横田順彌『大聖神』 長編活劇 中村春吉、秘境の黄金像に挑む!
昨年竹書房文庫で復活を果たした『幻綺行』に続く、中村春吉秘境探検記第二弾にして長編であります。自転車世界一周無銭旅行を続ける中村春吉の次なる冒険の舞台は、遠く満蒙国境の大興安嶺の奥地。大冒険の末に春吉が見た謎と驚異とは……
日露戦争直後に自転車世界一周無銭旅行を続ける中、各地で様々な怪異・怪事件に出会い、解決してきた中村春吉。スマトラで出会った日本人婦人・雨宮志保と宝探しに燃える青年・石峰省吾とともにベルリンを訪れた春吉は、そこで日本の駐在武官から思わぬ依頼を受けることになります。
大興安嶺の奥地から定期的に発せられているという謎の電波。日本軍はそれを露西亜軍によるものと判断、しかも時を同じくして、ロシア皇帝の近衛軍団の精鋭たちが大興安嶺に向かうというではありませんか。
不透明な状況下で正規の軍を動かすのは難しい中、現地調査のために春吉一行に白羽の矢が立ったのです。
もちろん春吉がこれを拒むはずもありません。勇躍シベリヤ鉄道に乗った春吉・志保・石嶺青年は、途中で知り合ったダフール族の老人・トクソムをガイドに、大興安嶺に向かうことになります。
しかしその最中も不審な動きを見せるロシア近衛軍団、さらにドイツの曲馬団一行。そして荒涼たる異郷で数々の冒険を繰り広げる中、各地で出会うオロチョン族の人々から、春吉たちは向かう先に一つの伝説があることを知ります。禁断の山とされた聖地・オーコリドイ――そこには黄金の神像と、それを守る白く大きな守護神が存在するというのです。
それを裏付けるように、途中の村で、約五十年前の日本人武士が遺した書付を発見した一行。そこには人を惚け倒れさせる光を放つ飛天球なる謎の存在と、何かの地図と思しき図面が記されていたのです。
そして過酷な旅の末、ついにオーコリドイに登頂した春吉一行が目の当たりにしたものとは……
実在の冒険家にして、バンカラの権化のような痛快男児・中村春吉が、世界各地の秘境で出会う様々な怪事件を描く本シリーズ。明治時代を舞台に、実在の人物や当時の風俗を配置してSF的な事件を描く明治SFの中でも、その舞台等の特殊さで異彩を放つ作品です。
その中で(番外編の『西郷隆盛を救出せよ 日露戦争秘話』を除けば)唯一の長編である本作は、現代でもなお秘境といえるかもしれない大興安嶺――森林と山地が続き、ごくわずかな原住民のみが暮らす地を舞台に展開していくことになります。
ある出来事をきっかけに、文明人が未開の地に探検に赴き、原住民の間に残る伝説の地で財宝を発見する――本作でも言及される『ソロモン王の宝窟』に代表される秘境冒険ものの一つのパターンですが、本作はもちろんそれを踏襲した作品です。
もっともこのジャンルは、発表年代の関係もあってか、現在から見れば様々な意味で古色蒼然としたものを感じさせるのですが――本作はもちろんその轍は踏むことなく、ジャンルとしての楽しさはそのまま、今読んでも十分に楽しい物語として成立しています。
もちろんそれは、春吉一行のキャラクターの楽しさによる点が大きいでしょう。レギュラー三人の活躍もさることながら(特に志保は相変わらず居なかったら詰むレベルの活躍ぶり)、ガイドとして仲間に加わるトクソム老人が実に楽しいのであります。
既に老境ながら、腕っぷしといい言動といい元気極まりなく、陽気ですっとぼけたトクソム。春吉が年をとったらこうなるのでは、といいたくなる異国のバンカラ老人ぶりは、本作の陰の主役と言ってよいかと思います。
その一方で物語の方は比較的シンプルな内容ながら、次々事件の起きる道中の展開の面白さはさすが、というべきでしょう。
その一方で、物語の核心というべき秘宝の正体は、これはこれでなかなか面白い、いかにも明治SFらしいものではあるのですが――全てが描かれず、現象の部分だけ描かれておしまいというのを何とすべきか。これまた明治SFによくあるパターンではあるのですが、長編でこの結末は、正直なところどうかなあ、という印象があります。
なお、本書にはノンフィクション『バンカラ快人伝』から「自転車世界無銭旅行者 中村春吉」を併録。私は初版で読んでいたのですが、再刊時に追加された春吉の晩年には驚かされました。
また、前作は、どう見ても古書としか思えない装丁で話題になりましたが、本作も同様の凝りようで、書店で見ればギョッとすること請け合いの気合の入れよう。こちらも必見であります。
『大聖神』(横田順彌 竹書房文庫) Amazon
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