岩崎陽子『無頼 BURAI』第1巻 斎藤一と新選組、幕末の怪異に挑む
岩崎陽子の新選組漫画『無頼』シリーズが、電子書籍として復活しました。腕は立つが人付き合いを苦手とする斎藤一を中心に、新選組の仲間たちが怪異な出来事を中心に様々な事件に挑む「痛快なりゆき幕末伝」「新選組版Xファイル」――その開幕編であります。
特に漫画ではほとんど常にどこかしらで彼らを題材をした新作が発表されている状態という、相変わらず人気者の新選組。その状況は少女漫画においても変わりません。
本作は『王都妖奇譚』など、伝奇色濃厚な物語と熱い男の友情を得意とする作者が、1996年から角川書店の「ミステリーDX」に連載した作品。冒頭に掲げたように伝奇・怪奇色濃厚な(ただし中盤以降はそういった要素はほとんどなくなり、歴史青春ものになりますが)新選組ものであります。
江戸で流行中の白神教の信徒に追われている女スリと行き当たった斎藤一。途中で出会った二人の若者――沖田と原田と共に、襲ってきた信徒たちを蹴散らした斎藤ですが、実は公儀隠密だった女は白神教の教祖に殺され、斎藤に印籠を託すのでした。
行きがかり上、沖田らの天然理心流道場・試衛館に身を寄せることとなった斎藤は、そこで印籠の中に阿片が隠されていたことを知るのですが――しかし届け出たその事実は握り潰され、逆に試衛館が信徒たちに襲撃されることになります。
もちろんこれを返り討ちにした道場の面々は、今度は白神教の本拠に殴り込みをかけるのですが……
という、第一話「白魔」に始まる本作。本作の主人公である斎藤一は、京で新選組の前身である壬生浪士組から参加した(つまり江戸からの浪士組には参加していない)ものの、江戸で試衛館に出入りしていたと言われています。
この第一話は、その斎藤と試衛館の面々の出会いを描くエピソード――なのですが、いきなり伝奇度満点。しかし登場する試衛館の面々は、この時点ではまだ登場したばかりではあるものの、なかなかにイメージ通りで(皆月代は剃っていませんがそういう空間ということで)、そんな面子が怪事件相手に大暴れするだけで嬉しくなってしまいます。
そんな物語を展開する一方で、斎藤が江戸を離れる理由は史実に合わせているのが楽しいのですが――思えば、これまで新選組漫画の主人公(中心人物)といえば近藤・土方・沖田がほとんどで、本作の開始時期に斎藤の知名度は上がっていたとはいえ、彼が主人公の漫画は、この時点では珍しい(もしかして嚆矢?)のではないかと感じます。
それはさておき、第一話のラストで京に出て、試衛館組と再会した斎藤。ここから『無頼』の物語は本格的に始まることになります。
続く「首守り」は、等持院に安置された足利将軍三代の木像の首が梟首されたという有名な珍事を題材に、木像を見物に出かけた斎藤・原田たちが、木像から離れた首が宙を飛び回るという怪事に遭遇し――という全編通じてホラー度の高いエピソードです。
そこに早速表面化した(シリーズの基調である)近藤派と芹沢派の対立が絡むのも面白いのですが、原田の怪談嫌い、土方の変なところで真面目(?)な点が描かれるのも愉快なところ。また、沖田の「仲間」について語るくだりも、密かにグッとくる名場面であります。(しかし『魔都覚醒』を読んでからだと、また興味深い内容ではあります)
一方「虎患」は、京都市中で大型の獣としか思えない存在が人を食い殺す事件が発生、見世物小屋の虎に注目した斎藤たちが調べ始めるも――というエピソード。奇想天外な内容ながら、芹沢が虎の見世物を見に行ったという出来事を取り込んでいるのがユニークです。
そして「青嵐」は、互いの士道を巡る対立が、隊服選びの一件をきっかけに表面化した土方と芹沢の間に挟まれた斎藤の決断が描かれるという、唯一この巻でオカルト性がないエピソード。本作ではちょっと引いたところで怖い顔をして腕を組んでいる感のある土方ですが、ここでは飲めぬ酒を口にして己の士道を語るのが大きな見せ場でしょうか。
というわけでこの時期はまだ短編連作の趣きが強いこの第1巻。やはり伝奇度の高さに眼が行きますが、そこにちりばめられた新選組もの・歴史ものとしての要素の効かせ方が巧みなのは、さすがと感じます
続く巻も、近々にご紹介したいと思います。
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