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2022.01.27

うちはら香乃『異界譚里見八犬伝 六章 それぞれの想い』 この世の無情と無常を前にした犬士たち

 朝日小学生新聞連載中のフルカラー漫画版八犬伝の第6章であります。玉梓の差金により、大塚村で繰り広げられた惨劇――その爪痕は深く、荘助と信乃をそれぞれに苦しめることになります。そしてその姿を目の当たりにした仲間たちは――サブタイトルのとおり、それぞれの想いが交錯します。

 玉梓に憑かれ怪物と化した代官・ひがみ宮六によって地獄と化した大塚村。その場に駆けつけた荘助と道節によって宮六は倒されたものの、村民がほぼ全滅した影響は大きく、心身の傷に苦しむ荘助の姿が第5章では描かれました。
 その荘助と心を通わせながらも、道節は関東管領への復讐のために旅立つのですが――残された荘助をさらなる悲劇が襲います。

 村の唯一の生き残りであり、自分が見たものを正直に語ったために囚われた背介を救うべく、宮六の弟・社平の前に名乗り出て真実を語った荘助。しかしその言葉は握りつぶされ、彼は新たな領主・丁田町之進の下で苛烈な拷問を受けることになったのです。
 一方、現八・小文吾とともにようやく大塚に帰ってきた信乃も、道節の配下の尺八から大塚の悲劇を知らされ、自分の父母、そして浜路(彼女はまあ、思わぬ運命を辿っているわけですが)が命を落としたことに愕然とするのでした。

 荘助が囚われたことを知り、現八・小文吾の助けを借りて大塚の城に潜入する信乃。しかしそこで彼は、町之進の鬼畜の所業を目の当たりにすることに……


 前章に続き、ほとんどアクションがない――信乃と力二の小競り合いくらいか――この章では、冒頭に触れたとおり登場人物たちの心情描写を中心に展開することになります。

 正しいことを為したはずが、権力者の理不尽により惨苦を味わい、この世の無常を痛感する荘助。すべてを喪い、運命なるものを疑いながらも荘助を助けに向かった先で、さらなる邪悪を目の当たりにする信乃。
 そしてこの二人だけでなく、信乃の良き兄貴分として彼を支える(本作の信乃の、兄弟で言えば圧倒的下から二番目感よ)現八と小文吾もまた、それぞれに己の想いと向き合うことになります。

 原典では描かれなかった登場人物たちの心情を掘り下げるというのは、これは八犬伝リライトでは定番の手法ではあります。しかし(このような表現は好きではないのですが便宜上使わせていただけば)子供向けの八犬伝でここまで描いたものはかなり珍しいと感じます。

 そしてそれだけでなく、今回描かれるのは、社平や町之進といった人間悪の姿でもあります。己のエゴから真実を隠して他者を陥れる社平、己の楽しみから捕らえた者をいたぶる差別主義者(と評さ書れていますが明らかにサディストの)町之進……
 彼らの存在は、玉梓が絡んでいないにもかかわらず、いや彼らが純粋な人間だからこそ、信乃や荘助の心を悩ませるのです。


 そしてもう一つ本作の注目すべきは、奇跡や運命といったものを、基本的に人間には好意的なものとして描かない――まさに人知を超えたものとして描く――点でしょうか。この辺りのロジックは、前章で神界に暮らすこととなった浜路の目を通じて描かれましたが、その印象は、今回さらに強まった感があります。

 また、獄中で深手を負わされた荘助の傷が翌日までに治ってしまう理由は、原典での玉の奇瑞とは異なり、犬塚家に伝わる秘術(を荘助が完成させたもの)によるものなのですが――これは、本作においては玉の霊験ですら絶対のものではないと示しているようにも感じられます。


 この世の無情と無常に触れながらも、荘助を救うために立ち上がる信乃と、信乃と再会するために生き延びる荘助、この二人の運命は――続きは次の章にて。


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