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2022年1月

2022.01.31

北崎拓『ますらお 秘本義経記 波弦、屋島』第5巻 「彼」が見た義経 そして「与一」が一矢に賭けたもの

 孤独な獣のような源義経の魂の彷徨を描いてきた『ますらお 秘本義経記』――その義経の屋島に至る戦いを描く『波弦、屋島』の章もついにこの巻で完結。平家の罠にかかりながらもなおも戦う義経主従を待つものは、そして屋島の合戦のクライマックスに、那須与一は何を思うのか……

 海賊党の助けを借り、嵐の海を超えての奇襲という常識はずれの戦法で屋島の内裏に突入した義経主従。しかしそこは平家の策でもぬけの殻――一転して窮地に陥りながらも、与一を配下に加えた義経は、阿修羅のごとく戦いを続けます。
 そして因縁の相手である平教経を追って敵陣深く突入した義経ですが――そこで一つの別れを彼は経験することになるのでした。

 浜辺まで漕ぎ寄せた舟より、義経めがけて矢を放つ教経。最初の矢は逸れ、そして与一の反撃で深手を負いながらも、なおも執念の一矢を義経めがけて教経が放った時――それを受け止めたのは……


 源平の合戦の中でもおそらく壇ノ浦に次いで有名な戦であり、その模様も様々な形で語られてきた屋島の合戦。それだけに、ここで何が起こるのか、我々はよく知っています。
 どれだけアレンジされた形で描かれようとも、基本的に史実に帰結する本作。そしてその史実通りに、義経をこれまで支えてきた股肱の臣の一人が、ここで命を落とすことになるのですが――しかし印象に残るのは、その死そのものもさることながら、死の間際の回想として描かれる、「彼」がかつて見た義経の姿であります。

 かつて義経が木曾義仲を破って入京した時、とある館に忍び込む義経。既に主たちは都落ちしたというその館は、藤原長成の館――義経の母が後妻として入り、義経も幼い頃過ごした場所でした。
 かつて寺を抜け出して同様に忍び込んだ際に、母と腹違いの弟妹の幸せそうな姿を目撃した過去を持つ義経は、今は母を殺すために戦をしている気すらしている、と語ったのですが……

 そんな酷薄な言葉とは裏腹の、傷つきやすい子供のような心を知っていた「彼」が、義経に対して抱いた想い、願った事――それは、我々読者、特に『ますらお』の最初の連載が始まった30年近く前から義経の姿を見続けていた読者にとっては、よく理解できるものではないでしょうか。
 だからこそ「彼」の――義経主従の中でも一番一般人に近い感性を持っていた彼の――退場は、ひどく心に刺さるのであります。


 そして教経が深手を負い、彼の寵童・菊王丸が討たれたことでひとまず終わりを告げた屋島の合戦。しかしここで面子(士気)と命の危険(兵の犠牲)の板挟みとなったて悩む名目上の総大将・宗盛に、ある策を献じた者がいます。
 平家の兵を誰も傷つけずに源氏を嘲弄する策――それは、沖合の小舟の竹竿の上に立てた扇を射てみよと挑発すること。そしてその策を献じた者こそは、与一が「姉」と呼び慕う女性、那須家の姫・日々子だったのです。

 小舟に乗った平家の女房が指し示す扇を岸から射るという、常人にはおよそ不可能なこの難事を見事に那須与一が成し遂げ、現代に至るまで弓の名手として不朽の名を残す――それが屋島の合戦のハイライトであることは言うまでもありません。
 そして本作『波弦、屋島』の章もまた、ある意味この一瞬のために――与一というもう一人のますらおの数奇な半生とともに――描かれてきたと言ってよいでしょう。

 この運命の一瞬に、与一が、そして日々子が何を想ったか。そしてかつて日々子自身が名乗った「与一」の名に、何を賭けたか。
 与一と日々子がこれまで辿ってきた人生、ひたすら過酷な運命を思う時、まさにこの一瞬こそは二人の人生の一つの頂点であり、この一瞬のためにこれまでの運命があったとすら感じられる――ここで描かれたものは、それだけの重みを持ったものと感じられるのです。


 しかしもちろん、その後も二人の人生は続きます。そして義経の悲願である平家滅亡は、まさにこの先に、あとわずかで現実のものとなるところまでに来ています。
 はたして義経が望むその時までに何が起こるのか、そしてその時に義経は何を想うのか――その時はまだ少し先になることと思われますが、必ず見届けたいと思います。


 ちなみに私は今まで与一が扇を射た後に、舟に乗っていた女房を射たと思い込んでおり――囃していた平家の武者を射たという逸話と混同していたらしい――勝手にどのような結末になるのか恐れ慄いていたのですが、良かった、本当に勘違いで良かった……


『ますらお 秘本義経記 波弦、屋島』第5巻(北崎拓 少年画報社YKコミックス) Amazon

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2022.01.30

『半妖の夜叉姫』 第41話「阿久留のかざぐるま」

 殺生丸を救うために魂が尽きたとわだが、阿久留の不思議な力に助けられる。そこに現れた時代樹の精霊は、現代に妖霊星が落ちることを告げ、その撃破を命じる。一方、犬夜叉一家は再び現れた麒麟丸と激闘を繰り広げ、撃退に成功する。三姫は時の歯車を動かすため、殺生丸の母のもとに向かうが……

 前回、魄を蝕まれる殺生丸を救うために斬星剣を使ってその妖気を吸い取ったものの、今度は自分がダウンしてしまったとわ。邪見曰く、これは魂を使い果たした、つまり精神活動が止まってしまったとのことですが――あまりにショッキングな展開にりんが凍りついていたところに、神出鬼没の阿久留が現れます。そしてその手の風車から何やらキラキラがとわに向かって放たれたと思えば、なんととわは復活。どういう理屈かさっぱりわかりませんし(時間を戻したとかそういう?)、都合の良すぎる展開ではありますが、これ以上悲しいすれ違いも辛いのでOKでしょう。
 そしてそこに現れた時代樹の精霊は、阿久留が三姫を認めたこと、阿久留の力で時を超え令和の時代(と具体的に言うのが妙におかしい)に落ちる妖霊星を排除せよと命じるのでした。そしてもう一つ、その時代には存在しない異物(=希林先生)も――そしてこの事態を前に、ようやく家族が揃ったにもかかわらず、りんは気丈に娘たちを送り出すのでした。しかし娘たちが行ってから涙を流すりんに、殺生丸(まだ目の辺りがシャドウ)は、心なしか口元がほころんでいるような……

 さて、時代樹の中が色々大変になっているとは知らず、親子仲良く並んで骨喰いの井戸に腰掛けていた犬夜叉一家。何気にここが二人の馴れ初めの場所などとかごめがのろけ、犬夜叉が赤面したりと仲の良いところを見せたと思えば、先日産霊山の結界でニアミスしてから作っていたと、かごめがもろは用の弓をくれたりと、これまでの分を取り戻すような微笑ましさです。特にこの弓、犬夜叉の髪の毛と、犬の大将の墓で拾ったあれこれを材料にしているとのことで、ようやくもろはにもパワーアップ武装が――?
 と思っていたら、よせばいいのに戻ってきた麒麟丸。しかしもちろん三人が怯むはずもありません。犬夜叉が風の傷に金剛槍破、爆流破と懐かしの技のオンパレードを放てば、かごめは元祖破魔の矢を、そしてそして文字通り一矢報いる時が来た! とばかりにもろはが新たな弓から放った一撃は、麒麟丸をして思わず躱してしまうほどの威力を見せます。さらに合体攻撃を放つ犬夜叉一家に、麒麟丸はもはや女子供でも手加減はせぬと怒り心頭ですが――単に犬の大将に切所王丸、犬夜叉と一族が立ちふさがるからではなく、むしろ戦いの場に娘を伴った末に失い、そして甦ったその娘からも拒まれ続けている彼にとって、あまりに眩しい光景だからでは、というのはひねくれた見方でしょうか?

 と、そこに殺生丸のご母堂様のもとに向かうというとわとせつな(あと邪見)が現れ、阿久留はもろはの腕も引きます。そしてここからが犬夜叉の見せ場――もろはには「仲間なんだろ?」の言葉をかけて先に行かせ、追おうとする麒麟丸に対しては、鉄砕牙で行く手を阻みながら「娘には指一本触れさせねえぞ」と言い放つ――先輩戦士として、そして父として最高に輝いている犬夜叉にもう大満足。その気迫に押されたわけではありませんが、麒麟丸もようやくその場から去るのでした。
 ちなみに帰り際に麒麟丸が姿を見せたのは理玖とりおんの前。ちょうど作り物の体に限界が来て倒れたりおんに魄を与え、話でもしていこうと誘う麒麟丸ですが、娘はガン無視――さすがにちょっと可哀想になってきましたが、彼がりおんも現代に連れて行こうとしているのには如何なる意味があるのか?

 一方、弥勒のもとには退治屋装束の珊瑚(若すぎるので真面目に娘が退治屋装束着たのかと思いました)が現れ、また扇谷弾正と愛矢姫に呼ばれた琥珀と翡翠たちは麒麟丸討伐を命じられた末に、まさかの菊十文字を与えられることに――菊十文字といえば、とわの初期武装、ただし偽物だったのであっさり折れましたが、しかしこれは本物。既に斬星剣を持っているとわに果たして必要かはわかりませんが、これまた気になる登場です。

 そして今回のアバンとラストは現代の風景――日暮家のじいちゃんが何やら不穏な気配を感じているものの、人々は妖霊星の存在に全く気づかず暮らす中で、ただ一人、希林先生のみは、戦国時代に絶滅したはずの屍舞烏の出現など、異変が少しずつ日常を蝕んでいることに気付くことに……


 というわけで、冒頭からラストに至るまで、風雲急を告げるという言葉がぴったりの激動の展開の数々。いよいよ物語の最終ゴールは見えたかに思えますが、それまでにまだまだ一山二山はありそうです。

 そして残念ながら今回は顔出しのみで声なしのご母堂様ですが、次回予告でしっかり喋っていて安心。しかしいきなり登場する新キャラ・冥道丸とは!?(死神鬼の縁者っぽい印象がありますが……) 次回も期待大です。


関連サイト
公式サイト

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『半妖の夜叉姫』 第26話「海の妖霊」
『半妖の夜叉姫』 第27話「銀鱗の呪い」
『半妖の夜叉姫』 第28話「産霊山の結界」
『半妖の夜叉姫』 第29話「りおんという名の少女」
『半妖の夜叉姫』 第30話「退治屋翡翠」
『半妖の夜叉姫』 第31話「竹千代の依頼」
『半妖の夜叉姫』 第32話「七星の小銀河」
『半妖の夜叉姫』 第33話「魔夜中の訪問者」
『半妖の夜叉姫』 第34話「決戦の朔(前編)」
『半妖の夜叉姫』 第35話「決戦の朔(後編)」
『半妖の夜叉姫』 第36話「永遠にない場所」
『半妖の夜叉姫』 第37話「是露の想い」
『半妖の夜叉姫』 第38話「東雲の麒麟丸」
『半妖の夜叉姫』 第39話「親子の再会」
『半妖の夜叉姫』 第40話「三姫の脱出」

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2022.01.29

碧也ぴんく『星のとりで 箱館新戦記』第6巻 総攻撃前夜 物語は将星の下へ

 新政府軍の圧倒的な物量の前に孤立無援のまま追い詰められていく脱走軍。もはや五稜郭に立てこもるしかなくなった彼らの中で、土方は必死の戦いを続けます。そしてついに総攻撃を翌日に控えた中で、土方の心に去来するものとは……

 新政府軍の攻勢が本格化し、絶え間ない猛攻の前に追い詰められていく旧幕府の脱走軍。戦闘が本格化する前に鉄之助を遠ざけた土方ですが、その後も戦闘は激化の一途を辿り、脱走軍側にも次々と死者が出ることとなります。
 そんな中でも松前を守るために死闘を続け、撤退命令すら撥ね退けて戦う伊庭・本山の両雄ですが――しかし奮戦虚しく、ここで脱走軍は大きな犠牲を払うことになるのでした。

 そして土方もまた、守り続けてきた二股口をやむなく放棄し、箱館に戻ることを余儀なくされます。しかしそこで彼が目の当たりにするのは、同志として戦い続け、今もなお戦い続けようとする男たちの姿であります。伊庭八郎、春日左衛門、星恂太郎――いや、高松凌雲もまた、他の者たちとは違う意味であるにせよ、命がけで戦っているのです。
 もっとも、まだ戦いを続けようというのは、あくまでも脱走軍の側のエゴに過ぎないのかもしれません。この巻では同時に、箱館の市民の脱走軍に向ける複雑な視線をも描くことになります。

 特にここで描かれた斎藤順三郎による破壊工作事件は、その象徴というべきかもしれません。あくまでも実行したのは斎藤であるとはいえ、そこにはそれだけの下地があったことは否めないでしょう。
(ちなみにこの斎藤は、新政府側についた幕臣を描いたという点で、興味深い存在といえます。そもそも、本作において敵方の描写は少ないのですが……)


 しかし、これだけ脱走軍の面々が全力を尽くしているにもかかわらず、状況は悪化の一途をたどるばかり。
 これではまるで掴んだと思った砂が、指の間からこぼれていくようなものだ――と思っていたら、作中で土方がほとんど全く同じことを思っていたのには驚きましたが、確かにそう評するしかない状況でしょう。

 そんな状況でも、脱走軍の兵士に、その中でも特に今なお「新選組」を名乗る隊士に対して、「新選組」を引っ張ってきた者に相応しい、いや過去を考えれば穏やか過ぎるほどの態度で接する姿を見せる土方。
 それはこれまで己の道を探して、己の道を探して走り続けてきた彼が辿り着いた一つの境地というべきでしょうか。

 そこに入ってきた、明日新政府軍が箱館総攻撃を行うという情報。もはや降伏か全滅か――そんな状況の決戦前夜、残った侍たちが最後に賑やかに宴を開く中で、土方が見たものは、傍らにいた者は……
 それはあるいは、彼が達したその境地が、既に様々な浮世の軛から解き放たれ、死生を超えたところにあることを示すものなのかもしれません。


 これまで、新天地を夢見る新星というべき少年たちの視点から始まり、その新天地を作り、守るために奮闘する綺羅星のような男たちの姿を描いてきた本作。
 そしていま物語は、常にその中心に在った将星たる土方個人のもとに収斂してきたと感じられます。

 そしてその果てにあるものを我々は確かに知っているのですが、それを本作が如何に描くのか――次巻、いよいよ完結であります。

(にしても落ち着いて、おまけページの沖田君!)

