碧也ぴんく『星のとりで 箱館新戦記』第6巻 総攻撃前夜 物語は将星の下へ
新政府軍の圧倒的な物量の前に孤立無援のまま追い詰められていく脱走軍。もはや五稜郭に立てこもるしかなくなった彼らの中で、土方は必死の戦いを続けます。そしてついに総攻撃を翌日に控えた中で、土方の心に去来するものとは……
新政府軍の攻勢が本格化し、絶え間ない猛攻の前に追い詰められていく旧幕府の脱走軍。戦闘が本格化する前に鉄之助を遠ざけた土方ですが、その後も戦闘は激化の一途を辿り、脱走軍側にも次々と死者が出ることとなります。
そんな中でも松前を守るために死闘を続け、撤退命令すら撥ね退けて戦う伊庭・本山の両雄ですが――しかし奮戦虚しく、ここで脱走軍は大きな犠牲を払うことになるのでした。
そして土方もまた、守り続けてきた二股口をやむなく放棄し、箱館に戻ることを余儀なくされます。しかしそこで彼が目の当たりにするのは、同志として戦い続け、今もなお戦い続けようとする男たちの姿であります。伊庭八郎、春日左衛門、星恂太郎――いや、高松凌雲もまた、他の者たちとは違う意味であるにせよ、命がけで戦っているのです。
もっとも、まだ戦いを続けようというのは、あくまでも脱走軍の側のエゴに過ぎないのかもしれません。この巻では同時に、箱館の市民の脱走軍に向ける複雑な視線をも描くことになります。
特にここで描かれた斎藤順三郎による破壊工作事件は、その象徴というべきかもしれません。あくまでも実行したのは斎藤であるとはいえ、そこにはそれだけの下地があったことは否めないでしょう。
(ちなみにこの斎藤は、新政府側についた幕臣を描いたという点で、興味深い存在といえます。そもそも、本作において敵方の描写は少ないのですが……)
しかし、これだけ脱走軍の面々が全力を尽くしているにもかかわらず、状況は悪化の一途をたどるばかり。
これではまるで掴んだと思った砂が、指の間からこぼれていくようなものだ――と思っていたら、作中で土方がほとんど全く同じことを思っていたのには驚きましたが、確かにそう評するしかない状況でしょう。
そんな状況でも、脱走軍の兵士に、その中でも特に今なお「新選組」を名乗る隊士に対して、「新選組」を引っ張ってきた者に相応しい、いや過去を考えれば穏やか過ぎるほどの態度で接する姿を見せる土方。
それはこれまで己の道を探して、己の道を探して走り続けてきた彼が辿り着いた一つの境地というべきでしょうか。
そこに入ってきた、明日新政府軍が箱館総攻撃を行うという情報。もはや降伏か全滅か――そんな状況の決戦前夜、残った侍たちが最後に賑やかに宴を開く中で、土方が見たものは、傍らにいた者は……
それはあるいは、彼が達したその境地が、既に様々な浮世の軛から解き放たれ、死生を超えたところにあることを示すものなのかもしれません。
これまで、新天地を夢見る新星というべき少年たちの視点から始まり、その新天地を作り、守るために奮闘する綺羅星のような男たちの姿を描いてきた本作。
そしていま物語は、常にその中心に在った将星たる土方個人のもとに収斂してきたと感じられます。
そしてその果てにあるものを我々は確かに知っているのですが、それを本作が如何に描くのか――次巻、いよいよ完結であります。
(にしても落ち着いて、おまけページの沖田君!)
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