堀内厚徳『この剣が月を斬る』第1巻 「闇」を抱えた沖田宗次郎が嶋崎勝太に見た「夢」
新選組漫画は数々ありますが、その中でも短いながら鮮烈な印象を残すのが本作。沖田宗次郎――沖田総司と嶋崎勝太――近藤勇の出会いから始まり、二人の絆を軸に描かれる物語であります。遠く夜空に輝く月を斬らんとするような大望を抱いた少年/青年たちの辿り着く先は……
父を亡くし、天然理心流に預けられることとなった9歳の少年・沖田宗次郎。道場の若先生である嶋崎勝太の指導を受けることとなった宗次郎ですが、しかし父の死に鬱屈したものを抱え、強さを渇望する宗次郎は、事あるごとに勝太に反発するのでした。
そんなある日、宗次郎は町で破落戸を叩きのめしたものの、連れの不気味な剣士の迫力に押され、その場にあった真剣を手に、思わず逃げ出すことになります。
その晩、勝太と亡き父のことで口論になった末、真剣を振り回して道場を飛び出した宗次郎。そこで再びあの剣士と出会ってしまい、死を覚悟する宗次郎ですが――そこに勝太が駆けつけます。
そして初めて真剣の切り合いを目撃した末に、刀を持つことの意味を知る宗次郎。翌日、初めて道場で勝太と勝負し、叩きのめされた彼は、勝太を目標に腕を磨くことに……
こうして、宗次郎と勝太の出会いから幕を上げる本作。沖田総司が主人公の新選組ものは無数にありますし、総司の少年時代からスタートする作品も珍しいわけではありません。
しかし、本作のように総司が鬱屈したものを――作中でしばしば「闇」と呼ばれるものを、その少年時代から抱える作品は、比較的珍しいと感じます。
時に殺意という形で現れる彼の闇。それは破落戸を叩きのめした際のみならず、次のエピソードでも、より明確に描かれることとなります。
子供への歪んだ愛情から、ヒロインのすずをはじめとする子供たちの親を殺し、手元に置いて虐待をしていた坊主。すずの窮地に駆けつけた宗次郎は、手もなく坊主を倒しただけでなく、殺すつもりで執拗に叩きのめすのですが――すずと、そしてここでも勝太の存在が、彼の心を救うことになります。
強すぎる力を持ち、その一方で脆い心を持つ少年が、愛する人や尊敬できる師・先輩の支えで己と向き合い、克服して成長する――これは少年漫画では定番のシチュエーションですが、本作の沖田もその系譜にあるというべきでしょうか。
さて、近藤、沖田とくればもう一人、というわけで、続いて登場するのは土方歳三。本作の歳三は(この時期の)通常営業というか、バカ強いものの喧嘩と放蕩三昧で道場にもロクに寄り付かない青年なのですが――そんな歳三が引き起こした騒動を通じて、「武士」であることの意味と、三人の夢が語られることになります。
この騒動を解決するために勝太が取った手段(とその後の行動)が実にらしくて楽しいのですが――ここで描かれるのは、この先結成される新選組という場が、宗次郎が(そして歳三も)、勝太の中に見た「武士」であることの意味を具現化したものであったということでしょう。
新選組が彼らの夢(のための手段)という視点自体は珍しいものではありませんが、本作は彼らがまだ何者でもなかった少年/青年時代を描くことによって、その意味をより深めていると感じます。
もっともこれは、物語の結末を知った上での感想でもあるのですが――結末を読んだ上で、この第1巻を読み直せば、胸にグサグサささるのですが、それはまたその時に。
と、ここまで幕末青春ものとしての色彩が強かった物語は、第1巻の結末まで来てにわかに不穏な色彩を強めることとなります。
周囲の人間たちを言葉巧みに操り、江戸の町に火を放たんとする不気味なひょっとこ面の男。宗次郎のことも最初から観察していたようなこの男の名は――
言われてみればなるほどと思わされるこの男の毒が物語に回るのはもう少し先になりますが――その第2巻についても近日中にご紹介します。
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