『星のとりで 箱館新戦記』第6巻(碧也ぴんく 新書館ウィングス・コミックス) Amazon

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2022.01.28

大西実生子『フェンリル』第4巻 テムジンvs源義経 ジンギスカンとは誰だったのか

 宇宙からやってきた美女・フェンリルとともに世界統一を目指すテムジンの物語も、この第4巻で完結を迎えます。中原で勢力を増すテムジンの前に現れた、もう一人の運命の男・源義経――彼との対決の中で、テムジンは何を見るのか。そしてジンギスカンとは誰だれだったのか? 意外な結末が待ちます。

 宇宙からこの星に落ちてきた美女・フェンリルと出会い、彼女を宇宙に帰すため、この地球を統一することを誓ったテムジン。その第一歩として宿敵タイチュウトの族長にして不死身の巨漢・タルグタイに挑んだ彼は、数々の犠牲を払いつつも勝利し、中原制覇に大きく踏み出すことになります。
 しかし時同じくして高麗に現れたのは、新たな戦いを求めて海を渡ってきた源義経主従――そしてフェンリルと同じ出自を持つ妖女・静。その破天荒な言動で高麗から軍勢を手に入れた義経は、ジンギスカンと名乗り、中原に向かい突き進むことに……

 というわけで、第1巻の時点で予告されていたもう一人の男・源義経が大陸に現れ、テムジンとの対決待ったなしとなった物語。義経=ジンギスカンというのは、既にポピュラーすぎて書かれ尽くした感もありましたが、二人ジンギスカンというのは、さすがに珍しい趣向であります。

 しかしこの二人はあくまでも対照的なキャラクター。テムジンが力だけでなくその人物と政策でどんどん味方を、仲間を増やしていく王道を行くとすれば、当たるを幸いなぎ倒し、己に服した者のみ配下としてひたすらに前に突き進む源義経は、覇道を征く男なのですから。
 そしてこの二人の傍らにそれぞれ在るのは、異能を持った異星の美女――フェンリルがあくまでも帰還を目的とするのに対し、静はただ生命の死を望み、それが二人の道にも影響を与えてきたのです。

 そんな二人が激突する契機となるのは、メルキト族によるテムジンの妻・ボルテの誘拐であります。
 ジンギスカンを主人公とした物語ではある意味定番の(?)大事件であるボルテ誘拐ですが、本作においては、ただテムジンと戦うために義経がメルキトを動かしたという設定。さらにその天才的戦闘センスで幾重にも策を巡らせて迫る義経に対し、テムジンは仲間たちに支えられて前に進むことになります。

 そしてその果てに対峙する二人。しかし義経は一騎打ちでも凄まじい戦闘力をもつ男、その圧倒的な力の前に、追い詰められるテムジンですが……


 この巻の冒頭で一気に数年が経ったりと、時の流れが目まぐるしく進む部分もあり、いささか駆け足という印象は否めないこの最終巻。
 しかし普通に描いてはかなりのタイムスパンとなる物語を動かすためには必要な演出であることは理解できますし、そして一気にクライマックスに突入する展開は、義経のキャラにはよく似合っているようにも思えます。

 そしてその二人の戦いの決着も、これまでの二人の生き方を、戦いの中身を考えれば大いに納得のいくもの。特にテムジンがクライマックスに見せた動きは、前巻でのタルグタイとの戦いの延長線上にあるものとして、胸を熱くさせるものがありました。
 物語として避けては通れない、どちらがジンギスカンなのか、という問いの答えも(いささか反則気味ではありつつも)面白く、そしてさらに物語が広がっていく――世界の広さを思わせる――展開も悪くはありません。

 正直なところ、もう少しテムジンとフェンリルの、そして義経の向かう先を見てみたかったという想いはあるものの、しかしこれはこれで良いものだった、と思える結末であります。


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2022.01.27

うちはら香乃『異界譚里見八犬伝 六章 それぞれの想い』 この世の無情と無常を前にした犬士たち

 朝日小学生新聞連載中のフルカラー漫画版八犬伝の第6章であります。玉梓の差金により、大塚村で繰り広げられた惨劇――その爪痕は深く、荘助と信乃をそれぞれに苦しめることになります。そしてその姿を目の当たりにした仲間たちは――サブタイトルのとおり、それぞれの想いが交錯します。

 玉梓に憑かれ怪物と化した代官・ひがみ宮六によって地獄と化した大塚村。その場に駆けつけた荘助と道節によって宮六は倒されたものの、村民がほぼ全滅した影響は大きく、心身の傷に苦しむ荘助の姿が第5章では描かれました。
 その荘助と心を通わせながらも、道節は関東管領への復讐のために旅立つのですが――残された荘助をさらなる悲劇が襲います。

 村の唯一の生き残りであり、自分が見たものを正直に語ったために囚われた背介を救うべく、宮六の弟・社平の前に名乗り出て真実を語った荘助。しかしその言葉は握りつぶされ、彼は新たな領主・丁田町之進の下で苛烈な拷問を受けることになったのです。
 一方、現八・小文吾とともにようやく大塚に帰ってきた信乃も、道節の配下の尺八から大塚の悲劇を知らされ、自分の父母、そして浜路(彼女はまあ、思わぬ運命を辿っているわけですが)が命を落としたことに愕然とするのでした。

 荘助が囚われたことを知り、現八・小文吾の助けを借りて大塚の城に潜入する信乃。しかしそこで彼は、町之進の鬼畜の所業を目の当たりにすることに……


 前章に続き、ほとんどアクションがない――信乃と力二の小競り合いくらいか――この章では、冒頭に触れたとおり登場人物たちの心情描写を中心に展開することになります。

 正しいことを為したはずが、権力者の理不尽により惨苦を味わい、この世の無常を痛感する荘助。すべてを喪い、運命なるものを疑いながらも荘助を助けに向かった先で、さらなる邪悪を目の当たりにする信乃。
 そしてこの二人だけでなく、信乃の良き兄貴分として彼を支える(本作の信乃の、兄弟で言えば圧倒的下から二番目感よ)現八と小文吾もまた、それぞれに己の想いと向き合うことになります。

 原典では描かれなかった登場人物たちの心情を掘り下げるというのは、これは八犬伝リライトでは定番の手法ではあります。しかし(このような表現は好きではないのですが便宜上使わせていただけば)子供向けの八犬伝でここまで描いたものはかなり珍しいと感じます。

 そしてそれだけでなく、今回描かれるのは、社平や町之進といった人間悪の姿でもあります。己のエゴから真実を隠して他者を陥れる社平、己の楽しみから捕らえた者をいたぶる差別主義者(と評さ書れていますが明らかにサディストの)町之進……
 彼らの存在は、玉梓が絡んでいないにもかかわらず、いや彼らが純粋な人間だからこそ、信乃や荘助の心を悩ませるのです。


 そしてもう一つ本作の注目すべきは、奇跡や運命といったものを、基本的に人間には好意的なものとして描かない――まさに人知を超えたものとして描く――点でしょうか。この辺りのロジックは、前章で神界に暮らすこととなった浜路の目を通じて描かれましたが、その印象は、今回さらに強まった感があります。

 また、獄中で深手を負わされた荘助の傷が翌日までに治ってしまう理由は、原典での玉の奇瑞とは異なり、犬塚家に伝わる秘術(を荘助が完成させたもの)によるものなのですが――これは、本作においては玉の霊験ですら絶対のものではないと示しているようにも感じられます。


 この世の無情と無常に触れながらも、荘助を救うために立ち上がる信乃と、信乃と再会するために生き延びる荘助、この二人の運命は――続きは次の章にて。


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2022.01.26

風野真知雄『いい湯じゃのう 一 お庭番とくノ一』 吉宗と天一坊と、あと風呂と

 風野真知雄の最新作は、タイトルからではちょっと何の話かわからない物語――実に徳川吉宗の治世を舞台に起きたある事件を題材としているのですが、物語の様々な要素がいずれも「風呂」に繋がっていくユニークな作品であります。吉宗の肩凝りを治すことができる者とは、そして湯を巡る陰謀の目的とは……

 時は享保十三(1728)年、既に壮年の吉宗をこのところ悩ませるのは、とてつもない肩の凝り――これまで彼の体を治療していた揉み師が突然亡くなり、そして吉宗が気に入って江戸城に運ばせていた熱海の湯が何故か届かなくなってしまったことから、吉宗はお庭番を調査に向かわせることになります。

 そこで選ばれたのは、お庭番の中でも伝説の存在である湯煙り権蔵――全国の温泉を制覇したと豪語する温泉オタにして、お湯の中であれば無敵という、この任務のためにいるような男であります。そしてそんな彼のお目付け役に選ばれた美貌のくノ一・あけびは、権蔵のセクハラに手を焼きつつ、熱海だけでなく各地の温泉で何者かによって異変が起こされていることを突き止めるのでした。

 一方、その頃江戸で評判となっていたのは、病に苦しむ人々を湯屋で治療する若き山伏・天一坊。湯の神を信仰しているという彼は、治療の傍ら、集まった人々に風呂に対する幕府の対応には不満があると公然と説くのでした。
 南町奉行・大岡忠相は、その天一坊に興味を持ち、自らその弟子・山内伊賀亮に接近するのですが――天一坊が吉宗のご落胤と聞かされ、対応に苦慮することになります。

 そして町火消し・い組の纏持ち・丈次は、湯屋への火付け事件を解決したのをきっかけに、湯屋の大変さを訴え、一度は江戸の湯屋に入ってみてはどうかと書いて目安箱に投じることに。ところがその投書に吉宗が興味を示したことで、新たな騒動が……


 というわけで、天一坊事件という大事件を題材としつつも、そこに風呂を絡めるという意外極まりない切り口で始まった本シリーズ。この巻はその幕開けだからということか、登場するキャラクターの紹介編的な趣きが強いのですが、これがまあ、実に風野作品らしいユーモラスな連中揃いなのです。

 物語の中心となる吉宗は、これは比較的まとも――というか、我々一般の抱くイメージに近いキャラクターなのですが、面白いのは尋常でないほどの肩凝りの持ち主というところであります(彼が同病相哀れむ相手を求めて集めた三人との会話にはただ爆笑)。
 ちなみに風野作品での吉宗は『大奥同心・村雨広の純心』『大名やくざ』など(さらに言えば、何となく重なる部分がありそうな『刺客、江戸城に消ゆ』も)、ネガティブ、というより悪役に描かれていることが多いのですが、本作はそういうわけではなくて一安心(?)です。

 そのほか、名奉行というのはあくまで自己演出で本来は小心翼々たる(そしてそれに内心忸怩たるものがある)大岡忠相、湯の神なるものを大真面目に信じる天一坊、その彼を利用して江戸の暗黒街も巻き込んでのし上がろうという山内伊賀亮等々――いずれも天一坊ものではお馴染みの面々ではあるものの、皆そこから一歩も二歩も踏み出したキャラクターとなっているのが目を引きます。

 そしてそれだけでなく、本作のサブタイトルとなっている権蔵とあけびのコンビも、実に「らしい」キャラクターといえます。

 湯の中に入っていれば無敵、しかし湯から出てしまえば一般人並みの上に、傍から見てみれば温泉のことになると早口になる、しかもセクハラ満載というオヤジの権蔵。「天守閣のくノ一」(!)候補と目される凄腕ながら、本人はさっさと商家の若旦那でもたらしこんで退職したいと考えているあけび。
 この凄いんだかそうでないんだかわからない二人は、ユーモアとペーソス溢れる、そして何が飛び出してくるかわからない――それは作者の作品全般に当てはまりますが、特にその度合いが強い――本作のカラーを象徴しているといえるでしょう。


 史実に照らせば結末は明確な天一坊事件。はたしてそこにたどり着くまでに何があるのか(あるいは本当にたどり着くのか)――ちらりとほのめかされた丈次の過去の意味有りげな部分も含めて、全く油断できない物語であります。


『いい湯じゃのう 一 お庭番とくノ一』(風野真知雄 PHP文芸文庫) Amazon

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2022.01.25

「鬼滅の刃」遊郭編 第六話「重なる記憶」/第七話「変貌」

 ヒノカミ神楽で堕姫を追い詰めたものの体力が付きた炭治郎に代わり、鬼として覚醒した?豆子が堕姫を圧倒する。しかし?豆子は暴走して人に襲いかかり、炭治郎は必死の思いで彼女を押さえるのだった。そこに現れた宇髄は一撃で堕姫の首を落とすが、その体から堕姫の兄・妓夫太郎が出現し……

 堕姫との対決が本格的に始まり、バトル中心の展開になるので数話分まとめて感想を書こうと思っていたら、もう大変なことになってきたアニメ『鬼滅の刃 遊郭編』。基本的にストーリーや描写は原作そのままですが、その間を埋める演出が――特にアクションが、尋常ではないクオリティなのですから。

 まず第六話「重なる記憶」で描かれるのは、前話から引き続く炭治郎と堕姫の戦い。ヒノカミ神楽によって善戦する炭治郎に対し、堕姫は蚯蚓帯を体に戻してパワーアップ(というより元々の状態に戻った)。そして体中から放つ帯によって周囲の人といわず建物といわず切断して周囲は阿鼻叫喚の巷に。炭治郎も周囲の人間を庇って深手を負ったところで、勝ち誇って周囲の人々を蔑む堕姫ですが――ここで炭治郎の怒りゲージが振り切れて覚醒モードに入り、先程とはうって変わったヒノカミ神楽で堕姫を圧倒……

 と、まずこのシーケンスの縦横無尽に襲いかかる帯vsそれを迎え撃つ刀のアクションが凄まじいのですが、しかし何と言ってもテンションがあがるのは、ここで炭治郎の言葉とヒノカミ神楽に反応して、堕姫の中の無惨の記憶が反応するくだり。そこで登場する「剣士」――その名と素性はまだ明かされませんが、見るからに只者ではないその剣士を演じるのは井上和彦! 大ベテランながらいつになってもイケメンなその声は、納得のキャスティング。この先(本当に相当先ですが)の本格的な出番が楽しみです。

 さてこの後、加減を知らずに全力疾走しすぎて死にかけた炭治郎に代わり、第1話以来の出番となったのは?豆子ですが、ここからはvs炭治郎とは異なる意味で限界突破した戦い。帯で容赦なく脚を、胴を斬られた?豆子――と思いきや、彼女が瞬時に回復して堕姫の頭を蹴り潰す場面は、双方がそれぞれに美しいだけに、一層目を背けたくなるような凄まじさがあります。

 そしてその凄惨な戦いは続く第七話「変貌」でピークになります。脚を、腕を、そして首を切断されながらも、自らの血で体のパーツを繋ぎ、逆に爆血で堕姫の半身を焼き尽くす――この時、一瞬ながら原作以上に堕姫のトラウマを明確に描いているのが印象に残ります――という、鬼同士ならではの戦い、いや潰し合いは、残酷なシーンが少なくない本作においても屈指の、深夜枠でなければ絶対無理な描写であったと言うべきでしょうか。
(一方で、ぶっ飛ばした堕姫に空中で追いついて追い打ち攻撃などという、ドラゴンボールばりのアクションが飛び出すのも面白い)

 しかしこの直後、エキサイトしすぎて、近くにいた怪我人に襲い掛かりそうになる?豆子は何度見てもアウトで、話のわかる宇髄でなければその場で退治されてもおかしくない状況そうしたら義勇は切腹なわけで……
 それはさておき、ここで炭治郎が必死に?豆子を押さえている最中に飄然と現れ、炭治郎にツッコミを入れたのは、ようやく真の戦場に駆けつけた音柱・宇髄天元その人。堕姫の帯を一瞬の内に全断し、堕姫を目の前にしながら炭治郎と会話する余裕ぶり――と思いきや、堕姫も気づかぬうちに首を落としていた、というのは、わかりやすくも見事な強豪ムーブというべきでしょう。

 そしてここから堕姫がこれまでの悪女キャラから一転、お兄ちゃん連呼の妹キャラに変貌するのには驚きますが、ついにここで真の上弦の陸というべき妓夫太郎が出現。暗がりに転がった堕姫の胴体から出現する際の禍々しさ、そして今度は宇髄が一瞬のうちに斬られるという展開は、次から次へと目まぐるしく状況が変わるこの戦いの中でも、やはり強烈なインパクトがあります。

 しかしここからが宇髄の宇髄のアクションの真骨頂。青龍刀並みのサイズの二刀(鎖で繋がった点を活かしたアクションが映える)に体術、さらに爆破まで投入してのアクションは、気合の入った作画に支えられてまさに派手派手。これに対する妓夫太郎の方も、血のブーメランというべき血鬼術をCGで描くのは定番といえば定番ですが、宙で不気味に蠢く様は出色といえます。
 何よりも、原作では動きが凄まじすぎて一瞬一瞬を切り取った画的に感じられた部分を、その合間を補って更に凄まじいアクションとして見せるという、このアニメならではの魅力を、この第七話ラストの攻防からは存分に味あわせていただきました。

 しかし恐ろしいことにこれはまだ序の口、続く第八話ではさらに凄まじいアクションが――と言いたいところですが、さすがに3話分を一気に紹介するのは無理があったので、稿を改めたいと思います。


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 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第10巻 有情の忍、鬼に挑む!

