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2022.02.20

ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第9巻 新九郎戦国に立つ!?

 遠江奪還を目指して暴走した末、戦場で横死した新九郎の義兄・今川義忠。姉と甥を守るために調停役に志願し、駿河に向かう新九郎ですが、しかしそこで待ち受けていたのはかの太田道灌でありました。史実ではここで戦国史にデビューした新九郎ですが、はたして新九郎戦国に立つ!!、といくかどうか……

 旧領である遠江奪還の悲願に取り憑かれたように有力国人を敵に回し、同じ東軍方の守護方を攻めた末、流れ矢に当たって戦死した今川義忠。彼と伊都の間に生まれた龍王丸はまだ幼く、しかも国人たちの意見は分かれて、義忠の従兄弟である小鹿新五郎を擁立する一派が現れます。

 これは通常の場合であれば、誰かが後見になるにせよ、龍王丸が跡目となることで問題はありませんが――しかし冒頭に書いた通り、義忠の暴走は、中央が落ち着いた状態であれば、守護召し上げクラスの問題行動(もっとも中央がこれだったからこその行動かもしれませんが)。
 このままでは幕府も味方はしてくれない――と、ここで新九郎が調停役として手を上げることになります。

 前巻、姉の嫁いだ駿河の今川家をはじめ、東国を訪れた新九郎。その時に新五郎とも知り合っていることを考えれば、適役といえるかもしれませんが――しかし荏原のアレコレで揉まれてきたとはいえ、こちらは大国の跡目争いであります。
 しかも駿河内部では収まらず、新五郎方は彼と関係の深い堀越公方・足利政知を味方につけ、それだけでなく、新五郎の縁者である扇谷上杉は、家宰である太田道灌を派遣してきたではありませんか。

 道灌といえば、扇谷上杉家を支えてきた名うてのツワモノ。そしてそれは物理的な面だけはなく政治面でも……


 というわけで、新九郎と道灌の対決(?)が描かれるこの巻。もともとこの今川家のお家騒動は、新九郎が初めてはっきりと歴史上にその名を残したと言われる、いわばデビュー戦のような扱いであり、そしてそこで道灌と対面したという説も残っています。
 史実ではここで調停案を取りまとめた(道灌にもそれを飲ませた)とされている新九郎。この巻の展開はそれを踏まえたものですが、しかしここで描かれるのは、ひたすら老練な道灌に翻弄される、若い新九郎の苦闘ぶりであります。

 本作においては、灰色の脳細胞が――とでも言い出しそうな、すっとぼけた風貌の道灌。本作では前巻、修善寺の湯で新九郎とはそうと知らない間に出会っているのですが――その時新九郎にはそうとわからなかったように、一歩間違えればギャグキャラのような道灌が、ここではとにかく恐ろしい。

 出方を伺うための様子見も、焦らすための駆け引きも全く効かず、それどころかそのダメなところを面と向かって小賢しいと指摘される新九郎。その様には、新入社員がベテラン社員に精神的「かわいがり」を受けているようで、社会人であればちょっと胃が痛くなりそうな印象すらあります。

 これまで新九郎が乱世の中で様々な試練に遭う本作でしたが、しかしここまで大きなプレッシャーを受けたことは――細川勝元や山名宗全と対面した時も含めて――なかったのではないでしょうか。
 それでも姉と甥を救うため、必死に情報を集め、ついに道灌の泣き所を掴んだ新九郎ですが……


 その描写のユニークさの一方で、史実に忠実な本作だからして、その結果は史料に示されるものと変わるものではありません。しかしその結果の陰の新九郎の想いはどうであったか。
 本作の漫画としての、つまりは画で描く歴史ドラマとしての面白さには常に感心させられてきましたが、この巻ではまたベクトルの違うドラマを見せていただいた思いです。

 ――というところでオチがこれか! とひっくり返ったところで(ある意味作者の原点回帰?)、まだまだ油断できないまま次巻に続きます。


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