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2022.01.28

大西実生子『フェンリル』第4巻 テムジンvs源義経 ジンギスカンとは誰だったのか

 宇宙からやってきた美女・フェンリルとともに世界統一を目指すテムジンの物語も、この第4巻で完結を迎えます。中原で勢力を増すテムジンの前に現れた、もう一人の運命の男・源義経――彼との対決の中で、テムジンは何を見るのか。そしてジンギスカンとは誰だれだったのか? 意外な結末が待ちます。

 宇宙からこの星に落ちてきた美女・フェンリルと出会い、彼女を宇宙に帰すため、この地球を統一することを誓ったテムジン。その第一歩として宿敵タイチュウトの族長にして不死身の巨漢・タルグタイに挑んだ彼は、数々の犠牲を払いつつも勝利し、中原制覇に大きく踏み出すことになります。
 しかし時同じくして高麗に現れたのは、新たな戦いを求めて海を渡ってきた源義経主従――そしてフェンリルと同じ出自を持つ妖女・静。その破天荒な言動で高麗から軍勢を手に入れた義経は、ジンギスカンと名乗り、中原に向かい突き進むことに……

 というわけで、第1巻の時点で予告されていたもう一人の男・源義経が大陸に現れ、テムジンとの対決待ったなしとなった物語。義経=ジンギスカンというのは、既にポピュラーすぎて書かれ尽くした感もありましたが、二人ジンギスカンというのは、さすがに珍しい趣向であります。

 しかしこの二人はあくまでも対照的なキャラクター。テムジンが力だけでなくその人物と政策でどんどん味方を、仲間を増やしていく王道を行くとすれば、当たるを幸いなぎ倒し、己に服した者のみ配下としてひたすらに前に突き進む源義経は、覇道を征く男なのですから。
 そしてこの二人の傍らにそれぞれ在るのは、異能を持った異星の美女――フェンリルがあくまでも帰還を目的とするのに対し、静はただ生命の死を望み、それが二人の道にも影響を与えてきたのです。

 そんな二人が激突する契機となるのは、メルキト族によるテムジンの妻・ボルテの誘拐であります。
 ジンギスカンを主人公とした物語ではある意味定番の(?)大事件であるボルテ誘拐ですが、本作においては、ただテムジンと戦うために義経がメルキトを動かしたという設定。さらにその天才的戦闘センスで幾重にも策を巡らせて迫る義経に対し、テムジンは仲間たちに支えられて前に進むことになります。

 そしてその果てに対峙する二人。しかし義経は一騎打ちでも凄まじい戦闘力をもつ男、その圧倒的な力の前に、追い詰められるテムジンですが……


 この巻の冒頭で一気に数年が経ったりと、時の流れが目まぐるしく進む部分もあり、いささか駆け足という印象は否めないこの最終巻。
 しかし普通に描いてはかなりのタイムスパンとなる物語を動かすためには必要な演出であることは理解できますし、そして一気にクライマックスに突入する展開は、義経のキャラにはよく似合っているようにも思えます。

 そしてその二人の戦いの決着も、これまでの二人の生き方を、戦いの中身を考えれば大いに納得のいくもの。特にテムジンがクライマックスに見せた動きは、前巻でのタルグタイとの戦いの延長線上にあるものとして、胸を熱くさせるものがありました。
 物語として避けては通れない、どちらがジンギスカンなのか、という問いの答えも(いささか反則気味ではありつつも)面白く、そしてさらに物語が広がっていく――世界の広さを思わせる――展開も悪くはありません。

 正直なところ、もう少しテムジンとフェンリルの、そして義経の向かう先を見てみたかったという想いはあるものの、しかしこれはこれで良いものだった、と思える結末であります。


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