 『鬼滅の刃』 第一話「残酷」
 『鬼滅の刃』 第二話「育手 鱗滝左近次」
 『鬼滅の刃』 第三話『錆兎と真菰』
 『鬼滅の刃』 第四話「最終選別」
 『鬼滅の刃』 第五話「己の鋼」
 『鬼滅の刃』 第六話「鬼を連れた剣士」
 『鬼滅の刃』 第七話「鬼舞辻無慘」
 『鬼滅の刃』 第八話「幻惑の血の香り」
 『鬼滅の刃』 第九話「手毬鬼と矢印鬼」
 『鬼滅の刃』 第十話「ずっと一緒にいる」
 『鬼滅の刃』 第十一話「鼓の屋敷」
 『鬼滅の刃』 第十二話「猪は牙を剥き 善逸は眠る」
 『鬼滅の刃』 第十三話「命より大事なもの」
 『鬼滅の刃』 第十四話「藤の花の家紋の家」
 『鬼滅の刃』 第十五話「那田蜘蛛山」
 『鬼滅の刃』 第十六話「自分ではない誰かを前へ」
 『鬼滅の刃』 第十七話「ひとつのことを極め抜け」
 『鬼滅の刃』 第十八話「偽物の絆」
 『鬼滅の刃』 第十九話「ヒノカミ」
 『鬼滅の刃』 第二十話「寄せ集めの家族」
 『鬼滅の刃』 第二十一話「隊律違反」
 『鬼滅の刃』 第二十二話「お館様」
 『鬼滅の刃』 第二十三話「柱合会議」
 『鬼滅の刃』 第二十四話「機能回復訓練」
 『鬼滅の刃』 第二十五話「継子・栗花落カナヲ」
 『鬼滅の刃』 第二十六話「新たなる任務」
 『鬼滅の刃 無限列車編』 第一話「炎柱・煉獄杏寿郎」

 『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』(その一) 真のクライマックスに燃える男!
 『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』(その二) 理不尽な結末の先の希望と人間肯定

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2022.01.24

高橋留美子『MAO』第11巻 菜花の新たなる力? なおも続く白眉一派との戦い

 謎が謎呼ぶ大正伝奇ホラー『MAO』。摩緒や菜花たちと新たな御降家を作り出さんとする白眉一派との戦いに収束していく、平安時代から続く血塗られた因縁。そんな中、町を騒がす「血の流れない」殺人事件の調査に向かった摩緒たちが知った真実とは……

 強盗や通り魔などの現場で、被害者も加害者も殺され、そして血を抜かれているという、「血の流れない」殺人事件。この事件の調査に向かった摩緒と菜花は、現場近くに住む片目と片腕に傷を負った未亡人・叶枝と出会うことになります。
 かつて嫁ぎ先で強盗たちに家族を殺され、そしてその強盗たちも何者かに殺されて血を抜かれていたという事件を経験していた叶枝。彼女からおかしな気を感じた摩緒は、彼女に憑いたものを祓おうとするのですが……

 という展開を受けてのこの巻の冒頭で描かれるのは、叶枝を巡る悲劇の真実。まあどう見ても彼女が怪しかったわけですが、それでは彼女に何が起こったのか、そして仮に彼女が人を殺め、血を吸ったとしてそれはどうやって――という疑問の答えが、描かれることになります。

 しかしこれはこの先の展開の序章であり、そして前巻で描かれた、戦う力を求める菜花の想いを受けた物語へと続いていきます。
 事件の背後に存在していた妖刀――その力を狙って現れたのは、以前、「獣」の力に魅せられて白眉に付いた少年・双馬。以前登場した際は猫鬼の力を発揮した菜花と激突し、それぞれ摩緒と白眉に対する立ち位置も含め、どこかライバル的な趣きも感じられる二人が、今回もまた激突することになります。

 そして発揮される菜花の新たな力――なるほど、これまで幾度か描かれてきた菜花の力、猫鬼の力がこう使われるのかという、ビジュアル的にも面白い――しかし冷静に考えれば相当に凄惨な技として発揮されたそれはまだまだ荒削りなものであります。
 大きすぎる力を使いこなすには、強い心が必要というのは定番ではありますが、メンタル的には、彼女は普通の女の子(「噂に聞いた○○○○○」とガバッとなるくだりは実に微笑ましい)。まだまだ前途多難という印象です。


 さて、一つの戦いが終わってもまたすぐに襲い来る白眉の刺客。次なる敵は、前巻に登場した、人を体内から燃やし尽くす呪術・苛火虫の使い手・送り火の蓮次であります。
 その際は、要人暗殺を行っていたところを百火と摩緒の連携に敗れ去り、片腕を失った蓮次。しかしその片腕を白眉一派の術者・芽生によって再生した彼は、菜花を人質に摩緒に迫ることになります。

 本来であれば、苛火虫を操ることができる以外は常人でしかない蓮次と、様々な術を操り不老不死の肉体を持つ摩緒では、そもそも勝負にならないはずですが――それを補うのが蓮次の狡知と執念。
 はたして何が彼を突き動かすのか、そしてそもそも彼が苛火虫を使うようになった理由は――というわけで、彼の過去が語られ始めたところで、この巻は幕となります。


 正直なところ、ここしばらくは白眉一派との戦いが続き、そろそろ大きな動きが欲しいところですが、蓮次を追って摩緒が白眉の本拠らしき地に乗り込んだことで新しい展開があるかどうか、気になるところではあります。

 それにしても白眉一派も、白眉以外の術者(蓮次のように呪具を操る者も含めて)は、蓮次・双馬・かがり・芽生と、不知火を入れて五人。
 操る術の内容も、双馬を金、かがりを地と考えれば五行が揃ったわけですが、御降家の因縁を――百火たち五人の運命を――考えれば、これはこれで不吉な事実に感じられる、というのは深読みが過ぎるかもしれませんが……


『MAO』第11巻(高橋留美子 小学館少年サンデーコミックス) Amazon

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高橋留美子『MAO』第10巻 幽羅子の罠、白眉の目的

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2022.01.23

『半妖の夜叉姫』 第40話「三姫の脱出」

 黒真珠の中から脱出するのに必要な天生牙を手にするため必死に念じるとわ。それに応えて現れた天生牙を三姫が力を合わせて引き抜き、彼女たちと犬夜叉・かごめは現世への脱出に成功する。その足で殺生丸を救うために時代樹に急いだとわは、斬星剣で父を蝕む麒麟丸の妖気を吸い取ることに成功するが……

 時を越え、現代に襲来する妖霊星を迎え撃つために自分を阿久留に認めさせると、犬の一族を目の敵にする麒麟丸。だからといって半死半生の殺生丸を叩き潰そうというのは相変わらず大人気ありませんが――その殺生丸の腰から独りでに抜け、宙に浮かんだと思うと雷と共に消え失せる天生牙。これは黒真珠の中から脱出するために、もう一人の使い手であるとわが一心不乱に念じたため――その甲斐あってとわの眼前、犬の大将の骸の内側にあった壇の上に、天生牙は突き刺さります。一方、麒麟丸はこの時に現れた犬の大将の幻影にギャグキャラのような勢いで彼方へ吹き飛ばされ退場……

 しかしここで大問題が発生。壇に刺さった天生牙が抜けない! 以前一度使っているのですから、そんな資格を問うようなことをしなくてもと思いますが、とわは以前せつなを復活させた時のように、自分の髪が黒くなる勢いで自分の妖気を注ぎ込みます。それを見て、とわがかつて自分のために払った犠牲の大きさを実感して姉恋しさMAXになったせつなが手を貸し、さらにもろはも――と、三姫の力を注ぎ込んで、ついに天生牙が抜けた! この時、メインテーマ「半妖の夜叉姫」が流れるのが実に心憎い演出であります。
(この場面で、犬夜叉も自分の鉄砕牙を壇に突き刺すのですが、あまりにもボロボロで、犬夜叉雑に使ってんなあ――と一瞬思ってしまいましたが、そういえば犬夜叉の手から離れるとボロ刀になるのでした)

 一方、黒真珠を守る竹千代とともに七宝が跳んだ先は退治屋の里。そこで金烏・玉兎にもみくちゃにされる七宝はさておき、竹千代から事情を聞いた珊瑚は事態の容易ならざるを悟り、弥勒たちの招集を決定。そして自分は、かねてから娘たちとともに作っていた「漆黒の飛来骨」の封印を解くことに――って最終追加武装感溢れる秘密兵器が!

 さて、今度は黒真珠の出口である牛頭馬頭の門に跳んだ七宝と竹千代の前に、無事現れた犬夜叉・かごめと三姫。ここで骨喰いの井戸に急ぐという犬夜叉はじめとする皆さんに圧をかけられ、実に自分を含めて七人を休む間もなく転移させられた七宝こそいい面の皮ですが、それはさておき、とわとせつなは天生牙に引っ張られるように、りんと邪見の手によって時代樹の中に隠された殺生丸のもとに向かいます。
 一方、いつもであれば二人に付いていくもろはですが、今回は親子水入らずにしよう――というのか残ることに。それをきっちりと見抜く犬夜叉も、いつの間にかしっかりお父さんであります(まあ、桔梗の姿を借りている時代樹の精霊と出会ったら、一気に空気が冷え込むと思う)。また、脱出直後、怒りに任せて黒真珠を投げ捨てようとした犬夜叉を止めたもろはは、黒真珠を祖母が残した紅の中に入れて胸の中に収めますが――これは犬の大将エキスが出て紅夜叉がパワーアップしたりは……

 さて、時代樹の中でついに感動の対面をすることとなった母娘。しかし殺生丸の容態はそれどころではなく、とわは喜びもそこそこに、妖気を吸い取る斬星剣で父の魄を奪っていく麒麟丸の妖気を吸い取っていくのですが――しかし、吸い取った妖気が、そのままとわの体にまとわりついていくではありませんか。それでも、殺生丸が「やめろ、死んでしまうぞ」というのも耳を貸さずについに妖気を吸い取り尽くしたのですが――しかしそのまま燃え尽きたようにパタリと倒れるとわ。その瞳は完全に虚ろで――というショッキングな展開で次回に続きます。


 ここ数回『犬夜叉』キャラの集結が続き、盛り上がりまくる本作ですが、ついに犬夜叉とかごめが復活。これで殺生丸が復活すれば、麒麟丸はまあどうにかなるとして、あとは現代で妖霊星を倒すだけかな――と気の早いことを考えていたら、まさかのとわダウン。なんだかんだで家族が全員一度は死んだ(死にかけた)ことになるのでしょうか――戦国時代とはいえ、凄い一家だ。

 そして次回予告では弥勒や琥珀、翡翠に加え、まさかの殺生丸のご母堂様まで登場。まあこの人が出てくれば大丈夫かな……
(愛矢姫は、話が進まなくなりそうなので、まあ見なかったことに)


関連サイト
公式サイト

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『半妖の夜叉姫』 第28話「産霊山の結界」
『半妖の夜叉姫』 第29話「りおんという名の少女」
『半妖の夜叉姫』 第30話「退治屋翡翠」
『半妖の夜叉姫』 第31話「竹千代の依頼」
『半妖の夜叉姫』 第32話「七星の小銀河」
『半妖の夜叉姫』 第33話「魔夜中の訪問者」
『半妖の夜叉姫』 第34話「決戦の朔(前編)」
『半妖の夜叉姫』 第35話「決戦の朔(後編)」
『半妖の夜叉姫』 第36話「永遠にない場所」
『半妖の夜叉姫』 第37話「是露の想い」
『半妖の夜叉姫』 第38話「東雲の麒麟丸」
『半妖の夜叉姫』 第39話「親子の再会」

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2022.01.22

上田秀人『勘定侍 柳生真剣勝負 三 画策』 いよいよ始まる柳生家改革――マイナスからのスタート?

 大坂一の唐物問屋の跡取りから、柳生家の勘定方となった柳生宗矩の庶子・一夜の奮闘を描くシリーズもこれで第三弾。柳生家の財政をプラスに転じようとする一夜ですが、それにはまずマイナスを切るという大仕事が。その一方で、柳生家を、そして一夜を巡る外部の動きも活発化して……

 惣目付としての働きを評価され、大名となった柳生家。しかし大名ともなれば旗本とは異なり様々な物入りが生じることになります。しかも惣目付として辣腕を振るった身としては、いつ足元を掬われるかわからない――という悩みを抱えた宗矩から急遽呼び出されることになった一夜。
 生まれて以来完全に自分を放っておいた宗矩に、しかも刀を持ってふんぞり返るだけの武士に興味はない一夜でしたが、諸般の事情から柳生家の勘定方に就任、とりあえず百石という(柳生家としては)高禄をむしり取って……

 ということでいよいよ始まる一夜の柳生家改革。基本的にこの先価値が下がっていくばかりの米を基本としている武家のシステムの中で、(江戸時代前期という時代背景もあって)金勘定のできない武士たちを相手に、どうやって財政をプラスに転じていくか――という点は物語の開始当初から一夜の頭を悩ます問題でしたが、ここからそれに本格的に着手していくことになります。
 が、プラスに転じる以前に、そもそもの財政状況を確かめなくては――と帳面を調べてみれば、出るわ出るわのずさんな処理。相場がわからないのをいいことに出入り商人はふっかけ、勘定方はそれに気付かない、あるいは気付いても何もしない――そんな状況に、一夜はまず大鉈を振るうことになるのです。

 基本的に本シリーズは、最強主人公が痛快に敵をやりこめるという(上田作品には珍しい)シチュエーションなのですが、そうはいってもものにはやりようがあります。
 いくら正しいのは自分側だからとしても、それでいらぬ軋轢を生んでは意味がない、いやその解決も含めての活躍――というわけで、あの手この手で現状解決に奔走する一夜の姿が、この巻の一つの見せ場といってよいでしょう。

 しかし能力的には最強でも、人間的に魅力がなくては困ってしまうわけですが、一夜の場合、基本的には裏表のない、等身大の若者として描かれるのがまた楽しい。
 そんな彼にとって、万事しゃちほこばった武家の社会は窮屈でしかたないのですが、剣の達人で江戸までの旅を共にした武藤、柳生家の門番で実は伊賀者の素我部と、少しずつ理解者・友人と呼べる存在が登場してきたのにはホッとさせられます。

 また本作で強く印象に残るのは、ラストで吐露される一夜の真情――彼が柳生家で勘定方を務める真の理由であります。
 これまでも彼が勘定方を務める理由はいくつか語られ、そのどれもが事実ではあるのですが――ここで語られたそれは心情的に大いに納得できるもの。そして彼を単にドライな商売人ではなく、一人の血の通った人間として描くことに成功していると感じます。


 さて、いよいよ真価を発揮し始めた一夜ですが、周囲がそんな彼を放っておきません。宗矩の追い落としを図る元同僚の惣目付・秋山修理亮が一夜を引き抜きにかかるだけでなく、将軍家光までが一夜に興味を示します。
(特に家光の場合、最愛の左門が柳生の庄に逼塞したため、その弟である一夜に目をつけたのでは――というある意味恐ろしい疑惑が)
 そして跡取りを持っていかれた一夜の祖父・淡海屋七右衛門も何やら画策し始め、外野が非常にうるさい状況であります。

 これに対して宗矩の側が一夜を縛るために持ち出したのが――女性。素我部の妹で美貌の伊賀忍・佐夜を一夜の女中として送り込み、あわよくば、と狙うことになります。
 もっとも一夜の方も見え透いた手に引っかかる人間ではないのですが、この佐夜もかなりの肉食系というか、妙なところでムキになるタイプのようで、ちょっとこの先の関係が気になるところであります。
(ちなみに先に述べた一夜の真情を吐露した相手が佐夜なのも実に面白い)

 さらに一夜抜きでも柳生家に含むところがあるのが老中・堀田加賀守正盛。家光の「寵愛」を集めた左門に嫉妬した彼は、甲賀忍の中でも陰と呼ばれる凄腕五人組を左門抹殺のために動かすことになります。
 柳生家にとって左門は家光との微妙な関係を繋ぐ存在。彼がいなくなった時どうなるか――想像するのも恐ろしいところであります。

 もっとも本作の左門は、柳生でも最強いや最狂の剣士――簡単にやられるはずもありませんが、さてどうなるか。もう一つの台風の目であるこちらの行方も気になるところです。


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2022.01.21

椎名高志『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第1巻 これぞコミカライズのお手本、椎名版夜叉姫見参!

 スピンオフやコミカライズという言葉では括れないようなあまりに豪華なコラボに度肝を抜かれた『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第1巻であります。言うまでもなくTVアニメ『半妖の夜叉姫』のコミカライズですが、その枠に留まらない魅力を持った作品であります。

 現代に暮らす女子中学生・日暮とわ。誰に似たのか尖すぎる目つきと常人離れした身体能力、妖気を感じる能力を持つ彼女は、ある日、神社の神木から現れた二人の少女、せつなともろはと出会ったことから、戦国時代に向かうことになります。
 実は大妖怪・殺生丸と人間のりんの間の子であるとわとせつな、そして半妖の犬夜叉と人間のかごめの子であるもろは――三人の少女は、自分たちが生まれてすぐに行方不明となった両親の行方を求めて旅立つことに……

 そんな基本設定とストーリーはアニメと大きく変わらないのですが、しかしここから展開する物語は、一味も二味も異なるものとなっています。
 元々コミカライズは、元となる映像作品に比べれば、どうしても表現や分量について制限されることは否めず、そのために一歩間違えればダイジェスト感が強くなりかねないのですが――本作においてはそれは無用の心配というべきでしょう。

 特に本作の場合、キャラクター描写の点で、アニメに大きくアレンジを加えて――というより基本はそのまま、その味わいを変えているといえます。
 たとえば第1話冒頭のとわは、アニメでは他校の生徒との喧嘩を通じて身体能力の違いと現代に違和感を感じている姿が描かれましたが――本作では女子校で周囲からモテまくりつつも敬遠されている姿、そして出没する妖と対峙している時のみ周囲との違和感を忘れられる姿が描かれ、アニメ以上に振り幅の大きさを感じさせる姿となっています。

 ほかの二人も、もろははより大雑把な感じが増量された一方で、せつなは(とわとの別れのシチュエーションや胡蝶の性質が少々異なる点があってか)キツいというより無感情な印象だったり……
 と、三姫の人物造形の掘り下げ方、エッジの立て方がまた異なる――そしてそれでいてなるほどこういうことかと納得できる――ものとなっているのが、何とも興味深く感じられます。
(もう一点、草太の作った荷物の意味づけや、それがとわの心に与える影響の描写なども、実に上手い!)

