鶴淵けんじ『峠鬼』第5巻 鬼に秘められた謎? そして地球で一番高い山へ!
まだ神々が辛うじて人の前に姿を現していた時代、一言主と会うために旅を続ける役小角とその弟子・妙と善の旅も新展開であります。一言主がいるという「地球で一番高い山」――その驚くべき正体を知り、かの地に向かうため、月夜見命のもとを目指す一行。しかしその途中、意外な者たちと出会うことに……
姿を隠した一言主と会うための各地の神器を求める旅の末、一言主の座す葛城山に戻ってきた小角。しかし葛城山の頂上には、一言主の姿は既になかったのであります。
そこで道を分かった老師との激闘を辛うじてくぐり抜けた小角は一言主が「地球で一番高い山」にいると知るのですが――しかしそれがどこなのか、そしてどうすれば行くことができるのか?
その答えを知るために神在月の出雲に向かった一行は大国主命と対面、向かうべき地が、夜空に輝く「月」だたと知るのでした。
というわけで、全く思いもよらぬ地を目指すことになった小角一行。我々現代人のセンスからすると、「地球で」にカウントして良いものか疑わしい気もしますが、月は地球の一部だったというジャイアント・インパクト説もあるわけで、それはそれで納得です。
そして日本神話で月の神といえばそのものズバリ、月読命(本作では月夜見命)がいるわけですが、しかし大国主命たちが国津神である一方で、月夜見命は天津神。いわば宿敵同士で、大丈夫かと思っていたら……
と、実はこの巻の冒頭で描かれるのは、後に言う天孫降臨によって繰り広げられた国津神と天津神の戦い。そこで描かれる、「今」とはうって変わった大国主命の姿にも驚かされますが、さらに衝撃的なのは、天津神たちのデザインです。本作における国津神たちは、動物や昆虫をモチーフとしていましたが、天津神はこうなるのか――と大いに驚かされました。
さて、何はともあれ、その時の因縁を元に出雲の深山におわす月夜見命に渡りをつけてもらった小角一行ですが、その途中、思わぬ者たちの襲撃を受けることになります。
それは鬼たち――つまり善と同類ですが、しかし本作の鬼は、人喰いを行った末に角が生えた、異形の者たちであったはず。そして、小角たちはこの「歩の鬼」の里に連れて行かれるのですが……
しかしそこで待っていたのは、これまで出会った鬼とは全く異なる、角があるほかは人間と何ら変わりの無い者たち。そして本当に普通の人間であるその頭・義学から、小角は意外な真実を聞かされることになります。
物語のタイトルに冠された言葉であり、メインキャラの一人である善の背負った呪われた宿命である鬼という存在。しかし数々の神々が登場する本作では、正直なところその存在感は薄れがちであったように感じます。
それがここに来て、意外な形でクローズアップされるとは――まだまだこの物語には謎が多いと痛感させられます。
そしてようやく月夜見命と対面する一行ですが――ここで登場する月夜見命のビジュアル(特にその出現シーンの強烈さたるや!)と、その言動は、その語る内容に負けず劣らずのインパクトがあります。
本作に登場する神々は、時に人間と似た姿を取り、人間と意思疎通が可能でありながらも、明らかに人と異なるメンタリティを持つ存在として描かれてきました。その点はこの月夜見命も同様ですが、そのレベルが一段高い、とでも表することができるでしょうか。
「神」をテーマとした物語の中でも、本作はそのセンスにおいて飛び抜けたものがありますが、それを再確認させられた思いです。
それはさておき、この月夜見命の力により、三人は新たな道に向かうことになるのですが――ここでまさか! という展開に。いやはやこれは大変なことになってしまった――これはもう、そう申し上げるほかありません。
そしてこの巻の巻末には、幕間として、第2巻に登場した東宮を主人公としたエピソードが掲載されています。
東宮というだけにやんごとない身の上ながら、今は僧形で吉野離宮に住まう彼の過去とその心中にあるものを、彼の兄との複雑な関係と絡めて描くこのエピソード。
東宮と兄が誰なのかは明白ですが、本作はこの先、東宮を中心に大きな展開を迎えることになります。そしてそれが小角たちの運命にいかなる影響を与えることになるのか――全く予想がつかないだけに、この先の展開が気になって仕方ないのです。
(個人的には、本作の舞台となる年がここではっきりわかったのが嬉しかったり……)
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