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2022.02.08

松阪『北斎のむすめ。』 四コマギャグを通じて描くお栄の半生記

 葛飾北斎の娘であり、その才能と破天荒な性格を受け継いだと言われるお栄。最近はゲームでも知られているようですが、そのお栄と北斎、そして絵師仲間たちを中心に展開する四コマギャグ漫画であります。

 天才浮世絵師・葛飾北斎の絵に幼い頃から親しみ、自身も浮世絵師となったお栄。奇行ばかりの父親や、個性派揃いの絵師仲間たちと賑やかな日々を送るお栄ですが、自分ならではの画を描くことができず、悩み多き日々を送ることになります。

 そんなある日、美人画のコツを得るために、男装して吉原に入り込んだお栄。そこでなりゆきからナンバーワン花魁の高尾と知り合うことになったお栄は、彼女を通じて、吉原で生きる女性たちの生身の姿を知っていくのでした。
 そしてある事件をきっかけに、お栄は自分に、自分の画にできることを知ることに……


 と、全体の物語をまとめるとなかなかシリアスなお話に見えてくるのですが、本作の基本は四コマギャグ。
 歴史ものの四コマでは定番のスタイルですが、史実の逸話等をベースに大胆にデフォルメされたキャラクターたちが、ナンセンスなギャグを繰り広げるのが基本となります。

 父親譲りのズボラで画のためなら周囲が目に入らなくなるお栄、好奇心旺盛な天才ながら奇行と引越し癖で娘たちを振り回す北斎――この親子を中心に、猫マニアの国芳、家業は火消しの広重、春画描きのエロ野郎・英泉と、史実でも北斎と縁があった/影響を受けた絵師たちが顔を見せて、脳天気な騒動が繰り広げられるのです。

 そして本作のもう一つの重要な舞台が吉原です。登場する花魁たちは、高尾や揚巻と、有名な花魁たちをモデルとしたキャラクターですが、彼女たちを通じて描かれる――お栄とは全く異なる、しかし自分自身の人生を必死に生きるという点では共通の女性像は、本作で大きな割合を占めることになります。

 ――といっても、お栄の親友となる高尾は、普段は吉原の高嶺の花として(お栄にお対しても)全く口を利かず、筆談のみで通すという、やはり漫画的に非常に愉快なキャラなのですが……


 しかし、そんな面々で繰り広げられる騒動から浮かび上がるのは、先にあらすじで触れたように、浮世絵師としての自分の道に悩むお栄の姿であります。

 物語の後半で、オランダ商館長のブロムホフ――ここできっちり史実を、それも比較的知られていないものを使ってくるのが心憎い――の依頼を受けて、弟子も総出で製作に当たることとなった北斎。
 当然お栄もはりきるわけですが、しかしそこで北斎からなにげなくも厳しい一言を投げられることになります。

 自分の無力さに打ちひしがれる彼女に追い打ちをかけるように、吉原で起きた大火。その中に、身請けを目前とした高尾が取り残されたことを知ったお栄は、取るものもとりあえず駆けつけるのですが、しかし――と、もちろん四コマ一本ごとにギャグを交えつつも、一気にシリアスな物語が展開していくのであります。

 そして様々な経験を通じて吉原の光と闇を知った彼女が、ついに自分自身の画を掴んで描いた作品こそは――というクライマックスには、なるほどこう来たか、と大いに納得&感心。
 さらに、そこに至るまでに散りばめられた父と娘の親子愛、高尾との友情(彼女の本当の声を巡るエピソードがまた実にいい)もまた、物語に暖かい色彩を加えてくれます。


 と、史実を紐解くと、漫画以上に漫画らしい――そして時に結構洒落にならないことをしでかしている――父娘を題材として愉快な四コマを描きながらも、きっちりとお栄の半生記として成立している本作。

 実は登場人物にもう一人、実家は商家ながらも絵師を目指し、何かとお栄に絡んでくる青年がいるのですが、あの流派に弟子入りして、おやこれは――と思いきや、ラストに画号がわかってニヤリという、史実を踏まえた仕掛けなども面白い全3巻でした。


『北斎のむすめ。』(松阪 芳文社まんがタイムコミックス全3巻) 第1巻 Amazon/ 第2巻 Amazon/ 第3巻 Amazon

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