 その一方で、身も蓋もないツッコミ(桔梗の最期についてのとわのコメントには爆笑)やキャラ同士がわちゃわちゃ騒ぐ姿(特にもろはと出会って大騒ぎする日暮家の面々など)は、これはどう見ても椎名作品! というべき味わいで、このあたりはある意味期待通りの満足感なのです。


 そして物語面においては、第2話以降、とわが戦国時代に向かってからの展開に大きくアレンジが加わっているのですが、そこでのゲスト妖怪の扱いが実に巧いのです。

 到着早々、とわが夜爪に狙われるという展開こそ同じながら、その中で登場する妖怪が屍舞烏に無女という、『犬夜叉』最序盤に登場した面子――実質百足上臈の三つ目上臈が冒頭に登場したのを受けてなのでしょう――というのが心憎い。
 特に無女は、この設定をこの形で活かしてくるか! という配置(『犬夜叉』では殺生丸が送り込んできたというのも踏まえて)の上に、そこからさらに泣かせのドラマに絡めてくるというのには、感嘆いたしました。


 このように様々な点で、先に述べたコミカライズに生じやすいダイジェスト感を見事に避けるだけでなく、新たな、しかしアニメ視聴者にも(『犬夜叉』読者にも)納得の物語を作り出してみせる――そんな本作は、ちょっと大げさかもしれませんが、コミカライズのお手本のようにすら感じられます。
 巻末の高橋留美子と椎名高志の対談で述べられているように、作者は以前に『ウルトラマンネクサス』のコミカライズを担当していたわけですが、その際の経験が生かされているというべきでしょうか。
(この対談、本作成立までのちょっと意外な経緯も語られており必見です)

 いずれにせよ、原作ファン、椎名ファン全てにお薦めの快作であるこのコミカライズ。アニメの方はほとんど終盤ではありますが、こちらの方はできるだけ長く連載してほしい――そう期待してしまうのです。


『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第1巻(椎名高志&高橋留美子ほか 小学館少年サンデーコミックス) Amazon

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『半妖の夜叉姫』 第2話「三匹の姫」
『半妖の夜叉姫』 第3話「夢の胡蝶」
『半妖の夜叉姫』 第4話「過去への扉」

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2022.01.20

平谷美樹『草紙屋薬楽堂ふしぎ始末 凍月の眠り』 大団円 彼女が推理をする理由からの解放

 『草紙屋薬楽堂』シリーズ、約2年ぶりの新作にして(残念ながら)最終巻であります。鉢野金魚と本能寺無念をはじめとする薬楽堂に集う面々の活躍もこれが見納め、今回もこの世のものと思えぬ怪事件の数々に金魚たちが挑みます。そして金魚と無念の想いの行方や如何に……
(前作の結末に触れますがご容赦下さい)

 推当(推理)もので人気を博し、自分も推理名人の女戯作者・鉢野金魚を探偵役に、薬楽堂の隠居・長右衛門や元御庭番の読売屋・貫兵衛、老文学者の只野真葛、北斎の娘の女絵師・お栄、そして薬楽堂の居候の貧乏戯作者・本能寺無念ら賑やかな面子が、様々な怪事件に挑んできた本シリーズ。
 その物語の中で金魚と無念は、いわば両片想いという状態となっていったのですが――伊勢参りに旅立った金魚を追って無念も旅立ち、戸塚宿で金魚が宿に無念を招き入れた姿を以て、前作『名月怪談』は結末を迎えました。

 以来2年4ヶ月、このまま二人はハッピーエンド――と思いきや、本作の冒頭でとんでもないその後が語られることになります。
 あの直後、無念のとったある行動にすっかり腹を立てて江戸に帰ってきた金魚と、後を追ってきた無念。当然、ぎくしゃくしまくりの二人にニヤニヤしたり困惑したりの周囲ですが、そんな中でまたもや怪事件が起きることになります。

 当主が急な病で亡くなったという本所の旗本。しかし確かに埋葬されたはずのその旗本が、後日、屋敷の周囲で徘徊している姿が目撃されたというではありませんか。
 調べてみればその旗本は亡くなった晩、知人の武士二人と宴を開いており、そのうちの一人も急に病死。しかもそちらの屋敷からは、それ以降獣のような吠え声が聞こえてくるというのです。

 彼らは死んで生ける屍となって甦ったのか? 怪異を推理で解決すると豪語する関西から来た男・懐土堂粋山も現れる中、ぎくしゃくした想いを抱えて金魚と無念は謎解きに挑むことに……

 そんな第一話「生ける屍 本所深川反魂の宴」から始まる本作。
 冒頭に述べたとおり、修法師の出番としか思えない事件をロジカルに解決するのが本シリーズの醍醐味ですが、亡魂のようなトリックが使いやすいものではなく、本人の生身の(?)死体が歩き回るという出来事をいかに解決するか――シリーズの中でも屈指の快作です。

 そしてそれ以降も――
 夭逝した本草学者の書物を引き取った書林で、本草学者の魂が目撃され、書物の一冊が白紙と化していたのが見つかる「本草学者 未練の訪れ」
 お栄と共に丑の刻参りの女を目撃した金魚が、女が呪う理由を知り、その想いを晴らすために一肌脱ぐ「丑の刻参り 呪いの行方」
と、ユニークなエピソードが続きます。

 そしてこれらのエピソードと並行して展開するのは、金魚と無念の両片想いの行方であります。
 互いに大人でありながらも、いやだからこそ素直になれず、思い切って相手の胸に飛び込む/抱きとめることができない――そんなもどかしい二人ですが、そこには金魚の過去に由来する複雑な事情があります。

 戯作者になる以前は、遊女として暮らしていた金魚。無念以外は知らない過去でありますが、それだからこそ、無念を前にすると、一種の引け目になってしまい、いわゆる「恋の駆け引き」ができなくなってしまう……
 いやそれ以前に、これまで遊女としての偽りの恋ではなく、真の恋というものをしたことがなかった金魚。しかしそんな彼女の複雑な想いは、やがて無念の真意に気づいた時、緩やかに解けていくのです。


 そして迎える最後のエピソード「雪女郎 凍月の眠り」では、想いを確かめあった二人が、吹雪の日に薬楽堂の主人・短右衛門の娘・けいが、白装束の女に誘われるように姿を消した事件の謎を追うことになります。
 しかしこれがシリーズから考えれば異色作――というよりこれまでのシリーズの枠組みを壊しかねない内容。正直なところ、最後の最後に何故? と驚かされました。

 しかしここで描かれるのは、金魚がこれまで頑なに怪異を否定し、論理的に推理を行ってきた理由の再確認――そしてそこからの解放。そう考えれば、ラストにこのエピソードが描かれる理由、そしてこれでシリーズが完結する理由も理解できるというものです。

 様々に趣向を凝らしてきた本シリーズらしい大団円。完結は寂しいですが、しかしにっこりと笑顔になれる結末に満足であります。


『草紙屋薬楽堂ふしぎ始末 凍月の眠り』(平谷美樹 大和書房だいわ文庫) Amazon

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2022.01.19

「コミック乱ツインズ」2022年2月号(その二)

 「コミック乱ツインズ」2022年2月号の紹介の後半であります。

『勘定吟味役異聞』(漫画:かどたひろし/原作:上田秀人)
 今回から原作第7巻に当たる「遺恨の譜」編に突入した本作、いよいよクライマックスも間近であります。前話、「暁光の断」編のラストで吉宗暗殺計画を未然に阻止した(そして何だかすごい褒美をもらうことになった)聡四郎ですが、冒頭で語られるのは、前回ちょっとわかりにくかった紀文の行動の真意であります。
 自分で暗殺を手配しておきながら自分でそれを破綻させる――読者の側には紀文の意図は理解できますが、確かに聡四郎の側は首を傾げることだらけでしょう。しかしその後も紀文の暗躍は続き、絵島事件の打撃で権力の座から滑り落ちかけている間部越前守に接近、金で縛らんとしている様子。しかし本当に恐るべきは、それと同時に配下に出した指示なのですが……

 一方、聡四郎はといえば、新たに御広敷伊賀者の襲撃を受け、よそに目を向けている余裕もなくなってきた状態。にしても色々なところから恨みを受けて、今回聡四郎が狙われたのは誰の差し金でしたっけ、と混乱するほどです。
 そんな中、以前宿敵との死闘に勝利はしたものの、片腕の筋を絶たれ、「剣術遣い」として再生するために再修行を宣言した師・浅山一伝斎と道場で向き合う聡四郎。そこで素人目には以前と変わらぬ凄まじい打ち込みを放ったかに見えた一伝斎ですが――という辺りに剣の道の厳しさが感じられますが、その一方で聡四郎を案じる一伝斎が熱い。江戸城内の陰謀も気になりますが、こちらの師弟の行方も大いに気になるところであります。

 しかし、新型銃を碌に見分もせず捨てたことを以て吉宗の器を断じる紀文はさすがというべきでしょうか……


『ビジャの女王』(森秀樹)
 蒙古軍を前に文字通り孤軍奮闘するビジャの戦いもいよいよ佳境に入った印象のある本作。裏切りを画策する宰相・ジファルの(ストレートすぎる)奸計により城壁から転落、負傷した末に蒙古軍の捕虜となったインド墨者・ブブが、脱出に向けて動き始めます。

 勇者を好む蒙古人の風習によってとりあえずの命の危険はないものの、腕枷を付けられた囚われ人のブブ。蒙古側は、かつて殺された兵たちの服が奪われていたことから内部に墨者たちが潜入したことを予測、彼らがブブ奪還に現れるのではないかと警戒するのですが――しかし彼らは知らなかったのです。想像を絶するもう一人(?)の墨者の存在を……

 というわけで、作中の人物のほとんどの想像を絶する存在ながら、読者である我々にとっては彼(?)しかいない、と思っていたキャラが大活躍。これはもう蒙古軍が可哀想になるくらいですが――しかしまだ脱出できたわけではありません。
 ブブを信じたオッド姫の決断の結果は――次回に続きます。


『カムヤライド』(久正人)
 あまりに残酷な記憶を取り戻し、己の中に隠された「神殺し」の力に目覚めた末に異形に変じたヤマトタケル。しかし彼は本当にかつての彼なのか――?
 という何とも気になる展開から続いた今回の冒頭では、自分たちが求めるニ=ギの骨が鳴動するのを目の当たりにして、天津神たちが異変を感じ取ることになります。これまでの展開を見れば、失われたニ=ギの肉体こそは、ヤマトオオクニタマの素体であり、今はヤマトタケルの中にあることは明白ですが……

 しかし続いて描かれるのは、熊野タイジ浜で国津神と戦うオトタチバナと黒盾隊の姿であります。以前登場した時は民を守ったモンコを逃し、オシロワケ大王の命を受けた近衛兵と一触即発だった彼女たちですが、その後、国津神百体を倒すまで追放という処分となったらしく、今は各地で「怪獣退治の専門家」状態とのこと。
 今日もこの浜に出現した数多くの国津神を退治していたオトタチバナですが、そこに現れた新たな強敵に大苦戦。しかしそこに登場したのは……

 ようやく神話のカップルが誕生する予感ですが、しかしこの出会いが吉と出るか凶と出るか――どう考えてもただで済むとは思えません。


 次号は特別読切として有賀照人&富沢義彦の『玉転師』が掲載とのこと。どのような内容かまだわかりませんが、これは要チェックであります。


「コミック乱ツインズ」2022年2月号(リイド社) Amazon

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2022.01.18

「コミック乱ツインズ」2022年2月号(その一)

 号数の上では2月号ですが、発売月でいえば今年最初の「コミック乱ツインズ」の紹介であります。今月号は表紙が『暁の犬』、巻頭カラーが『侠客』、特別読切りとして『懊悩寺おつとめ日鑑』が掲載です。今回も、印象に残った作品を一つずつご紹介します。

『暁の犬』(高瀬理恵&鳥羽亮)
 前回思わぬ「強敵」の登場に、これまで考えてもみなかった自分の未来について思いを馳せることになった佐内。しかし事態は否応なしにそれよりも手前――眼の前の戦いに向けられることになります。相良から伝えられた新たな事実。それは、ついに敵方の隠れ家――すなわち二胴の剣士養成所の在り処が判明したというものだったのですから。

 そして相良配下の吉兵衛に伴われて、亀戸のその隠れ家に潜入した佐内。そこで彼が目撃したのは、これまで「敵」と認識してきた面々に加えて、以前自分を襲撃してきた二胴の剣士の存在(よかった、やっぱり満枝さんの父親じゃなかった……←まだ疑っていた)。その剣士の指示により、二胴の稽古が行われる様を、佐内は見届けることになります。
 巻藁や木などではなく、死体とはいえ人間の体に対して行われる二胴の稽古。それは稽古というにはあまりに悍ましい、鬼畜の所業と感じられます。佐内が獣であれば敵は鬼――いずれも人の道を踏み外した者同士の決着を付けるため、かつて立木野さんから諭されたように、己の命を擲っての剣を振るう覚悟を決めた佐内ですが……

 はたしてその剣が相手に届くのか、そしてそれは彼の眼の前を、そして未来を切り開く術となるのか――それはわかりませんが、今回のラストのこれまでとはまた違うタッチで描かれた佐内の表情には、決戦が近いことを否応なしに感じさせられるのです。


 特別読み切り『懊悩寺おつとめ日鑑』(芳家敬三)
 江戸で僧の修行に励む青年僧・道慎を主人公に、主に下半身方面から江戸の僧の姿を描くシリーズの第2弾である本作は、梵妻――僧侶の隠し妻を題材としたエピソードとなっています。

 修行する寺の和尚の梵妻に、縁切の使いに出され、そこで八つ当たりを受けて怪我したところを女手一人で小間物屋を営む響に助けられた道慎。僧にあるまじき梵妻の存在に憤る道慎に、寺の長老・黙仁は、人には人の数だけ事情があると諭すのでした。
 その数日後、響の子を拐かそうとした男を捕らえた道慎は、思わぬ真実を知ってしまうのですが……

 配置的に人間関係は容易に予想がついてしまうものの、それだけにクライマックスの展開が衝撃的な本作。これはどこまでが史実なのかわかりませんが、黙仁が語る僧の親子関係も興味深いものがあります。
 とはいえ、どうしてもすっきりしないものが残ってしまう結末なのは前回同様。もちろん、そういう物語というのは間違いないのですが、なかなか難しいところではあると感じます。


『殺っちゃえ!! 宇喜多さん』(重野なおき)
 浦上家中でようやく名前を上げたと思えば、早速宗景から密命を下された直家。その密命とは、同族である浮田国定討伐――同族とはいえ、当然(?)相手に容赦するつもりはない直家ですが、国定が依るのはかつての祖父の城である砥石城、堅固で知られる城であります。
 旧臣たちが内部の構造を知っているとはいえ、この名城を相手に直家も攻めあぐねて……

 というわけで、パリピに見せかけて腹黒い宗景の命で始まった同族との争い(攻められる側の国定のセリフには爆笑しつつ納得。それは確かに……)。しかし直家であればアレをアレして簡単に殺っちゃうのでは? と思いきや、いきなり苦戦するのは意外のような納得のような気がいたします。
 とはいえ、いつまでも膠着していられるわけでもないのは事実。この合戦の行方は果たして……


 長くなりましたので二回に分けます。


「コミック乱ツインズ」2022年2月号(リイド社) Amazon

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2022.01.17

『半妖の夜叉姫』 第39話「親子の再会」

 黒真珠の中の世界でついに再会したもろはと犬夜叉・かごめ。さらにかごめはとわが日暮家で育ったと知って盛り上がる。一方、麒麟丸の妖火球を受けて魄を奪われ続ける殺生丸を救うためには、とわの持つ吸妖魂の根が必要と知り、黒真珠を持つ竹千代を追うりんたち。しかしその前に麒麟丸が現れ……

 殺生丸によって黒真珠の中に三姫が送り込まれたことによって、前回ラストに涙の再会を遂げたもろはとかごめの母娘。そして今回はもろはと犬夜叉が対面することになるのでしが、何だか意地を張り合ってか、妙に険悪なムード――が、かごめととわの図らい(強引に二人を抱き合わせる)によって、二人は感動の再会モードになるのでした。
 一日たりとてもろはのことを想わない日はなかったと語る犬夜叉と、その言葉にこれまで見せなかったような表情でただただ泣きじゃくるもろはの姿には、とわもせつなも、観ているこちらももらい泣きであります。

 さて、もろはが犬夜叉の膝枕で寝てしまう(泣き疲れたのかと思いきや、紅夜叉の副作用んおかしら)という微笑ましい光景の一方で、かごめはとわが見覚えのある制服を着ていたことから、現代に行っていたと知ります。いやそれどころか自分の実家で育てられたというのですからテンションアップ。ガラケー世代とスマホ世代で微妙なギャップはありつつも、懐かしい家族の元気そうな姿を見て喜ぶ姿は実に微笑ましいものがあります。

 しかしその一方で、殺生丸に対して相変わらず複雑な感情を隠しもせず、娘二人の前でデリカシーがないとおすわりさせられる犬夜叉ですが――その殺生丸はといえば、相変わらず目元は塗りつぶされたままの上に、何だか体の周囲で怪しげな光が瞬いている状態。殺生丸を心配して駆けつけたりんと邪見ですが、邪見によればこれは前回受け止めた妖火球の影響で魄が奪われ続けている状態とのこと。さしもの殺生丸でもそのままにしておけばやがて死に至るとのことですが――妖気を吸収する吸妖魂の根、すなわちとわの斬星剣であれば救えるかもしれない……

