士貴智志『どろろと百鬼丸伝』第6巻 木曽路に集う親と子たちの姿
醍醐の隣国・木曽路で、多宝丸の助けも会って妖刀似蛭を倒し、耳を取り戻した百鬼丸。どろろを間において和解した兄弟ですが、そこに二人の父・醍醐景光と妖馬・ミドロ号が姿を現すことになります。新たな犠牲者が出る中、親と子の相剋が様々な形で描かれることに……
国境でのばんもんから、隣国の木曽路領に文字通り流れた百鬼丸とどろろ。そこで邪悪な長者・サンセウ太夫、そして姉の仇である太夫を付け狙う田之介と出会った百鬼丸は、太夫に憑いた妖怪を斬ることになります。
そして田之介のもとにあった死霊憑きの妖刀・似蛭と対峙した百鬼丸は、生きていた多宝丸の言葉で辛くも似蛭に勝利。己の耳を取り戻した上、やはり生きていた寿海とも再会して……
と、これまで幾筋も描かれていたキャラクターたちのドラマが、木曽路において一点に集まった感のある本作。そしてこの巻では、一巻丸々を使って、この木曽路で様々な親と子の姿が描かれることとなります。
力を貸した形になったものの、一度命をやり取りしたわだかまりはそう簡単には解けない多宝丸と百鬼丸――と思いきや、どろろが間に入ったことで不思議と空気が和らぎ、少しずつ歩み寄り始めた二人。
そうなれば共に寿海に助けられ、片や父と、片や師と仰ぐ者同士――ある意味、血の繋がった兄弟であるという以上に――その心の距離は近いといえるのかもしれません。
そしてそこにもう一人の親が現れます。それはどろろの父親である火袋――本作においては生まれてすぐに川に流された百鬼丸を救い、寿海に託したという因縁を持つ彼が、数奇な運命の果てにどろろと再会することになるのです。
が、その次の瞬間、あまりにも無惨な形で引き裂かれる二人。そして引き裂いたのは、ミドロ号に乗った醍醐景光……
というわけで、この木曽路の地に集うことになった、数奇な運命の親子たち。
醍醐景光と百鬼丸
醍醐景光と多宝丸
寿海と百鬼丸
火袋とどろろ
ミドロ号と仔馬
血の繋がった親子、あるいは血の繋がりはなくとも心の繋がった親子、そして血の繋がりはあっても心の繋がらぬ親子――様々な形の親子が一同に会し、その因縁が幾重にも絡まり合い、親が子と、親が親とぶつかり合う姿は、ただ圧巻であります。
そしてその中心に在るのが、醍醐景光であることは言うまでもありません。百鬼丸を生贄に死霊の力を得た景光は、これが赤子の時以来の対面だったかと思いますが――過去の行為を悪びれない、というのはまだしも、むしろあれだけのことをしていながら、ある意味普通の親が子に接するような態度を見せるのがおそろしい。
既にその身は人間ではないようですが、むしろ真に人間ではないのはその心なのか――という印象を受ける景光の存在は、百鬼丸の育ての親である寿海とは実に対照的というべきでしょうか。
そしてそんな景光に対して、ある意味百鬼丸以上に反発し、敵愾心を燃やすのが多宝丸であります。彼の子として長きに渡り暮らし、百鬼丸ほどでないにせよ、その身を死霊に捧げてきた――それにもかかわらず、結局心が繋がっていなかったことが、多宝丸にとってどれだけ許せないことであったか。
この巻で見せる彼の激情は、その悲しみと絶望の深さを感じさせて余りあるものがあります。
正直なところ、景光と息子たちに比べると、ミドロ号と仔馬のドラマが――こちらも親と子という点では複雑なものを持つ助六の存在を絡めつつも――少々影が薄くなってしまったのは、いささか複雑ではありますが……
何はともあれ、百鬼丸と多宝丸それぞれが己の真の敵を見極めることとなったこの巻。その一方で、どろろはこの先どこに向かうのか(どろろの中のあれは一体……)というのも気になるところであります。
(そして魂念力という言葉を見て、鳥海尽三の小説版を思い出したり……)
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