に訴えるのですが……
もはや全てを失った千珠丸に唯一残された、徳子への想い。しかし徳子は家のため、家の人々のため逃げることを拒絶します。かくて徳子のために壇ノ浦に参戦する千珠丸と、彼を嬉々として迎え撃つ遮那王。
己の過去を思い出した代わりに、神人としての自分の居場所を失った千珠丸と、忌み嫌っていた源氏の神人として、自分の居場所を得た遮那王――ある意味、二人の立ち位置は逆転してしまったといえるかもしれません。
しかし立場の逆転こそあれ、二人の姿は、あくまでも人間に――自分が何者であるか、何者になれるのか、何者にならなければいけないのかわからない少年のそれに他ならないと感じられます。(遮那王(と静)が、自分たちの行為は「正当」だと語るのは、それ自身が心の揺れの現れでしょう)
そしてその一方で、自分自身が平家の娘であること、そして一人の子の母であることを受け容れ、それに殉じようとする徳子は、既に大人になっているのでしょう。
この三人の、少年と大人の心の心のすれ違いと、壇ノ浦の戦いが二重写しとなって描かれるクライマックスはまさに圧巻――登場する平家の人々の個性が巧みに描かれていることもあり、このような描き方があったか! と唸らされました。
(平家の人々といえば、かつて千珠丸を生贄にし、そしてその後庇護した清盛と重盛の心情描写も、また実に巧みと感じます)
しかし戦いの果て、千珠丸は文字通り自らの心身をすり減らした末に、厳島の神と対峙することになります。その中で語られたもの、そしてそこから千珠丸が掴んだもの――その中身は、千珠丸が自分自身の在り方を、真に求めるものを見出したというべきでしょう。さらにいえば、それは彼が少年だからこそできたことだとも。
そして運命に翻弄された人々を描いたこの物語の結末に、これほど相応しいものはないと信じます。
そこにあるのは、「家」や「血」ではなく「人」との繋がりを求める真っ直ぐな想いであり――それは千珠丸だけでなく、徳子にとっての救いであったことは間違いないのですから。(そしてもう一人の少年・遮那王はその想いを掴むことができたのか――史実を思えばいささか悲しい気分になるのですが)
諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ。
確かにそのとおりなのかもしれません。しかしそんな言葉で人の命を、生の結末を当たり前のものとして受け容れていいのか――本作で描かれたものは、その異議申し立てだったのではないか、という想いを抱きました。
少年たちを通して、当たり前の滅びに抗い、小さくとも確かな希望を描いた物語――ここに大団円であります。
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