 ではとわが吸い込まれた黒真珠はといえば前回竹千代が拾ったわけですが、あっさり麒麟丸に見つかって大ピンチ。奪ったり返したりまた奪おうとしたり麒麟丸も忙しい奴ですが、そこにりんと邪見が駆けつけます。ここは自分が戦ってでも、と健気というより無謀なことを言い出すりんですが、さすがに麒麟丸も女子供は――などとは言わず、「殺生丸の奥方」と礼儀正しく接します。といってもそれで見逃すような麒麟丸ではありませんが、ここで思わぬキャラが乱入!
 それはほとんど唯一『犬夜叉』レギュラー陣の中で消息不明だった七宝――妖狐学校で教授をしていた彼は、仕事が一段落したところで、もろはが賞金稼ぎで一攫千金していると(誤った情報を)聞きつけ、時代樹までやって来たのであります。が、来てみればそこでは大妖怪同士が戦ってるし、何だか知らない狸が逃げ込んでくるし――と、その竹千代の願いでとりあえずその場から狐妖術で黒真珠ともども脱出する七宝なのでした。

 一方、せつなから、何故もろはをひと目で娘だとわかったのかと聞かれて、三姫をとある池に連れてきた犬夜叉とかごめ。水中に翁と女、巨大な二つの面が沈むその池こそは、人頭杖の池――邪見の持つ杖の名が付けられたこの池はあの世とこの世の境にあり、邪見の杖と繋がっているというのです。そしてここで二人は時々もろはの成長する姿を目の当たりにしていたのでした。
 と、ここで犬夜叉は、天生牙があれば脱出できると気付くのですが、天生牙といえば、とわも使い手ですが……

 さて、現世では残された麒麟丸の前にりんを庇うために無茶苦茶な根性で立ち上がった(相変わらず目元は塗りつぶされたままの)殺生丸が登場しますが、そこで麒麟丸は自分が時を超えようとしている理由を語ります。それは五百年後、すなわち現代に再び妖霊星が出現し、地球に迫っているからだと――かつて殺生丸と犬夜叉が破壊した妖霊星はあくまでも欠片、今回接近するのは本体であり、それが落ちれば人間は滅亡しかねない、といきなり話が大きくなりました。
 しかし何故麒麟丸が現代のことを知っているのか? それは分身である希林先生が情報を送ってくるから――と、池を通じて麒麟丸たちの会話を聞いていたとわが衝撃を受けたところで、次回に続きます。


 前々回以降、感動!! 君も泣け状態が続く本作ですが、今回も犬夜叉ともろはの再会に皆ボロ泣き状態。ある意味、一番見たいものが見れました。
 そしてついに麒麟丸の口から現代に向かう目的が語られましたが、たぶんこの妖霊星がラスボスなのでしょう。もちろん、そこに向かうためには三姫が黒真珠から脱出しないといけないわけですが、七宝といえば弥勒――というわけで次回は弥勒一家が登場する様子で、まだまだ盛り上がるようです。


関連サイト
公式サイト

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2022.01.16

岩崎陽子『浪漫狩りZERO』 もう一つの『浪漫狩り』、ここに復活!

 昭和初期を舞台に、「埋蔵金盗掘指南」を掲げる男・猿渡遼太郎が、埋もれた財宝を巡り繰り広げる伝奇冒険アクション『浪漫狩り』――その本編については先日までにご紹介しましたが、本作はそれに先立ち連載された(結果として)パイロット版というべきバージョンであります。

 秋田書店の「プリンセスGOLD」誌に連載され、全7巻で完結した『浪漫狩り』(以下、「無印」)。しかしこの連載に先立ち、角川書店の「少女帝国」に掲載されたのが、本書に収録された三話であります。

 昭和初期、「埋蔵金盗掘指南」の看板を掲げる猿渡が、様々な遺跡や宝を巡り、軍をはじめとする様々な連中と渡り合うという基本設定、そして後で述べるように登場キャラクターはほとんど変わらないのですが――掲載誌の休刊により三話で終了。
 その後仕切り直して、上記のとおり無印が連載されたため、形としてみれば、パイロット版のようにも見える作品であります。

 そんな本作ですが、登場キャラクターは猿渡のほか。その押しかけ弟子である篁伊織、表の顔は新聞記者実は陸軍情報部の那珂川慶輔、幼馴染の実澄、ライバルの犬神――という面々が登場。
 ビジュアル的に微妙に変わっていたり(本作の実澄は高身長がコンプレックスになっているという設定)、性格が大きく異なっていたり(本作の犬神は平然と人を殺す紛う方なき悪人)と相違点はありますが、ラストには篠原少佐らしき人物も登場し、この時点で、無印のキャラクターがほぼ出揃っているのは興味深いものがあります。
(その一方で親友で冒険家の羽佐間が登場していないのも面白い)

 そんなわけで無印読者はスッと入れる本作ですが、収録された三話は、いずれも無印にないエピソードであり、新たな猿渡の冒険として、楽しく読むことができます。

 伊織の弟子入り志願と、罠にかけられたも同然で陸軍のとある山の発掘に協力することとなった猿渡の姿を描く「盗掘指南」
 金融恐慌で職を失い、埋蔵金探しに嵌まり込んだ婚約者を憂う女性の依頼で指南を行う「猿ケ京埋蔵金伝説」
 鵜葺草葺不合尊陵と噂される古墳から出土した宝剣を奪い、警備の兵士を殺害した男・犬神を追って、猿渡が奔走する「神の陵」

 いずれのエピソードも、一話あたりのページ数が多いためか、起伏に富んだ内容という印象。また、冒頭のエピソードから軍が絡んだ上に宝の内容が伝奇要素が強いのが、個人的には嬉しいところであります。
(その他にも第一話は、「埋蔵金盗掘指南」の内容を含めた猿渡のキャラクター紹介、伊織の弟子入り等、理想的なファーストエピソードだと感じます)

 そして何よりも、三話それぞれに、陰に陽に、「この時代」であることの必然性や、この時代であることを利用した仕掛けがあるのも嬉しいところであります。特に第三話で軍が絡む理由だけでなく、その一方で軍が表に出られない理由には、こう来たかと嬉しくなってしまうほどなのです。
(正直なところ、本来の読者層にどれだけマッチしたか疑問な部分はありますが……)


 何はともあれ、もう一つの『浪漫狩り』として文句なしの――あるいはもう一つの『浪漫狩り』としておくにはもったいない完成度の――本作。まことに偶然ながら、数日前に電子書籍化されたというタイミングでもあり、ファンならぜひチェックしていただきたい作品であります。


『浪漫狩りZERO』(岩崎陽子 秋田書店プリンセスコミックス) Amazon

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2022.01.15

「週刊現代」誌で赤神諒『仁王の本願』の書評を担当しました

 昨日、赤神諒『空貝 村上水軍の神姫』文庫の解説についてお知らせしましたが、もう一つ、赤神作品関連のお知らせです。同日発売の「週刊現代」2022年1/22号の「日本一の書評」コーナーに『仁王の本願』(KADOKAWA)の書評を執筆しています。

 舞台は16世紀後半の加賀――約百年前の一向一揆によってうまれた〈百姓ノ持チタル国〉(ここでいう「百姓」とは農民ではなく、「万民」の意)。本作は、この地を守るために朝倉・上杉・織田と戦いを続けた本願寺の杉浦玄任を主人公としています。

 杉浦玄任といえば、一部では最近の『信長の野望』で本願寺の妙に強い武将として知られていますが(?)、もちろん実在の人物。本願寺から加賀に派遣され、加賀を守っただけでなく、朝倉が滅んだ後の越前にも一向一揆の国を作ろうとした人物であります。
 本作はその玄任の半生を史実を踏まえつつ描いた作品ですが――一人、玄任の姿のみを追ったものではありません。本作の中核となっているもの、それは「民主主義」。その脆さ・危うさ、そして尊さを描いた物語なのです。

 上に述べたように、誕生してから百年近くが過ぎた加賀。そこでは民が民を治めるという理想は薄れ、一部の人間が権力と富をかき集め、そして周囲の人間たちも、ある者は諦め、ある者は擦り寄り――と、完全に腐敗しきった状況にありました。
(ちなみにフィクションで戦国時代の加賀が描かれる時は、かなりの確率でこの視点であるように感じます)

 しかし本作の玄任は、その民の国を守り抜くことを「本願」として戦い続けます。そこにあるのは権勢欲や領土欲、いや一向宗を広げたいという欲すらなく、ただ民が人間らしく、自分自身の手で自分の生き方を決められる国を守りたいという想いのみなのです。
 もちろんそんな玄任を煙たがる者、嘲笑う者は少なくありません。本作で外敵との合戦と並行して、時にそれ以上の迫力を以て描かれるのは、そんな内なる敵との戦い――特に後半のクライマックスとなるある場面の迫力は、なるほどこの作者ならではと感心――なのであります。

 もちろん当時の加賀の体制と、現代の民主主義を同一視はできないでしょう。しかし、過去の出来事や人物に、現代社会の諸相を照らし合わせることは(それが投影であれ対比であれ)歴史小説の魅力、いや可能性だと僕は考えています。
 その意味で、本作の終盤で玄任が語るある言葉には、大いに心揺さぶられ、そして勇気と希望を与えられた想いです。


 ――というような想いを込めて、書評は書かせていただきました。文庫解説に比べれば分量が限られている分、なかなか難しいところもありましたが、作品から受けた感銘を力に変えて書かせていただきました。

 冒頭で触れたとおり、文庫解説と雑誌での書評という違いこそあれ、同日に同じ作者の作品に関わるお仕事ができたというのは珍しい経験でした(ちなみに「週刊現代」では、以前にやはり赤神作品の『立花三将伝』の書評を担当しました)。
 しかしどちらも大好きな作品だけに、楽しく、ありがたく務めさせていただいた次第です。


『仁王の本願』(赤神諒 KADOKAWA) Amazon

「週刊現代」2022年1/22号(講談社) Amazon

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「週刊現代」誌で赤神諒『立花三将伝』の書評を担当しました

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2022.01.14

赤神諒『空貝 村上水軍の神姫』の解説を担当しました

 本日(1/14)発売の『空貝 村上水軍の神姫』(赤神諒 講談社文庫)の解説を担当いたしました。瀬戸内海は大三島の鶴姫伝説を踏まえて描かれた一大ロマン、戦国のロミオとジュリエットの物語の文庫化であります。

 時は16世紀半ば――武士たちの尊崇を集める大山祇神社の大祝を務めるとともに、大三島水軍を率いる大祝家。その姫である鶴姫は、美貌の巫女でありながらも自ら刀を取り、悪しき海賊を斬る姫武者でありました。
 そんな大三島に襲来した中国の雄・大内義隆――その水軍を迎え撃った鶴姫の次兄・安房は敢えなく戦死。鶴姫は仇討ちに燃え、強引に陣代の座に就いて水軍を率いることになります。

 そんな彼女を支えることとなったのは、安房の天才軍師として知られた美青年・越智安成。しかし鶴姫は、そんな安成を、兄を死なせた無能と毛嫌いします。
 一方の安成も神妙を装いつつ、実は裏で鶴姫を――いや、大祝家を激しく憎む野望の男。かつて一族を滅ぼされた恨みを持つ彼は、復讐鬼と化して内側から大祝家を滅ぼさんとしていたのであります。

 しかしそんな鶴姫と安成にも、全く予想できなかった運命が待ち受けていました。鬼鯱の異名を持つ大内水軍の猛将を相手取り、協力して戦いを繰り広げる二人。死線を越える中で心の繋がりが生まれた二人は、やがて強く惹かれ合うようになったのです。

 そんな中でも迫る大内水軍の総攻撃。そしてかつて安成が巡らせた大祝家滅亡の策も独り歩きを続けて……


 戦国時代、自ら鎧をまとって軍を率い、大内水軍を撃退する戦果を挙げたものの、その最中で恋人の越智安成を失い、辞世の句を残して海に漕ぎ出して消えたという大三島の鶴姫。
 本作はその鶴姫の物語を踏まえつつも、仇敵同士の熱愛という要素を加え、ロミオとジュリエットばりの悲恋物語として成立したものであります。

 と、実は本作は単行本発売時に、作者ご自身によるかなり詳しい解説がweb上に掲載(さらに現在は文庫版の解説もスタート)されていて、白状すると自分は何を書けば――と悩みました。
 それでもまあ自分の大好きな作品だけに、いつものように好きに語らせていただこう――そう考えて、自分は読者として見た赤神作品の本質と、そしてそれに照らして、ベースとなった鶴姫物語から本作が踏み出した点について書かせていただきました。


 何はともあれ、作者のファンはもちろんのこと、鶴姫に興味のある方、歴史もの好き、悲恋もの好き――一人でも多くの方に手にとっていただければと思います。
 悲しいけれども、それだけで終わらない、熱い血潮の通った物語です。


『空貝 村上水軍の神姫』(赤神諒 講談社文庫) Amazon

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2022.01.13

十束椿『兎角ノ兄弟』第1巻 怪奇の兄弟、世の怪奇を暴く

 江戸時代を舞台にしたいわゆるゴーストハンターものは様々ありますが、本作はその中でもなかなかにユニークな設定の一作。不老不死の兄と常人の弟が、この世の怪奇を追い、謎を解き明かさんとする物語であります。

 江戸で人気を博す曲芸奇術師・兎角奇団――子供のように幼く小さな兄の志月と、長身の弟の千兼という奇妙な兄弟には、ある秘密と目的がありました。
 幼い頃、京で食うや食わずやの毎日を送っていた二人。ある日、四条河原の見世物小屋で評判を博していた空蝉一座に興味を持った二人は、そこで己の身に無数の刀身をめり込ませて平然としている仮面の男・空蝉の奇術を目の当たりにすることになります。

 興味の赴くまま楽屋に潜り込み、自分も空蝉のようになりたいと語る千兼に対し、意味ありげに笑う空蝉。そして自分の力を与えてやろうという言葉と共に向けられた空蝉の刃を、弟を庇って志月は受けるのでした。
 しかし確かに胸を貫かれ、一度は心臓が止まったものの、息を吹き返し、瞬く間に傷も治ってしまった志月。なんと彼は不老不死となり、年を取ることがなくなってしまったのであります。

 それ以来、元の体に戻るために、姿を消した空蝉を追って旅を続けてきた二人。二人は旅芸人の傍ら、怪奇を探しその正体を暴くことを裏の生業に、今日も街に立つ……


 そんな何ともユニークな設定の本作。この第1巻には、この因縁を描いた第1話のほか、三つのエピソードが収録されています。
 住んでいた三味線の師匠が何者かに殺されて以来、夜な夜な三味線の音が聞こえる家の怪。
 鏡を出し物にする見世物小屋の、覗いた者の死相を映すという「死人國の鏡」を巡る騒動。
 目の悪い老婆が可愛がっていた尻尾が二本ある猫の行方探し。

 いかにも裏稼業ものらしい(?)悪人退治あり、因縁のある器物怪談あり、妖絡みの人情話あり――と、登場する怪奇とその正体がバラエティに富んでいるのは好感が持てます。

 何よりも、どこまでが本物の怪奇か偽物の怪奇かわからない出来事を、まごうことなき怪奇である本人が解き明かしていくというシチュエーションは、実に好みであります。


 もっとも、千兼が普段から大刀を腰に帯びて歩き回っていたり、どう見ても町人キャラがやたら太刀の扱いに長けていたりと、首を傾げたくなる描写があるのは、ちょっと弱ったところではあります。
(後者は、まあもしかしたら前身が武士なのかもしれない――とフォロー)
 また、実質的に最初のエピソードである第2話の展開も、色々と不自然な点は否めない(普通すぐに気付くだろうと……)と感じます。

 しかしその一方で、千兼の刀術が、漫画的に映えるものである上に大道芸をベースにしたものであるのはなかなか面白いアイディアであります。また繰り返しになりますが、各話がユニークかつバラエティに富んでいる点は、本作ならではの魅力であると感じます。


 まだまだ物語の向かう先はわかりませんが、第2巻以降も読んでみたいと思います。


『兎角ノ兄弟』第1巻(十束椿 スクウェア・エニックスGファンタジーコミックス) Amazon

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2022.01.12

松井優征『逃げ上手の若君』第4巻 時行の将器 死にたがりから生きたがりへ!

