輪渡颯介『髪追い 古道具屋 皆塵堂』(その一) 最凶の怪異に最悪の因縁!?
前作でめでたくリスタートを遂げた『古道具屋 皆塵堂』、その第九作となる今回は、とある祠に封印されていた箱が開けられたことから始まる恐怖の物語。箱を開けてしまった巳之助の弟分・茂蔵といつもの面々は、箱に込められた怨念を止めることができるのか? というか止める必要があるのか?
以前は遊び人としてふらふらしていたものの、魚屋の巳之助の弟分となり、今は小間物屋で真面目に働いている茂蔵。ある日、花見の帰りに向島を通った彼は、酔った勢いでそこにあった祠の戸を開け、中にあった厳重に封じられていた箱を開けてしまうのでした。
しかし箱一杯に入っていたのは、長い女性の黒髪――しかもその髪は、茂蔵の足に絡みついてきたではありませんか! 辛うじて逃れた茂蔵ですが、翌日おそるおそる祠に行ってみれば、既に箱はどこかに消えた後だったのでした。
正体は不明なものの、髪の封印が解けた気配、遠くから太一郎が感じ取るほど強力なもの。そして散々巳之助にどやされた茂蔵が、祠の由来を調べてみれば、そこにはかつて履物問屋・備前屋の寮があったものの、大分前に火事で焼け落ちてしまったというのです。
そこで備前屋を尋ねた太一郎・巳之助・茂蔵、そして皆塵堂の主人の伊平次は、現在の主である徳五郎から、先代と髪の因縁を聞かされることに……
シリーズ第3弾『蔵盗み』に登場し、第4弾『迎え猫』の「観音像に呪われた男」で観音像との奇妙な因縁が描かれた茂蔵。その後、彼は以前皆塵堂で働いた益治郎が開いた小間物屋で働いていたのですが――今回、思わぬ形で物語の中心となります。
この茂蔵、かつては「遊び人」と呼ばれて悦に入っていたようなしょうもない人間ですが、変人揃いの本シリーズではむしろ一般人に近いレベル。しかし本作ではそんな彼が、シリーズ最凶の怪異に遭遇することになるのです。
何故彼が――というのはさておき、まず何よりも強烈に印象に残るのは、その怪異を生むに至った過去の出来事であります。
これは物語冒頭で明かされる内容なのでここに紹介してしまいますが――簡単にいえば備前屋の先代は、同業者の店を時に乗っ取り、時に陥れ、時に潰して店を大きくしてきた大悪人。それも単に同業者の財や客を奪うだけでなく、その家族までも不幸のどん底に叩き落とすというド外道だったのであります。
そして因縁の髪の主・お此もその犠牲者の一人。備前屋の同業者・下田屋のおかみさんだった彼女は、夫が備前屋の策略で借金漬けにされて店を失った末に蒸発、幼い娘と二人残された彼女はどん底の生活を送った末に娘も失い、そして自らも命を……
その後、彼女のものと思しき黒髪によって次々と備前屋に怪異が起きた上に先代も怪死を遂げ、徳五郎が様々な術者に請うてついに祠にお此の髪を封じたのが三十年前。そんなところに茂蔵が――というわけなのです。
正直に申し上げて、ダイジェストしてもかなり厭な内容ですが、本編ではこれがかなり詳細に描かれ、熱血漢(というか短気)の巳之助はもちろんのこと、温厚な太一郎までが怒りを燃やすことになります
本シリーズでは――というより作者の作品では、主人公側の登場人物たちはどこかユーモラスで間が抜けているのですが、登場する怪異は洒落にならないほど怖く、そしてそこに絡む悪人たちもまた、皆真剣に邪悪です。
だからこそ、作者の作品は真剣に怖い怪談にしてユーモア時代小説であるという、離れ業を成し遂げているわけですが――それにしても今回の備前屋は本当に胸糞が悪い、としか言いようがありません。最凶の怪異に相応しい最悪の因縁というべきでしょうか。
さて、封印から解かれたお此の髪ですが、彼女が狙うべき相手がまだ三人残っていると徳五郎は語ります。うち二人は先代の配下だった青八・赤八と呼ばれていた男たち、そしてもう一人は、お此たちを置いて蒸発した夫だと。
しかし彼女の怨念の深さを考えれば、この三人だけで済むとは限りません。現に茂蔵も襲われているのですから――というわけで、徳五郎の依頼もあり、皆塵堂の面々は、お此の髪が収められた箱を探すことになります。そして茂蔵も、勤め先を休んで、代わりに皆塵堂で働きながら箱を探す羽目に……
という第一話「朽ち祠」の紹介だけでずいぶんと長くなってしまいました。続きは次回。
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