千葉ともこ「長相思」 二人の酒客が酒に見たもの
唐代の安史の乱を題材とする『震雷の人』でデビューを飾った作者が、その少し前の時期を舞台として描く短編であります。杜甫に長安でのことを問われた李白が語る、ある「美少年」との出会いとは……
酒の席で、李白が言い出した降霊に付き合うこととなった杜甫。亡くなったある女の話をしてその魂魄を呼ぶという李白は、十五年前の長安での出来事を語り始めます。
とある老医師を探して西市を歩いていた中、さる名門から吏員の家に嫁いだばかりだったという女を看取ることとなった李白。青梅花が描かれた紙を託されたものの、誰に渡すかは聞けなかった李白は、馴染みの妓女から、粋人で知られる名門の当主・崔宗之を紹介されることになります。
崔宗之の案内で訪れた酒楼で、女が別の相手に求婚しようとしていたことを知った李白は、崔宗之の助けでその相手を突き止めるのですが――その正体は思いもよらぬ人物。
李白はその人物から聞いた真相を織り込んだ詩を詠み、崔宗之を通じて皇帝に献上しようとするのですが……
本作のタイトルである「長相思」は、長く互いに想い続けることの意ですが、ここでいうのは李白の詩の一つ――長安での過ぎ去った愛の記憶を詠う切ない作品であります。
その誕生秘話というべき本作は、杜甫と李白ともう一人の人物が降霊を行う「現在」と、杜甫がその際に語る十五年前の長安での出来事が並行して語られるという、なかなか凝った構成の一編です。
謎めいた出来事の真相を解き明かそうとすると同時に、世に受け容れられようともがく李白の姿が語られる――そしてそれは、冒頭で立身のために長安に向かおうとする杜甫への、ある種の餞別とも感じられるのですが――一方で、本作が描くのはもう一人の天才の姿。
それこそが「当代一の美少年」と謳われた崔宗之――実に、日本の清酒「美少年」の由来となった人物であります。
李白とは対照的に名門の出身、そして己の地位と才を恃んだ傲岸な人物として描かれる彼のキャラクターそのものも面白いのですが――さらに印象に残るのは、そんな正反対の、そして不器用な点では共通する二人の交流と、彼らを待つままならぬ運命でしょう。
ともに当時の名だたる酒客と称された彼らが、酒に何を求めたのか、酒に何を見たのか――そんなことを考えさせられます。
ちなみに杜甫の詩「飲中八仙歌」は、彼ら二人を含む八人の酒客を謳った有名な作品ですが、本作はその「飲中八仙歌」を題材とする連作の第一作とのこと。
まだ現時点では本作が発表されているのみですが、この先描かれるであろう物語も期待したくなる――そんな逸品です。
「長相思」(千葉ともこ 「小説新潮」2021年6月号所収) Amazon
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