 諏訪に保護された北条高時の子・時行が、逃げまくりながらも鎌倉奪還のために奮闘するユニークな歴史活劇である本作。その第4巻で描かれるのは、実に面倒くさい中世武士たちの姿であります。恥辱を受けるくらいであれば死を選ぶ武士たちを前に、時行の将器が問われることになるのですが……

 諏訪の北の国境を侵す悪党と激闘を繰り広げ、見事撃退した時行と逃者党。その最中、軍学と二刀の達人・吹雪を仲間に加え、逃者党はさらに力を増すことになります。
 そんな折り、新たな信濃国司・清原信濃守の横暴に耐えかねて蜂起した保科弥三郎ら北信濃の武士たち。時行と逃者党は、弥三郎らを説得し、彼らを逃がす使命を帯びて川中島に向かうことになります。

 しかし恥辱を受けたら相手を殺す! 殺せなかったら戦って(相手をできるだけ巻き添えにして)死ぬ! というのがある意味この時代の武士の典型。身分を明かせるならともかく、伏せたままで時行が説得するのは至難の技であります。
 そしていかに逃者党が助太刀したとしても、わずか数名で戦局をひっくり返せるはずもない。そんな状況で、死にたがりの武士たちを生きたがりに変えることはできるのか……


 というわけで、この巻で描かれるのはある意味本作初の本格的な戦であり、そして時行の将器であります。
 これまでは時行個人の能力を発揮しての勝負や、逃者党を率いてのゲリラ戦が描かれてきたわけですが、本当に鎌倉を奪還するとすれば、大規模な軍を率いての戦を避けるわけにはいきません。

 それも単に命令するだけでなく、真に相手の心を掴んで、心を一つにして戦う必要があるわけですが――唯一の得意技が逃げることという、この時代の武士とは対極にある時行に果たしてそれができるのか?
 そんなドラマが、いかにも本作らしい、時に不謹慎ですらある、ぶっちゃけたノリを交えて展開していくことになります。
(人が良い顔をして異常者おじさんと、騎馬武者くっ殺には爆笑)

 正直なところ、冒頭で絵に描いたような横暴なバカ国司とその配下が出てきた時には、どうかなあ――と(明らかに愚かな相手を踏み台にして自分たちを持ち上げる手法は個人的には感心しないので)心配になりました。
 が、この巻ではそれはそれとして、死にたがりの武士たちを前にして、時行ならではの能力で、そして彼だからこその説得力で、彼らの心を変えていく展開が中心。この辺りはある意味王道ではあるのですが、上に述べたように変則的なギャグ描写が挟まれる本作でそれをやれば、より効果的に感じられます。

 そしてもう一つ印象に残ったのは、今まで今ひとつ個性が感じにくかった逃者党の一人・弧次郎の存在をグッとクローズアップしてみせたことであります。
 逃者党の他のメンバーに比べれば特殊能力もなく、何だか地味に感じられる弧次郎。しかしこの川中島の戦いでは、彼ならではの、彼らしい力を発揮してみせてくれたのには、これも王道ながら感心いたしました。


 そして川中島の戦いの後に、時行のホームシック(?)のエピソードが描かれるのですが――これが幕間のちょっとイイ話かと思いきや、この先の物語へと繋がる展開が描かれることになります。
 いまや最大の敵・足利尊氏の弟である直義が治める地となった鎌倉。尊氏の得体の知れぬカリスマ性とは全く異なる、しかしそれと同じ効果を上げる計算高さを持つ直義の統治を住民たちも歓迎していたのであります。

 そして彼と共に鎌倉に立つ武士たち・関東庇番衆もまた、いかにもな強敵揃い。いずれも実在の人物ですが、本作らしいアレンジをほどこされているのが目を引きます。


 ――が、その前に時行の前に立ちふさがるのは、これまで幾度となく戦ってきた小笠原貞宗。ついに時行こそが北条の関係者と目をつけた彼と、時行は一対一で対峙することになります(ここでいつもの変態目玉おじさんとは異なる、小笠原流の祖らしい顔を見せる貞宗がいい)。

 そしてその時行にただ一人付き従うのは亜也子――どうやら弧次郎の次は彼女の活躍を見ることができそうであります(はたしてこの先「ポロリ」はあるのか……?)


『逃げ上手の若君』第4巻(松井優征 集英社ジャンプコミックス) Amazon

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2022.01.11

2月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 悪意があるとしか思えない配置の暦で、あっという間に年末年始のお休みも終わったと思いきや、早くも2月の予定が発表されました。正月気分もあっさり吹っ飛ぶ時間の流れの速さですが、この先の新刊はやっぱり気になる――というわけで、2月の時代伝奇アイテム発売スケジュールであります。

 言うまでもなく他の月よりも短い2月ですが、今年の2月に発売されるアイテムはかなりの充実ぶりであります。

 まず文庫小説に目を向ければ、何といっても気になるのは今乗りに乗っている作者のバトルロワイヤルもの(?)の『イクサガミ 天』(今村翔吾 講談社文庫)。
 また、『平安姫君の随筆がかり 1 清少納言と今めかしき中宮』(遠藤遼 講談社タイガ)、『六莫迦記 いつの間にやら夜明けぜよ』(新美健 ハヤカワ文庫JA)も気になるところです。

 一方で大いに印象に残るのは、上田秀人の活躍ぶり。元々ほぼ月刊体制の作者ではありますが、2月は『勘定侍 柳生真剣勝負 5 奔走』(小学館文庫)『辻番奮闘記 4 渦中』(集英社文庫)と新作2点(特に後者は二年ぶりの続編)に加えて、『大奥騒乱 伊賀者同心手控え』(徳間文庫)の新装版、歴史小説ですが『孤闘 立花宗茂』(中公文庫)と並びます。


 その他、文庫化・復刊では『宿神』第3巻・第4巻(夢枕獏 徳間文庫)、新装版『君の名残を』上下巻(浅倉卓弥 宝島社文庫)、『炯眼に候』(木下昌輝 文春文庫)が要チェックです。

 一方、漫画の方もかなりの点数が刊行されます。
 その中でもやはり最も気になるのは、『警視庁草紙 風太郎明治劇場』第1巻(東直輝&山田風太郎 講談社モーニングKC)。いままで漫画化されていなかったのが不思議なくらいであります。

 その他、新登場は戦国ものの『ヤヌス~鬼の一族~』第1巻(琥狗ハヤテ 芳文社コミックス)、幕末ものの『青のミブロ』第1巻(安田剛士 講談社コミックス)、『彦斎と象山~剣術抄~』第1巻(とみ新蔵 リイド社SPコミックス)、『くだんのピストル』第1巻(山崎峰水&大塚英志 KADOKAWA角川コミックス・エース)、海外ものでは『楊家将奇譚』第1巻(有谷実&井上実也 KADOKAWAフロースコミック)、『ビジャの女王』第1巻(森秀樹 リイド社SPコミックス)と多士済済であります。

 そのほか、シリーズの最新巻では『平安あかしあやかし陰陽師』第2巻(こはく&遠藤遼ほか 白泉社花とゆめコミックス)、『輝夜伝』第9巻(さいとうちほ 小学館フラワーCアルファ)、『どろろと百鬼丸伝』第6巻(士貴智志&手塚治虫 秋田書店チャンピオンREDコミックス)、『信長のシェフ』第31巻(梶川卓郎 芳文社コミックス)、『壬生の狼、猫を飼う~新選組と京ことば猫~』第2巻(篠原知宏 スクウェア・エニックスガンガンコミックスONLINE)、『龍帥の翼 史記・留侯世家異伝』第22巻(川原正敏 講談社コミックス月刊マガジン)、『爆宴』第5巻(士貴智志&イダタツヒコ 講談社シリウスKC)とこれまたかなりの点数。


 最初に述べたとおり、いつもより少ない日数で、いつもに負けない新刊が並ぶ来月であります。


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2022.01.10

横田順彌『大聖神』 長編活劇 中村春吉、秘境の黄金像に挑む!

 昨年竹書房文庫で復活を果たした『幻綺行』に続く、中村春吉秘境探検記第二弾にして長編であります。自転車世界一周無銭旅行を続ける中村春吉の次なる冒険の舞台は、遠く満蒙国境の大興安嶺の奥地。大冒険の末に春吉が見た謎と驚異とは……

 日露戦争直後に自転車世界一周無銭旅行を続ける中、各地で様々な怪異・怪事件に出会い、解決してきた中村春吉。スマトラで出会った日本人婦人・雨宮志保と宝探しに燃える青年・石峰省吾とともにベルリンを訪れた春吉は、そこで日本の駐在武官から思わぬ依頼を受けることになります。

 大興安嶺の奥地から定期的に発せられているという謎の電波。日本軍はそれを露西亜軍によるものと判断、しかも時を同じくして、ロシア皇帝の近衛軍団の精鋭たちが大興安嶺に向かうというではありませんか。
 不透明な状況下で正規の軍を動かすのは難しい中、現地調査のために春吉一行に白羽の矢が立ったのです。

 もちろん春吉がこれを拒むはずもありません。勇躍シベリヤ鉄道に乗った春吉・志保・石嶺青年は、途中で知り合ったダフール族の老人・トクソムをガイドに、大興安嶺に向かうことになります。
 しかしその最中も不審な動きを見せるロシア近衛軍団、さらにドイツの曲馬団一行。そして荒涼たる異郷で数々の冒険を繰り広げる中、各地で出会うオロチョン族の人々から、春吉たちは向かう先に一つの伝説があることを知ります。禁断の山とされた聖地・オーコリドイ――そこには黄金の神像と、それを守る白く大きな守護神が存在するというのです。

 それを裏付けるように、途中の村で、約五十年前の日本人武士が遺した書付を発見した一行。そこには人を惚け倒れさせる光を放つ飛天球なる謎の存在と、何かの地図と思しき図面が記されていたのです。
 そして過酷な旅の末、ついにオーコリドイに登頂した春吉一行が目の当たりにしたものとは……


 実在の冒険家にして、バンカラの権化のような痛快男児・中村春吉が、世界各地の秘境で出会う様々な怪事件を描く本シリーズ。明治時代を舞台に、実在の人物や当時の風俗を配置してSF的な事件を描く明治SFの中でも、その舞台等の特殊さで異彩を放つ作品です。
 その中で(番外編の『西郷隆盛を救出せよ 日露戦争秘話』を除けば)唯一の長編である本作は、現代でもなお秘境といえるかもしれない大興安嶺――森林と山地が続き、ごくわずかな原住民のみが暮らす地を舞台に展開していくことになります。

 ある出来事をきっかけに、文明人が未開の地に探検に赴き、原住民の間に残る伝説の地で財宝を発見する――本作でも言及される『ソロモン王の宝窟』に代表される秘境冒険ものの一つのパターンですが、本作はもちろんそれを踏襲した作品です。
 もっともこのジャンルは、発表年代の関係もあってか、現在から見れば様々な意味で古色蒼然としたものを感じさせるのですが――本作はもちろんその轍は踏むことなく、ジャンルとしての楽しさはそのまま、今読んでも十分に楽しい物語として成立しています。

 もちろんそれは、春吉一行のキャラクターの楽しさによる点が大きいでしょう。レギュラー三人の活躍もさることながら(特に志保は相変わらず居なかったら詰むレベルの活躍ぶり)、ガイドとして仲間に加わるトクソム老人が実に楽しいのであります。
 既に老境ながら、腕っぷしといい言動といい元気極まりなく、陽気ですっとぼけたトクソム。春吉が年をとったらこうなるのでは、といいたくなる異国のバンカラ老人ぶりは、本作の陰の主役と言ってよいかと思います。

 その一方で物語の方は比較的シンプルな内容ながら、次々事件の起きる道中の展開の面白さはさすが、というべきでしょう。
 その一方で、物語の核心というべき秘宝の正体は、これはこれでなかなか面白い、いかにも明治SFらしいものではあるのですが――全てが描かれず、現象の部分だけ描かれておしまいというのを何とすべきか。これまた明治SFによくあるパターンではあるのですが、長編でこの結末は、正直なところどうかなあ、という印象があります。


なお、本書にはノンフィクション『バンカラ快人伝』から「自転車世界無銭旅行者 中村春吉」を併録。私は初版で読んでいたのですが、再刊時に追加された春吉の晩年には驚かされました。

 また、前作は、どう見ても古書としか思えない装丁で話題になりましたが、本作も同様の凝りようで、書店で見ればギョッとすること請け合いの気合の入れよう。こちらも必見であります。

『大聖神』(横田順彌 竹書房文庫) Amazon

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2022.01.09

『半妖の夜叉姫』 第38話「東雲の麒麟丸」

 黒真珠を奪い取り、阿久留を連れてこいと命じる麒麟丸に立ち向かうも、圧倒されるもろはだが、殺生丸が現れ、麒麟丸と戦いを始める。そこに割って入る三姫だが、怒った麒麟丸は巨大妖火球を放つ。それを素手で受け止めた殺生丸は、満身創痍になりながらも三姫を黒真珠の中に送り込む……

 いよいよ残すところはおそらく1クール、りんも救い出されて残すは犬夜叉とかごめのみ――と、いよいよ物語は大詰めにさしかかった感がある本作。今回も大きく物語が前進した印象があります。

 前回ラスト、殺生丸がもろはに与えた黒真珠を奪い、それと引き換えに阿久留を探すよう迫った麒麟丸。もちろんこれにもろはが怒らないはずもなく(よせばいいのに)紅夜叉に変化して挑むのですが、麒麟丸はほとんど舐めプ状態で応じます。
 一方、解放されたりんに会いに行こうと発ったとわとせつなを見送ったりおんと理玖。ここで父を討つ覚悟を決めたりおんが理玖に対し、すまんが命をくれと言い出したので何かと思えば、本体である麒麟丸を討てば理玖も滅びるから――という理屈であります。自分は平気と明るく振る舞う理玖ですが、とわに対しては「恋という名の感情を知っちまったんです……」と語るのが、なかなか切ないところ。しかしりおんはこれから産霊山に向かうというのですが、そこにまだ何があるのでしょうか。

 さて、母に会いに時代樹に向かった二人ですが、着いてみればそこではもろはと麒麟丸がバチバチの真っ最中。助太刀を拒むもろはですが、せつなが「仲間だろ」と以前では口にしなかったようなことを言えば、とわは自分たちは従兄弟同士なんだし、お盆とお正月に集まって一緒に遊んだりお年玉をもらったりする間柄なんだから、とわかったようなわからないようなことを言い出し――とすったもんだのところに、時代樹から殺生丸が現れます。
 三姫に代わって殺生丸が相手ならば大歓迎――という麒麟丸ですが、いつになく(彼にしては)饒舌な殺生丸の口撃にいらだち、思わず黒真珠を返してしまう始末。それでも互角に戦いを繰り広げていたのですが、その隙に、横合いから三姫が攻撃を仕掛けます。もろはが天空の矢襖で麒麟丸の妖力を抑えにかかれば(紅夜叉になっても結局デバフ役……)、とわが斬星剣からの双頭の蒼龍破で妖力を吸収し、そこにせつなが何気に火の鳥を飛ばす新技を放つ――が、それでも効かぬ! と言うかと思えば、麒麟丸は結構真面目にダメージを食らっております。

 これに怒り心頭の麒麟丸、女子供は戦場に出るな! とマチズモの発露のような、りおんのことを考えれば言う資格があるような、そんな微妙なことを言いながら、とんでもないサイズの妖火球を作り出し、ぶん投げてくるではありませんか。と、その前にスッと立ったのは殺生丸――何とそのままこの攻撃を受け止めてみせた彼は、かつて父も受けたというこの攻撃を自分は太刀も使わず受け止めてみせた、とまた煽るものの、既に目元はシルエット状態になって大ダメージは一目瞭然であります。
 そのまま頭から地上に落下しつつ、最後の力で黒真珠を投じ、三姫を吸い込ませる殺生丸。一方の麒麟丸は、木々の間に落ちた殺生丸に対し、レスしなかったら勝利宣言な! 的なことを言い出して勝ち誇るのですが……

 外の世界が大変なことになっている中、黒真珠の中の世界に吸い込まれてしまい、あてどなく歩き始めた三姫。しかしその前に、我々にはよく見覚えのある巫女姿の女性が現れます。そう、彼女こそはもろはの母・かごめ――ほとんど生まれた時以来の別れ(先日、産霊山の結界でニアミスしましたが)ですが、互いがひと目でわかった母娘はひしと抱き合います。とわはもちろんのこと、記憶を取り戻して丸くなったのかせつなまでもらい泣きという場面に、後ろからのっそり現れたのは親父の方で――という盛り上がる場面で次回に続きます。


 皆が待ちに待っていた犬夜叉とかごめの再登場ともろはとの再会、そしてその一方で殺生丸退場(?)と、年明け早々盛り上がった今回。前回のりんへの態度はもちろんですが、今回の妖火球ブロックも、あれはあれで殺生丸なりの情の現れなのでしょう。それが滅茶苦茶な強がりになっているのも、また彼らしい。

 そして次回予告には(新OPにもいましたが)特に事情もなさそうなのにこれまで登場していなかった七宝の姿が。竹千代と並び、狐狸揃い踏みという印象であります。


関連サイト
公式サイト

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『半妖の夜叉姫』 第27話「銀鱗の呪い」
『半妖の夜叉姫』 第28話「産霊山の結界」
『半妖の夜叉姫』 第29話「りおんという名の少女」
『半妖の夜叉姫』 第30話「退治屋翡翠」
『半妖の夜叉姫』 第31話「竹千代の依頼」
『半妖の夜叉姫』 第32話「七星の小銀河」
『半妖の夜叉姫』 第33話「魔夜中の訪問者」
『半妖の夜叉姫』 第34話「決戦の朔(前編)」
『半妖の夜叉姫』 第35話「決戦の朔(後編)」
『半妖の夜叉姫』 第36話「永遠にない場所」
『半妖の夜叉姫』 第37話「是露の想い」

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2022.01.08

森秀樹『海鶴』 伝説の鶴、瀬戸内から外海へ漕ぎ出す

 思うところあって、戦国時代の大三島に実在したという鶴姫を扱った作品を追っていたのですが、本作もその一つ。瀬戸内海の鶴姫伝説をベースにしつつも、作者らしい形で自由に物語世界が広がっていく、ユニークな戦国活劇であります。

