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2022.03.25

山崎峰水『松岡國男妖怪退治』単行本未収録分 あるいは『黒鷺死体宅配便』収録分

 異色の幕末時代劇『くだんのピストル』もいよいよ4月に単行本第1巻が発売予定の大塚英志・山崎峰水コンビ。その『松岡國男妖怪退治』について、『黒鷺死体宅配便』単行本に収録されたエピソードのご紹介であります。時系列的に初期のものと、最新(最後?)のものと、2篇取り上げます。

 現代を舞台に、死者にまつわる異能を持った青年たちが、死体たちの願いを叶えていくホラー『黒鷺死体宅配便』のスピンオフである本作は、明治時代を舞台に、若き日の柳田(松岡)國男を主人公とした連作。
 松岡と田山録弥(花袋)、そして本編では主人公の背後霊(?)として登場する少年・やいちと、その育ての親である笹山和尚が、数々の怪異に挑む物語であります。

 この『松岡國男妖怪退治』の単行本は現時点で第4巻まで刊行されていますが、今回ご紹介するのは冒頭に述べたとおり『黒鷺死体宅配便』に収録された――それ故『松岡國男妖怪退治』の単行本には収録されていないエピソードです。

 その一つ目は、『黒鷺死体宅配便』第6巻に収録されたエピソード――浅草十二階下の娼婦猟奇殺人を描いた物語であります。

 犯人が逮捕されても、次々と同様の手口で殺人者が現れるという奇怪な事件に興味を抱き、たまたま東京を訪れたやいちと調査を始めた松岡。
 その過程で、人類学者の坪井正五郎が提唱する重ね録りによる観相法――すなわち人間の顔は人格を現すという観点から、殺人者たちの顔を重ね録りした写真を作ってみれば、そこに映っていたものは!

 という流れから、この手の事件ではお馴染みのあの人物が登場するのですが、何故この人物が、それもこのような形で現れるのか――その謎解きの豪快さも楽しいこのエピソード。
 上述の坪井正五郎だけでなく、松岡が柳谷なる所以というべき柳田こうなど、実在の人物への目配せも「らしい」というべきでしょう。


 一方、内容的にシリーズの最終編ともいうべき物語が、『黒鷺死体宅配便』第26巻収録の「昭和編」です。
 舞台は昭和11年、笹山和尚が呪いの茄子という触れ込みの奇怪な形の茄子を持ち込んできたことから、今や学者として官僚として功成り遂げた柳田國男は、またもや奇怪な事件に巻き込まれることになるのであります。

 『多重人格探偵サイコ』を思い出させる猟奇殺人、赤マント伝説、貰い子殺し――そしてそこから思いもよらぬ存在が出現するこのエピソード、全3話(分量的には単行本の約6割)というだけあって、物語の情報量はかなりのもの。
 昭和11年という時代を反映して、特高警察は首を突っ込んでくる、軍部は暗躍する――と、ノリは本シリーズらしくコミカルかつ派手な部分はありつつも、描かれるのは大塚伝奇というべき内容であるのがたまりません。

 そしてまた、シリーズ的にも、いまや青年となった(というか年齢的には中年か)やいちや、すっかりお馴染みのビジュアルになった柳田、年は取ったがまあ相変わらずの笹山といったレギュラー陣(田山は既に――ですが)のその後も興味深いのですが、それだけではありません。

 何しろヒロインとなる女性新聞記者の姓が、『黒鷺』のヒロイン・佐々木碧と同じ佐々木であり、ラストには――という展開で、さらにそのまた後には『黒鷺』本編に意外な繋がることが暗示(というより明示)されることになるのですから、この繋がり方にはさすがに驚かされました。
 そういえばやいちは本編でも碧のことも助けていたな――などと、スピンオフであった物語が、ここに来て本編に回帰していったという印象があります。

 そんなわけで何度か述べたとおり、シリーズのラストエピソードという印象が強いこの「昭和編」ですが、今後の大塚作品で大きな意味を持つであろう大陸に繋がっていくことが仄めかされたりとまだまだ気になるところは多くあります。

 あまり期待しすぎると痛い目に遭うことは十分に理解しつつも、やはりこの先の展開も気になってしまうところなのであります。


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