 室町末期、瀬戸内海で恐れられた三島水軍の領袖・大祝家――その娘である鶴は、母や兄たちの目もものとはせず、思うがままに日々を暮らすじゃじゃ馬。ある日、海岸に漂着した異国の難破船を見つけた鶴は、そこに残された航海道具らしき謎の品の正体を追って、単身京に向かうことになります。
 そこで彼女を執拗に付け狙う、狐面の謎の戦士。やがてその品をきっかけに、倭寇の大首領・サバエと出会うこととなった鶴ですが、折しも三島に大内家の侵攻が始まり、兄をはじめとして周囲の人々が次々と犠牲になってしまいます。

 サバエの協力を得て三島に帰り、大内家に起死回生の決戦を挑む鶴。しかしサバエが大内家にも協力していたことから、三島水軍は敗れ、鶴の身も……


 戦国時代、武神として信仰を集め、そして瀬戸内有数の水軍を率いたことで知られた大三島の大山祇神社の大祝家――そこに生まれ、その美貌と武勇を知られた鶴姫。
 この鶴姫は、大内家の侵攻で兄を失いながらも自ら女物の鎧をまとって戦って出陣して見事に勝利したのですが――しかし戦いの中で愛する男性・黒鷹を失い、世を儚んで海に消えたという伝説が残っています。

 このドラマチックな生涯によって、後世の様々な物語に登場することとなった鶴姫ですが、本作がその鶴姫伝説の展開や登場人物等をベースとした物語であることは言うまでもありません。
 しかし本作のユニークな点は、そうしたベースを持ちつつも、並行してもう一つの物語を描き、そしてそれが最終的に前面に押し出されていくことでしょう。

 物語が始まった時点では既に故人である鶴の父が生前に隠し、彼女にのみその存在を伝えたもの――それは海の向こうから伝わった新たな武器、すなわち火縄銃でありました。
 その一方、鶴は異国の船の残骸に触れ、当時の日本においてはほとんど全く未知のテクノロジーに触れたことから、海の向こうに船出することを夢見るようになります。

 この国の争いを広げかねない武器と、海の向こうの文化を伝える航海術と――相反しつつも通底するものに触れ、揺れる鶴。そしてそんな彼女に謎めいた態度で接するサバエ――死臭に群がる蠅の王の異名を持つ倭寇の首領――と出会うことにより、彼女の世界は、また様々な形で広がっていくことになります。

 思えば原典である鶴姫の物語は、瀬戸内海というある種の内海に終始するものでした。そこでは海は――陸上では成立が難しそうな――姫武将というフィクションめいた存在に一定のリアリティを与える場であったと言えるかもしれません。
 それに対して本作は、外なる海にどんどんと広がっていく物語であります。それゆえか、本作における原典をベースとした部分は、実は全3巻のうち2巻目まででほぼ終えることになります。

 それではその先で描かれるものは何か? それは外に広がっていく、新たな物語であります。原典を超えて広がっていく物語の向かう先は、ある意味実に豪快で、作者らしい野放図な伝奇ぶりともいえますが――それは本作が始まった時にあらかじめ予定されていたものなのかもしれません。(たぶん……)


 ちなみに本作の単行本第3巻には、時代短編傑作選と銘打って、独立した短編である「戦場の夢の夢」と「二人の田丸」が収録されています。

 前者は三木城主・別所長治を攻める秀吉配下の足軽と長治の妻の不思議な交流を描いた戦国もの。後者は奇しくも全く同じ姓名を持ち、同じく抜刀術を極めながらも対照的な人生を歩む兵法者二人の対決を描く剣豪もの。
 長編に比べれば抑えめの物語という印象もありますが巧みな物語展開は、思わぬボーナストラックと言ってよいかと思います。


『海鶴』(森秀樹 小学館ビッグコミックス全3巻) 第1巻 Amazon / 第2巻 Amazon / 第3巻 Amazon

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2022.01.07

上田秀人『勘定侍 柳生真剣勝負 二 始動』 もしかして最強の主人公、いよいよ活動開始!

 大名となった柳生家の勘定方として急遽召喚された宗矩の庶子・一夜の活躍を描くシリーズの第2巻は、サブタイトル通り一夜がいよいよ江戸で活動開始。柳生家の経営を立て直すためにさっそく独自の動きを見せる一夜ですが、一夜を、そして柳生家を注視する目は一つではなく……

 一万石に加増され、念願の大名家となった一方で、惣目付の職を離れることとなった柳生家。しかし家中には内政引き締める勘定方を務められる人間がいないことから、宗矩は庶子である淡海一夜を大坂から召喚することを決意します。
 大坂きっての唐物問屋の跡取りとして育ち、会ったこともない父親の突然の呼び出しに嫌々ながらも従うことになった一夜。途中柳生の庄に立ち寄った一夜は、兄である十兵衛と左門と出会い……


 というわけで、物語の発端と、柳生の庄を訪れた一夜の姿が描かれた第1巻でしたが、続く本作の前半では、一夜が柳生の高弟・武藤大作とともに江戸に向かう姿が描かれます。
 剣の腕は立つものの、商売のことはからっきしの大作を翻弄しつつ、京で商人たちを相手に今後の布石を打った一夜。順調に進んだかに見えた旅ですが、江戸を目前とした川崎宿で、二人は自分たちを付け狙う一団に気付くことになります。

 そして六郷川で襲いかかる八人の牢人。槍や大太刀まで用意している上にこの人数差では、いかに達人の大作でも多勢に無勢となりかねない状況ですが、剣はど素人の一夜が役に立つとは思えません。
 しかしそこで敵の得物も考えて陣形を考案、さらには金を「借用」したいという牢人に対し、期限や利子、担保を尋ねて混ぜっ返し時間を稼ぐなど、一夜も「らしい」活躍を見せます。

 いよいよ人を斬れると腕を撫す剣呑な大作と、口八丁の一夜――この二人のコンビプレーが実に面白く、この牢人たちとの戦いが、本作の前半のクライマックスといってよいでしょう。


 そしてこれに対して後半のクライマックスは、いよいよ父子対面――というにはいささか剣呑かつドライなものとなった、宗矩と一夜の出会いの場面であります。

 そもそも本作の宗矩は相変わらず(?)ブラックながら、なかなかに悩み多き人物。武者修行に行きたがった十兵衛が家光の勘気を被ったり、その代わりに左門を小姓に差し出したら寵愛されすぎて病気理由で柳生に戻す羽目になったりと、子のことで綱渡りの連続なのですから。

 それでも惣目付として在職中は家光の意を汲んで大名潰しに邁進して、その功を認められた形に大名になったのはいいのですが――その後も保科正之を出自に相応しい大名にするためにふさわしい土地を用意せよという命を家光から受け、いわば陰の惣目付を務めることになった宗矩。
 そこで彼は会津の加藤明成(!)に目をつけることに……

 と、あれこれと悩みを抱えた宗矩に対して、父ではなく、一種の交渉相手として接する一夜。宗矩が殺気を迸らせれば、一夜は商売っ気で応じるという、親子とは思えぬ丁々発止のやり取りを二人は繰り広げることになります。
 しかし宗矩の子たちの中で一夜のみが宗矩の悩みを理解し、そして宗矩もまた、これからは武士の時代ではなく金の時代と理解している――そんな対極の二人だけが互いの考え・立場を理解し合っているという皮肉な関係が、また何ともユニークなのです。


 それにしても一夜は、ある意味本作では一種のチートスキル持ちともいうべき存在ですが、それに留まらず、まだまだ成長の余地があるのも面白い。(そこで前作での十兵衛や左門との無茶なやり取りが作用しているのが実に巧みです)
 あるいはこの調子では上田作品では最強主人公になるのでは――という予感すらしますが、もちろん彼の本格的な戦いはこれから。

 惣目付・秋山修理亮が、いやそれどころか将軍家光までもが彼に興味を示し、彼の存在自体が台風の目になりつつある中、次なる一夜の手は――続きのご紹介はまたいずれ。


『勘定侍 柳生真剣勝負 二 始動』(上田秀人 小学館文庫) Amazon

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2022.01.06

平松伸二『大江戸ブラック・エンジェルズ』第2巻 豪腕! 帰ってきた(?)あの男

 あの黒い天使たちが江戸に登場!? と大いに驚かされた『大江戸ブラック・エンジェルズ』の続巻が登場しました。雪藤がいれば当然――というわけで、ついに超人的パワーのあの男が登場。さらに鷹屋たちの思わぬ過去が交錯し、さらなる外道との戦いが繰り広げられることとなります。

 売れない絵ばかり描いている浮世絵師の青年・雪士の裏の顔――それは許せぬ悪を密かに始末する殺し屋。鋭く骨を尖らせた唐傘をはじめ様々な武器でもって、次々と外道を地獄に落としていく凄腕であります。
 そしてその最中に出会った鷹屋重三郎、ハシム、亜里沙らもまた、密かに外道を地獄に送るいわば同志。時に協力して巨悪と対峙してきた雪士と鷹屋たちですが、雪士が「写楽苦」の筆名で描いた浮世絵がもとで、鷹屋が奉行所に連行されて……

 と、第1巻では雪士たちのキャラクター紹介と、寛政の改革における表現規制を巡る争いが描かれたのですが、この巻ではそちらは冒頭で一段落し、新たなキャラクターの登場と、鷹屋たちの過去を巡る戦いが展開することになります。

 回向院の勧進相撲(なにげに恋吹雪が……)の大一番で、大関らしからぬ相撲ぶりと行事の忖度で疑惑の勝利を収めた灰汁津藩主・家影のお抱え力士・雷砲。その勝利にもの言いをつけた葛飾村から出てきたという絵師志望の青年・松田は、飛び入りの一番で雷砲をKOしてのけるのでした。
 しかし雷砲の醜態に激怒した家影の指示で、灰汁津藩士と雷砲の闇討ちを受ける松田。膾に刻まれながらも不死身の体力で返り討ちにした松田を助けた雪士とハシムですが、実は鷹屋たちには家影と深い因縁が……

 というわけで、ブラック・エンジェルズの再結成(?)に、あの男が出てこないわけがない! と満を持して登場した松田。本作での松田は、葛飾の農民の子ながら風景画を得意とする変わり種――しかし暴れ牛をブレーンバスターでブン投げるほどの怪力で、曲がったことには黙ってはいられないという豪傑であります。

 しかし少々意外なのは、ここで一旦松田は数話ダウンして、鷹屋たちの過去に物語の焦点が移ることです。
 奉行所に連行されて尋問されようとも全く臆さず、それどころか老中が聞き耳を立てているのを承知の上で聞えよがしに政道に――武士として反論しようがない正論を交えつつ――物申してみせる。そんな一介の版元とは思えぬ胆力を見せる鷹屋の正体は、かつて家影に仕えた武士……

 そんな鷹屋が何故というのは、これは実に本作らしい外道である家影の存在が――というわけで、松田の一件を機に堪忍袋の緒が切れた鷹屋たちの怒りが爆発。過去のシリーズでもなかったのでは、というドン引きものの凄惨な仕置が行われることになります。
 この家影のキャラ造形が、今日日なかなか見られないようなもの――というのはともかく、この家影の乱行が今まで咎められなかった理由や、老中・松平定健のいかにも悪人そうな義父の存在といい、この先の展開を予感させます。
(しかし明らかに松平定信が定健となっているのは、これは『マーダーライセンス牙』的理由なのかしらん)


 何はともあれ、この巻のラストで雪士たちの正体を知り、強引に仲間入りすることとなった松田。正直なところ、刑事としてのバックボーンもなくサングラスも黒ずくめルックもない松田というのは――いかに復活以降の松田が、ほとんど「松田という概念」になっているとはいえ――まだピンとこないのですが、その辺りは今後の展開に期待というところでしょうか。


 しかしあっさりと出自がわかった鷹屋ですが、まだ裏があるんじゃないかと疑ってしまう……(しつこい


『大江戸ブラック・エンジェルズ』第2巻(平松伸二 リイド社SPコミックス) Amazon

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2022.01.05

岩崎陽子『浪漫狩り』第7巻 大団円 現在に繋がる過去を乗り越えて

 昭和初期を舞台に、考古学者にして埋蔵金盗掘指南の猿渡遼太郎と、陸軍特務が超古代文明の遺跡を巡り火花を散らす本作もいよいよ最終巻。友を救い出すため、暴走する軍を止めるため、そして人類を救うため――ついに中央アジアの中枢遺跡に辿り着いた猿渡たちを待つものとは……

 各地で出土する人知を超えた特徴を示すメダリオンを追い、陸軍特務と対峙してきた猿渡と仲間たち。その冒険はやがて富士近くに眠る遺跡に及んだ末、呉越同舟で猿渡たちと陸軍は共同で遺跡の謎に挑むことになります。
 しかしかつて超古代遺跡を巡る陰謀によって親友・那珂川を失った篠原少佐が暴走――那珂川の弟の那珂川少尉を神の知識の器に仕立て上げると、世界を終わらせると告げ、姿を消すのでした。

 莫大なエネルギーを秘めた地の経絡を制御し、地球の生殺与奪を手にするも等しい力を与える中枢遺跡。その力を用いようとする篠原少佐を阻み、那珂川少尉を取り戻すために、宿敵だった犬神の協力を得て、猿渡は中国大陸に渡ることにことになります。
 しかし既に先行している陸軍に対し、猿渡たちはあくまで追う立場。しかも遺跡の正確な位置もわからず、わかったとしても移動手段がありません。

 そこに思わぬ協力者が現れ、ついに中枢遺跡への道筋を掴んだ猿渡一行。そしてその前に現れた守護者たちもまた、猿渡と意外な繋がりを持っていたのであります。
 様々な人々の助けを得て、遺跡内部に踏み込む猿渡一行。しかし既に篠原少佐の手で起動を開始した遺跡の防衛機能に、猿渡たちは苦しめられることになります。

 遺跡の暴走が近づく中、真の遺跡の制御中枢の存在を知る猿渡。その驚くべき正体とは、そしてそれに対して猿渡は……


 というわけで丸々一冊、中枢遺跡を巡る最後の戦いが描かれるこの最終巻。前巻での怒涛の展開はそのまま、ここでも一気呵成に物語は結末に突き進んでいくことになります。
 しかし派手な戦いが描かれる一方で、その背後にあるのは、これまで猿渡が出会い、救ってきた人々との繋がりの存在。さらには盗掘屋として軽蔑していた犬神との、長年確執のあった父との和解という、骨太の人間ドラマの存在なのであります。

 そしてクライマックス、遺跡の核に突入した猿渡が見たもの――その「光景」には、この物語がこの時代を舞台に描かれた、その理由であり、必然性であったか!? と驚かされること請け合い。
 しかしあまりに絶望的なその光景を乗り越え、そこから猿渡の新たな決意、そしてタイトルに繋がっていく展開はまさに大団円――現在に繋がる過去を乗り越え、そして未来に繋げてきた物語に相応しい結末であると感じます。


 もっとも、さすがに単行本1冊、4話でクライマックスを描くというのは、いささか駆け足の印象があるのは否めないところではあります。
 特に守護者たちがあまりにもオールマイティな存在であったのと、那珂川少尉の覚醒がいささかあっけない――そしてこの両者は繋がっているのですが――のは、いかにも惜しかったと感じます。

 もちろんこの辺りは、巻末の余談漫画を見れば、ある意味無理もなかった――というよりも、よくぞこの状況からここまできっちり描いてみせたというべきでしょう。何よりも、クライマックスを1巻に収めたからこその、このスピード感、緊迫感であった――そう強く感じるのです。


 何はともあれ、昭和初期、宝探し、超古代文明、秘宝、そして男の友情――まさに「浪漫」というべきものが詰め込まれた、いやそれだけで構成されたような本作。物語の最初から最後の最後まで、存分に楽しませていただきました。
 『浪漫狩り』これにて完結であります。(といいつつ、『浪漫狩りZERO』も紹介しないと……)


『浪漫狩り』第7巻(岩崎陽子 秋田書店プリンセスコミックス) Amazon

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2022.01.04

『怪竜大決戦』 崩れゆく城塞 激突二大巨獣!

 昨年の大晦日から三が日にかけて、東映時代劇YouTubeチャンネルで『怪竜大決戦』が公開されておりました。1966年公開のこの作品、松方弘樹を主役に、大友柳太朗を敵役に据え、特撮をふんだんに使った特撮時代劇であります。

 邪悪な妖術使い・大蛇丸を従えた悪人・結城大乗の謀反によって乗っ取られた尾形家の城。何とか城外に逃れた若君・雷丸にも、大蛇丸が化身した大龍が迫ったその時、蟇道人の大鷲が彼を救うのでした。
 以来、道人の弟子として育てられ、逞しく成人した雷丸。しかし彼を狙う大蛇丸の魔手が迫り、その戦いの最中に、雷丸は父を探す娘・綱手と出会うのでした。

 そして自らの師であった道人を卑怯な手段で討ち取る大蛇丸。今際のきわの道人から大蝦蟇変化の術を与えられた雷丸は、自雷也と名乗り、両親の仇である大乗と大蛇丸を討つために旅に出ることになります。
 しかし、大乗を裏切り自らが城主になろうと奸計を巡らす大蛇丸は、次々と自雷也に刺客を送り込みます。そしてその最中、綱手は自分が探す父こそ、大蛇丸だと知ってしまうのですが……


 このあらすじからわかるように、本作のベースは、講談の児雷也豪傑譚に始まる、いわゆる児雷也もの。大蝦蟇を操る児雷也、大蛇を操る大蛇丸、大蛞蝓を操る綱手が活躍するこの物語は、その派手な趣向ゆえか、戦前から映画化されてきたものであります。
 本作はその児雷也ものを、当時の最新技術でいわばリメイクしたものですが、その結果、いわゆる東映時代劇+怪獣もの的な趣きが生まれた作品です。

 正直なところ、今の目から見れば合成技術はあまりにもプリミティブ(特に今回の配信は非常に映像状態が良いので粗が特に目立つ)なのですが――しかし松方弘樹の不敵な若武者ぶり、そして悪の妖術師といえばこの人感のある大友柳太朗の怪物ぶりが相まって、時代活劇としては純粋に楽しい本作。
 さらに結城大乗を天津敏(といっても典型的なバカ殿ぶりで、精悍さゼロなのが残念)、蟇道人を金子信雄、さらに大蛇丸の配下ながら密かに自雷也と綱手を助ける老忍・百々兵衛を千葉敏郎が――と脇の面々も充実であります。


 しかし何といっても本作の魅力は、クライマックスの文字通り「大決戦」にあることは間違いありません。

 自雷也が迫っていることも、大蛇丸の暗躍も知らず、城内で宴に酔いしれる大乗――しかしふと気づけば、その乱痴気騒ぎを高みから睨めつける眼が、という、動と静の使い分けが素晴らしい大蝦蟇登場シーンから始まるこのクライマックス。
 その巨体で城の屋根も、壁もものとはせずに突き崩しながら大蝦蟇は大乗一党を追い詰め、そしてついにただ一人になった大乗も、みっともなく命乞い→不意打ちという悪役ムーブも全く通じず自雷也に斬られるのですが――しかしここからが大決戦の本番です。

 邪魔となる大乗が消え、残るは自雷也のみと、大蛇丸は大竜に――長い首がヌッと現れる姿が実に禍々しくインパクト十分――に化身。そして大蝦蟇が口から火を吹けば大竜は水を吐いて打ち消し、飛び道具では勝負がつかぬと見て正面からぶつかり合う二大巨獣!

 ――と、ここいわゆる怪獣プロレスになってしまうのはいささか残念ではあるのですが、しかしその合間に容赦なく城が破壊されていく様は凄まじいまでの迫力であります。
 そしてついに追い詰められた大蝦蟇が城外に転落、その上に瓦礫が積もった上に大竜にのしかかられる辺り、城の周囲が本水を使っているだけに本気で心配になり、「おお……蝦蟇よ蝦蟇!」(それは蝦蟇違い――ではないような)と呻きたくなるほどです。

 しかしそこに綱手が祖母(母の母)である蜘蛛婆から託された髪飾りを投じれば、空から現れたるは大蜘蛛! 大蜘蛛の吐く糸に絡まれ、さしもの大竜も力を失い……
 と、原典では大蛞蝓であったものが大蜘蛛になっているのは、まあ色々と理由があると思いますし、ほとんど動かないのは残念ですが――これはこれで見栄えという点では正しかったのかもしれません。


 重ねて申し上げれば、技術という点ではさすがに古めかしい部分は目立つものの、クライマックスのミニチュアワークは、現在見ても凄まじいものがある本作。
 そして骨格となる時代劇はいうまでもなく東映のお家芸と、本作の流れは、ここに登場した巨獣たちが流用された『仮面の忍者赤影』へと繋がっていくと考えればよいかと思いますが――それはさておくとしても、新年早々に理屈抜きに楽しむにはピッタリの作品でした。


『怪竜大決戦』(東映ビデオ DVDソフト) Amazon

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2022.01.03

「鬼滅の刃」遊郭編 第四話「今夜」/第五話「ド派手に行くぜ!!」

 善逸が消息を絶ち、撤退命令を出す宇髄。しかし調査を続けた炭治郎は、鯉夏花魁を襲った直後の堕姫と遭遇、遥かに格上の相手にヒノカミ神楽で挑む。一方、伊之助はまきをらを拐った蚯蚓帯の棲家を発見、突入するが、多数の人質を取った相手に苦戦する。しかしそこにド派手にあの男がやって来る……

 いよいよ堕姫との戦いがスタート、アクションが主体ということもあり、年越しを挟んだ二話をまとめて紹介します。

 前回のCパートでホラー映画のようなノリで善逸が襲撃されましたが、そのまま彼は行方不明に。それを知った宇髄は、屋根の上で状況報告というかわちゃわちゃやってる炭治郎と伊之助の前に現れると、静かに自分のミスを認め、撤収を命じます。
 この辺りの態度は、初登場時の狂騒的なノリはどこへやら、部下を率いる立場として冷静に決断を下せる、まさに「頭」というべきもの。煉獄とは全く違うタイプではありますが、やはり宇髄もまた、柱たるに相応しい人物だと感じさせられます(いや、他の柱は岩と蟲以外は個人営業タイプですが……)

 ここで階級表の説明で伊之助と村田が口喧嘩するという思わぬ形(これを予想できる人間はいないと思う)でゲスト出演があったりしましたがそれはさておき、二人がこの命令に素直に従うはずもありません。むしろさらにやる気になった炭治郎は見世の調査を終え、男の姿に戻って鯉夏花魁に別れを告げます。
 第四話のアバンで描かれるように無茶苦茶よく出来た人間である鯉夏に笑顔で送り出され、炭治郎も身請けされる鯉夏にお幸せと声をかけ、何だか本作には珍しいホッとできる場面ですが――その空気をぶち壊すように、直後に鯉夏を襲う堕姫。それを察知した炭治郎が駆けつけ、ついに堕姫とのバトル開始! 帯での打ち上げからの空中戦という派手なムーブが前哨戦に過ぎないという、激しすぎる戦いが始まることになります。

 一方、こちらもやる気満々の伊之助は猪ヘッドとドッキング、ムキムキねずみの持ってきた刀を手にしますが――あからさまにリアリティレベルの異なるこのねずみの説明を(頑なにナレーションを入れない)アニメではどうするかと思いきや、普通に伊之助が説明&大正コソコソ噂話で補足。俺も忍獣使いてえ! とは伊之助の言ですが、自分自身がソレみたいな身なりだからな……


 さて、ここまでが第四話。第五話は、華やかな表通りから一転、薄暗い切見世へ移り、宇髄が囚われの雛鶴を発見するアバンからスタート。救い出した雛鶴に促された宇髄は、地面の下で戦闘が始まっていると察知、そこに行く道がない(狭すぎて全身の関節を外せる変態でないと通れない)ことまで見て取るや、ついに音の呼吸壱ノ型炸裂! その破壊力たるや、離れた場所で戦っている炭治郎のところに爆音と濛々と舞い上がる土埃が見えるほどですが――むしろ炭治郎の方にまっすぐ助っ人に来て欲しかった気もいたします。
 しかし炭治郎は一人でも頑張ります。いまだ使いこなすには限界のあるヒノカミ神楽を、「心を燃やせ!!!」と年末に紅白で国民葬された煉獄の面影とともに発動。これまで鬼の犠牲となった、犠牲を背負った人々の面影を背負って戦う姿は、いかにも主人公らしくこちらも燃えます(そして今考えてみるとすごい伏線だった炭治郎の体温)。

 一方、その少し前、伊之助はダイナミックに見世の中で暴れ回った末に、変態挙動で穴を辿って地下の蚯蚓帯の巣に単身突入、互角以上の戦いを繰り広げるのですが――さすがに数多くの人質を背負っては分が悪い。しかし帯の中から復活したまきをと須磨がサポートし、寝たままの善逸が滅茶苦茶格好良く霹靂一閃六連を発動! そしてさらに、先に描かれたように、地上から一撃で地底までブチ抜いた宇髄が駆けつけたではありませんか。
 そしてここで描かれるのは、まきをの回想――かつて任務遂行より自分の命が最優先(そして宇髄にとっては嫁三人が最優先)と言い切った宇髄の姿。死ぬなよっとと軽くハンドサイン出しながら言うにはあまりに重く、そして優しいその言葉を実証するように駆けつけた宇髄は、やはり格好良い……
(第五話の大正コソコソ噂話では、宇髄に嫁が三人いるのは、別に彼がどてらいヤツだったからではなく、元々そういう掟だったと語られるのですが、それだからこそ、三人を慈しむ天元の格好良さが際立つと思います)

 そして本当に滅茶苦茶派手なアクションからの「ド派手に行くぜ!!」で宇髄が本格参戦――なのですがまだまだ戦いはこれから。いよいよここからが遊郭編本編であります。


 というわけで、アクション描写になかなか気合が入っていたこの二話。ちなみに第四話は原作第75-76話の二話分だった一方で、第五話は第77話-第80話冒頭の三話半分。個人的には後者くらいのペースで丁度良いように思います。


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 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第9巻 吉原に舞う鬼と神!(と三人組)
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 『鬼滅の刃』 第一話「残酷」
 『鬼滅の刃』 第二話「育手 鱗滝左近次」
 『鬼滅の刃』 第三話『錆兎と真菰』
 『鬼滅の刃』 第四話「最終選別」
 『鬼滅の刃』 第五話「己の鋼」
 『鬼滅の刃』 第六話「鬼を連れた剣士」
 『鬼滅の刃』 第七話「鬼舞辻無慘」
 『鬼滅の刃』 第八話「幻惑の血の香り」
 『鬼滅の刃』 第九話「手毬鬼と矢印鬼」
 『鬼滅の刃』 第十話「ずっと一緒にいる」
 『鬼滅の刃』 第十一話「鼓の屋敷」
 『鬼滅の刃』 第十二話「猪は牙を剥き 善逸は眠る」
 『鬼滅の刃』 第十三話「命より大事なもの」
 『鬼滅の刃』 第十四話「藤の花の家紋の家」
 『鬼滅の刃』 第十五話「那田蜘蛛山」
 『鬼滅の刃』 第十六話「自分ではない誰かを前へ」
 『鬼滅の刃』 第十七話「ひとつのことを極め抜け」
 『鬼滅の刃』 第十八話「偽物の絆」
 『鬼滅の刃』 第十九話「ヒノカミ」
 『鬼滅の刃』 第二十話「寄せ集めの家族」
 『鬼滅の刃』 第二十一話「隊律違反」
 『鬼滅の刃』 第二十二話「お館様」
 『鬼滅の刃』 第二十三話「柱合会議」
 『鬼滅の刃』 第二十四話「機能回復訓練」
 『鬼滅の刃』 第二十五話「継子・栗花落カナヲ」
 『鬼滅の刃』 第二十六話「新たなる任務」
 『鬼滅の刃 無限列車編』 第一話「炎柱・煉獄杏寿郎」

 『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』(その一) 真のクライマックスに燃える男!
 『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』(その二) 理不尽な結末の先の希望と人間肯定

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2022.01.02

うちはら香乃『異界譚里見八犬伝 五章 たたかいのあと』 オリジナルの、しかし延長線上の荘助と道節

 これまで第4章までが電子書籍化されていた朝日小学生新聞連載中のフルカラー漫画『異界譚里見八犬伝』の、第7章まで+番外編が電子書籍化されました。今回ご紹介するのはその第5章――「たたかいのあと」というサブタイトルの通り、大塚村の死闘の後の荘助と道節、そして浜路の姿が描かれます。

 信乃が古河で騒動に巻き込まれ、現八と小文吾に出会っていた頃、大塚村で起きた惨劇――玉梓に憑かれた代官・ひがみ宮六一党が大塚村の人々は次々と惨殺したのであります。
 その場に駆けつけた荘助が一度は宮六を討ったものの、宮六は周囲の死体を吸収して、巨大な怪物へと変化。荘助は、怒りと悲しみに駆られながらも、道節の助けを得て宮六を倒すも、力を使い果たして倒れるのでした。

 そんな第四章の展開を受けて描かれるのは、その後の荘助を中心とした物語であります。
 道節とその配下・深淵衆に救われ、静養することとなった荘助。浜路を守れなかったという悔恨の中で、自分の過去を見つめ直し、信乃を支えるという想いを新たにする荘助に、道節は飄々と接します。そして荘助は道節に自分たちの宿命と己の過去を語り……

 原典では庚申塚での一瞬の交錯で終わった荘助と道節の出会い。それを本作は、ほぼ一章かけて、丹念に描いていくことになります(厳密には本作での二人のファーストコンタクトはもっと前なのですが)。
 大塚村の庄屋の使用人と、身をやつして関東管領を狙う復讐鬼――それぞれに全く異なる身分を持つ八犬士の中でも、特に異なる立場に感じられるこの二人を、本作は親しい者たちを理不尽に奪われたという共通点を踏まえ
つつ描くのです。

 そしてその中でさらに掘り下げられる荘助のキャラクター――前章の紹介でも触れましたが、原典では今ひとつ地味に感じられた荘助の内面を、本作は信乃や浜路の存在を軸にしつつも、さらに突き詰めていくことになります。
 それは確かに本作のオリジナルではあるのですが、しかしその根底にあるのは、確かに原典を踏まえた一つの解釈というべきもの。それだからこそ、荘助の、そして道節の姿は、原典の延長線上にあり得るものとして、違和感なく感じられます。

 そしてそんな二人の関係の一つの到達点として――個人的に原典では今ひとつ効果的に感じられなかった――玉の交換を描くという構成には、大いに感じ入った次第です。


 さて、この章では、荘助と道節に加え、二人と縁深いもう一人の人物である、浜路の姿が描かれることになります。本作においては宮六に深手を負わされた彼女は、伏姫神に救われて保護される形で、神界で暮らすことを余儀なくされることになります。
 そこで彼女が目の当たりにしたのは、伏姫・八犬士と玉梓の戦いに対する神々たちの微妙な態度で……

 と、ここで描かれるのは、伏姫以外の神がこの世界では存在していること、そしてその神々が、文字通り下々の人間たちの争いに関わることを心良く思っていないという事実。
 このくだりはいうまでもなくオリジナルですが、おそらくは原典では基本的に有り難く畏れ多いもの、人を救うものであった神仏の奇瑞というものを、捉え直す試みの一端ではないか――そんな印象はあります。

 それは今後の楽しみとして、ここでもう一つ目を引くのは新たな犬士の登場――そう、伏姫に保護された犬士といえば、犬江親兵衛であります。
 本作ではいわゆる古那屋の段がなかったため、はたしてどのような形で登場するのか、と思っておりましたが、どうやら同様の展開が過去にあった様子。この辺りは今後、小文吾のキャラクターの掘り下げと併せて、今後描かれることでしょう。

 もちろん親兵衛はまだまだ顔見せレベル、浜路の今後ともども、この先物語にいかに関わってくることか、楽しみにしたいと思います。
(そして思わぬところでの浜路転生回収には噴きました)


 いずれにせよ、原典にない物語を描きながらも、確かにその中に原典の息吹を感じさせ、そしてそれと同時に、原典を見つめ直そうという視線を感じさせる本作。この先の章も、追って紹介したいと思います。


『異界譚里見八犬伝 五章 たたかいのあと』(うちはら香乃 Kindle版) Amazon

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うちはら香乃『異界譚里見八犬伝 六章 それぞれの想い』 この世の無情と無常を前にした犬士たち
うちはら香乃『異界譚里見八犬伝 七章 情熱の四犬士』 犬士たち、それぞれの戦う理由!
うちはら香乃『異界譚里見八犬伝 番外編 刹那の奇跡』 信乃、戦場帰りの父に出会う

「八犬伝」リスト

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2022.01.01

あけましておめでとうございます

 あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

 昨年は公私にわたって色々と大変な一年ではありましたが、三田主水としては(特に後半)かなり充実した一年でした。
『元禄八犬伝 二 天下の豪商と天下のワル』(田中啓文)
『神遊び』(清水朔)
『朱花の恋 易学者・新井白蛾奇譚』(三好昌子)
 と、いずれも集英社文庫で解説を担当させていただきました。さらに「本の雑誌」11月号の「宮本昌孝の十冊」を担当し、また6年ぶりに復活した「この時代小説がすごい! 2022」でもランキングや作品紹介で参加させていただきました(そして数日前に紹介したとおり、「週刊朝日」の歴史・時代小説ベスト3にも!)。

 その他、既に今年の分も既にいくつか三田主水としてのお仕事をいただいており、ありがたいことです。


 さて、ことしの目的としては――原点に戻って、ひたすら本を読みたい、作品に触れたいと思います。
 正直なところ、この一、二年は生活のペースを乱されて、なかなか思うように作品に触れることができませんでしたが、今年はその分を取り戻し、さらに先に行くために、これまで以上に様々な作品に触れていきたいと思います。

 本年も、好きなものを好きなように好きだと言っていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

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